湖の傍で間食
『転生して田舎でスローライフをおくりたい~すばらしきかな、カグラ!』小説六巻は本日発売です!
書店などでお見かけした際は、ぜひお手にとってみてくださいね。
「アル、魔法で半分に切ってくれ」
「いいよ」
アルキノコの大きさだと、採取用のナイフで半分に切るのは少し骨が折れる。
俺は地面に置かれたアルキノコを、風魔法による風の刃で両断。
すると、すっぱりと別れて半分になった。
まるで巨大なエリンギのようだ。
それからトールがナイフを使ってアルキノコを削いでいく。
アルキノコは縦に繊維が走っているので、それに沿ってナイフを入れると面白いように切れるのだ。
土魔法で俺が大きめの皿を作っておくと、トールがそこ目がけてアルキノコの身を飛ばしていく。
ひとつひとつの身が大きいので、串に刺して焼いてしまおう。
「ここにナイフを入れて剥けばいいんですね?」
「うん、身が柔らかいから潰さないように気をつけて」
木陰ではティクルがアスモに教わりながらリブラをナイフで剥いている。
ドール子爵はそれを興味深そうに見ていた。
俺は食器を用意しようとしたが、先にアスモがお望みの魚を獲ることにした。
先程同じように湖の上にシールドを設置。その上を歩いて進んで、食べられる魚がいないか探す。
「上から見ると魚の位置が手に取るようにわかるな」
俯瞰して眺めていると鮎を見つけたので、水魔法を発動して鮎の周りの水を一気に持ち上げる。
空中に漂う水の中には、鮎が十匹ほど泳いでいる。
これだけ捕まえれば十分であろう。やはり魚といえば鮎の塩焼きだ。
水球の中に鮎を押し込んだ俺は、そのまま陸地へと戻る。
「お帰り。どのくらい捕まえたの?」
「鮎を十匹ほどかな」
「いいね。塩とか持ってるから塩焼きにしよう」
「えっ、持ってるの?」
どうしても調味料が欲しくて空間魔法から取り出す俺が言うのもなんだが、普通の人は早々調味料を持ち歩かないと思う。
「……アルが調味料を持ち歩いてるのを見て、俺も持つようにした。外で何か食べる時便利だし」
「な、なるほど」
なんか俺の影響を受けてらしいけど、それはいい心がけだな。
トールとアスモの前なら空間魔法で、色々な調味料を出しても大丈夫かもしれないな。
とりあえず、土魔法でまな板と串を作って、鮎の下処理はアスモに任せる。
食器を準備しようと木陰に戻ると、ドール子爵がどこか手持ち無沙汰そうに座っていた。
ドール子爵は生粋の貴族で、こういう作業は使用人にやらせていたからな。こういう時に何をすればいいのかわからないのだろう。
「グレゴール、トールが切ったアルキノコを串に刺してもらえる?」
「う、うむ、任された」
俺がそう言うと、ドール子爵は嬉しそうにアルキノコの身を串へと刺していく。
「四つくらいでいいか?」
「そうだね。身が大きいからそれくらいにしよう」
律儀に尋ねてくるドール子爵にそう答えながら俺も座り込んでアルキノコを串に刺す。
そうやって黙々と串に刺していくと、中々の量が出来上がった。
「よし、とりあえず今回はこれくらいで十分だろ」
アルキノコの半分をカットし終えたトールが、息を吐いてナイフを置いた。
アルキノコは大きいので、さすがに全部食べ切れないからな。というか串焼きだけでは途中で飽きるだろうし。
湖の方を見れば、果物を剥き終わったティクルが、鮎の下処理を手伝っている。
もうすぐ、向こうの作業も終わる頃だろう。
「じゃあ、そろそろ火をつけて焼いていこうか」
「おお、頼むぜ!」
俺は少し木陰から離れた場所で、火魔法を発動して地面から少し浮かせて火球を作る。
後は俺とドール子爵が串に刺したアルキノコを地面に刺して、炙っていく。
火球を取り囲むように座って火が通るのを待っていると、アスモとティクルが湖から戻ってきた。
「鮎の下処理終わったよー」
「おお、ありがとう。適当に刺しといて」
俺がそう言うと、アスモとティクルが串に刺さった鮎を地面に刺していく。
既に塩が振られているようで、鮎はほんのりと白くなっていた。
炙りアルキノコと鮎の塩焼きを前にして、小腹が完全なる空腹に傾いていくのを感じる。
まだかまだかと思いながら眺めていると、ティクルがそっとお皿を差し出した。
「待っている間に、木の実を食べましょうか」
「おお、そうだな!」
「リブラいただき」
「あっ、てめえ!」
アスモがリブラに手を伸ばすと負けじと、トールも慌てて手を伸ばす。
「グレゴール様とアルフリート様もどうぞ」
「ありがとう」
「うむ、頂く」
ティクルが皿を差し出してくれたので、ドール子爵と俺も一つリブラを食べる。
少し上顎に力を入れて噛もうとすると、柔らかな果肉が大量の果汁を吐き出して潰れる。
その果汁はまさにフルーツジュースのようで、爽やかでありながら甘みと酸味があり、それが絶妙なバランスを保っていた。
「甘いがスッキリとしていて食べやすいな!」
「でしょう?」
うちの村にある森でしか採れないものであり、この美味しさは自慢できるもの。
ただ、身が柔らかく劣化が早いので特産品として売ることが難しいのが残念な点だ。
氷魔法で凍らせれば輸送できるだろうが、本来の味よりは少し落ちるだろうな。
そうやってリブラやメグの実などを食べていると、ある程度アルキノコに焦げ目がついてきたので串を回して火の当たる角度を変える。
アルキノコは焼きすぎると水分が出てしまうので、焦げ目がつくくらいでちょうどいいのだ。
アルキノコに火が通ると、キノコ独特の香ばしい香りが漂ってくる。
「いい匂いがしてきたな」
「ああ、焼けるのが待ち遠しい」
ワクワクとした表情で見つめるトールとドール子爵。そしてそれを微笑ましそうに見守るティクル。
「…………」
そんな一方でアスモはジーっとアルキノコと鮎の焼き加減を見ており、時折いくつもの串を操作して火の当たりを調整している。
気持ちはわかるけど、お前は職人か。
香ばしいアルキノコと鮎の焼ける香りが漂う中、全員が無言で焼き上がるのを待つ。
「そろそろいいんじゃねえか?」
「……アルキノコはいける」
トールがじれったそうに尋ねると、アスモは真剣な表情でこくりと頷いた。
職人の許可が下りたところで、俺達は一斉にアルキノコの串を取る。
アルキノコの身には綺麗な焦げ目がついており、まさに食べ頃であった。
熱々のそれを自分の息で冷まし、串から身を一つ食べる。
歯を突き立てるとくにゅりとした食感がし、熱々のエキスが滲み出る。
「「「あつっ!」」」
予想外に熱いエキスに驚いたのは俺だけはないらしく、ほぼ全員が思わず声を漏らしていた。
それでも水で飲み下すなどという勿体無い真似はできず、咀嚼しながら少々熱めの旨味エキスを味わう。
「うん、美味しい」
ただ焼いて食べるだけ。シンプルではあるが、素材の味を十分に感じられる。
繊維を噛み砕くこのくにゅくにゅとした食感が癖になりそうだ。
「これで薄味なのか? 十分、美味いではないか!」
ドール子爵もアルキノコの味に満足しているのか、驚いたように言う。
「そうか? 他のキノコに比べると味が薄い方だぜ?」
「なんと……ここに自生しているキノコはそれ程か……」
うちの村はとにかく自然が豊かで、自生している食料が美味しいからな。
そのように感じてしまうのも無理はないのかもしれない。
もうすぐ秋の季節だからドンドンとキノコも美味しくなっていくだろうな。
「一番美味しいところ焼けたよ」
感慨深く思っているとアスモがアルキノコの足をドール子爵とティクルへと渡した。
「これがアルキノコの中で一番美味しいと言われる部位か」
「本当に食べてもいいのですか? 切って分けることも……」
「いいよ。遠慮しないで食べて。それは大きいのを丸々食べるのが一番美味しいから」
遠慮するティクルに気にしないようにと促すと、彼女も礼を言って嬉しそうに食べた。
「む! 美味い! なんと香り豊かなんだ!」
「すごいです! まるで高級キノコでも食べているみたいです!」
大きなアルキノコからたった二つしか取れない部位。
それはまさしく高級キノコと評価してもおかしくないくらいの香りの良さと旨味を持っているのだ。
「うちは畑と山と森ばっかだけど、食い物だけは美味いからな!」
なんて風に言うトールだけど、その表情や口調からするとかなりコリアット村を気に入っていることがわかる。
「まだ全てを見た訳でもないが、今日散歩をしただけで十分にそれがわかるな」
「はい」
ドール子爵とティクルの言葉を聞いて、気分転換に森へと連れ出したのは正解だと思えた。
これなら昼寝を生贄にして、外を歩いた甲斐もあったというものだ。
「あっ、アスモ、何つけて食ってるんだよ!」
「塩と胡椒を入れたオリーブオイルソース。これが野菜とキノコに合うんだよ」
「何だよそれ! 調味料を持ち歩くとかアルみたいなことしやがって! 俺にもつけさせろ!」
「俺も!」
なんだよ、そのソース。絶対焼いたアルキノコと相性いいだろう。美味しいに決まってる。
俺とトールはアスモからソースを入れた小皿を奪い、それに浸してアルキノコを食べる。
程よい塩っけと辛みのあるオリーブオイルソースがこれまた、アルキノコと合う。
今日一日歩いたり、走ったりして汗をかいてしまったせいか、この塩っけが特に美味しく感じられる。
「グレゴールとティクルもどう?」
「頂く!」
「では、遠慮なく」
ドール子爵とティクルにも勧めると、二人共アルキノコに少し浸して食べる。
「うむ、オリーブオイルソースとも合うな!」
「はい、美味しいです! 他にも柑橘系などのソースも合いそうです!」
確かに、この焦げ目のついたアルキノコと柑橘系のソースは合うだろう。食べるまでもなくそのような想像がついてしまった。
「鮎の塩焼きも焼けたよー」
「うっひょー! こっちも美味そうだな!」
アルキノコにソースや塩をかけながら食べていると、今度は鮎の塩焼きまで焼けたようだ。
トールが興奮した声を上げて、我先にと鮎の塩焼きに手を付けていた。
「このようなことをしたのは初めてだが、良いものだな。皆で力を合わせて何かをすることは楽しいな」
「それは良かったよ」
今日の散歩やこうした食事は、貴族を招いた時のもてなしとして上等なものではない。比較的庶民的ともいえるだろう。
だが、そこには小さな幸せと楽しさが詰まっていると思う。
豊かな自然や生き物。賑やかな友人に美味しい料理に綺麗な景色。
ドール子爵が脚本を書くための力になれればいいなと俺は思う。
「いい脚本が書けそうな気がする」
「楽しみにしているね」
「ああ、任せろ」
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