人形好きのメイド
コミカライズ16話公開中!
小説六巻は11月発売予定です。
「それじゃあ食べようか」
「はい!」
「は、はい」
とりあえず気を取り直すように言うと、席についたミーナが元気よく返事し、ティクルが遅れながら返事する。
ティクルは初めてのミルクジェラートをどう食べていいかわからないのか、さり気なく視線をミーナに向ける。
観察されているミーナは特にそれに気付くこともなく、スプーンでミルクジェラートをすくって食べる。
「んんー! 甘くて冷たくて美味しいですね!」
表情をだらしなく緩ませながら感想を漏らすと、ミーナは次々と匙を動かしていく。
それを見てどのように食べるか理解したティクルが、ミルクジェラートを恐る恐るスプーンですくう。
そして、マジマジと見つめた後にゆっくりと口へ。
すると、ティクルの目が大きく見開かれ、表情が驚きに彩られた。
「美味しい!」
「ですよねー! もう何個でも食べられちゃうってくらいの美味しさです」
「このクッキーやジャムと一緒に食べても美味しいよ」
「本当ですか? では、クッキーと一緒に……んー! こちらもクッキーの甘さとサクサク感が合わさって最高ですね」
「だろう?」
メイド達がミルクジェラートを食べて嬉しそうに笑って、仲良さそうに会話している。
ああ、ここは何という華やかな空間だろうか。
俺がいつも遭遇するシチュエーションといえば、トールやアスモとくだらない事を言っていたり、ルンバやゲイツ、村人といったむさ苦しいおっさん連中とガハハと笑い合うこと。
このような女性ばかりの和やかな空間だなんていつ以来だろうか。
こういう平和で華やかな時間もいいな。
そう思いながら俺もミルクジェラートを一口。
濃厚なミルクとジャムの酸味が口の中へと広がって、瞬く間に溶けていく。
ああ、この甘さと酸味の調和が絶妙だ。
それに、まだ熱気がある季節なので冷たい食べ物がさらに美味しく感じられる。
パクパクとミルクジェラートを食べ続けると、少し口の中が冷えてきたので温かい紅茶を飲む。
冷えた口の中で、じんわりと広がる紅茶の味。冷たさで麻痺していた舌の感覚が戻ってきた。
ロイヤルフィードのまろやかな味が、口の中に残っている甘みを流してくれる。
「はぁ……この紅茶、とても飲みやすいですね。銘柄は何ですか?」
「ロイヤルフィードですよ」
「え、ええ!? そんな高級なものを私達が飲んでもいいのですか?」
サラッと答えたミーナの言葉に、ティクルが驚く。
まあ、無理もない。我が家では普通のお茶のように飲まれているロイヤルフィードだが、これってかなり高級で茶葉を買うのに金貨数枚は吹き飛んでしまうからな。
「さすがあたし達も毎日のように飲んだりしないよ。今日はアルフリート様がいるからだよ」
「ですです。だから、アルフリート様も毎日ここにいらっしてもいいんですよ?」
にっこりと笑いながら言うミーナ。
しかし、その言葉の後ろにはロイヤルフィード、もしくは甘味を持ってと付いていることを忘れてはいけない。
◆
ミルクジェラートを食べ終わり、メイドの休憩室でまったりとロイヤルフィードを嗜む。
「へえー、ドール子爵って本当に人形が好きなんですね」
「はい、屋敷でお過ごしの際も部屋で人形を作っていられることが多いですよ」
「さっき、アルフリート様の部屋に運ばれているのを見たけど、あれ全部人形なのよね?」
「はい、全部人形です。そして屋敷にはあれの何倍もの人形が置かれていますよ」
緊張気味だったティクルも、一緒にミルクジェラートを食べて会話することで打ち解けたのか、今ではミーナとメルと普通に会話している。
同じ職業を生業とする者同士なのだし、話して共感できることは色々あるしな。
ティクルも馴染めてきたようで何よりである。
「それだけ多いと管理が大変そうですね」
「……はい、日に日に増えていくせいで大変で……」
「そんなに人形ばっかり作って、奥さんは怒ったりしないの?」
あ、それは俺も気になる。今日は奥さんは来ていないようなのだが、ドール子爵の奥さんはどのような人なのだろう。
「え、えっと、ドール子爵様に奥さんはいらっしゃいません。ど、どうも他の貴族の女性は、子爵様の人形趣味が苦手に思われるみたいで……」
「あー、そうなのね」
どことなく気まずそうに話すティクルに、思わずメルも微妙な顔をしてしまう。
「普段は物腰も柔らかくていい人なんですけどね。メイドの私にも丁寧に挨拶をしてくれましたし」
「はい、そうなのですが、人形が絡むと熱が入ってしまわれるので……」
「俺としてはドール子爵は、自分の好きなことに一直線だったり愛や拘りがあるから大好きなんだけど
なぁ」
俺が正直な感想を漏らすと、ミーナとメルが微妙そうな顔をする。
ううむ、どうやら二人には俺の感覚に理解できないようだ。
ドール子爵は、普段の穏やかさと見た目のギャップはあるかもしれないけど、それを含めてもいい男性だと思う。周りを気遣う優しさや協調性もある。
しかし、自分のやりたいことややるべき事にはすぐにとりかかれる行動力のある人だ。
領地だって布や綿の特産地で栄えているし、不評な噂も流れてこない。
少なくてもパーティーで大口を叩くだけの貴族のボンボンよりも、よっぽど頼りになる。
人形好きという一面を受け入れ、しっかりと認めてくれる女性と出会えば、すぐに結婚できる気がする
な。
「ああ、アルフリート様が女性でしたら良かったのに!」
「なんかわからないけど、その発想はやめて」
一瞬、ドール子爵のお嫁さんになる自分を想像してしまったではないか。
確かにドール子爵は好きだけど、そういう方向ではない。
「これからもドール子爵様と仲良くしてあげてくださいね。あんなに楽しそうにする子爵様ははじめてなので、どうか!」
「う、うん、わかったよ」
なんか重たい方向にいってしまったけど、ドール子爵とは長い付き合いになりそうな予感がするし、そのつもりだ。
人形の操作や、人形劇、人形や財布作りとまだまだ関わることは多そうだし、俺の拘りをわかってくれる人は貴重だからな。
そう思いながら紅茶をすすっていると、サーラが部屋に入ってくる。
誰かに声をかけようとしていたサーラだが、俺に気付くと少し驚き、頭を下げた。
「……すいません。アルフリート様がいるとは思わず、ノックを……」
「いや、俺がここにいる方が、おかしいだけだから気にしないで」
ここは本来メイドが休むために用意された部屋。そこに主である俺がいる方がおかしい訳で、ノックをしなかったからといって咎める訳はない。
でも、ノックをせずに入ってくるサーラは新鮮だったな。
「サーラも休憩かい?」
「メルさん、ドール子爵様から人形以外のお土産があったので、その整理を手伝ってもらえますか?」
「あー、わかったよ。ミーナも休憩したら仕事に戻りなよ?」
「はーい」
立ち上がりながら言うメルの言葉に、ミーナがのんびりとした口調で返事をする。
その様子を見る限り、ここで休憩を満喫してから適当に仕事に戻るという魂胆はみえみえだった。
「ミーナは、夕方までに玄関を綺麗にしとくこと」
「ええっ!」
メルからさらりとノルマを言い渡されて、のほほんとしていたミーナが驚愕する。
「今日はたくさん出入りがあったから玄関が少し汚れてね。綺麗になってなかったら、夕飯は食べさせないからね」
「そ、そんな……」
部屋を出ながら告げたメルの言葉を聞いて、ミーナがテーブルに突っ伏す。
サボるかもしれないと思われたら、やるべき範囲を指定されるのは当然だよね。
俺が前世でいた会社でも、サボり防止のためにやるべき事と期限がキッチリと指定されていたよ。
人を働かせるという一点においては、ブラック企業というのは優れているものだな。ただ、それが永続的なものに繋がると言われれば否であるけど。
「私も魔力が回復したら、また頑張らないと」
休憩してリラックスすることができたのかティクルが拳を握って意気込みを露わにする。
「ティクルさんは、頑張りますね。人形を動かすだけで、あんなに怒られていたのに……」
ミーナにそう言われて、ティクルが答える。
「それでも私は苦しくありませんよ」
「どうしてです?」
「小さな頃、体の弱い私は両親の畑仕事を手伝うことができず、家で一人寂しくいることがほとんどでした。そんな時に自分の寂しさを紛らわしてくれたのは、子爵様が村で配っていた人形なんです」
おお、そうか。ドール子爵であれば、自分の作った人形を子供に与えるくらいはしそうだからな。
「子爵様の作ってくれた人形が可愛くて、大好きで……だから、その人形をこんな風にして動かせることが今は楽しいんです。それに私の力で子爵様を喜ばせれば、恩返しになるかなって……」
少し照れくさそうに笑いながら言うティクル。
とても健気だ。
人形好きという一面を受け入れ、しっかりと認めてくれる女性ならすぐ傍にいるではないか。とはいえ、ティクルが平民だったり、そもそも二人が恋愛的感情を持っているのかすらわからない。
けど、ティクルが人形を動かすのをもっと応援してあげたいと思った。
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