ティクルの覚悟
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昼食を食べ終わり、玄関でドール子爵を待っているとドール子爵とティクルがやってきた。
どうやらお供としてティクルも付いてくるらしい。
さすがに外を歩き回ることを考慮してか、ドール子爵はカッターシャツに茶色いジャケットで、ティクルもメイド服ではなく薄い長袖にロングスカートといった服装だ。
こうして見るとやり手の商人のようだな。特にドール子爵のモノクル眼鏡が良い感じに決まっている。
「では、森に行くか!」
「行きましょう」
三人で外靴に履き替えると、屋敷を出ていつもの一本道へ。
今日も外の天気はよく、澄み渡る青空と悠々と浮かぶ雲が浮かんでいる。
遠くでは山々が連なっており、両端では綺麗な平原が広がっている。
まだ降り注ぐ太陽の光は暑いが、一時に比べると大分マシになった。平原の方から吹き込んでくる風もあるので、氷魔法で冷気を纏って歩かなければいけない程の暑さではないな。
「うむ、馬車で通った時も思ったが、ここは気持ちがいい道だな。綺麗な草原が広がっていて風が吹く度にサーッと音が鳴る」
「傍にはお花も咲いていてとても綺麗ですよね」
この道の良さに気付いてくれる二人に俺は感激した。
俺の周りにいるトールやアスモ、エリノラ姉さんときたら、そういう自然の良さを中々わかってくれないんだよな。
やたら道が長いから辟易するとか、そんなことばかりだ。
趣味に生きている人からすれば、そういうところすらも楽しむ心の余裕とか、ゆとりってものがあるということなのだろうか。
「あっ、綺麗な小川ですね」
「……ふむ、小川か。ゲコ太達はこういう場所で過ごすこともあるのだろうな」
そんなことを思いながら、道を進んでいるとティクルとドール子爵が小川に近寄っていく。
ティクルは歩きながら観察し、ドール子爵はしゃがみ込んで眺めるなりジーっと動かなくなる。
今頃ドール子爵の脳内では、ゲコ太達がここで何かしらの会話をしたりしているのだろうか。
確か小川だったら、この辺にカエルがいたような……木の棒を拾って近くにあった草を揺らしてみると、予想通り小さなカエルが跳び出してきた。
カエルは小さな水飛沫を立てて、小川へと着水。
「ぬおっ!? ゲコ太がっ!」
考え事をしていたドール子爵がカエルを見て驚きの声を上げる。
「あはは、ゲコ太じゃなくて普通のカエルですよ」
「そ、そうか。一瞬ゲコ太が目の前に現れたのかと思ったぞ」
俺が笑いながら言うと、ドール子爵も照れたように笑う。
ドール子爵が驚いた時のことが面白かったのか、ティクルはこっちを見てクスリと笑っていた。
水に飛び込んだカエルはこちらを伺うように顔だけを出して浮かんでいる。
ドール子爵がそれを興味深そうに覗き込むと、カエルは怖気づいたのか逃げるように泳いでいった。
「……逃げられてしまった」
「あんな風に顔を近づけたらカエルも驚きますよ。大きさも違いますから」
「なるほど、そういう視点も必要なのだな」
ドール子爵はどこか納得したように呟くと、立ち上がって小川を観察しだした。
◆
小川の観察が一通り終わると、俺達はまた道に戻って歩き出す。
ちなみに俺達が目指している森はマイホームのある東の森だ。あそこなら比較的近いし、魔物もほとんど見かけることはないからな。
というかノルド父さんとエリノラ姉さんが自警団と一緒に見回りをしている時点で、うちの領地に魔物が蔓延ることはないけどね。ルンバやゲイツだっているし。
何げにうちの村には過剰なまでの戦力がいるものだ。
俺がそんな事を思っているとドール子爵が尋ねてきた。
「ところでアルフリート殿、ティクルの人形師としての訓練はどうかね?」
「人形を立たせるところまではできるようになりました」
「おお!」
俺がそう言うと、ドール子爵が興奮した声を上げる。
とはいえ、立たせること自体はそれほど難しくないと言える。
「問題は歩かせることですね。ここが難題なので、今はそのためにサイキックの同時操作の訓練をしてもらっていますよ」
「……ティクルが人形を歩かせるにはどれくらいかかりそうなのだ?」
「そのことに関しては何とも。ただ、魔法には個人の成長スピードというものがありますから急かさないであげてください」
早く上手くなりたいと思ってもどうしようもない時もある。
俺も赤ん坊の頃は魔法が使いたくて仕方がなかったが、一か月くらい魔力が動かなくて絶望しかけたことがある。そのように心では、どれほど使いたいと願っていても思う通りにいかないこともあるのだ。
ドール子爵だと熱が入って、急かす可能性があるために俺は少し釘を刺しておく。
「……ふむ、わかった。人形師としての道のりは険しいのだな」
ドール子爵はそのことを理解してくれたのか、神妙な顔つきで頷く。
とはいえ、すぐに動く人形が見られないことは残念なのだろう。どこか寂しそうな表情を浮かべていた。
「わ、私頑張りますから! 子爵様にいつでも人形が動く姿を見せられるように早く習得してみせますから!」
強い意思を瞳に宿しながらドール子爵を見上げるティクル。
「ああ、楽しみにしている。頑張ってくれ」
「はい!」
ドール子爵から熱のこもった激励を受けて、嬉しそうに笑うティクル。
何て健気なのだろう。これもきっと昔に受けた恩を返すためなのだろうな。
ティクルの想いを知っているせいか感動しちゃった。
うん、これは俺ももっと応援してあげるべきだな。これ程の覚悟を見せている相手に、ゆっくり見守ってあげろなどということは侮辱にも等しいな。
頼まれただけの一時的なものとはいえ、俺はティクルの師匠。立派な人形師にしてやらねばらない。
「アルフリート様、これからも厳しくご指導のほどをお願いしますね」
ティクルはこちらに向き直ると、ぺこりと頭を下げて言ってくる。
「わかった。今まで他家のメイドさんだから加減してたけど、もっと厳しくすることにするよ」
「えっ?」
「ドール子爵も構わないですよね?」
「ああ、アルフリート殿のような一流の人形師になれるようにビシバシとやってくれ。幸い屋敷にはバスチアンや他のメイドも控えている。魔法の訓練に集中して構わん」
メイドとしての仕事もあるので、ぶっ倒れるまでやらせたらダメだと思っていたけど、ドール子爵が魔法に集中してもいいと言っているので問題ないな。
「魔力はまだ残っているよね?」
「あっ、はい」
「じゃあ、今すぐサイキックでスプーンを浮かべて」
俺がそう言うとティクルは戸惑ったような表情を浮かべる。
「えっと、スプーンは今持ってないのですが……」
「いつでも訓練できるようにもっとないとダメじゃないか。じゃあ、そこにある石ころでもいいからサイキックで浮かべて」
「は、はい! 『我は求める 意思に従い 念動せよ』」
俺がそのように言うとティクルは、詠唱を開始して目の前にある石ころをサイキックで浮かべ出す。
「じゃあ、今日は一日浮かべていること」
「ええっ!? 一日中!? それに歩きながらですか!?」
「何言ってるのさ。人形を自在に操るならこれくらいできないと。とりあえず最低の目標として、息をするように十個の物質を操れるようになろう。大丈夫、日常生活の中でも魔法を取り入れて訓練すれば一年以内にできるようになるって!」
「おお! 一年以内とは頼もしいな!」
俺の宣言にドール子爵も喜びの声を上げる。
「普通の人なら厳しいですけど、ティクルの熱意と覚悟があれば問題ないですよ。ね、ティクル?」
「……あ、はい、頑張ります」
N-starの第四期連載に参加することになりました。
『おいでよ 魔物牧場!~田舎ではじめるまったりスローライフ~』
こちらが私の連載作品となります。
仕事を辞めて魔物牧場を経営するスローライフ物語です。よろしくお願いいたします
https://ncode.syosetu.com/n2075fc/




