ドラゴンスレイヤーが人気の訳
祝い、300話達成!
「あら、エリノラ。そのペンダント似合っているわね」
「うん、とても綺麗だね」
「そう? ありがとう」
エリノラ姉さんがペンダントを付けたことに気付いたのか、エルナ母さんとノルド父さんがやってきて口々に褒める。
「気に入ったのなら買ってみたらどう?」
「え、いいの?」
「エリノラは装飾品も滅多に買わないからね。むしろ、もう少しこういう物を持っていた方がいいわ」
「そうだね。その方がいいと思うよ」
確かにエリノラ姉さんは一般的な貴族令嬢に比べれば、服や装飾品の数も少ないだろうな。ドレスだって二、三着くらいしかないし、それも本当に最低限揃えただけのもの。
しかし、これだけ綺麗なペンダントであれば、パーティーなんかでも使える。それに珍しくエリノラ姉さんがこういう物に興味を示したから、買ってあげたいんだろう。
「わかった。ありがとう!」
エリノラ姉さんは二人に礼を言うと、トルネルとクイナのいるこちらへ戻ってくる。
「ということで、これを買いたいんだけど売ってもらえる?」
「は、はい、勿論と言いたいんですけど……」
エリノラ姉さんの問い嬉しそうに返事したクイナだが、トルネルと共に微妙そうな表情をする。
「何かあるの?」
「えっと、値段がわからないんです」
「元の素材となる牙が、どれほどの価値かわからないからってことかな?」
「はい、そうなんです」
俺がそう尋ねると、クイナが神妙な表情で頷く。
「これほど綺麗なものなのだ。安いってことは考えにくいな」
エリックの言う通りだ。これ程透き通って綺麗なものが銅貨や銀貨などで済むとは思えない。というかクイナのデザインや材料費などを込みで考えると、ペンダントだけで金貨が飛ぶくらいの価値はあるな。
「父さんと母さんは、これが何の魔物かわからないの?」
エリノラ姉さんが尋ねると、ノルド父さんとエルナ母さんがこちらによってきて牙本体を観察する。
「うーん、魔物の牙なのは確かだけど、僕にもどんな魔物かはわからないね」
「海の魔物は陸の魔物に比べて謎が多いし、未発見の個体も多いしね」
どうやら数々の冒険をしてきたノルド父さんやエルナ母さんもわからないよう。まあ、普通の人はそれほど用事がない限り、海になんて出ないし、ましてや地上よりも危険な海で魔物を相手にしたいなんて思わないだろうしな。
もしかしたら、トリーや銀の風のメンバー、船で商いをするダグラスだったら知っているかもしれないな。
「店主の見立てではいくらだい?」
「んー、難しいところですね。何分見たこともないものですし……」
ノルド父さんが尋ねると、トルネルの父さんもやってきて難しい顔をする。
とはいえ、店の店主が値段を決めないとこちらも値段の判断をしづらい。
「この素材の美しさで評価するなら、金貨十枚くらいは……」
ノルド父さんの顔色を窺いながら、恐る恐ると言った表情で提示するトルネルの父さん。
その額は、彼がこちらを気遣ってかなり低く見積もっているだろうことは容易にわかった。
外から来た貴族に高い値段なんて吹っ掛けられないしな。
「いや、もっとするだろうね。魔物の素材というのは稀少というだけで相応の値段がつくから」
「そうね。正確な判断はできないけど、もしかしたらこの牙一本だけで金貨三百枚くらいの価値ってこともあり得るわね」
「「金貨三百枚!?」」
エルナ母さんの言った言葉に、ここにいるエーガルさんとナターシャさん以外が驚く。
「あら、稀少な魔物の素材だとそれくらいの価値が付くのは当たり前よ? 裏を返せば、それほど入手が困難ということなのだし」
「し、失礼ですけど、お二人が討伐したドラゴンの牙くらいだと、いくらくらいの額が……っ?」
エルナ母さんの言葉を聞いて、エリックが息を呑みながら思わず尋ねる。
それを俺も気になったところ。伝説級であるドラゴンの牙はいくらの価値が付いたのか。
気が付けば店内にいる全ての人の視線が二人に向かっていた。
すると、ノルド父さんが居心地悪そうに肩をすくめながら、
「換金してもらった際は、牙一本で黒金貨三枚くらいだったかな?」
「「おおおおおおおおおお」」
その値段に店内にいた皆が驚嘆の声を上げる。
ドラゴンの牙一本で三千万相当の値段。人々の多くが夢を見て冒険者になるはずだ。
一本へし折ってくるくらいならとか思った人から帰らぬ人になっていそうだな。間違っても俺はそのように命を懸けてまで冒険者になろうとは思わないな。
土魔法で家を建てて楽に家賃収入を得たり、転移魔法で食材を輸送したり、転売したりする方がよっぽど楽に稼げるし。
「とはいえ、ミスフィリト王国では前例がほとんどなかったから随分と値段をつけるのに苦労したみたいだけどね」
そりゃ、そうだ。いきなりドラゴンの牙に値段をつけろなど言われても困るだけだ。値段を決めた偉い人
も、その値段が正しいのかすらわからないだろうな。
「牙一本だけでその値段ってことは、もう何世代に渡って遊び続けることができるじゃん」
「む? まさか貴様、知らぬのか?」
なんだ。俺のリバーシとかの収入がなくても余裕で生きていけるじゃん。などと思いながら呟くと、エリックが眉をひそめて言ってくる。
「何が?」
「ノルド様とエルナ様がドラゴンを倒した後の話だ」
「「「詳しく」」」
エリックの言葉を聞いた俺とエリノラ姉さんとミーナは、勢いよく詰め寄る。
ドラゴンスレイヤーの話しは、ノルド父さんとエルナ母さんが貴族になって終わりじゃなかったというのか?
「お二人は、ドラゴンの素材のほとんどを王都の復興にと王様に献上したのだ。王都でのドラゴンスレイヤーの名声は、そのような英雄的な活動があるから故に、民からも根強い人気を博しているのだ」
エリックの言葉を聞いた、俺達は即座にノルド父さんとエルナ母さんの方へ視線をやる。
二人はちょっと照れくさそうに視線を逸らし、否定は何もしなかった。
凄いな。うちの父親と母親は物語の英雄かよ。道理で王都ですんごい人気があるわけだ。そんなことされたら俺だってファンになっちゃうよ。
「……ちなみに王都の劇では描いてない、細かなエピソードが書いてある本がうちの書庫にある」
「それ後で貸してもらっていい」
俺がこっそりと尋ねると、ルーナさんはこくりと頷いた。
これでノルド父さんとエルナ母さんの更なる過去がわかるな。
「そ、そんなことよりもペンダントの値段だよ」
ノルド父さんが恥ずかしそうにしながら、話題を元に戻そうと咳払いする。
「店主、とりあえず今のところは金貨四十枚くらいでどうだろう?」
「金貨四十枚!? い、いいのでしょうか? どこかではもっと原価の低い物かもしれませんよ?」
「それでも構わないよ。僕達がそのペンダントを判断して値段をつけたんだから。仮に安い原価であったとしても文句は言わないよ。逆にもっと価値の高いものとわかれば、その時は追加で払うことにするから」
「は、はい! ありがとうございます! く、クイナ、ペンダントの箱や手入れの方法を教えて差し上げろ!」
「う、うん、わかった!」
トルネルの父さんが指示すると、クイナは頷いて奥の棚から綺麗な箱のケースを持ってきた。
「凄いね。二人の作った作品が売れたね」
「お、おう。俺とクイナで作ったペンダントにそんな値段がつくなんて信じられねえ……」
「う、うん。私も凄く嬉しい……です」
俺が声をかけると、トルネルは呆然としながら感想を漏らし、クイナは嬉しそうにはにかんだ。
それからクイナは手入れ用の布や、液体が入っている小さな瓶を持ってくる。
恐らく、ペンダントを綺麗に保つための手入れ道具だろう。
「え、エリノラ様、ペンダントの手入れの説明をしてもよろしいでしょうか?」
「ちょっと待って。一人で理解できるか不安だからアルとミーナも聞いておいて」
クイナが尋ねると、エリノラ姉さんが手で静止させながらこちらを向いてきた。
その言葉には思わず、俺とエルナ母さん呆れるしかなかった。
漫画や書籍1巻から5巻もよろしくお願いいたします。




