ちょこっと休憩
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』6巻は11月発売予定です! 詳しく情報がわかり次第、またお伝えします。
「やった! 人形が立ちました!」
ドール子爵に貰った人形を空き部屋に置いて、自分の部屋に戻るとティクルが喜びの声を上げていた。
床にいるナイトを見てみると、ティクルのサイキックによって直立している模様。
それとは正反対にミーナがぐったりとした様子で転がっていた。
「こ、腰が変になりそうです。ティクルさんってば、変なタイミングで私の身体を止めたりするんですから」
ああ、重心の移り方を研究するためにミーナは変な体勢の維持させられたりしていたもんな。
「お疲れ様。でも、お陰でティクルが魔法で人形を立たせられるようになったよ」
「は、はい、ミーナさんのご協力のお陰です!」
「なら、良かったですけど……」
年下からの純粋な笑顔には弱いのかミーナが、ちょっと照れくさそうに返事する。
あれ? 俺がお礼を言った時と全然反応が違うな。まあ、ティクルの方が可愛いし、そこを突っ込むのは野暮か。
「あれ? ドール子爵は?」
ふと、彼がいないことに気付いたのか、室内を見渡しながらティクルが言う。
「ドール子爵なら人形劇のシナリオを書くために談話室に籠ってるよ。しばらくは放っておいてだって」
「に、人形劇のシナリオ!? 一体どうなって……」
「人形をサイキックで動かして劇を作るんだって。そのためにティクルさんも頑張らないとね」
「ふええ!? 私が練習してる間に、そんな大事になってたんですか?」
始めはドール子爵も目の前で人形が動けば満足だったのだろうな。俺が人形の大行進やら、人形劇とか言ってしまったから火がついてしまったように見える。
でも、ティクルさんはサイキックの魔法が上手いみたいだし、ドール子爵の期待にも応えることができるだろう。
「魔力の方は大丈夫?」
「さすがにちょっと疲れてきました」
そう言えば、ティクルさんは俺の部屋で一時間くらいサイキックを使い続けている。エリノラ姉さんは集中力がないから比較できないけど、シルヴィオ兄さん、ルーナさんよりもずっと長く使っているように思え
る。
多分、普通の人よりも魔力は多いのだろうな。
本当なら慣れたらドンドン練習するべきだけど、さすがにティクルさんの疲れた表情を見ればそんな鬼畜な台詞は言えない。
我が家のメイドでもないし、そんなに急がせる必要もないだろう。
「じゃあ、休憩したら少しだけ姿勢維持の練習をして今日は終わろうか」
「えっ……あっ、はい」
今すごくティクルの素の言葉が出た気がするがスルーだ。さすがに一度くらいは復習しておかないとな。
とはいえ、明確な終わりが見えたお陰かティクルがホッとしたような表情をする。
多分ドール子爵が監督していたら、人形への愛が暴走して魔力が切れてもやらせる可能性があるしな。
あまり人前に出るのが得意ではなさそうな性格だし、ずっと誰かの傍で控えているのも疲れるだろう。ここは精神的なケアをしてあげるか。
「ミーナ、下に降りよう」
「休憩ですか!?」
俺の一言で察したのかだらりと寝転がっていたミーナが、勢いよく立ち上がる。
そうだけど、その察しの良さを普段の仕事から生かしてほしいものだ。
「そうだよ。ちょっと気分転換にミルクジェラートでも食べよう」
「部屋にある紅茶とお菓子はどうされますか?」
ミーナが持ってきてくれた紅茶とクッキーだが誰も手をつけていなかったな。
「それも持っていこうか。紅茶は俺が魔法で温め直すから」
「かしこまりました」
俺がそう言うと、ミーナが手早く紅茶セットを回収。空気の読めるティクルがさり気なく扉を開けてくれて、俺を先頭にして二階から一階に降りて行く。
階段を降りると、厨房の隣の休憩室で誰かが椅子に座るような物音がした。このちょっとぞんざいな座り方はメルだな。
ここで敢えて避けるのも変だし、メイド同士の交流ということで休憩室に向かうか。
休憩室に入ると、予想通りメルがリラックスした体勢で座っていた。
「あら、アルフリート様。どうしたんだい?」
「ちょっとティクルを交えて休憩をね」
「ということは、美味しい紅茶とお菓子にありつけそうだね」
メルの期待の込められた言葉に俺は頷く。
「そういうことだよ。ミルクジェラートを人数分お願い」
「よし、きた。ほら、ミーナ。取ってきな」
「うえ? 今メルさんが頼まれていましたよね!?」
メルからの突然の振りに、テーブルに紅茶セットを置いていたミーナが驚く。
「別にアルフリート様はあたしに取ってこいなんて一言も言ってないよ」
「そんなぁ!」
空気の読める俺がメルの言葉に頷くと、ミーナが悲痛な声を上げた。
別に二人のどっちが持ってきてくれようがどうでもいい。
「あ、あの、私がお手伝いを……」
「そんな大袈裟なものでもないし、厨房のことはよくわからないだろ?あんたは客人なんだし大人しく座ってな」
優しいティクルが手伝いを申し出るが、メルがそれをバッサリと斬り捨てた。
「ティクルは魔力が減って疲れてるんだし、ゆっくりしていていいよ」
「は、はい」
俺がそう言うと、未練がましく視界にいたミーナがトボトボと厨房の方へと歩いて行った。
ミーナがお菓子を用意している間に、俺はサイキックでティーカップをメルとティクルの前へ。
「うわあ、凄い魔法制御……」
たったそれだけの事でティクルが感心したような声を上げる。
確かにこれもそれなりに技術がいる。
いくらサイキックで物を動かそうとも、移動速度が速すぎて止めることができなければ着地もできずに壊れてしまう。このティーカップであればテーブルに激突して、転がる、もしくは割れるなんてこともある。
「サイキックを上手くなるには、小さな物でもいいから日常生活の中で使っていくのがいいよ」
「で、でも、こういうコップとかだと失敗すると割れてしまうのでは?」
「自信がなかったら最初は割れない木製の物みたいな、壊れても大丈夫な物から始めるといいよ。それである程度上達したら、こういう割れちゃう物にしたらいいさ」
「な、なるほど……」
俺だって最初にサイキックで操った物は木皿だし、転移で物体を転移させるのもミスってもいいように木製品にしたからな。
というかドール子爵だったら、人形以外の物なら何を壊しても大して怒らなさそうだけど。
「念動させるという感覚は経験がものを言うからね」
そう言いながら俺はティーポットを浮かべて、火魔法の熱で紅茶を温める。
こういう方法をすると過剰に熱が加わり雑味が出てしまうが、冷めてしまったのだからしょうがない。別に紅茶の味にうるさいエルナ母さんがいる訳でもないし。
十分にティーポットが温まったところで、サイキックで傾けてそれぞれに紅茶を注いでいく。
「やはり人形を動かすにはこれくらい魔力の制御が必要なんですか?」
「あるにこしたことはないけど、人形を動かすのだと同時に物を動かす力が必要かな。両手両足をタイミングよく動かさないといけないし、その時の姿勢の維持も必要だから」
無意識に三つ四つくらいの物を動かせるくらいじゃないと。
「ああ、何だか私自信がなくなってきました」
「魔法のことはよくわからないけど、アルフリート様がおかしいってことだけは確かだからあんまり気にすることはないよ」
そうだろうか? サイキックくらいだったら何度も使えば次第に慣れてくる。そこまで難しいものではないと思うんだが……。
「お待たせしました。ミルクジェラートです!」
俺が不思議に思っていると、ミーナがミルクジェラートを人数分持ってきてくれた。
俺達の目の前にミルクジェラートが配られる。
勿論、これはバルトロが量産してくれたものだ。この間作ったやつは、二日も持たずに食べられてしまったからな。夏の季節にあのような甘いお菓子を作ればそうなるよね。
というか綺麗にジャムやクッキーまでトッピングされているな。バルトロってば、嫌と言いながら順調にお菓子職人としての腕を上げている気がするな。
「みるくじぇらーと……ですか?」
初めてのお菓子を前にしてティクルが不思議そうに言う。
「牛乳を使った冷たいお菓子だよ」
「冷たいお菓子! 氷以外にこんなものがあったのですね!」
「ん? 氷ってお菓子に入るの?」
氷は氷なだけでお菓子とは言えないような……。
「は、はい、子爵様の家にある氷の魔導具から作られた氷に、少しの砂糖をつけて食べるのが夏のちょっとした楽しみでした」
ちょっと照れくさそうに語るティクル。
それを聞いてこちらは何故か申し訳なく思った。
うちでは夏になると俺が氷魔法で温度を下げるし、常に適温を保つために各所に氷を設置して、氷や冷気を湯水のように消費している。氷なんて誰でも食べ放題だ。
別にドール家でのティクルの立場が酷いとかではないが、氷魔法が使えるという特別性を再認識した俺だった。
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