プールでのんびり
お陰様で本作品のPVが一億を突破いたしました。ありがとうございます!
これを記念して、読者様の要望で小話が書けたらと思います。
ストーリーに絡む話は難しいですが、
第三王女の日常が読みたい、バルトロとミーナの日常が読みたい。
書籍でやったようなエリノラ視点の話。なども可能です。
よろしければ感想に書き込んでみてください。
「アル、こんな感じ?」
「うん、そうそう。そんな感じ」
水をかき、器用に蹴って水中を進んでいくアスモ。
俺が見本を見せて、数十分と経たないうちにコツを掴んだようだ。
それとは反対にもう一人の奴は……。
「うおっ! 沈む! うべっ、は、鼻に水が……っ!」
数メートルも進まないうちに沈没する始末だった。
「あ、アル! 板をくれ! 溺れる!」
「はいよ」
トールが勝手に溺れそうになっているので俺は板を投げて渡してやる。
すると、トールは何とか手足を使って移動して板へともたれかかった。
「トールは全然泳げるようにならないね。アスモはあんなにスイスイ泳げるのに」
俺が指さす先では、平泳ぎのコツを掴んだアスモがスイスイと泳いでいた。今では犬かきのように、ずっと顔を水面に出せる平泳ぎができるようになった模様。
「何でデブのあいつが浮けて、軽い俺が沈むんだよ」
トールのそんなボヤキを聞きつけたのか、アスモが振り返ってこちらにやってくる。
「泳げるのに重い軽いは関係ない!」
「わああっ! わーったから板を取り上げようとするな! 俺はまだ泳げねえんだよ!」
確かに体重の差は関係ないことを見事にアスモが証明してくれたな。とはいえ、元々アスモは運動神経がいい方だからとも言えるが。
「ちきしょう、何で俺は沈むんだ」
「手足の動きがバラバラだし、水をかいたり蹴ったりする力が弱いからだよ」
それに空気を吸おうとし過ぎるあまりか上体を起こし過ぎている。それでは沈んでしまうのも当然というものだ。
「わかった。もっと強く水をかいて、蹴ったりすればいいんだな!」
俺がアドバイスしてあげると、トールがもう一度潜って平泳ぎを試す。
しかし、手足の動きが相変わらずバラバラで、数メートルも進まないうちにドンドンと息継ぎができなくなって沈んでいった。
まるで泳ぐのが下手なカエルを見ているようだ。
「ちょっ、アル! 助けてくれ!」
そんな風に思いながら遠目に見ていると、トールが助けを求めるようにもがいていた。しょうがないので俺はサイキックを使って板を渡してやる。
「ぶはっ! ちょっとしか進めねえ」
「そんなすぐにはできるようにならないよ。コツを掴むまで練習するしかないから」
「まあ、運動神経のいい俺はすぐにできたけどね!」
俺がそんな風にトールを慰めていると、アスモが目の前を悠々と泳ぎ去りながら煽っていく。
相変わらず憎らしい言葉と表情だな。自分に向けられていない言葉だとわかっていながらも、ちょっとイラッてきてしまった。
「くそっ! 絶対に泳げるようになってやらぁ!」
そう叫んで再び水に潜り始めるトール。
溺れないように補佐するのは必然的に俺になってしまうのでずっと俺が面倒を見ていなきゃいけないのか。
とりあえず平泳ぎと並行で、自分でも溺れないように立ち泳ぎとかも覚えてもらうか。
◆
根気強くトールの練習に付き合うことしばらく。
「できた! できたぞアル! プールの真ん中まで泳げたぞ!」
端から端までとはいかないが、ついにトールは安定的にプールの真ん中まで泳げるようになった。
「本当だね。三メートルも進めなかった最初からすれば進歩したものだよ」
「ははっ! 三メートルなんて昔の話はよせよ」
昔の話しって小一時間も経っていないんだけど。まあ、多少泳げるようになった身からすれば、全く泳げなくて醜態を晒していた頃は黒歴史のようなものか。
とはいっても、今でもトールの泳ぎはどこかぎこちなく見ていて危なっかしいのだが。まあ、立ち泳ぎや簡単なバタ足もできるようになったのでそう簡単に溺れることはないだろう。後は自分で微調整して習得してもらう他ないな。
「おおっ! なんかでっけえ水たまりがあるぞ!」
「ふむ、アルフリート様がいることから魔法で作ったんだろう」
さて、トールの指導も終わったことだし、少し休憩しようとすると川の下流の方からルンバとゲイツがやってきた。
「おーい、アル。何やってんだ?」
「魔法で広い川みたいなのを作って、遊びながら涼んでいたんだ」
「おお、そりゃいいな。こっちの方が石もねえし、広そうだ」
「俺達も入っていいだろうか?」
「うん、いいよ」
俺が頷くとルンバとゲイツがあっという間に服を脱いでいく。
子供ならまだしも、筋骨隆々のおっさんが二人になるとむさ苦しさが何倍にも跳ね上がるな。
「おーし、それじゃあ入るか」
「ああ!」
股間を一切隠すことなく歩み寄ってくる二人。その堂々たる歩みは二人が歴戦の戦士であることを感じさせてしまう。
「……すっげえ。ルンバの奴、化け物かよ」
「あんなの見た事ない」
ルンバの股間を見てしまったのか恐れ戦くトールとアスモ。
俺はカグラの時に一緒にお風呂にも入ったので知っている。
あまりマジマジと見て解説はしたくないが、ルンバは股間もルンバサイズだと言っておこう。
「ぷっ、逆にゲイツのは何だよ。顎みたいにひん曲がってねえか?」
「人の股間と顎を見て笑うな! 失礼だろ!」
トールがバカにしたのを聞いたからかゲイツが、こちらへと飛び込んでくる。
「うわあっ! 顎が飛んできたぞ! 逃げろ!」
顎って酷いな。俺もゲイツの顎を弄ることはあるけどそこまで直接的な言葉は言ったこともない。
とりあえず巻き込まれないように離れると、俺達のいた場所にゲイツが着水する。
あれ? そう言えばゲイツって泳げるのかな? ここは普通の川と違って結構深いのだけれど……まあ、冒険者なら泳ぎくらいマスターして……。
「うおおおおおおっ! な、何だこれは!? あばばっ、足がっ! 足がつかんぞ!」
いなかった。水面から顔――いや、顎を出したゲイツがバシャバシャと手足を動かしてもがいている。
「はははっ、何だよゲイツのおっさん。元冒険者の癖に泳げねえのかよ!」
小一時間前は泳げなかったというのに自分を棚に上げて、ゲイツを指さして笑うトール。
「ぼ、冒険者だからといって泳げるわけではない! 水の中なんて危険な場所は避けるもんで――あぼぼっ、それより助けてくれ」
「えー? でも、ゲイツのおっさんってば俺に襲いかかってきたしなー? 助けてやったのに襲われでもしたら身も蓋もねえぜ」
「襲わない! 襲わないから早く! おぼぼぼぼっ!」
「しょうがねえな!」
ゲイツから襲わないという言葉を引き出させてから、板を渡してやるトール。
お前は鬼だな。
あっ、そうだ。ゲイツはダメだったからルンバも同じように溺れているんじゃ。
「あー、やっぱり水の中は気持ちがいいな」
慌ててルンバの方に振り返ると、目の前では悠々と犬かきをして泳ぐルンバがいた。
「あれ? ルンバは泳げるの?」
犬かきを泳げると分類してもいいのかは微妙であるが、実際にこうやって沈むことなくルンバは移動できている。
「おお、旅してる時にでっかい川で遊びながら覚えたぜ? というかカグラでウナギ獲る時も泳いでたじゃねえか」
ルンバにそう言われて俺は思い出す。
そうだった。確か小次郎とスイスイと川を泳ぎながら素手でウナギを獲っていたな。
「そうだったね。なるほど、色々なところを旅して覚えたんだね」
「まあな。それに川や海に住む魔物の討伐依頼もあったし、泳げねえと面倒だからな」
あれ? ゲイツはそのような場所を避けるべきみたいに言っていたけど、これはどういうことだ?
ルンバの言葉を聞いた俺達はゲイツへとジトッとした視線を向ける。
「もしかして、ゲイツ。自分がカナヅチであることを隠したいから言い訳した?」
「情っけねえな!」
「ち、違うぞ! 決して言い訳をしたわけじゃない! そもそも海や川での討伐依頼は、地形や魔物の強さが地上より段違いなんだ! ルンバのような強さを持った冒険者以外は近付かないし、依頼も受けない
から泳げる必要もないんだ!」
アスモとトールに言われて、ゲイツが慌てて弁明する。
「本当なの? ルンバ?」
「そうだな。水中になるとどうしても俺らは動きづれえから魔物の相手が難しくなるな。銀の風みたいに実力もあって、しっかりと連携ができねえと海や川にいる魔物の討伐は難しい」
俺が尋ねると、プカプカと仰向けに浮かびながらそう述べるルンバ。
見た目はともかく言っていることは真面目っぽい。
「じゃあ、ゲイツのおっさんは弱いから泳げないのか」
「お、泳ぐ必要がなかったから泳げなかっただけだ」
トールの心無いこと言葉によって、ゲイツが吐血寸前のような表情になる。
「やめてあげなよトール。化け物のようなルンバと比べたら、ゲイツが可哀想だよ」
「それはお前もだからな? 魔法使い泣かせめ」
俺がゲイツをフォローすると、何故かルンバから不服そうな声が飛んできた。
俺は別に魔法使いを泣かせたことなどないのだが?
まあ、いいや。今はそんなことよりもプールを楽しもう。
ルンバの浮かんでいる姿を見ていると、俺もそれをやりたくなった。
俺は立ち泳ぎをやめて、力を抜いて後ろに倒れる。
両手足をバンザイするかのように広げると、ふーっと仰向けで浮かぶことができた。
水の力に逆らわずに、ただただ水の流れに身を任せるのが心地よい。
どこに力が入るでもなく、疲れを感じないのが最高だ。全身も水に包まれていて気持ちいいし。
澄み渡る青空と白い雲を眺めながら、俺はプカプカと水の上で浮かぶ。
「どわあっ! びっくりさせんなよアル! 水死体があるかと思ったじゃねえか」
「水死体って酷いな」
「いや、でも、死んだような目をしながら浮いているのは、隣で見ててもちょっと怖かったぞ」
俺が突っ込むも、隣で浮かんでいるルンバまでもがそのようなことを言う。
トールはともかく、ルンバは見たままのことをそのまま言うので、それが事実であると理解してしまうので悲しい。
水に浮かぶ俺の姿はそんなに水死体っぽかったのか。
「でも、なんか気持ちよさそうだな! 俺もやってみるか!」
「俺も」
「……浮くだけだったら俺にもできるかもしれん」
そう言って、俺とルンバの真似をしだすトールとアスモとゲイツ。
「おー、これ気持ちがいいね」
「おわっ、ちょっ、何でだ! 沈むぞ! というかゲイツのおっさん、気持ち悪いから俺に引っ付くなよ!」
「仕方がないだろう。何かに捕まらないと溺れるのだから」
俺とルンバのようにアスモは手足を広げて上手くバランスを取っているが故に、見事に浮くことができたようだ。
「何でこんな腹出してる奴が浮けて、俺達が沈むんだ」
アスモの膨らんだ白いお腹を憎々しげに叩きながらボヤくトール。
実はそこに空気の塊が入っていて、浮力があるのかもしれないな。
「両手足を広げて、少しお腹を突き出すと浮きやすいよ」
「本当かよ」
俺がそうアドバイスすると、トールとそれにもたれかかっていたゲイツが試しだす。
両手足を広げてふわりと浮上するトールとゲイツ。
「おお、浮いたぜ! これは泳ぐ必要もねえから楽だな!」
「まるで水のベッドで寝ているようだ」
どうやら無事に浮くことができたようだ。
「あー、気持ちいい」
「だな」
広いプールの中で特に泳ぐことなく、ただ浮かぶ。それがいい。
流れる白い雲を眺め、冷たい水に包まれながらゆっくりとした時間を過ごす。
氷魔法を毎日使わなくても、こういった自然な涼の取り方もある。久し振りにそのことを実感できた気がする。
「自然な涼も悪くないね」
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