湖の上を散歩
小説6巻が明後日発売です! 書店などでお見かけしたら是非よろしくお願いいたします!
『Aランク冒険者のスローライフ』と同時更新です。
「アル! それはどうやっているのだ!?」
「すごいです! 水の上を歩いてます!」
俺とトールとアスモがシールドを使って水の上を歩いていると、ドール子爵とティクルが目を輝かせる。
「無属性魔法のシールドを設置して歩いているだけだよ」
「何と! 無属性魔法とは、どれほど万能なのだ!」
無属性魔法があれば物を操れるし、水面や空さえも歩ける。他の属性に比べればかなり万能というか使い勝手がいいよな。
「よかったら湖の上を散歩する?」
「ああ、できるなら是非!」
キラキラとした眼差しを向けられながら、俺はドール子爵の前の水面にシールドを連続して設置。こちらに合流できるように道を作る。
どうせなら纏まって歩いた方が楽だからな。
「さあ、そこなら歩けますよ」
俺が指し示すと、ドール子爵が確かめるように足を出す。
ドール子爵は足場であるシールドの感触を確認すると、恐る恐るながらも足を踏み出した。
「ふははは! すごい! すごいな! 水の上を歩いているぞ」
水面にあるシールドの上で跳ねたり、はしゃいで喜びを露わにするドール子爵。
大きな男が水面の上で小躍りしている様は少しシュールなような微笑ましいような。
「ほら、ティクル。ちゃんと歩けるぞ。こっちに来てみろ!」
「は、はい、わかってはいるのですが……」
ドール子爵が声をかけるが、ティクルは一歩が踏み出せずにいた。
まあ、水面に足を出せば落ちるのは当然のこと。落ちないとわかってはいてもためらってしまうよな。
シールドは水面の中すらも見えるくらい透明なのだし。
「ほら、私の手を取れ。大丈夫だ。アルの魔法を信じろ」
そう言ってティクルに手を差し伸べるドール子爵。
ドール子爵、そこは「私を信じろ」って言って欲しかったな。そうすれば、ティクル的にもグッとくると思うんだけどな。
ティクルは、おずおずと手を取ると、ゆっくりとシールドを踏みしめる。
それからドール子爵に手を引かれ、ティクルは二歩、三歩とシールドの上を歩く。
そうやって歩くと落ちるという恐怖もなくなったのか、ティクルの強張っていた表情は途端に柔らかくなった。
「どうだ? 落ちないだろう?」
「は、はい! すごいです! 私、本当に水の上を歩いています!」
感極まったように笑うティクルを見て、俺は二人の道を作るように連続でシールドを設置。
ぶっちゃけ、シールドそのものを動かして移動した方が楽であるが、それではロマンがない。水の上を歩くという体験に意味があるのだ。
ドール子爵とティクルがこちらに合流すると、俺は大きなシールドを足元に作成して、それを連続で前に設置していく。
これだけ大きなシールドがあれば、五人が好きに動き回っても落ちることはないだろう。
俺が前に進むと、皆も同じようにしてついてくる。
「水の上を歩いてるって不思議な感覚」
「普段水の上なんて歩かない場所だからね」
アスモと何気なく話していると、隣にいるトールが肩を突いて尋ねてくる。
「なあ、アル。念のために聞くけど足場は大丈夫だよな? アスモの重みで割れるとかねえよな?」
「はったおすぞトール」
トールの懸念の声が聞こえたのか、アスモがドスを利かせたような声を出す。
しかし、トールの懸念も最もだ。
去年の冬、凍りついた湖をアスモが重さでぶち抜いたことはまだ記憶に新しい。あのときのような懸念を抱いているのだろう。
「大丈夫。このシールドはとても頑丈だから去年の冬のようにはならないよ」
「そりゃ、よかったぜ」
俺がそう言うと、トールはホッとした表情を浮かべた。
それから視界にある何かに気付いたのか、トールはタタっと走り出す。
「うおー! 真下に魚の群れがいるぜ!」
トールが指をさすと、俺達も移動してそこを覗き込む。
俺達の足元では、湖に住む魚の群れが悠然と泳いでいた。
他にも太陽の光に反射してキラキラとした光を放つ魚がチラホラと見えている。
まるで疑似的な水族館のようだな。
サイキックで自分を包む事によって水中の中で行動できたりしないだろうか? そうしたら水族館のように水中の世界が楽しめたりしそうだ。
でも、仮にできたとしても呼吸が問題だろうな。
「ふわぁ……魚が見えて綺麗ですね」
「ああ、水が透き通っているから実によく見えるな。人形で魚の世界を表現するのもいいかもしれない」
「ええ! だとしたら、魚が泳ぐ様子もしっかりと観察しないと!」
ティクルとドール子爵は、この光景を早速人形劇に活かそうとしているようだ。
にしてもティクルは向上心が高いな。このまま成長していけばあっという間に色々な人形を動かせるようになるかもしれないな。
俺がそんな風に思っていると、ふとトールが不審な動きをしていることに気付いた。
足元にいる魚には目もくれずに、ティクルの足元を伺うようにうろついている。
「何してんのトール?」
俺が尋ねると、トールは近づいて小声で言う。
「なぁ、アル。水たまりとかって、たまに人の姿が映ることがあるよな?」
「あ、ああ、光が反射して映ることだね」
「反射っていうのか。とにかく、まあ水面には人が映ることがある。そして、ティクルさんはスカートだ」
トールのその言葉を聞いた瞬間、俺は雷に打たれたようなショックに見舞われる。
「……アルなら俺の言いたいことはわかるよな?」
「お、お前、天才か……っ!」
俺が慄くように呻くと、トールはその表情を歪ませた。
普段はロクでもない考えばかりしているが、この時ばかりはトールの鬼才さに脱帽するしかなかった。
……もしかすると見えるかもしれない。水面とシールドに反射してティクルのパンツが。
普通にスカートの中を覗くとなると、それはもう立派な犯罪だ。前世でやろうものなら一発でおまわりさんに捕まってしまうだろう。
しかし、今世であれば七歳という年齢を盾にしてギリギリできなくもない。大人の女性を相手にやっても子供だからと許される可能性がある。
ただ、俺はここを治めるスロウレット家の一員であり、貴族だ。
貴族とは領民に大して規範を示さなければならない。俺が堂々とスカートめくりをしようものならば、今後領民から白い目で見られることは確実。
権力をかさにごり押ししようものなら、スロウレット家の品位と信用は失墜することであろう。というか仮に村人に許してもらえても、エリノラ姉さんやエルナ母さんをはじめとする家族に許してもらえる気がしない。
という訳でパンツを覗くという行為から遠い俺であるが、水面やシールドに反射して偶然見えてしまったとしたらどうであろうか?
これなら意図的に覗いた訳でもなく、自然現象だからと言い訳がつく。
さらには相手にパンツを見られたという羞恥心を与えることもなく、スロウレット家の品位も落ちることなく、俺も怒られたりはしない。
そう、これは誰もが不幸にならないのだ。
心の中で気持ちの整理をつけた俺は、トールと顔を見合わせると頷く。
それからティクルの姿が写っているであろう水面を覗き込む。
「……あ、あれ? 見えねえぞ?」
「見えないね」
そこにはうっすらとティクルが映っているだけで、真の目的であるパンツは見えることがなかった。
トールと俺はそれでも角度を変えたらどうかと必死に動く。しかし、それでも水面にパンツが映ることはなく、水面は太陽の光を反射してキラキラと輝くのみだった。
今はその煌めきが恨めしい。
「あ、すいません、私が邪魔で魚が見えませんか?」
俺達が必死に魚を見ようとしていると勘違いしたのか、ティクルがそれとなく横にずれる。
よし、ティクルの場所が変われば、水面に映る可能性もあるかもしれない。
ティクルと俺達の位置が変わったお陰か、水面の反射光も随分と抑えられている。
心の中でガッツポーズをした俺とトールであるが、それでも水面はティクルの顔と身体を映しているだけでパンツは見えなかった。
「ちくしょう、見えねえ」
「え? 魚ならそこにいますよ?」
トールと俺と無念の呻きと、どこか困惑したティクルの声が湖に響き渡った。
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