海鮮スープとスモールガニ
エリノラ姉さんに連行された俺達は、村人の奇異の視線に晒されながら食事をとることになってしまった。
「……何で俺達までここで食べないといけないのさ」
「囲まれて二人じゃ出づらかったのよ」
「ははっ、周りに人が多いから出づらいって、エリノラ姉さんはそんなにか弱くない――痛っ! 何で叩くの!?」
「ムカついたからよ」
理不尽な。本当のことを言っただけなのに。
俺が抗議の視線を送るもエリノラ姉さんは、無視して海鮮スープを食べている。
まあ、いいや。ちょっと人の視線が気になるけど、ほとんどエリノラ姉さんに向かってるし関係ない。
俺も気にせず海鮮スープを食べるとしよう。
俺はサイキックで浮かべた状態で海鮮スープをミーナに渡す。
「あっ、結構熱いですね」
すると結構木皿が熱かったのか、ミーナが慌てながら皿の上部を持つ。
「結構熱いのか。気を付けないと」
「酷いですアルフリート様! 私を実験台にしましたね!」
「ごめんごめん、そういうつもりはなかったんだけどね」
図らずともミーナのお陰で木皿が熱いとわかっただけだ。さすがにそのような酷いことはしない。
「ほら、エリックも」
「お、おう。ベンチの上に置いてくれ」
同じようにエリックに渡そうとすると、ビビったのかそのようなことを言う。
「大丈夫だよ。木皿の上の方を持てば、そんなに熱くないって」
「そのようなニヤついた笑みを浮かべる者の言葉が信じられるか! ベンチに置け!」
「……チッ、わかったよ」
エリックが茶碗の上部に触ろうとした瞬間、サイキックでちょっと熱いところにずらそうとしただけなのに。
エリックが警戒して受け取る様子を見せないので、俺は仕方なくエリックが座る辺りのベンチに置いてやる。
「アルフリート様、やっぱり最初も私を実験台にしたんじゃ……」
「いや、ミーナのは狙ってないから」
疑わしい視線を向けてくるミーナに改めて弁明しながら、俺も自分の場所に座る。
さて、まずは海鮮スープを食べよう。ミーナによると、少し熱いようなので十分に冷まして食べないと。
俺は木皿の上部を持ちながら、ふーふーと息を吹きかける。
それだけで海鮮スープの香しい匂いが漂う。今すぐに食べてしまいたいくらいいい香りだが我慢。
貰ったスプーンでスープをかき混ぜながら、慎重に息を吹きかけて冷ます。
ほどよく湯気が飛んでいったところで、口へと運ぶ。
口の中で広がる海鮮の風味。魚の白身の淡白かつ甘い味や、エビの旨味、貝の煮汁、それらが混然一体となっている。
これほどの海鮮食材が入っておりながら、それらは邪魔し合っていないところが凄い。
夢中になって次を口に入れると、今度はごろりとしたエビや白菜、ニンジンが流れ込んできた。大きなエビは噛むとブリッと弾け、口の中で濃厚な味を吐き出す。白菜やニンジンはよく煮込まれているお陰か、海鮮スープをよく吸っており、柔らかい。
「熱いですけど美味しいです!」
「海の旨味が凝縮されているね」
「気に入ってくれたようで何よりだ」
俺とミーナが夢中になって食べていると、エリックが嬉しそうにしながら言う。
村人の料理が褒められて嬉しいのだろう。
エリックの家で食べる海鮮料理と違って粗削りだとは思うが、それとは違う豪快かつ伝統的な美味しさだな。
やはりその土地での料理はバカにできないな。
海鮮スープを少し食べると、次はスモールガニ。鮮やかな赤色をした小さなカニがぎっしりと詰められている。
指で掴んで見てみると今にも動き出してしまいそうなくらいだ。
それにしてもエビやカニはどうしてこうも赤くなると美味しく見えるのだろうな。前世でも黒っぽい普通の状態を見ると、別に何とも思わなかったが赤くなっているところを見ると無性に食べたくなったりする。
ちなみにカニやエビが赤くなるのは、カニやエビが食べる藻類に含まれるアスタキサンチンという成分を蓄えているからだ。
最初はタンパク質と結合して、黒っぽい色をしているが、加熱してタンパク質から分離するとアスタキサンチン本来の色である鮮やかな赤色になるとのこと。
赤々としたカニを目で見て楽しむと、俺はそのままパクッと口に入れる。
そのまま噛めるくらいのちょうどいい硬さ。口の中でバリバリッと砕ける食感が楽しい。噛めば噛むほど、カニの味や甘辛いソースの味が染み出てきてずっと噛んでいたくなる。
「これはお――」
「お?」
お酒に合いそうという感想を言いそうになって言葉を止める。
いや、この硬い食感と噛めば噛むほど染み出る甘辛い味。絶対にビールに合うやつだよ。でも、今の俺はお酒の味なんて知らないはずだし、飲んでいてはいけない。
「いいおやつだね」
「そうですね! 甘辛くて美味しいです! サイズも手頃で、つい手が伸びちゃいますよね」
とりあえず、おやつと言い直して誤魔化すことに成功。
ミーナの場合サイズが手頃じゃなくても、いつもおやつに手が伸びてるんだけどね。
「……スモールガニは値段も安いし手頃。子供のおやつから、大人の酒のお供に幅広く人気」
「へー、そうなの。ちょっと貰うわね」
俺達が食べるのを見て食べたくなったのか、エリノラ姉さんが俺のスモールガニを食べる。
バリバリと小気味のいい音がすぐ傍で聞こえてくる。
「あ、美味しいわね」
エリノラ姉さんはスモールガニをよく噛んで飲み込むと、またすぐに手を伸ばしてきた。
俺の木皿から五匹のスモールガニが奪われていく。
お陰で俺のスモールガニが半分に減ってしまった。
「気に入ったなら買ってきなよ」
「なん屋台が混んでるしいいわよ。これくらいで十分なの」
そう言って、パクリとスモールガニを口にするエリノラ姉さん。
確かに変に注目をされたり、気を遣われながら買いに行くのが面倒なのはわかるな。
「しかし、そこまで外から来た貴族令嬢が気になるものかな?」
「……日に焼けている人が多いこの村で、エリノラみたいに白い肌をした女性は珍しい。それにエリノラは綺麗だから」
何となく周りを見ながらボヤくと、ルーナさんがこの現象の説明をしてくれる。
なるほど、確かにこの村では漁業が盛んで海に出る人が多い。遊ぶにしろ海に出て泳ぐくらいは当然のようにするだろう。
日に焼けた人が多い中で、エリノラ姉さんのような綺麗で肌の白い美人はかなり目を引くという訳か。
まあ、エリノラ姉さんは見てくれだけはいいしな。癖のないさらりとした赤茶色の髪に、白い肌。身体は引き締まっており、手足はすらりと伸びている。
さらには貴族令嬢というブランドもあって、皆が注目してしまうのも無理はない。
とはいえ皆、中身が見えていないな。
「あっ、ということは私も同じように視線を集めて……っ!」
「「フッ」」
「ちょっと何で鼻で笑うんですかアルフリート様、エリノラ様!?」
「いや、ごめん。ミーナがそういう風にチヤホヤされる姿が想像できなくて」
「だって、ミーナだもんね」
ミーナが美人過ぎて注目されているという図がどうしても想像できなかった。
「酷いですよ二人共! 私だって歩けば注目されるんですからね」
「「そりゃメイド服来てたら目立つよ(わよ)」」
「ううっ! そんなことはないです! きっと私の白い肌や可愛らしさ故です!」
「うんうん、そうだねそうだね。ミーナは大人の魅力にあふれてるよー」
「何ですか、その適当な相槌は!」
面倒臭い方向に行きそうなミーナを落ち着かせようとしたのだが、どうも心が籠っていなかったらしい。余計にミーナに怒られた。
「……ミーナは和み系だから」
確かにミーナって大人の魅力って言うより、小動物的な可愛さだよね。
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