アルキノコ
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コミカライズ17話。近々更新されます。
「えいっ!」
ティクルがサイキックで木製のスプーンを二つ浮かべる。
空中に浮かんでいるスプーンはふらついており、天秤のように上下している。
ふむ、確かにティクルが操れるのは今のところ一個だな。このように不安定では物を二つ操れるとは言えない。
今はとにかく複数の制御に慣れろとしか言いようがないので、俺にできることは何もない。
ティクルは会話する余裕もない程に真剣だし、いちいち声をかけて出て行くのも憚れる雰囲気なので、先程持ち帰った人形を動かして遊ぶことにする。
俺はアルキノコの人形を床に置く。
アルキノコの両足はキノコなので、当然バランスが悪くてコテリと倒れてしまう。
俺はそれにサイキックをかけることで立ち上がらせる。しかし、足がキノコの形になっているせいか重心がかなり一点に集中している。
思わず前のめりにコケそうになるが、何とかサイキックで動かして起き上がらせる。それから重心の正確な位置を探るように動かす。
どうやら足の中心点に体重がかかりやすいようだ。それを把握した上で重心を制御しながら歩かせる。
テクテクとキノコの足を動かしながら進むアルキノコ。背が高い癖に重心が偏っており、手もないためにバランスをとるのが難しいな。
とはいえ、大きさも本物のアルキノコに似ているせいか遠くから見ると本物にしか見えないだろうな。
俺がそんなことを思いながら苦笑していると、カランカランと軽い物が落ちる音がする。
「ふわぁ……」
気が付くとティクルが瞳を輝かせて動くアルキノコを凝視していた。
自分がサイキックの制御を放り投げていることすら気付いていないらしい。
「……あの、ティクル? 自分の練習は?」
「はっ!? す、すいません! 目の前でアルキノコの人形が本物のように動くのでつい!」
俺が咳払いしながら言うと、ティクルは我に返って慌てて呪文を唱え直した。
うーん、こうしてここで他の人形でも動かして遊ぼうと思っていたけど、ティクルが集中できなさそうだな。
「ティクルはこのまま練習してて。魔力が切れそうになったら適当に休憩するなりしていていいから」
「あ、はい。わかりました」
今さらティクルに違う部屋で練習してとは言いにくいので、人形を持ってこちらから部屋を出ることにする。
廊下に出た俺は、再びアルキノコを歩かせて遊ぶ。
トテトテと歩いては、擬態するように座り込んで静止。
森の中でやったら絶対に見つけた人はアルキノコだと思い込むだろうな。今度トールの前で操ってからかってやるのも面白いかもしれない。
そんな事を想像しながら再び歩かせると、不意に扉が開いてアルキノコが吹き飛ばされた。
「アルキノコー!」
壁に強く叩きつけられた衝撃でアルキノコが纏っていた俺の魔力が霧散。
俺はショックにより悲鳴を上げる。
「アルキノコ?」
そして扉から出てきたエリノラ姉さんは、壁に倒れたアルキノコを見るなり無情にも、部屋に戻るなり木剣を手にして振りかぶった。
その意図が理解できた俺は、アルキノコにサイキックをかけてこちらに引き寄せることで助ける。
しかし、エリノラ姉さんそれでも諦めることなく、ぎらつかせた瞳と殺気を纏いながら疾駆した。それはさながら獲物を追うような肉食獣で、見ているだけで腰が引けそうだ。
ちょっとマジかよ、この姉は! 廊下で魔物を見たと勘違いしただけでこんな殺気飛ばすのか!?
「ちょっ、エリノラ姉さん! 人形! これは人形だってば! それに俺もいる!」
「人形?」
数メートルの距離を一瞬で詰めたエリノラ姉さんは、木剣を振り下ろそうとしたところで止まった。それと共にエリノラ姉さんが纏っていた殺気のようなものも霧散する。
いくら魔物のアルキノコと勘違いしたとはいえ、戦闘意識が高過ぎはしないだろうか。
「ほら、触ってみてよ。人形でしょう?」
俺がアルキノコを掲げて問うと、エリノラ姉さんは確かめるように木剣で突いた。
そういう突き方をすると汚いもののように思えるから止めてあげて。
「……本当ね。人形だわ」
「廊下にアルキノコなんているわけないじゃん。もうちょっと周りを見てよ」
あの距離で落ち着いて観察すれば、人形だということはわかったはずだ。
「ほ、本物みたいな動きして紛らわしいのよ! 廊下で魔物がうろついてると思ったじゃない!」
「え、そう?」
「何で嬉しそうなのよ」
エリノラ姉さんが、本物のアルキノコだと間違えてしまうくらい動きができていたことが少し嬉しい。
「でも、アルキノコ程度でビビり過ぎじゃない? スライムと一緒で大した害がある訳でもないのに」
アルキノコは精々がくしゃみを誘発させるような胞子をまき散らすだけだ。特にそれに毒は含まれていない。他には、攻撃といっても体当たりだけで威力は弱いので幼児を転がすことが関の山だ。
アルキノコと勘違いしたとはいえ、まさかあそこまでガチな対応をしようとするとは意外だった。
「うるさいわね。自分の部屋に魔物が入ってくると思ったから退治しようとしただけよ」
顔を少し赤くしながら腰に木剣を装備するエリノラ姉さん。
まあ、それもそうか。部屋を出たら魔物らしき姿を見たら慌てもするか。
俺の本音としては、どうせなら驚いた姿が見たかったものだ。
◆
そんな風にドール子爵から貰った人形を動かして過ごしていると昼食の時間となり、スロウレット家はダイニングルームに集まる。
ドール子爵はまたもや談話室に籠るかと思いきや普通にダイニングルームへと姿を現した。しかし、その表情は昨夜や今朝のように明るいものではなかった。
眉間に皺を寄せて頭を掻いて苛立ちのようなものを見せている。
一体どうかしたのだろうか?
ドール子爵への異変には皆が気付いており、エルナ母さんがそれとなく視線で尋ねろと言ってくる。
ええ? 俺が聞くの? まあ、人形劇とかだとエルナ母さんとノルド父さんもよくわからないだろうし仕方がないけどね。
とりあえず尋ねる覚悟を決めた俺は、それとなく尋ねてみる。
「ドール子爵、難しい顔をしてどうかしたんですか?」
「うむ、実は脚本が中々進まなくてな」
「話が思い浮かばないとか?」
「いや、そっちの方は大体できているので問題ない」
「じゃあ、どこが?」
話しの骨組みができているとすれば、特に迷うところはないと思うのだが。
「人形同士の会話が上手くいかんのだ。どうも中身がないような会話の応酬で魅力がない」
なるほど、話は問題ないのだけれど、キャラ同士の会話が納得いかないということか。
「自分と人形で会話することは今まで想像していたが、人形同士の会話はあまり想像していなかった。自分の大好きな人形のことなのに不甲斐ない」
「自分で書いてみると登場人物の会話って難しいですよね」
どこか落ち込んだドール子爵に励ましの声をかけるシルヴィオ兄さん。
だが、俺はシルヴィオ兄さんの言葉に何か引っかかりを覚える。
「その口ぶりから、シルヴィオも何かお話を書いてるの?」
それはエリノラ姉さんも同じだったのか、ニヤリとした笑みを浮かべながら尋ねた。
「ええ!? い、いや、そんなことはないよ!」
怪しいな。この反応。
シルヴィオ兄さんは本の虫で、日中は俺と同じくして部屋にこもっていることが多い。読んでいるうちに自分でも書きたくなって書いているパターンはあり得る。
「……アル、今度ガサ入れよ」
「……任せて。俺のサイキックを使えば、鍵なんてあってないようなものだから」
俺の魔法にかかれば、この屋敷で入れない場所はどこにもない。ただし、人物によっては斬り捨てられる可能性もあるので、安易に侵入はできないが……シルヴィオ兄さんであれば報復を恐れることもないだろ
う。
エリノラ姉さんと俺がそのような計画を企てていると、エルナ母さんがコホンと咳払いする。おっとドール子爵の悩みから話が逸れていたな。
俺は脚本や小説などを書いたことはないので具体的な苦しみはわからないが、確かにキャラ同士を喋らせろと言われると難しい気がするな。
「登場するのは、ゲコ太の他に森に住む生き物達ですよね?」
「ああ、その選定も迷っていてな。いくつもの生き物で書いてみてはいるがしっくりこないのだ」
森に住む生き物といっても、動物やら虫やら魚やら鳥とたくさんいるからな。ドール子爵が迷ってしまうのも無理はない。
俺がどうするべきか悩んでいると、エルナ母さんが口を開いた。
「でしたら、村の近くにある森でも散歩してみますか? ここには色々な生き物がいますよ?」
ああ、それはいい提案だ。実際に森に入って生き物を観察してみれば、脚本の参考になるかもしれない。
「うむ、そうだな。ここは自然が豊かなようだし参考になるかもしれん。アルフリート殿、案内をお願いできるか?」
ですよね。そうなってしまいますよね。この雰囲気で屋敷でゴロゴロしたいからと断れるはずもない。
「はい、お供しますよ」
まあ、森に散歩にでも行くと思えばいいか。最近は少し涼しくなってきたし悪くない。
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