エリックと魔法対決
シルヴィオ兄さんとの模擬戦が終わると、エリックが不敵な笑みを浮かべながらやってきた。
「ふははは、アルフリート。遂に俺達の出番だな。貴様には悪いが、剣術に続いて魔法でも勝たせてもらうぞ?」
「じゃあ、こっちも本気出していい?」
俺がきっぱりと告げると、エリックは途端に真顔になる。
「それはダメだ。特にエリノラ嬢にやった魔法とか反則過ぎる。あんな魔法食らったら二度と出ることが敵わん!」
「じゃあ、どうしろと?」
「絶妙な加減だ。常人の範疇でやるのだぞ。わかったか?」
「はいはい」
エリックは俺に念を押すように言うと、背中を向けて歩いていく。
俺に手加減された状態で仮に勝ったとしても嬉しいのだろうか。
とはいえ、エリックには悪いが手を抜いてだらだらと試合を長引かせるつもりはない。
この戦いが終わったら、今日の稽古は終わりなのだ。こいつとの試合はできるだけさっくりと終わらせて、屋敷の風呂にでも入ってしまおう。
「じゃあ、準備はいいわね?」
俺とエリックが所定の位置について向かい合うと、エルナ母さんから確認の声が。
俺とエリックがこくりと頷くと、エルナ母さんは「では、始め」と開始の声を上げた。
「『我は求める 燃えさかる炎よ……』」
すると、エリックが早速詠唱を始める。
そういえば、エリックは魔力の循環ばかりしているせいか属性の適性は知らなかったが、どうやら火属性のようだ。
エリノラ姉さんと同じか。それなら対処はそれほど難しくないな。
エリックの実力は魔力循環を見て既に察しているが、念のために確かめてやろう。
そのために俺は魔法も使わずにボーっとしていたが、エリックの魔法が中々完成することはない。
右腕からは炎が出て手の平に集まってきてはいるが、収束しきっていない模様。
ただの火球を作るのにどれだけ時間がかかっているのだ。エリノラ姉さんの方が何倍も速いぞ。
「『集いて……』」
「ねえ?」
「…………」
「ねえってば。もうちょっと早く発動して――」
「やかましい! もう少しで火球が完成するのだ。そこで大人しく待っていろ!」
俺が声をかけるとまさかの逆切れ。
「『……球となれ!』」
そして、しばらく待っていてやるとエリックはようやく火球を完成させた。
「食らえ! アルフリート!」
エリックが叫びながら手を突き出し、燃え盛る炎を発射。
火球は真っ直ぐにこちらへと突き進む――ことはなく、斜めに大きく逸れて砂へとぶち当たった。
「……だから、魔法は嫌なのだ」
巻き上がった砂煙を見終わって視線を戻すと、エリックが落ち込んでいた。
まあ、最初から魔法は苦手だって言っていたしな。最初から強がっていたのだろう。
大体の実力は察していたが、昔のエリノラ姉さんと同じくらいというところか。
「よし、一発芸は終わりか? 風呂に入りたいから決着をつけるよ?」
「誰が一発芸か! それにまだまだこれしきのことで諦めてたまるか!」
俺がそのように言うと火がついてしまったのか、エリックが立ち直って元気になる。
「とかいっても、魔法が当たらないんじゃ意味ないじゃん」
「遠くから当たらないなら近付いて当てるまでだ!」
またその脳筋理論か。この面子にまともな魔法使いはいないのか――って、いないよね。だって、俺以外全員剣士だもの。こうなってしまうのも無理はない。
俺が今さらながらに思っているとエリックが再び火球の準備をする。
もうエリックの実力は確かめたので、律儀に待ってやる必要は皆無なのだが、考えがあってわざわざそれを待ってやる。
「『我は求める 燃えさかる炎よ 集いて球となれ』」
すると、さっきよりは少し早めにエリックの火球が完成した。
「ふん、何の考えがあって待っていたか知らんが、後で後悔することになるぞ?」
「後悔するっていう台詞をそっくりそのまま返すよ」
俺が不敵な笑みを浮かべて答えてやると、エリックもニヤリと笑い、火球を右手付近で浮遊させながらこちらへと走ってきた。
魔法を使えるということは、魔法そのものの危険や扱う時にされたら嫌なことを理解しているということ。
火球を右手の動きと連動させて維持しているということは、右手を動かしてやれば火球もそちらへ動くということ。
だから、俺は自爆を狙うために小さな土弾を猛スピードでエリックの左額へと飛ばす。
すると、エリックはバカなことに火球を持っている方の右手で痛みのある場所を押さえた。
「ぬおっ! あっちゃああああああああ!?」
当然、手には火球があるわけで、エリックは自分の火球の熱さに驚いて悲鳴を上げた。
身を投げ出すようにゴロゴロと転がり、エリックが海へと着水する。
びっくりする程上手くいってこちらも驚いている。必死なエリックからすれば悪いが、ちょっと面白い。
今日でエリックが海に入るのは何度目だろうな。
しばらくするとエリックがずぶ濡れになって出てきた。
「はぁ、はぁ……おのれ、アルフリート。魔法による誘爆を狙うとは何て悪辣な」
「いや、エリックが自爆しただけでしょ」
自分の発動した魔法への意識が低い。魔法を使い慣れていない人の典型的なパターンだ。
とはいえ、俺も昔は同じような目に遭ったこともある。
部屋の温度を上げようと火球を出しっぱなしにして寝転がっていたら、一時間後くらいには忘れて、立ち上がって火球のところへ歩いて火傷したとか。
そんな風に失敗があるからこそ、人は学ぶものだとしみじみと感じられるものだ。
「さあ、もう一回火球を出す?」
「ええい、もう火球なぞ出さん! 近くまで行って直接炎を浴びせてやる!」
火球が利用されるからって、その発想に至るとは予想もできなかった。
言動から考えるに近付いて火を放射してくるってことだろ? 怖いな。
別にエリックの火魔法くらい魔法で防ぐことくらい訳ないが、今のこいつには瀕死の獣のような何をするかわからない恐ろしさがある。近付かせないようにするのが一番だな。
そうなると今お手軽なのは土魔法による移動だ。
とはいえ、エリノラ姉さんにやったランニングマシ―ンは使うなと言われた。ケチをつけられないためと裏をかくために違う使い方をしよう。
俺は走ってくるエリックとの間合いを計り、六メートル付近で土魔法を発動。
エリックの足元で砂が盛り上がり、微かに後ろへと動いていく。
「貴様! またその魔法を使ったな! だが、同じ手に引っ掛かる俺ではない! 砂が最高速度に乗る前に間合いを詰め切る!」
実際、この至近距離であればそれも一つの正解だろう。エリノラ姉さんの時のように広大な範囲なら逃れにくいが、このような狭い範囲であれば砂が最高速度に上がる前に、全力で駆け抜ければいいこと。
エリックなら、そう考えると思っていた。
だから、俺は最初に少し後ろに移動させたのはフェイントで、エリックが駆け出すタイミングで逆に引き寄せるように前へと砂を動かした。
走るために伸ばした右足だが、着地した場所にある砂が勢いよく前へと進む。
そうなれば人間はバランスを崩して、滑るようにひっくり返る。
「えっ? はぐっ!?」
後ろにひっくり返って後頭部を強打したエリックが、目の前でゴロゴロと悶絶していた。
どうやら柔らかな砂地であっても、それなりに痛かったらしい。
とはいえ、敵の目の前で転がるのは舐めすぎだろう。
「……おい」
俺が声をかけるとエリックが「はっ」と声を上げて我に返る。
しかし、そこで待ってやるほど俺は優しくない。
俺は速やかに勝負を終わらせるために土魔法を発動して砂の腕を形成。
そして転がっているエリックの両足首を掴んでやる。
よし、このまま砂にでも引きずり込んでやろうか。
俺が不敵な笑みを浮かべると、エリックは悟ったのか顔を真っ青にする。
「ま、参った! 参ったから、それはやめ――ぬおおおおおおおおおおおおっ!?」
稽古終わりです




