この質問の解を求めよ
お祝いの言葉、ありがとうございます!
ペンダントの手入れなどというものに慣れていなかったエリノラ姉さんだが、俺とエルナ母さんがかみ砕いて説明することで無事に理解できた。
何故俺がペンダントの手入れがわかるのかというと、前世で姉が買ったペンダントの手入れなどをやらされたことがあったからだ。
あの姉達は光物が好きな割に手入れがずぼらだから、放置しておくと酷く汚れたり、劣化したりするんだよ。安物であれば俺も放置していたが、彼氏から貰ったなどと自慢されて値段を聞けば、手入れしたやりたくもなる。
彼氏とペンダントを思って……。
そんな訳で無事にペンダントを手に入れたエリノラ姉さんは、いつもより少しご機嫌そう。首に下げたペンダントを手で触って眺めてみたり、しきりに鏡を見ていた。
これを機にお洒落に目覚めて、もう少し女子力を上げてくれるといいのだけど。そしてもう少しお淑やかになってくれれば俺とシルヴィオ兄さんの心労も減る。
「あれ? そういえばシルヴィオ兄さんは?」
ふとシルヴィオ兄さんのことを思い出したが、船に乗っていたメンバーでシルヴィオ兄さんだけがいない。
「シルヴィオなら先に屋敷に戻って休んでいるわ。船酔いしちゃったみたいだから。というか橋から見えていたでしょう?」
「ああ、そういえばそうだったね」
橋から見えた時、シルヴィオ兄さんはエルナ母さんに介抱されていたしな。ここにいないということはそういうことだ。
「というか何であの時、二人とも俺の視線に気づいたの?」
「私とノルドくらいになれば視線にも敏感になるのよ」
それが当たり前というように答えるエルナ母さん。いや、普通の人はキロ単位で離れている視線に気づくはずがないと思うんだけどなぁ……。
まあ、ノルド父さん、エルナ母さん、エリノラ姉さんにそこら辺の常識を分かれと言う方が無理なもの
か。
「あー、一体どれがいいでしょう? どれもこれもいい物ばかりで、何を買って帰ればいいか悩みます!」
俺がどこか達観した面持ちでいると、装飾品を眺めているミーナがもだえるような声を上げる。
「サーラとメルへのお土産?」
「はい、それと後は家族へのお土産ですね。まあ、こちらは適当に浜辺で拾った貝やら、魔石の破片で誤魔化せるのでどうとでもなります!」
「……そういうのを適当にしたら面倒臭いことになるよ? コリアット村は狭いから、どこからバレるかわからないし、俺の渡したお土産やサーラとメルが貰ったお土産を引き合いに出されると不満とか言われるよ?」
「うっ! アルフリート様の言葉に妙にリアル過ぎて怖いです!」
俺が忠告すると、ミーナが表情を青ざめさせながら叫ぶ。
まあ、こういうことはよくあるからね。
お土産は下手にケチらずに、だけどお世話になっている人には適度に差をつけるこの微妙な判断力が必要なのだ。
「わ、私はどうすれば……っ!」
「お金をケチらずにお土産をきちんと買えばいいんだよ。家族には量で満足感を与えて、最後に言葉で日頃の感謝を伝える。そうすれば多少安くてもごり押しできる」
頭を抱えて悩むミーナに俺はアドバイスをする。
「な、なるほど! 物を渡す時は、相手が喜ぶような心遣いが大事だって言いますしね! 家族であればお金の額なんて関係ありませんよね!」
うんうん、実際にそれでも何とかならない姉や母もいるが、ミーナの家族はそうでないと信じたい。
「そして、お世話になっているサーラやメルには少し高めの喜びそうな物を……」
「待ってください。サーラは私の後輩ですよね?」
「えっ? ……ああ、そういえばそうだったね」
「ちょっと! どうして考え込むんですか! どう考えても私の方が先輩で、サーラの方が後輩でしょう!?」
よくよく考えればサーラはミーナの後輩だった。なにせ俺が赤ん坊の頃に働き始めたしな。
しかし、成長した今となってはその働きぶりや、性格、立ち振る舞いと、完璧にサーラの方が先輩に見えるな。
「……いいけど、そこをケチったら家族よりも取り返しがつかないことになると思うよ? いつもサーラに助けてもらっているよね?」
「うう、じょ、冗談です。可愛い後輩へのお土産をケチる訳ないじゃないですか、もう!」
さすがにそこは自覚していたのか、ミーナは視線を逸らしながら言った。
ミーナ一人で考え込んでいたら、その愚かな選択肢を選んでいた可能性があるな。
「どれにしましょうかねー。やっぱりあの二人には、無難にペンダントやブレスレットですかね? たくさん種類があって迷います」
棚に並べられたたくさんのペンダントやブレスレットを見て唸り声を上げるミーナ。
ペンダントでは先程のエリノラ姉さんが買った牙の形を模して加工された魔石の破片。勾玉のような形をしたもの、綺麗な球形になって繋がれているもの、魔石の破片だけでなく、サンゴや魔物の牙、貝殻なども繋がれているものもあり、その種類は無数だ。
貝やサンゴが混じっているのも綺麗であるが、あの二人の年齢を考えると純粋に大人っぽい物の方が似合う気がする。
「これならどうです! 貝とかサンゴとかある方が海っぽいかなと!」
「魔石の破片のブレスレットとかどう? 貝とかサンゴが混ざっているのもいいけど、魔石の破片だけの方が大人っぽいかなって……あっ」
ミーナと俺が同時に手に取ったものを見せると、ミーナは貝殻やサンゴのたくさんついたブレスレット、俺は魔石の破片だけで構成されたブレスレットだった。
すると、ミーナは手に取っていた貝殻やサンゴのブレスレットを即座に元に戻す。
「そ、そうですね! じゃあ、サーラやメルさんには魔石の破片のブレスレットにして、家族には貝殻やサンゴが多めのやつにしましょうかね!」
「いや、貝やサンゴも海っぽくていいと思うよ?」
「いえ、いいんです! 魔石の破片の方が大人っぽいですから! 少し子供っぽい貝とサンゴは家族にあげることにします!」
何だか俺がそれらしい意見を言ってしまったせいで、ミーナが意固地になってしまった気がする。間違っている可能性もあるので、確かめるようにクイナの方を見てみれば苦笑いしていた。
俺達の会話に突っ込まないことから、それはどうやらこの村の傾向としても同じらしい。
王都で選んだ似合わない髪留めの件もあるから、ミーナ一人で選ばせるのは少し心配だな。
俺がちょっと不安に思っていると、察してくれたのかクイナが近寄って声をかけてくる。
「魔石の破片のブレスレットでしたら、こちらにオススメがありますよ」
「本当ですか!」
クイナに案内されて付いていくミーナ。
うん、これで間違ったものは選ばないであろうな。
ホッとして店内を見ていると、すぐ傍ではエルナ母さんとノルド父さんがペンダントを見ていた。
エリノラ姉さんが買うのを見て、エルナ母さんも欲しくなっていたりしそうだな。
「ねえ、あなた。こっちとこっち、どっちのペンダントが似合うと思う?」
エルナ母さんがそう言った瞬間、店内の空気に緊張感が漂う。
いや、正確にそれを感じているのはノルド父さんと俺とエーガルさんだけか。
エルナ母さんが手に取ったのは、赤色の宝石らしきものと銀が入り混じったペンダント。もう一つも同じタイプだが色合いが紫と金色と変わっていた。
エリノラ姉さんのものほどではないが、二つとも中々の高級感があって綺麗だ。魔石の破片とは少し違うが、それは純度が違うのか、別の海から獲れる鉱石か何かか。
正直言ってどちらも綺麗でエルナ母さんに似合うと思う。もはや俺からすれば、どちらでもいいと思うのだが、そういう回答ではいけないのだろうな。
俺とエーガルさんは固唾を呑んで、それを見守る。
エーガルさんのあの表情を見るに、過去に何度も痛い目をみているのだろうな。まるで、目の前で爆弾があるかのような焦燥感に満ちた表情だ。
そしてエーガルさんは唾を呑み込んだ後、覚悟に満ちた表情で声をかける。
「の、ノルド殿! こちらに素晴らしい――」
エーガルさんが助け船を出そうとしたが、何とノルド父さんはそれを手で静止させた。
この答えのないような難問を一人で切り抜けるつもりらしい。さすがはドラゴンスレイヤー、英雄と呼ばれることだけはある。
さて、ノルド父さんは赤と紫。どちらのペンダントを選ぶのだろうか。
う、うーん、水色っぽいのはさっきエリノラ姉さんと選んだやつと色合いが被るし、エルナ母さんに似合うのは紫の気がする。
俺が自分なりに考察していると、ノルド父さんは傍に置いてあった橙色をしたペンダントを手に取った。
「うーん、それよりもエルナには、こっちの橙色をしたものの方が似合うと思うな」
「あら、やっぱりそう思う? 実はこの三つで迷っていたのよねー。あなたが似合うって言ってくれたからこれにするわ」
まさかの二択ではなく、第三の選択!
その回答は全く予想していなかった。俺とエーガルさんは思わず驚愕の表情を浮かべてしまう。
というか最初から気に入っていた本命があるなら、最初から選択肢に入れておけよ!
俺がエルナ母さんに心で突っ込んでいると、エーガルさんが心底不思議そうな表情浮かべてやってくる。
「の、ノルド殿、どうして正解にたどり着けたのだ?」
それは俺も不思議に思っていたことだ。気になる。
「妻のことをよく見ることですかね? お店に入った時の視線の動きや、表情で何が気に入って、何と悩んでいるのか大体わかりますから」
「……な、なるほど。店の中に入った瞬間から戦いは始まっているということか……」
「ええ、後は日常生活や好みを理解しているかですかね?」
エルナ母さんが好む色、着ている洋服、持っている装飾品などをしっかりと把握していれば、答えは自然と導かれるのかもしれないな。
理屈はわかっても、そこにたどり着くのは相当難しいと思うけど。
「ねえ、あなた。こっちとこっち。どっちが似合う?」
俺とエーガルさんが恐れ慄いていると、ナターシャさんがやってくる。
その手には赤と青のペンダントがあり、どちらが、はたまたこの店の中で自分にピッタリなものを見つけてくれと尋ねている。
「え!? えーっと……」
エーガルさんが何となく困っているのはわかるが、ここでノルド父さんや俺が助言できるはずもないし、ナターシャさんの好みを知っているのは夫であるエーガルさんだけだ。
俺とノルド父さんは、頑張れと心の中でエールを送りながらそっと離れる。
「似合う物を選ぶって大変だね」
「そうだけど、普段自分を見てくれているか確かめたいと思っての質問だとわかると可愛いものだよ」
確かにそう思えば可愛らしいものだね。
ちなみにエーガルさんは、選択を間違えてナターシャさんを不機嫌にさせた。
ノルド父さんの極致にまでたどり着くのは、かなり難しそうだ。
皆さんは解けたかな?




