見栄を張ったエリノラ姉さん
10月23日にHJノベルス様より『邪神の異世界召喚』2巻が発売! よろしくお願いいたします。
少し短めですが区切りがいいので。土曜か日曜に更新いたします。
俺がサイキックでゲコ太を動かし、ティクルが声を吹き込んだお陰で部屋に閉じこもっていたドール子爵を夕食に参加させることに成功した。
まあ、ドール子爵があまりにも無邪気にゲコ太と会話するので、騙しているようで罪悪感に駆られたが、ドール子爵も気にしていないみたいなので良かった。
代わりに声優という職業の可能性と素晴らしさを見出してしまい、また燃えてしまったがもうどうしようもないな。
ドール子爵とダイニングルームに入ると、俺達を除く家族全員が席についていた。
そういえば、結局ドール子爵と同じタイミングで入ってきたのだが、これはもてなす側としていいのだろうか。
いや、俺とティクルがゲコ太を動かしている間に、サーラが戻って報告したみたいだし大丈夫だよね?
俺は部屋に閉じこもっていたドール子爵を連れ出したという功績があるのだ。でも、本人であるドール子爵を前にそれを言うのも難しいな。
どう言ったものかと悩んでいると、隣にいたドール子爵が軽く頭を下げた。
「遅れて申し訳ない。談話室を借りて夢中で作業をしていた故に、アルフリート殿にご迷惑をかけてしまうことになった」
お、おお、俺が言いにくいことを率先して言ってくれた。正直すごく助かる。
「いえ、構いませんよ。どうぞ、席におかけください」
「失礼する」
ノルド父さんの左側にドール子爵が座る隙に、どさくさに紛れて俺は下座に座る。
今日はドール子爵という客人がいるからか、席順がいつもと少し違うな。
いつも隣はシルヴィオ兄さんだが、今日はエリノラ姉さんだ。前にいる人が隣にいると少し落ち着かないな。
しかも、客人がいるせいかいつもの動きやすい服と違って、ワンピースのようなものを着て猫かぶりモードだし。
さすがにエリック家のような親しい人ではないので、エルナ母さんに着るように言われたのだろうな。
何となくそのような姿を想像すると、思わず鼻で笑ってしまった。
すると、エリノラ姉さん手をすっと動かして、こちらの太ももを思いっきりつねってきた。
「いたたたた!」
「ちょっと、アル。何してるのよ」
思わず声を上げると、エルナ母さんが眉をひそめながら注意してくる。
すると、張本人である隣の姉が、
「アル、大丈夫? 今、思いっきり椅子に足がぶつかったもんね」
自分がつねってきた癖に、この姉は何を言っているのだ? しかし、素直にそれを言える状況ではないことは明らか。
「う、うん、心配してくれてありがとう。大丈夫だから」
どうしてつねられたのに、こちらが礼を言わねばいけないのか。俺は痛みで喜ぶドMではないぞ。
俺はモヤッといた気持ちを抱きながら座り直した。
「それじゃあ、食事を運んできてくれ」
「かしこまりました」
ノルド父さんがそう言うと、サーラが一礼をして扉を開ける。
すると、そこには事前に控えていたかのようにワゴンに手をかけるミーナ、メル、ドール子爵家のメイド達がいた。
キュルキュルとワゴンを進め、メイドの手によってテーブルの上に料理が並んでいく。
スパゲッティ、唐揚げ、串揚げ、蒸し野菜、サラダ、ハンバーグに卵焼きにシチューと何でもござれだ。うちで作れる限りの料理を出してみたって感じがするな。
これほどの料理を用意するのは大変だっただろう。
「おお、これが有名なスパゲッティとやらか。一度発祥の地であるここで食べてみたいと思っていたのだ」
スパゲッティはうちの領と、トリエラ商会の手によって広まっているからな。
今やコリアット村が発祥の地という感じになっており、セリア食堂などでも旅人がやってきて注文したりするらしい。
「それは光栄ですね。美味しいので是非とも食べてみてください」
「ああ、何やら見慣れぬ料理が多いので楽しみだ」
テーブルが埋まるほどに料理を並べると、執事でサーラとバスチアンが飲み物を注いでいく。
おお、メイドがワインを注ぐ姿も悪くないが、ナイスミドルな執事がやるとカッコよく見えるな。
バスチアンが赤ワインを注いでいる姿を眺めていると、エリノラ姉さんの下にサーラがやってくる。
「エリノラ様はワインになさいますか、それとも果実水になさいますか?」
「えっと……」
エリノラ姉さんが悩むようにしながらチラリとシルヴィオ兄さんへと視線を向ける。そこではシルヴィオ兄さんが少しだけワインを注いでもらっていた。
この世界での成人年齢は十五歳だ。十三歳であるエリノラ姉さんであればそろそろお酒を嗜んでいた方がいいくらいだろう。
ただ別に好きじゃないならば無理に飲まなくてもいい。
「じゃあ、少しだけ赤ワインを」
「かしこまりました」
あーあ、見栄を張ったな。赤ワインなんて苦いだけで美味しさがわからないなどと日々のたまっていた癖に。
心の中で呆れていると、サーラが俺のグラスに注ぎにくる。
「赤ワインを」
「まだ早いのでキッカのブドウジュースにしますね」
赤ワインを頼んだのに即座にブドウジュースを注いでくるサーラ。
何となくこの世界って、十歳になれば少しお酒を飲んでもいいみたいな風潮があるんだよな。まだ年齢が二桁に届かない俺では、このように酒を飲むこともできないので非常に残念である。
とはいえ、ブドウジュースも色合いがワインみたいだから気分だけは味わえるな。
全員に飲み物が行き渡ると、それぞれが乾杯のためにグラスを手に持つ。
そして自然と主催者であるノルド父さんへと視線が向かう。
「まずはドール子爵。遠路はるばる我が屋敷を訪れて頂いてありがとうございます」
「いやいや、急な来訪にも関わらず、このように歓迎してくれたことを感謝する」
「領内の名産品だけでなく、異国の食材を使った料理を用意したので、心行くまで楽しんでくださいね」
「ああ、頂くとする」
「では、スロウレット家とドール家の友好に乾杯!」
「「乾杯」」
それぞれがグラスを掲げて、一口を飲む。
するとエリノラ姉さんが顔を歪めて小さく「苦っ」と呟いた。
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