プリンとミルクジェラート
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「カグラに行くためとはいえ、そんな迂闊な事を言っちまったのか」
「言っちゃいました」
かき氷を食べた後日。俺はパフェを作るためにバルトロのいる厨房にやってきていた。
「今度はパフェとやらか。またしばらく菓子職人になるんだな俺は……」
「め、面目ない」
遠い目をしながら語るバルトロを見ると少し申し訳なくなる。
別にお菓子を作ること自体はいいのだが、屋敷の女性陣が定期的に求めるようになると作るのはバルトロということになる。
クッキー大量生産の時のように、一日中厨房を甘い匂いで漂わせることになるというわけだ。
「まあ、菓子とはいえ、料理は料理だ。色々な物が作れて損はねえし構わねえよ」
「さすがはバルトロだよ!」
今回はアイスクリームにプリン、トッピングと複数の要素を覚える必要があるのだが、バルトロは構わないと言ったし、余計なことは言わないでおこう。
「じゃあ、まずはパフェの要になるアイスクリーム……正確にはミルクジェラートかな」
俺はこの世界でバニラなる植物を見つけることができていないので、前世のようなバニラ味のするようなアイスは作れない。
でも、冷たくて美味しいのは確かだし、別にいいだろう。
「牛乳と砂糖を用意して」
「はいよ」
俺がそう言うと、バルトロは手早く氷の魔導具である冷蔵庫から牛乳瓶を取り出して、棚から砂糖の入った壺を用意する。
俺はその間に魔導コンロに火をつけて、フライパンを置く。
「フライパンに牛乳一リットルくらいと砂糖を大さじ五杯くらい入れる」
「相変わらず菓子は、恐ろしいくらい砂糖を使うな」
まあ、その気持ちもわからなくもない。食べているとあまり理解できないものだが、料理してみるとかなり砂糖やバターを使っているとわかる。
そりゃ、お菓子ばかり食べると太ってしまうよな。それでも食べてしまう程にお菓子には魔力が宿っているのだが。
「後は沸騰する直前で火の勢いを弱めて煮詰めていくだけ」
「お、作業としては随分簡単なんだな」
本当はもうちょっと色々混ぜたりするけど、簡単なミルクジェラート程度ならこの程度だ。
「沸騰するまでにプリンを作っちゃおうか」
「何だ。これだけじゃなかったのか?」
バルトロが何か言っているがスルーだ。
ミルクジェラートの元になる牛乳が沸騰するまでの間に、俺達は次のプリン作りとへと取り掛かる。
用意するのは先程の材料に卵を四個ばかり追加するだけ。
ボウルに牛乳と大さじ二杯くらいの砂糖を入れ、卵の黄身だけを投入。
それから菜箸を重ね合わせた自作泡だて器で混ぜる。
「後はこれを小さい容器に入れる」
「もっと大きい容器もあるが?」
「プリンは小さいくらいが可愛らしいし、量もちょうどいいんだよ」
「如何にも女が好きそうな感じだな」
まったくそうだ。でも、大きなサイズのプリンというのもロマンがある。暇だったらバケツプリンとか作ってもいいかもしれない。絶対一人で食べきれないけど。
「あ、ちょうど九個できたね」
「ははは、これで争う必要はなくなったってわけだな」
小さな容器に混ぜたものを注いでいくと、ちょうど屋敷にいる全員分の量になった。
別にこのくらいの物すぐに作れるのだが、誰が先に食べるなどという無用な争いが起きることはなさそうなのでホッとした。
ミルクジェラートの隣でも、火をつけてもう一つフライパンを設置。
そこに混ぜたプリンカップを置いて、水が漏れないようにタオルを乗せると蓋をする。
「沸騰してきたら火を弱めて蒸していく感じかな。俺はプリンを見ておくから、バルトロはミルクジェラートを見ておいて」
「おう」
俺がプリンの様子を見て、バルトロがミルクジェラートの様子を見る。
あちらはいい感じに煮詰まってきているみたいで、バルトロは火を弱めてヘラで混ぜながら煮詰めているようだ。
それから十分後くらいになると、プリンの液体が沸騰してきたので俺は火を弱めてあげる。
後はこのままもう十分くらい蒸してあげたら、冷蔵庫に入れて冷やすだけだな。
「いい感じに煮詰まってとろみが出てきたぜ」
バルトロのフライパンを見ると、牛乳の量が半分ほどになっており、とろみがついてきている模様。
「それじゃあ、そっちも後は冷やすだけだね」
煮詰めた牛乳をボウルに移し代えて、冷蔵庫で冷やす。
別に氷魔法ですぐに冷やしてあげてもいいのだが、そこまで急ぐことでもない。
「アル、フライパンにまだ煮詰めたやつが残ってるけどいいのか?」
「それは練乳って言って、甘いシロップになるから取っておこうと思って」
そう、牛乳と砂糖を混ぜて煮詰めると練乳になるのだ。
これだけで今後かき氷を食べる際の革命となる。
「ほお、ちょっと味見させてもらうぜ」
そう言ってバルトロがスプーンですくって味見する。
「……ほお、牛乳にとろみをつけて甘くしたような感じだな。バターよりも俺はこっちの方が好きだな」
「ああー、こっちの方が香りも控えめだし口当たりがいいしね」
バターの香りも食欲をそそるもので悪くないのだが、あまり甘党ではないものからすれば練乳の方が食べやすいだろう。
「さて、後は冷やして待つだけだね」
パフェの構造を考えながら時間を潰すことしばらく。
「おー、綺麗に固まってるね」
冷蔵庫を開けてみると容器に入ったプリンを見事に固まっていた。
「これにさっきのカラメルソースをかければ完成か?」
「うん、プリンだけでも美味しいけど、あの甘いソースもあるともっと美味しいんだ」
「ただでさえ、卵と砂糖をふんだんに使ってるってのに、さらに甘いソースをかけるとは……お菓子というのはどれだけ業が深けえんだ」
「だからこそ、人々の心をグッと掴んでしまうのかもしれないね」
何て言い合いながらミルクジェラートの様子も確認。
「おっ、こっちも固まってるな。ってことはミルクジェラートも完成か?」
「確かにこれでも美味しいけど、ミルクジェラートは二回か三回くらい混ぜて冷やした方が滑らかになるんだ」
「ほー、そうなのか」
冷蔵庫からボウルを取り出した俺は、そこにスプーンを入れてかき混ぜる。
シャリシャリと音を立てながら半固形になったミルクジェラートが混ざり合う。
「ちょっと味見してみる?」
「ああ」
それぞれスプーンですくって俺達は完成前のミルクジェラートを味見。
口の中で噛むとシャリシャリと気持ちのいい音がなり、舌の上で甘いミルクの味が溶けだす。バニラアイスなどに比べると味や風味は弱いかもしれないが、ミルクのまろやかな甘さがしてとても美味しかった。
「冷たくて美味いな。他の甘いお菓子とは違った優しい味がするぜ」
「そうだね。牛乳の優しい味だね」
恐らく前世のスーパーなどで売っている牛乳ではこのような味は再現できなかったであろう。コリアット村でとれたばかりの牛乳だからに違いない。
甘すぎずしつこ過ぎない柔らかな味がいいのだ。
「後はまた冷蔵庫で冷やして、混ぜるのを繰り返せばいいんだけど面倒だから氷魔法で冷やしちゃおう」
「まったく坊主の魔法は便利だな。余裕で料理の過程を短縮できるなんてよ」
ふふふ、魔法はこういう時こそ真価を発揮するのだよ。
バルトロが羨ましそうに見る中、俺は氷魔法を発動してミルクジェラートを冷やす。
凍ってしまわないように注意しながら様子を見て、固まったらまた同じようにスプーンでかき混ぜる。
その流れをもう一回やると、大分滑らかになってきたのでミルクジェラートは完成だ。




