走れエリック!
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エリノラ姉さんのコーチをエルナ母さんに引き継いだ俺は、ルーナさんの様子を見に戻る。
すると、ドパァンという土が弾ける音が鳴り、ルーナさんは土塗れになっていた。
「調子どう?」
「……見ての通り。圧縮ができない」
俺が声をかけると、ルーナさんは身体についた土を取り払いながら不機嫌そうに言う。
「まあ、魔力の圧縮は結構な魔力操作技術が必要だし、すぐにできるものじゃないよ」
「……アル君は何日でできた?」
ルーナさんに問われて俺は過去の記憶を思い出す。
「……確か、三時間くらいだったかな?」
勿論、今よりも完成度は低かったが、圧縮して土弾を放つことはそれくらいでできたはずだ。
「……ずるい」
「うわああっ! だからって、目の前で圧縮作業をやらないで! それ爆発するやつだから!」
気が付くとルーナさんが目の前で圧縮作業をやり始めていたので、俺は慌ててシールドを発動。再び土塊は爆発した。
当然、俺はシールドに守られているので無傷だ。
自分に被害が出る自爆を躊躇なく使うとは恐ろしい。
「ルーナさん、その魔法はそういう嫌がらせに使うものじゃないよ」
「……ごめん、上手くいかなくて八つ当たりした」
さすがに反省したのかルーナさんがシュンとしながら言う。
「いや、でも待てよ。土弾を作る途中で意図的に爆発させて、目潰しとか散弾みたいに応用できるかもしれない」
「……え? どういうこと?」
「圧縮をわざと失敗させたら、意表を突けるかなって」
俺はルーナさんに説明するように土弾を作成。そして圧縮する魔力をわざとデタラメにして、爆発する手前で射出。
すると、土弾はしばらく不安定ながらもしばらく前方に飛んでいくと、途中で圧縮された魔力が暴発。内側から爆発したように弾けた。
「まあ、こんな感じ。でも、不安定過ぎて飛ばす前に爆発する危険性もあるし、慣れれば土弾は自分の手で破裂させることもできるか必要ないかもね」
まあ、相手が魔法使いならば油断を突けるかもしれない程度だ。
「……アル君は、常に色んなことを考えてるね」
「少しでも自分の生活や遊びに活かせないか考えてるだけだよ」
別にエリノラ姉さんのように戦闘力を高めるため。シルヴィオ兄さんのような領地の発展や将来のために考えているわけでもない。
自分が楽しく生きるためだから、そのように褒められる謂れはないかな。
「さて、話は逸れたけど圧縮のアドバイスをするよ。ルーナさんは土弾を圧縮する時、どんなイメージでやってる?」
「……えっと、アル君の言った通り、外から内側にギューッと」
「うん、それはいいけど、それじゃ多分曖昧だよね。エルナ母さんが魔力循環の時に言ったけど、それは俺のイメージであってルーナさんのイメージじゃないから」
他人から伝えられたイメージを一発で模倣するというのは難しい。俺は前世での膨大な知識や経験もあって何とかなっているが、あまり魔法を普段から使わない人からすれば苦労するだろう。
「……自分のイメージを固めるにはどうしたらいい?」
「物事を普段から観察したり、体験することかな。思いもよらない生活の一部が、魔法のイメージにピッタリな時があるから。例えば圧縮だと、こうやって砂でお団子を作るとか」
例を示すように俺は屈み込んで砂団子を作り始める。
水魔法で出した水を少し加えたら、手の平を使ってギュッギュと全体的に圧を加えて丸くしていく。
「……なるほど、魔力の圧縮を砂団子でイメージして……」
ルーナさんは感心の声を上げると、俺の真似をするように団子を作っていく。
「……水ちょっとちょうだい」
俺が土魔法で穴を掘って、そこに水魔法で水を注いで溜めてやる。
「はいよ、お好きにどうぞ」
「……ありがとう」
ルーナさんは礼を言うと、ちょっと水に手を濡らして砂団子を作っていく。
ギュッギュと手の平全体で押してやり、力が伝わりすぎた場所も補うように手で圧を加える。
しばらくの間、俺とルーナさんは無言で砂団子を作る。
水分が足りなくなったら溜めてある水で少し濡らし、砂団子に水分を加えながらゆっくりと手で固めてやる。
のんびりと団子をこねていると、ルーナさんは恐る恐る尋ねてくる。
「……もしかして、慣れない内はゆっくりと圧縮した方がいい?」
「正解。魔力操作に慣れたならともかく、慣れないうちはゆっくりとしてあげた方がいいよ。砂団子も最初はゆっくりと形を整えながらやっていくわけだし」
「……なるほど。こういうところにヒントが……」
ふむふむと考え込みながら砂団子をこねるルーナさん。
とはいえ、そのことにすぐに気付くとは中々に呑み込みが早いな。
直線とはいえ砂を操作する技術を習得しているだけあって、魔法の技術も高いな。エリックとは大違いだ。
そんなことを考えながら手を動かしていると砂団子が完成。
うむ、中々の綺麗な球形をしている。丁寧に磨き上げたので艶やかだ。思わず頬ずりしたくなるほどのツルツル感。
自分の作り上げた砂団子に満足していると、隣にいるルーナさんは四つ目の砂団子へと取り掛かっていた。
「……私はしばらく、砂団子を作ってイメージを固めるから大丈夫」
少し言葉が足りないが、自由にしていていいということだろう。
「防御魔法や砂の操作は大丈夫?」
「……そっちもアドバイスして。イメージは自分で見つけてみる」
俺はルーナさんに軽くコツをアドバイスしてから自由時間に入った。
◆
さて、ルーナさんへの指導は落ち着いたので、好きに魔法で遊んでみよう。
実はさっき覚えた砂移動で遊んでみたくてうずうずしていたのだ。
俺は先程作ったサーフボードをサイキックで引き寄せようとして、はたと気付く。
別にサーフボードがなくても移動できるじゃん。だって、動くのは砂な訳だし。
ということでサーフボードは引き寄せずに足元で土魔法を発動。魔力が浸透し、砂がエスカレーターのようにゆっくりと動いていく。
ズズズズズと他の砂を掻き分けながら、突っ立っている俺が進んでいく。
立ってるだけで大丈夫なはずなら、寝ていても大丈夫だよな。
そう思って寝転んでみるも何も異常はなかった。俺は寝転んでいるにも関わらず移動する。これも下にある砂が頑張って動いてくれるから。
「寝転びながら移動したいという小さな夢が叶った瞬間だなぁ……」
誰もが立ち上がることなく、寝転んだまま移動したいと思うはず。
勿論、布団に包まってサイキックでも寝転んだまま移動はできるが、それとはまた別。
俺のために地面が勝手に動いて移動してくれるという違いがいいのだ。
横に寝転んだり、仰向けに寝転んだりしながら俺は自由自在に浜辺を移動する。
すると、寝転んでいる俺に影が落ちてきた。
見上げるとそこにはムッツリとした顔をしたエリックが腕を組んで見下ろしていた。
「……貴様、さっきから見ていたが、気持ち悪いからやめろ」
「何だよ? エリックには、この動かずして移動できる魔法の凄さがわからないのか?」
「いや、その魔法の凄さについてはラズール王国で見たからわかるが、そのような使い方は変だと言っているのだ」
「いやいや、歩かなくても移動できる魔法だよ? だったら、寝転びながら使うに決まってるじゃん」
こんな便利な魔法を戦闘用だけにするとは勿体ない。
「普通そんな使い方はせぬわ! それに仰向けに寝転がっている貴様を見ると、変な虫が這っているようにしか見えんのだ!」
この野郎、人が魔法を使っている姿を虫のようだと言いやがった。
いくら温厚な俺でも、その物言いはカチンとくる。
「誰が虫か」
そう言いながら俺はエリックの足元に土魔法を発動。
「ぬおおおおっ!? 砂が勝手に後ろへと!?」
エリックは後ろへ下がる砂へ抗うようにダッシュ。
しかし、走っても走っても砂が下がっていくためにエリックの位置が変わることはない。
まるで、ランニングマシーンのようだ。
「ぬおおおおおっ! 進まぬ!」
「ほらほら、もっと早く走らないと海へドボンだよ」
「おのれ! 何という小賢しい魔法を……ぬああああああああ、砂が後ろに……っ!」
俺への悪口を言っている暇があり、随分と余裕そうだったので砂の速度を上げる。
すると、エリックが必死に手足を振って走る。
走って走って走るが、砂も同じくらいの速度で後ろへ下がっていく。
その場にある砂を後ろに下げ続ければ地面が削れてしまうので、俺はきちんと周りの砂を集めて足場を整えてあげている。走るエリックにも優しい配慮だ。
「はいはい、もっと速度を上げるよー」
「ちょっと待て、アルフリート! これ以上は本当に……っ!」
全力ダッシュして息を荒げながら言うエリック。
それを俺は芸人の前振りだと認識したので、希望通りもっと砂の速度を上げる。
「ふぬおおおおおおおおおおおおおっ!」
エリック、最後の抵抗を見せて全力のダッシュ。しかし、俺の操作する砂はそれ以上に早くて……。
「……ああっ」
やがてエリックは力尽きたように倒れ込み、そして後ろへ移動する砂が彼を海まで丁寧に運び込んだ。




