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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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きゅうりと味噌

 

 小川での悪ノリ遊びを終えて、服が乾いた頃合い。


「ここが俺の家の野菜畑だな」


 俺とアスモはトールの家の畑へと来ていた。


「へえ、家の前とは違って、こっちでは野菜を中心に育てているんだね」


 いつも家のすぐ傍にある畑の近くを通ってくるから、こっちの畑にはきたことがなかった。


 目の前では、葉を生い茂らせた中に小さな赤いトマトや、紫色のナスを実らせていたりする。そんな風に数々の野菜がずらりと並んでいた。


「ここでは何を育ててるの?」


「きゅうりにミニトマト、ニンジン、ジャガイモ、ナスって感じで細かくやってるな」


「へー、ここ全部トールの畑?」


「いんや、そこからあっちはアスモの家の畑だな」


 家だけでなく畑までもお隣さんか。まあ、家も近いし自然とそうなるよな。


「アスモの畑では、どんなものを育てているの?」


「うちもトールの家と同じ。色々な種類を育ててる」


「その方が色々食べられていいしな。お互いに管理も楽だしよ」


 まあ、一個の種類を大量に育てるよりも、そっちの方が生活はしやすそうだな。


 実際、コリアット村の村人は、専門的に何かを育てている人よりも色々な種類のものを育てている人が多いし。


 ある程度の説明が終わったところで、俺はトールの家の畑を自由に歩く。


 目の前にあるのはきゅうりだ。


 細い支柱に絡みつきながら葉を茂らせている様は、まるで緑のカーテンだ。きっと影になっている場所は普通の場所よりも気温が低いだろうな。もう少し大きなものだと、その中をくぐることができたのに少し残

念。


「きゅうりはどこかなー……あった」


 黄色い花と葉っぱをどかして覗くと、その奥に細長いきゅうりがいくつも生っていた。


「おお、ちゃんと生っているじゃん」


「当たり前だ。ちゃんと生るように育ててるんだからな」


「これ、一個貰っていい?」


「おお、いいの選ぶじゃねえか」


 俺が目の前にあるのを指さすとトールが感心の声を上げる。


「美味いきゅうりの見分け方知ってんのか?」


「深緑色で太さが均一、さらに痛いくらいの棘のやつがいいんだよね? バルトロに少しだけ教えてもらったよ」


「正解。アルはわかってるね」


 俺がそう答えるとアスモがしっかりと頷く。


 まあ、それくらいは前世でも料理をしていたし知っているさ。ただ、育て方とかになるとほとんどわからないけどね。


 とりあえず、二人にもお墨付きを頂いたので早速きゅうりをもぎ取ろうと手を伸ばす。


「あっ、棘が痛い」


 しかし、新鮮故かきゅうりの棘が尖っていてちょっと痛い。取ろうとしたら手に刺さるぞ。


「はは、知識はあっても収穫するのは下手だな。棘のないところ掴んで捻じるように取ればいいんだよ」


 トールに笑いながら言われて試してみるも、棘がたくさんあるので上手いこといかない。


「……トールに似てこのきゅうりは悪ガキだよ。悪戯ばっかりする」


「それ俺だけなく姉ちゃんも育ててるからな?」


 エマお姉様が丹精込めて育ててくれたきゅうり。そう思えば、この野菜には通常のものよりも遥かに価値があるように思えるな。


 とりあえず、手で取ると棘が刺さって痛いので、俺は手っ取り早く風魔法を使い、小さな刃を飛ばして上部の茎を切断。


「よし、採れた」


「おい、ちょっと待て! 今、なんか切れ味のいい何かが飛んだぞ!? 魔法を使ったのか!? 奥にあるきゅうり全部切れたりしてねえだろうな!?」


 俺が風魔法で取ったきゅうりを眺めていると、傍にいたトールが叫び声を上げた。


「風魔法で小さな風の刃を飛ばしただけだよ。他のきゅうりは勿論、葉っぱや茎にも傷はつけてないから」


「ほ、本当だろうな?」


 俺が説明するも、トールは不安らしく茎や葉っぱを手で押しのけながら様子を確認している。少しは俺の魔法の制御を信用してほしい。


「とりあえず、板摺して食べようか。これ、塩とまな板。トールの家から持ってきた」


「そうだね。このまま食べると棘で痛そうだし」


 アスモが塩の入った小さな壺とまな板を持ってきてくれたので、俺とアスモは早速下処理をすることにす

る。


 塩もまな板もトールの家のものだが、俺はどちらも突っ込まない。この程度のこと、二人の家の間では当たり前だろうしな。


 とりあえず、土魔法で丸い桶を作り、その中に水魔法で水を入れてきゅうりを軽く洗う。


 それが終わると軽く塩を塗り込んで、桶の上にまな板を敷いて板摺をする。


 まな板の上できゅうりと両手でコロコロと転がす。


 塩を使って板摺をすると、表面が綺麗になって色が鮮やかになる。ゴツゴツとした棘も取れて滑らかになり、傷がつくことで味付けをする際に味が染みやすくなる。さらには青臭さエグみも取れるのでいいこと尽

くしだ。


「おい、これ俺の家のまな板じゃねえか」


「まあまあ、トールの分も板摺しておいたから」


 アスモがトールの機嫌を取るように板摺したきゅうりを渡す。するとトールはそれを自然に受け取って「まあ、別にいいけどよ」と言葉を漏らした。


 三人分のきゅうりの板摺を終え、水で軽く塩を洗い流すと試食タイムだ。


 包丁で切り分けるなんて無粋なことはせずに、そのまま手で持って豪快に噛り付く。


 ポキリといい音が口の中で鳴り響き、きゅうりの瑞々しい味が広がる。


「ああ、この食感がいいね」


「きゅうりは切って食うより、こうやってそのまま齧りついた方が美味いし、食った気がするな!」


 笑顔で言いながらきゅうりを齧るトール。


 離れていてもボリボリときゅうりを噛む音が聞こえてくるのが凄い。


「いい感じに仕上がってるね。ちゃんときゅうりの味もするし」


「ちょっと収穫するのが遅れるとバカみたいにデカくなって、味も薄くなるからな。ここに生っているのも今日、明日くらいには全部採らないとダメだろうな」


 ああ、きゅうりは収穫期を過ぎるとズッキーニみたいに大きくなるからな。


 大きくなると余分に栄養が入ってしまって、水っぽくなるのでできれば収穫期に食べた方がいいだろう。


 そんなことを考えながら、俺はきゅうりを齧る。


 ああ、溢れ出る濃厚な水分。水を飲まなくてもきゅうりを食べているだけで十分に水分補給ができるな。さすがは九十パーセントが水分だと言われる野菜だ。


 板摺の際に、塗り込んだ僅かな塩味が効いていて、微妙に味にアクセントがついているのがまたいい。じんわりと汗をかいている今の身体にとても嬉しいな。


 だけど、塩もいいけど味噌と一緒に食べてみたいな。これだけ瑞々しいきゅうりだ。さぞかしカグラの味噌が合うことだろう。


「味噌が欲しいな」


「「……っ!?」」 


 なんとなく呟くとトールやアスモが驚きの表情を浮かべる。


「アルから味噌を貰ったけど、それは考えたことがなかったな」


「……アル、恐ろしいことを考えるね」


 ふふふ、味噌の味を知ってしまった二人なら、きゅうりと味噌の組み合わせがいかに恐ろしいか想像がついてしまうだろう。


「よし、ちょっとトールの家から味噌を……」


「ふざけんな! お前さっき俺の家からまな板借りただろ! 今度はお前の家から取ってこい!」


 早速トールの家へと取りに行こうとするアスモの肩を、トールが手で止める。


「まな板と味噌じゃ稀少具合が違うだろ!」


「俺の家に集まる時、何だかんだでフルーツジュース出してやってるだろ!」


「……チッ、わかったよ」


 さすがに毎度フルーツジュースを出していると言われると弱いのか、食い意地を張っているアスモが珍しく退いた。


 まあ、毎回果物を用意するトールの苦労もあるだろうしな。食い意地を張っているが故に、その苦労も理解しているということだろう。


 アスモが渋々といった様子で家に向かい、味噌を取りに戻る。


 するとトールが何故かトールが動き出した。


「いひひ、今のうちに新しいきゅうりを収穫だ。小さな食べかけじゃなく、この大きなきゅうりで根こそぎ味噌を奪ってやるぜ」


「うわぁー、やることが意地汚い」


「いいんだよ。あいつには日頃から家の食い物を食われているからな。ここらでいっちょ仕返しだ。ほら、アルの分も板摺しといたぞ」


 悪い笑みを浮かべながら板摺したきゅうりを差し出してくるトール。


 まあ、味噌で味わうきゅうりがこの食べかけだけとあっては物足りないしな。


 俺は残っているきゅうりを口に放り込んで、トールの差し出す新たなきゅうりを受け取る。


 そうやって俺達が悪巧みをしながら待ち構えていると、アスモがこちらに戻ってきた。


 しかし、その手には俺が渡した壺ではなく、小さな皿にチョコンと味噌が乗せられたものであった。


「おい、アスモ! 何だよその小皿は!」


「何って味噌を持ってきたんだよ?」


 トールが問い詰めるも、アスモはどこかすっとぼけた声で答える。


「味噌を持ってくるならアルに貰った壺をそのまま持ってきたらいいじゃねえか!」


「あー、そうだったね。でも、味噌は味噌だし、これでもいいよね?」


 声音こそ普通であるが、表情はどこか笑っている。恐らくアスモはトールの思惑を見抜いた上での行動であろう。


 こうなることを最初から見抜いた上で最悪の事態を回避し、ここぞというタイミングでフルーツジュースの借りを清算してみせた。何という策士か。


「「…………」」


 トールの睨みつける視線を、それを嘲笑うような視線がぶつかり合う。


 邪な心はあるものの、裏を返せばそれだけ両家にとって味噌は大事ということだ。そう思えば、渡した俺としても嬉しいものだな。


「まあ、とりあえず食べようよ」


「……チッ、今日はこれくらいで勘弁してやんよ」


 俺が窘めるように言うと、トールが舌打ちをして身を引く。


 相変わらずチンピラ言葉が似合う奴だ。


 それから俺達は仲良くきゅうりを味噌に付けて、噛り付く。


 香ばしい味噌の味が広がるが、瑞々しい水分を含むきゅうりがそれを見事に中和する。その程よい味と言えば何とも言えない美味しさだ。


「うおおっ! これ本当に合うな!」


「こんなもの家でやったら一瞬で味噌が無くなる……っ!」


 トールとアスモもその相性に衝撃を受けたらしく、目の色を変えてきゅうりに味噌をつけて齧り出す。


 汗をたくさんかいてしまう夏には、きゅうりの水分と味噌の塩分が優しく身体に染みるな。




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