悪友は予想して待ち構える
ルンバ達と別れた俺は、冷気にたかられないように気を付けながらコリアット村の中に入る。そしてトールの家の傍まで来ると、近くの畑では麦わら帽子を被ったミュラさんが草むしりをしていた。
「あー、腰が痛いわね。まったく、こういう時こそ使えるのがトールなのに……」
やっぱり屈んでの作業は腰に大分負担がかかるせいか、ミュラさんが呻くような声を上げて腰をポンポンと叩く。
このような炎天下の中の草むしりは地獄だろうな。
大変そうだなと眺めていると、ミュラさんが腰を叩きながら立ち上がった。
凝り固まってしまった筋肉をほぐすように両腕を突き上げると「うにゃー!」という奇怪な声を上げた。
わかる、わかるよ。気持ちのいい伸びをすると何となくそんな言葉を叫びたくなるから。
そんなミュラさんを観察していると、向こうもこちらに気付いたのか視線がぶつかり合う。
するとミュラさんは、タオルで汗を拭うと何事も無かったかのように爽やかな笑みを浮かべた。
「アルフリート様、こんにちは!」
「こ、こんにちは」
見事な取り繕い振りだな。つい、先程伸びをしながら「うにゃー!」とか言っていた人とは思えないくらいだ。
「先日の旅は、ご家族でどちらに行っていたのですか?」
ここは俺も見なかったということにして、さっさと家に向かおうとしてきたがミュラさんが話を振ってきた。
ふむ、どうやら先程の出来事は完全になかったことにしたい模様。恥ずかしい出来事などなかったのだから、ここで世間話をするのは当たり前ということか。徹底しているな。
「今回はシルフォード男爵領に行ってきました。海があって、楽しかったですよ。お土産もあるので皆で食べてくださいね」
「まあ、いつもありがとうございます! それとトールとアスモなら既に家で待っていますのでどうぞ」
「わかりました。では、お邪魔しますね」
ミュラさんとのいつも通りな世間話を終えて、俺はトールの家に向かう。
ん? ちょっと待てよ? 俺はトールとアスモと約束なんてしていないのに、どうして約束していたかのように待っているんだ。
よくわからんが直接聞けばわかることか。
俺はトールの家の前まで来ると、物陰で空間魔法を発動。
亜空間から魚とスモールガニの干物が入った壺を取り出して、カバンの中に入れ込む。
それから氷魔法で凍らせた魚と木箱を取り出し、木箱の中に氷魔法で氷を入れて、その中に魚をしまい込んだ。
うん、これでトール達へのお土産セットは十分だな。貝殻や魔石の破片もカバンに入っているし。
無魔法のサイキックで魚の入った木箱を浮かせた俺は、トールの家の扉をノックする。
すると、奥からドスドスという足音が聞こえて、中から扉が開かれた。
そこにはニコニコとした笑みを浮かべたトールとアスモがいた。
「ようこそいらっしゃいましたアルフリート様! 本日はお暑い中、わざわざいらして頂きありがとうございます」
二人共見たことがないほどの笑顔で揉み手をしており気色悪い。一体何を企んでいるのかといえば、お土産と氷魔法による冷気が狙いだろう。
「うん、とりあえず上がるよ」
「どうぞどうぞ」
「お荷物をお持ちいたします」
俺が玄関に上がると、トールが先導し後ろにアスモが控えて鞄を持ってくれる。
いつもは俺を貴族扱いしない二人が、俺を貴族扱いときた。ここまで下心が見え見えだといっそ清々しく思えてしまうから不思議だ。
リビングに着くと、部屋の窓が全て開け放たれている。しかし、風が時折しか吹かないせいか、そこまで涼しいとは言えない。
「風がないとちょっと暑いね」
「申し訳ありません。いつものアレをお願いします」
そう言って頭をぺこりと下げるトールとアスモ。涼しくなるためなら頭一つ下げることに厭わないようだ。
「しょうがないな」
俺はわざとらしくため息を吐いて、氷魔法を発動。
すると、部屋の中に冷気が漂い出す。
「「うっひゃー! 涼しい!」」
その瞬間、トールとアスモが歓喜の声を上げる。
「アルの氷魔法は最高だぜ! おい、アスモ、冷気を逃がすな! そっちの窓を閉めろ!」
「もうやってるよ!」
俺が冷気を出すなり、速やかに部屋の窓を閉めるトールとアスモ。そこには少しの冷気さえも外に逃がしてやるものかという執念が感じられた。
「とりあえず、フルーツジュースで」
「わかった!」
俺はテーブルの上に用意されているコップ三つに、氷魔法で氷を入れて座る。
すると、給仕係のトールがコップを台所に持っていって、フルーツジュースの準備をし始めた。
夏になるとこのようなやり取りはいつものことなので手慣れたものだ。
しかも、今日は俺がただ遊びにきたのではなく、お土産を持ってきていると理解しているせいか二人の機嫌はすこぶるいいな。
「アル、鞄テーブルの上に置くよ?」
「うん、ありがとう」
「よいしょ、結構重い。これ、お土産だよね?」
ここで違うと言ったらどうなるのだろうか。こいつらの絶望の表情を見てみたい気もするけど、期待を裏切られたら何をしてくるかわからないところだ。
「そうだよ」
「おお、何の食べ物?」
何故お土産=必ずしも食べ物になるのか。アスモの思考回路がちょっと理解できないが、こうなることを理解して食べ物を多めに持ってきているので問題ない。
「それは開けてからのお楽しみだね」
「ほらよ、フルーツジュースだぜ」
俺がそう言った瞬間、トールがコップを持ってきて席に座る。
俺達は自分のコップをそれぞれ手に取ると、まずは軽く喉を潤す。
うん、トール家調合のフルーツジュースは美味しいな。
リブラの実とモモの実を混ぜ合わせているのかな。フルーティーな味の中に、微かなモモのような爽やかな味がする。
「これ、リブラの実にモモの実を少し混ぜてる?」
「ああ、そうだぜ。リブラの実だけでも濃厚で美味いけど、ちょっと味が濃いからな。水とモモの実で調節してんだ」
なるほど、やはりそうなのか。帰ったらバルトロに言って同じものを作ってもらおう。
「にしても、氷があるとやっぱり冷たくて美味いね」
「だな。このクソ暑い季節になると、いくら美味しいフルーツジュースでも喉が通らねえよ。やっぱりこの冷たさがねえとな!」
しみじみと呟くアスモと、コップを指でコンコンと弾きながら力説するトール。
確かにいくら美味しい木の実を使ってフルーツジュースを作っても、温ければ美味しく感じられないだろうな。
「はぁー、テーブルも冷たくて気持ちいいぜ。俺、夏だけはお前のことを愛してるって言えそうだ」
「気持ちの悪いこと言うなよ。フルーツジュースがマズくなる」
トールから愛してると言われるとか、想像するだけで冷や汗が流れてしまう。
俺達はテーブルに頬をつけて冷たさを満喫したり、フルーツジュースの冷たさを味わうように飲んでいく。
「そう言えば、二人共どうして今日待ち構えていたの? 別に俺達約束してなかったよね?」
そう、ミュラさんの口ぶりからすると、まるで今日のこの時間帯に俺が来るのを知っていたかのような感じだった。約束すらしていないのに既に俺を待ち構えているなどおかしい。
「んなもん、アルが今日お土産を持って来ると確信してたからに決まってんだろ。つーか、来なかったらこっちから突撃するだけだけど」
「アルは、旅から帰ってくると初日と二日目は絶対に外に出ない。だから、三日目の今日なら出てくると思った」
「……俺のことをよくお分かりで」
想像以上に俺の事を理解しているトールとアスモにびっくりした。というか俺の家に押しかけるとか、今日にお土産を持っていく判断をして良かった。
コミカライズ15話、今夜だそうです。




