トルネルの家に
「さて、お腹も膨らんだし、そろそろ行こうか」
「ふむ、そうだな。ちょうどいいくらいの時間だろう」
広場で海鮮スープとスモールガニを食べ終わった頃、俺とエリックはベンチから腰を上げた。
「どこに行くの?」
「一緒に砂の城を作った友達の家。装飾品を作ってるみたいだから見に行くんだ」
「お土産を買いに行くんです!」
「へー、そうなんだ」
俺とミーナがそう答えると、エリノラ姉さんはどうでもよさそうに返事をした。
エリノラ姉さんはお洒落に興味がないからな。
「……エリノラ、私達も行こう」
「えっ? あたしも?」
ルーナさんの言葉にエリノラ姉さんが驚いた。
「……うん。エリノラは綺麗なのにお洒落に興味がなさすぎる。それは勿体ない」
「別にあたしは服を着飾ってモテたいとか思わないんだけど?」
エリノラ姉さんはお洒落なんてしなくても素でモテるからね。というか、今の台詞はモテない女性全てを敵に回すものだな。
「……別にモテるモテない関係なく、純粋にお洒落をする楽しみでいいと思う。自分の気に入ったものを身に付けるだけで気分も変わるから」
「まあ、それならわからなくもないかもね」
そう言って、青色の髪留めを軽く触るエリノラ姉さん。
エリノラ姉さんの髪留めは、いつも付けている黒だけでなく俺が王都で買ってきた白地に赤い水玉模様、紫、青などと気分に変えて使っているよう。
お土産として買ってきた物なので使ってくれていることは純粋に嬉しい。
「……うちにある装飾品は綺麗。買わなくてもいいから見に行こう。私、エリノラと一緒に見に行きたい」
「わかったわよ……」
ルーナさんに手を引かれて、エリノラ姉さんは少し恥ずかしそうにしながら手を取って立ち上がる。
女子だとこういうやり取りも何故か様になるよな。男子がやると気持ち悪いことこの上ないのに。
エリックが一緒に買い物をしたいなどと言いながら手を引っ張ってきたら引っ叩く自信があるな。そもそもエリックはこのような素直な台詞を吐ける奴ではないし。何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
「……貴様の考えていることはわかるぞ。それは俺も同じだと言っておく」
寒気を感じながらエリックに視線をやると、奴も気付いたのかそのような事を言ってくる。
どうして男子と女子とでは友情の形が違うのであろうな。いや、そもそもの姉弟の性格差を突っ込むべきか。
◆
村人が集まっていた広場から集団で抜け出し、海の方へと歩くことしばらく。
密集していた民家がまばらになってきた辺りで、事前に教えてもらっていたトルネルの装飾店らしき物が見えてきた。
「ふむ、ここがトルネルの言っていた『カルナ装飾店』だな」
「海の素材を使った装飾店だけあって外観にも拘っていますね!」
装飾店は他の民家と同じ白塗りのもの。しかし、壁には砂城ミスフィリトと同じように、光り輝く貝や魔石の破片などが埋め込まれており、その店のセンスの良さを感じさせる。
小さな魔石が集まって貝の形になっていたり、波を表していたり。
デザイン性はどこかクイナのものに似ているが、あれよりもかなり細かくて繊細だ。もしかしたらクイナの母さんがやったのかもしれないな。
「では、そろそろ入るか」
店に入る前に外観のデザインをじっくりと観察した後に、エリックが扉をノックする。
すると、どこかテンパった様子のクイナが扉を開けながら言った。
「す、すいません、今は少々貸し切りとなっておりますので、また後日に――あっ!? エリック様!」
「ん? 貸し切りになっているとはどういうことだ?」
少し人数が増えてしまったものの事前に向かうことは伝えてある。そもそも王都の高級店でもあるまいし、店が貸し切り状態になることなどあるのだろうか?
「あっ、えっと、どうしたら……」
クイナが何故かテンパっていると、その奥から見覚えのある金髪碧眼の男性……というかノルド父さんが出てきた。
「アル達もお土産を見に来ていたのかい?」
「うん、そんな感じ」
なるほど、船で海に出ていたノルド父さん一行も、お土産を見にトルネルの店に来ていたという訳か。
不意打ちのように現れた領主と、外からやってきた領主でありながら、伝説にもなっているドラゴンスレイヤーときた。クイナ一家は今、恐れ多く、緊張感がいっぱいになっているのだろうな。
「クイナ、彼らはエーガルさんとうちの息子達だから店に入れてもいいかな?」
「あっ、はい! 勿論、どうぞでございます!」
ノルド父さんが尋ねると、クイナが顔を赤くしながらどこかおかしい言葉を発する。
ノルド父さんのような美男子に声をかけられると、普通の村の少女は緊張するに決まっているよね。
何となく状況を理解した俺は、緊張で顔を赤くしたクイナに案内されて店の中に入る。
すると、俺達の視界にキラキラとした眩いものが飛び込んでくる。海で獲れた貝や、魔石、サンゴ、魔物の牙が発する光であったり、光の反射加減で見えるもの。黄金や宝石のような煌びやかさとは違った、自然的な美しい輝きだった。
その光景に息を呑みながら、俺達は装飾品に誘われるように歩いていく。
魔石の破片を加工して繋げたブレスレット、小さな指輪、魔物の牙や爪、貝などと組み合わせたキーホルダーのようなものなどが、絹綿が詰まった木箱や壁、収納箱に飾られており、室内が装飾品で満ちていた。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりとしていって下さい」
俺が適当に歩いていると、茶髪の男性が控えめに声をかけてきた。よく見るとトルネルと似たような人の懐っこそうな顔立ちをしており、目の色も同じ翡翠色だ。前歯は欠けていないが、多分トルネルの父さんだろうな。
「うん、ありがとう」
本当はあまり気を遣って欲しくないのだが、この面子がいる中でそれは難しいだろうな。俺が逆の立場だったら絶対緊張するし。
本当はトルネルやクイナ、その両親を交えながら気楽に見たかったのだが、ノルド父さん達がいるし、それはちょっと難しいだろうな。
ここは一通り見て、こっそりと後で喋ったりする程度にしておこうかな。
しかし、そんな空気感に気付かないバカがいた。
「おう! アルフリート様きたか! 俺が海から取ってきた自慢の作品を見せてやるぜ!」
「ちょっ、お前はバカか! 領主様の息子になんて言葉遣いをしているんだ! す、すいません、うちのバカ息子が!」
俺に気安く声をかけてきたトルネルの頭を引っ叩き、深く謝るトルネルの父さん。
この間、遊んだ際に気安くしていいと言った手前、酷く申し訳思ってしまう。
「いや、構いませんよ。俺とトルネルは友人。今日は彼の勧めでやってきましたから。なあ、トルネル」
「ああ、そうだぜ父ちゃん!」
俺が慣れた友人のように話しかけると、トルネルが叩かれた頭を押さえながら気丈に返事する。
すると、トルネルの父さんが恐る恐るといった風に、
「き、貴族様と友達になったなどと妄言かと思っていたが、本当だったのか?」
「だから、この間からずっと本当だって言ってたじゃん!」
「お前、近所の子供にも何かと疑われていたよな。普段の行い、どうなってんだ」
「あ、あれはあいつらが疑り深いだけだ!」
「兄さんは、たまに見栄を張る時がありますから」
どこか言い訳っぽいことを述べるトルネルと、真実味のある語りをするクイナ。
どちらが正しいかは明白だな。
「なるほど、だから川で出会った子供達は随分と疑り深かったのか。俺が貴族ではないと疑ってかかったのも納得だな」
「いや、それは貴様が貴族らしくない凡庸な雰囲気をしているからだ」
「うっさい」
俺が一人で納得していると、エリックが余計な口を挟んできた。
気にしているのだから、そこを弄るなっての。
「ほ、本当に貴族様と仲良くして……いや、しかし……」
トルネルの父さんはトルネルと俺達を驚いたが、ノルド父さん達に視線をやって逡巡した。
子供達はなあなあで済むけど、大人達はそうはいかないということだろう。
「ああ、うちの子が村の子供と仲良くしてるのはいつもの事なので気にしなくていいですよ」
「私とエーガルも気にしませんよ。むしろ、うちのエリックは同年代の友人が少ないので、是非これからも仲良くしてください」
「ちょっ! 母上! やめてくれ!」
そんなトルネルの父さんの心配をわかってか、エルナ母さんとナターシャさんがフォローする。
ナターシャさんのフォローに、エリックはすごく恥ずかしそうだった。
もうすぐシルフォード領編は終わりですね。




