おにぎり弁当と味噌玉
もうすぐこのマンガがすごいWebでコミカライズ18話が公開されます。次はエマお姉様とシーラが登場するはずです。
「よし、水が満杯になる間、俺達は弁当を食べるか!」
「そうしよう!」
水魔法ですぐに湧き水を操作して入れることを提案しようとしたが、バルトロの台詞を聞いてすぐに辞めた。
別に魔法で便利に早くできるからといって、何でもそれで済ましてしまうのは勿体ない。
こういう緩やかな時間を過ごすのもスローライフの醍醐味だからな。
俺とバルトロは平らな場所にシートを敷いて、そこに腰を下ろす。
「コケが生えてるからお尻が痛くないね」
「自然のクッションって奴だな」
普通の場所だと地面の硬さがお尻に伝わってきたり、たまに隠れた木の根や石で打ったりしてしまうのだが、ここはフワフワのコケのようなものが生えているのでその心配は一切なかった。
コケを押したりして感触を楽しんでいると、バルトロが背負い籠から二つの弁当箱を出してくる。
朝からひたすらに歩いて、山を登ったのでもうお腹はペコペコだ。
バルトロが一つの風呂敷を解き、俺がもう一つの風呂敷を解く。
そして、一斉に蓋を開けると、おにぎりだけの入った弁当と、唐揚げや卵焼き、鮭の塩焼き、ブロッコリー、プチトマトなどの具材だけが入った弁当が顔を見せた。
いいねえ、シンプルだけどこれぞ弁当の王道だな。
今朝自分達で作ったものだとしても、弁当を開けた瞬間というのはワクワクする。
「おにぎりの具材は何が入ってるの?」
俺は唐揚げや卵焼きを作ったものの、おにぎり作りは全てバルトロが行っていた。
だから、俺はおにぎりの具材が何かを知らない。
「へっ、それはお楽しみだな」
「なるほど。でも、これだけは教えて。塩おにぎりはあるよね?」
「当然だ、坊主」
だとしたら問題ない。いや、色々な具材が入っているのも悪くはないのだが、やはり塩だけのおにぎりというのも欲しいではないか。
さすがはバルトロ、ちゃんとわかっているな。
「じゃあ、食うか!」
「うん」
バルトロの言葉に頷き、俺は早速おにぎりへと手を伸ばす。
中の具材が気になるところであるが、食べればわかるな。
俺はおにぎりを頬張る。甘いお米の味と絶妙な塩の味。
もしかして、これは塩おにぎりではないだろうか? 確かめるようにもう一口食べると、おにぎりの真ん中部分には何もない。
「おっ、塩おにぎりだ」
「最初にそれを見つけたか」
最初はできれば塩おにぎりが食べたかったので、ちょっと嬉しい。
ああ、汗をかいたからだろうか。程よい塩味がとても美味しく感じられる。また、このお米独特の甘みと相性がいいんだよなぁ。
失った塩分が補給されていくような気がする。
おにぎりを齧ると、次はおかずとして唐揚げを食べる。
冷めてもなお柔らかさとジューシーさは失われておらず、口の中で濃厚な肉汁が迸る。
それがまたおにぎりと合うもので、俺は唐揚げを食べてはおにぎりを齧ってを繰り返す。
「おにぎりに合うように濃い目に味付けされてるのが憎い」
「ははは、やっぱりおにぎりには唐揚げが合うからな!」
うんうん、やっぱりおにぎり弁当に唐揚げは外せないな。
唐揚げで塩おにぎりを一個食べたところで、箸休めとして卵焼きやブロッコリー、ミニトマトを食べる。
うん、甘めにした卵焼きも美味しいし、フレッシュなブロッコリーとミニトマトで口の中がさっぱりだ
な。
俺がおにぎりを一つ食べ終わる頃には、バルトロは既に三つを食べ終えていた。
身体の大きさに差があるだけあって食べるペースが全然違うな。
俺も負けじと二個目のおにぎりを手に取って食べる。
一口齧ると、今度は綺麗な赤身が見えてきた。
「今度は鮭だ」
具材を見つけてはほっこりするようなこの喜び。とてもいいな。
一口目を呑み込んだ俺は、鮭とご飯を一緒に食べる。
塩味のついた鮭とお米がとてもよく合う。特にパリパリになるまで焼かれて香ばしい風味を放つ皮が最高だな。
「ああ、おにぎりと鮭に卵焼き、それに唐揚げ……味噌汁が欲しくなるな」
ご飯と魚と卵焼きというラインナップであれば、やはり汁物として味噌汁が必要であろう。
ああ、あの温かい味噌汁とおにぎりを一緒に食べたい。
俺が焦がれるように呟くと、バルトロが「くっく」と笑ってポーチから小さな布包みを取り出した。
「あるぜ、坊主。こうなると思って味噌玉がここに!」
「それってもしかして、お湯さえ入れれば作れる感じの?」
「ああ、味噌に乾燥させたワカメ、魚の切り身が入ってる。まあ、味は多少粗削りになるだろうが、ちゃんとした味噌汁の味があるぜ」
なるほど、味噌に乾燥させたワカメや魚の切り身を入れることで出汁成分の代わりにしているのか。なるほど、確かにそれなら粗削りだけど立派な味噌汁になるはず。
俺はバルトロの作った味噌玉がきちんと味噌汁になるか。
それを確かめるべく、土魔法で茶碗を二つ作る。
そこにそれぞれの分の味噌玉を入れて、魔法で作ったお湯を注いでいく。
湯気をあげながら溶けていく味噌玉。それを土魔法で作ったスプーンでかき混ぜる。
すると見事な即席味噌汁ができあがり、香ばしくも優しい味噌の香りが漂った。
俺とバルトロは頷き合うと、茶碗を手に取る。
それから軽く息を吹きかける、ゆっくりとすする。
優しい味噌の味と磯の風味がする。乾燥させたワカメと魚の切り身はしっかりと仕事をしているようで、味噌汁の味をさらに豊かにしていた。
「「はぁ……」」
俺とバルトロはゆっくりと息を吐いて、もう一度すする。
ああ、温かい味噌汁が身体の中に染み渡る。
まさか出先で空間魔法を使わずに味噌汁を食べられるとは思っていなかっただけに、俺の中の感動は大きなものだ。
「やるじゃんバルトロ!」
「魔法ですぐにお湯を出せる坊主がいるからよ。何とかして即席の味噌汁が作れるかもって思ったんだ」
喜びを表すかのように背中を叩くと、バルトロは得意げに笑った。
出汁の味が屋敷で出るものに比べると確かに荒っぽいが、これはこれで出汁が効いていてアリだと思う。
「エルナ母さんやエリノラ姉さんはもっと味噌の味が強い方が好きだろうけど、ノルド父さんとシルヴィオ兄さんはこっちの方が好きかもしれないね」
「なるほどな。だったらいっそのこと、エビとか魚の骨で出汁をとって海鮮味噌汁とかどうだ!?」
おっ、バルトロが味噌汁の新たな一面に気付いてくれたようだ。
うんうん、いいねいいね。俺ってばあら汁とか大好きだから是非とも作って欲しい。
「うんうん、絶対美味しいと思うよ」
「だよな! よし、こうなったらさっさと屋敷に戻って作るぞ!」
そんな一心で相槌を打っていると、バルトロが突然立ち上がってそんなことを言い始めた。
「いや、待ってバルトロ。それは違う。せっかくここまで来たのにすぐに帰るなんて勿体ない。それにまだ湧き水も溜まってないよ」
焚きつけるような言い方をした俺が悪いのかもしれないが、まだここにきて三十分も経っていない。弁当だって残っているし、すぐに帰るだなんてあんまりだ。
「うっ、それもそうか」
「帰ってからも時間はある訳だし、今はこのゆったりとした時間を楽しもうよ」
俺がそう言うと、バルトロは呻きながらも座り直した。
それでも海鮮味噌汁を作りたくて堪らないのか、どこかソワソワしている様子。
バルトロはそのソワソワ感を解消するかのように、おにぎりにがっついた。
俺はそれをしり目に鮭おにぎりを食べながら、味噌汁をすする。
磯の風味のする味噌汁が、おにぎりをほろりと溶かして喉の奥へと流し込んでくれる。
そして、冷たい湧き水を飲んで口の中や喉をさっぱり。
「はぁ、落ち着くなぁ……」
辺りでは湧き水の流れる音が聞こえ、綺麗な水面が広がっている。
水の中はとても澄んでおり、繁茂しているコケがとても色鮮やかだ。
見渡せば山々が普段よりも近くで見え、遠くの方ではうっすらとコリアット村らしきものが見える。
これだけいい景色を眺めながらおにぎりを食べるのも一種の贅沢だ。これを味わえるなら苦労して山を登ってきた甲斐もあるというものだ。
でも、さすがに下山する体力まではないから、帰りはサイキックで樽に乗って帰ろう。
景色を眺めながら、俺はそんなことを決意した。
次から小次郎が仕事を辞める話となります。
お楽しみに。
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