パフェとは夢を詰め込むもの
『Aランク冒険者のスローライフ』2巻が発売されました。店頭などでお見かけしたら、是非手にとって頂けると嬉しいです。
まっりとした村生活なのでオススメですよー。少し戦いますけど。
ミルクジェラートが完成すると、後はプリンなどの具材を細長い容器に盛り付けるだけなのだが、生憎とうちの家にはそのような物はない。
「ねえ、何か長細い容器はない?」
「長細い容器? コップみたいなのか?」
「うーん、形で言えばワイングラスみたいなのがいいかも」
俺がそう言うと、バルトロが食器棚を漁って探し出す。
「ワイングラスかー。おっ、そういえばノルドが貰ってきたやつで棚の肥やしになってる物がいくつかあるぜ」
そう言ってバルトロが取り出したのはワイングラスの口が大きく広がっている物や、妙に細長かったりしている物が出てきた。
それらの中で俺はパフェの容器にピッタリな物を見つける。
「あっ、これなんかちょうどいい」
「なんか花を意識して作ったんだっけな? 口の部分が妙に大きいからワインを飲みづらいってことで全然使われてなかったな」
他のグラスでも十分使えるけれど、これが一番パフェの容器っぽい気がする。ちょうど二つあるのでエルナ母さんとエリノラ姉さんの分としよう。さすがにノルド父さんとシルヴィオ兄さんが、ここまでのパフェを食べられるとは思えないから小さめのもので。
後はここに盛り付けていくだけだな。
「バルトロ、マフィンとクッキーは作ってるよね?」
「ああ、坊主が昨日作っておけっていうからちゃんと作っておいたぜ」
もはやマフィンやクッキーを作ることなどお手の物なうちの料理人。
「こいつをどうすんだ?」
「細かくして入れて食感の違いを出すんだ。ふわふわとサクサク」
「なるほどな。ミルクジェラートと相性が良さそうだもんな」
パフェといえば、サクサクなフレークやら柔らかいスポンジ、チョコレート、生クリームなどの数多の素材が入って、それぞれの食感と素材の合わさりを楽しむものだ。
しかし、うちには柔らかなスポンジやサクサクのフレーク、生クリームなど存在しない。
よってマフィンで柔らかなスポンジを、クッキーでフレークの代用をしようという作戦だ。生クリームの部分についてはミルクジェラートと果物を多めに入れることで誤魔化すことができるだろう。
「よし、マフィンを大雑把に千切って、クッキーを食感の残る大きさに砕こうか」
「おう」
「マフィンを千切って、クッキーを砕く!? お二人とも正気ですか!?」
俺とバルトロがそれぞれの役割をこなそうとすると、ミーナが血相を変えて飛び込んできた。
急に現れて大声を上げるからビックリした。また厨房の匂いを嗅ぎつけてやってきたのか。
「ふわふわのマフィンを千切り、サクサクのクッキーを千切って遊ぶくらいなら、私が貰います!」
「違うよミーナ。これはパフェっていうお菓子を作るために必要なことなんだ」
「……パフェ? 何だかわからないですけど、とても素敵な響きです」
うっとりした表情で呟くミーナ。
パフェというものが知らないにも関わらず、素晴らしい物だとは察知しているようだ。
相変わらずうちの女性陣はお菓子のことになると鋭い。
「わかったらクッキー一枚あげるから仕事に戻るか、大人しくしてて」
「大人しくしています!」
やはり仕事に戻るという選択肢はないのか。
クッキーを齧りながらちょこんと小さな椅子に腰かけるミーナ。
そんなミーナをしり目に、バルトロと俺はマフィンを千切って、クッキーを適当に砕く。
時折、ミーナの方から「あぁ!」などと悲壮な声が聞こえるが無視だ。これは仕方のないことである。
「さて、後は果物とかと合わせて入れていくだけだよ」
バルトロが興味深くこちらを観察してくる中、俺はマフィンを小さく千切ったものを投入。その上にミルクジェラートを入れる。
マフィンを底に入れることによって溶けたミルクジェラートを吸収して、最後に美味しく食べることができるという訳だ。
その上に適当に砕いたサクサクのクッキーを乗せて、カットしたイチゴを積んで、またマフィン。その上にまたミルクジェラートを乗せて層にしていく。
「マフィンにクッキー、さらに未知の甘味に果物……い、いいんですか!? そんなことしちゃって後で捕まりませんか!?」
俺がそんな作業をしていると、いつの間にかミーナが傍にきていた。一体誰に捕まるというのやら。
でも、ミーナが動揺してしまう気持ちもわかる。パフェというものはそれほどまでに贅沢な物だから。
「いいんだよ。パフェは夢を詰め込むものだから」
「パフェは夢を詰め込む……っ!」
俺がにっこり笑いながら言うと、ミーナはうっとりした表情で反芻する。
ミーナが夢の世界へと飛んでいるのをよそに、俺は積み上げたミルクジェラートの上に主役のプリンを乗せてカラメルかけてやる。
そして最後の余った部分にカットしたイチゴやクッキーを刺してやると……。
「うん、これで完成だね」
「な、なんですか! このプルプルとしたものは!? それにこの甘い香りのするソースも堪りません!も、もう食べていいですか!?」
「いやいや、ダメだから。これはエルナ母さんのものだし! というか涎垂らさないで汚い!」
興奮のあまり涎を垂らしながら近寄ってくるミーナを押しのけると、バルトロが後ろからは羽交い絞めにして距離を離す。
「ほら、ミーナ。ちょっと大人しくしていろ」
「い、嫌です! バルトロさん! 目の前にパフェがあるのです! それを前にして食べない訳にはいきません!」
大好きなクッキー、未知の甘味のミルクジェラート、プリン、たくさんの果物やマフィンを前にしたミーナが興奮状態。ジタバタと手足を動かす様は子供のようだ。
「大人しくしているならミルクジェラートを味見していいし、トッピングを任せようと思うのだけど……」
「申し訳ございませんアルフリート様。パフェを前にして少々取り乱しました」
俺が魔法の言葉を唱えると、ミーナがすっと暴れるのを止めて冷静になる。どうやら駄メイドではなく、優秀なメイドモードに切り替わったようだ。
こういう現実的な譲歩をチラつかせると冷静になるあたりが実に女性らしい。
「バルトロさん、もう大丈夫ですから」
「お、おう」
ミーナが暴れないことを理解したのか、バルトロがゆっくりと腕を離す。
その表情は少しだけ残念そうな気がした。
俺がじーっとそれを見ていると、バルトロが気を取り直すように口を開く。
「で、パフェはこれで完成だよな? 要はそれぞれの好みと食感を意識しながら積んでいけばいいんだよな?」
「うん、そういうことだから、バルトロとミーナもやってみようか」
「おう!」
「かしこまりました、アルフリート様」
「とりあえず、ミーナは味見して」
ミーナがこのままではこっちがやり難いので、ミルクジェラートをスプーンですくってやり渡す。
「では、味見をさせていただきます」
ミーナが楚々として仕草でミルクジェラーの乗ったスプーンを口の中へ。
「ふわぁ……何ですかこの冷たくて甘くて優しい味は。身体が溶けてしまいそうですぅ」
ミルクジェラートが余程美味しかったのか、ミーナは即座に顔と口調をだらしないものに変化させた。
「こんなものをマフィンやクッキー、果物などと一緒に食べるとどうなるか想像もできません」
「ははは、やっぱりミーナはこうじゃねえとな」
「落ち着いた方が静かでいいんだけどね」
いつも元気で騒がしいミーナだが、やはり彼女はこうでないとね。
「それじゃあ具材を入れていくか」
「そうですね! 私の美的センスを見せてあげますよ! まずは砕いたクッキーとミルクジェラートをたくさん入れて――」
「あくまで皆の好みに合わせて入れてね? 自分のパフェじゃないのに、全部自分好みにしたダメだよ?」
そうやって俺達は屋敷にいる全員分のパフェを完成させた。




