魔法はコツを掴んだら反復あるのみ!
ルーナさんに教えるとか言いながら、砂の移動魔法に熱中してしまった俺。気を取り直してルーナさんにアドバイスをする。
「じゃあ、まずは土弾だね」
「……うん」
「ルーナさんの土弾はハッキリ言って不安定過ぎるよ。多分、二、三回に一回の確率で失敗するんじゃない?」
「……さっきは上手くいったけど、割合的にはそんな感じ」
あれで上手くいった方なんだ。とは思ったけど口に出さないでおく。
「それじゃあ、攻撃として使うのは厳しいよ。戦闘になると相手の攻撃に晒されながら完璧に作り上げないといけないし」
勿論、戦闘となると味方が魔法を完成させるまで守ってくれることがあるかもしれないが、それを当てにするのはどうかと思う。
そもそも三回に一回しか成功しない魔法など使い物にならない。
「……じゃあ、どうしたら安定する?」
「まずは魔力の圧縮を学ぼう。圧縮さえできたら土弾は何とかなるよ。硬度も上がって攻撃力も増すし、飛ばした時に崩れて逸れることもないから」
土弾は魔力の圧縮さえできれば、比較的に使いやすくなる。温度の感覚が必要な火魔法や、繊細なコントロールを必要とする風魔法、流体物をコントロールする水魔法よりもよっぽど難易度は低い。
とりあえず圧縮して硬くすれば、すぐに真っ直ぐに飛ばせるようになるお手軽な魔法なのだ。
俺がそのように語るも、ルーナさんはあまりピンとこないのか首を傾げる。
「……魔力の圧縮ってどうやるの?」
「魔力でギューッと外から内に押し潰していくように、だけど潰さないように魔力を込めるんだ」
俺は手本を見せるようにルーナさんと同じように土弾を生成。
最初は砂が集まっただけの土塊であったが、徐々に魔力を込めて圧縮していくと、それは徐々に小さく硬くなっていく。
両腕で一抱えするほどの大きさの土弾は、最終的に手の平で掴める大きさへと圧縮された。
「ほら、こんな感じ」
「……す、すごい。こんなに小さく……」
俺が石弾を手渡すとルーナさんは驚きながら拳で軽く叩いた。
すると、土弾は土とは思えない金属音のような高い音を鳴らす。
「……硬い」
「そんじょそこらの剣じゃ斬れないほどだからね」
なんせエリノラ姉さんが木剣で斬れなかったほどの硬さだからな。硬度には自信がある。
もっとも、その後に真剣を使って真っ二つに斬られたけど。
「とりあえず、まずは実践してみてよ、そこからアドバイスしていくから」
色々言うよりかはまずは実践だ。やったこともないのにあれこれ理論を言われてもピンとくるはずがない。
「……わかった」
ルーナさんは頷くと、早速同じように土魔法を使う。
俺の言われた通り、魔力を圧縮することに注力しているせいか発動速度は遅い。
ゆっくりと砂が持ち上がって土塊となり、魔力を外から内へと押し込んでいく。
それを見ていた俺は、魔力の流れから危険を察知して無魔法のシールドを展開。
すると、ルーナさんの作っていた土弾が内側から爆発したように破裂。辺りに土が散らばった。
爆心地にいたルーナさんは言うまでもなく土塗れ。俺は魔力の流れからこうなることをいち早く察知して防いだので無傷だ。
「……爆発した」
「うん、魔力を万遍なく外から加えないとそうなるんだ」
全体的に力を加えないと他の箇所が耐え切れなくなり爆発してしまうということだ。
「……そういうことは早く言ってほしい。それに自分だけ防いで……」
ルーナさんからジトッとした抗議の視線が向けられる。
「ごめん、だけど初心者が最初に通る道だから」
俺も昔は同じように何度も破裂させていたものだ。これに関しては何度も何度も繰り返して、万遍なく力を加えられるように練習する他はない。
何事も経験だ。そう、決してこれは忘れていたからとかではないのだ。
◆
ルーナさんに圧縮方法をやらせている間、俺は何となく辺りを見渡す。
シルヴィオ兄さんは同じ風魔法使いであるノルド父さんにアドバイスを貰い、休憩に入った。どうやらようやく十回連続的に当てることができたようだ。
そしてエルナ母さんは引き続き、魔力に循環が下手くそなエリックの面倒を見ている。これはエリックは今日一日魔力循環だけで終わるかもな。
エリックの力量からすると、ここで下手に魔法の使い方を教わるよりもしっかりと基礎を身に着けた方がいいだろうし。下手に後回しにして変な癖でもついたら目も当てられないしな。
そして最後に海辺で座り込んだエリノラ姉さん。
そのどこか哀愁漂う後ろ姿を見れば、課題を達成できていないことは明白だった。
赤茶色のポニーテールが潮風に虚しく揺れる。
そんな姿を見つめていると、視線でも察知したのかエリノラ姉さんが振り向いた。
俺のその時の心境はクマと目が合ったというもの。どうしようかな、背中見せると追いかけてくると言うし、このまま睨み合ったまま自然に後退しようか。
などと考えているとクマが手招きしてきた。
違った。どうやら睨み合うのではなく速やかに視線を逸らすのが正解だったようだ。しかし、そのようなことに気付いたとしてももう遅い。
クマが呼んでいる以上は無視できないのだ。
俺は仕方なくテクテクとエリノラ姉さんの傍にまで歩いていく。
「ねえ、アル」
「なに?」
「海ってどうしてこんなにも広いのかしら?」
ダメだ、エリノラ姉さんは魔法が的に当たらなさ過ぎて精神的に参ってしまっているようだ。脳筋であるエリノラ姉さんが、このような哲学的なことを言っているので相当だ。
とはいえ、俺がそのようなことを答えられるはずもなく。
「……どうしてだろうね」
適当に流しておく。
「「…………」」
すると、しばらくお互い無言になり、ザザーンという波の音だけが聞こえる。
辺りはどこまでも青く広く、十メートル先に直立している土魔法の的が非常に浮いていてシュールだっ
た。
しばらくは波の音を聞きながら吹き付ける潮風を肌で感じる。
「……アル、魔法が当たんないわ。どうしたらいい?」
エリノラ姉さんのことだから、もうちょっと捻くれた会話などを経てから言うと思ったのだが、珍しく素直な物言いだ。
エルナ母さんに道中稽古をつけてもらって自信がついたのだが、十メートル先にある的に当たらなくて落ち込んでいるのだろうか。
「試しに一回やってみてよ」
「わかった」
俺がそう言うとエリノラ姉さんはすくっと立ち上がって、深呼吸をして右腕を突き出す。
「『我は求める 燃えさかる炎よ 集いて球となれ』」
エリノラ姉さんの力強い言葉の詠唱と共に、手の平の先へと炎を収束していく。
やがてそれは火球となって燃え盛り、エリノラ姉さんは先程と同じように照準をつけるように的へと手を動かす。
それから神経質そうな瞳で的先と睨めっこして、魔法を発射した。
燃え盛る火球が飛んで行き、的目がけて飛んでいく。
しかし、それは海風に煽られながらも的の左端を外れ、奥にある海水をバッシャーンと巻き上げた。
「こんな感じよ」
さも一仕事終えたかのようなドヤ顔で言わないでほしい。
「さっきからずっとやってたようだけど、そんなに当たらない?」
「何回かは当たったけど、連続で五回も当たらないわよ」
まぐれで二、三回を当てることはできるかもしれないが、さすがに五回となると厳しいからな。
「うーん、見た感じ火球を作るまでの流れは悪くないんだけどね」
道中の暇な時間や休憩時間にみっちりとエルナ母さんに教えてもらったからか、エリノラ姉さんの火球の発動は以前に比べるとスムーズ。
そりゃ、勿論発動速度だとか、魔力の無駄な部分とかは大きく残っているけど、それはこれから研磨していけばいい。今はそれよりも命中力だ。
ルーナさんみたいに不安定というわけでもないし、減衰が速いわけではない。むしろ、過剰に魔力を込めているせいで遠くまで飛んでいるほどだ。
どうして十メートル先の的にコントロールして当てることができないのか。
正直海風はあるものの真っすぐに飛ばすだけで簡単なんだけどな。
「的が魔物、もしくは人間なら当たる気がするんだけど……」
物騒なことを呟きながら視線をこちらに向けてこないでほしい。
そんな実験台みたいな真似はごめんだ。
「多分、遠くに飛ばすイメージが悪いんだと思うよ。試しに俺が火球で的に当ててみるから、しっかり見てて」
「……わかったわ」
俺はエリノラ姉さんの少し残念そうな顔を全力で無視して、火魔法を発動。
エリノラ姉さんがしっかりと意識に焼き付けられるように、ゆっくりと火球を生成し、同じように腕を突き出して飛ばす。
すると、俺の射出した火球は、的に描いている円に吸い込まれるようにして当たった。
的に当てる火球の軌道をしっかりとイメージさせるために、俺は連続で五回当ててみせた。
「どう? イメージできそう?」
「多分? 今ならできる気がするわ!」
エリノラ姉さんは怪しい言葉を発しながらも、火球を生成。
同じように手で照準をつけて火球を発射する。
しかし、それはするりするりと的の横を駆け抜けていった。
「……ねえ、あんたあの的に風魔法の障壁とか張って意地悪してないでしょうね?」
「してないよ。エリノラ姉さんの実力だよ」
でも、思わず俺もそう思ってしまうくらいに綺麗に外れたな。
「でも、何で外れるんだろう? 魔力の流れにもそこまで異常は見られなかったのに……」
「はぁ、だから魔法の稽古は苦手なのよ。チマチマとした魔力の調整ばっかり。これなら剣を振っているほうがマシだわ。別に十メートル、三十メートル先くらいなら斬撃を飛ばして攻撃した方がいいのに」
いやいや、それはエリノラ姉さんがおかしいだけだから。普通の人はどれだけ剣を早く振ろうが、衝撃波というか斬撃なんて飛ばせやしないから。
そして剣を失ったらどう攻撃するんだと思ったけど、エリノラ姉さんなら拳で空気弾とか飛ばしてきそうだと思った。
エリノラ姉さんが不貞腐れたように座り込む。
そして近くにあった石ころを掴んで、的へと放り投げた。
それは十メートル先にある的の真ん中へ命中。それからポチャリと海に落ちた。
そんな何気ない光景を見て俺は改善策を閃く。
「遠いのに真ん中に当たったね。凄いや。ねえ、エリノラ姉さん、もう一回当ててみてよ」
「はあ? まあ、いいけど……」
俺が小石を渡しながら褒めると、エリノラ姉さんは怪訝な声を上げたが、地味に嬉しかったのか素直にもう一回投げた。
そして、それは一球目と同じように的の真ん中に当たる。
座りながらなんてほとんど力も出ないのに、どんな腕力と命中力を持っているんだ。
「うん、エリノラ姉さんには手で狙いをつけるっていうのが合っていないんじゃない?」
「どういうことよ?」
「今みたいに石を投げるような感覚で火球を飛ばせばコントロールできるかなと」
「……なるほど。じゃあ、やってみるわ」
少し元気を取り戻したのかエリノラ姉さんが立ち上がる。
エリノラ姉さんは身体を動かす方が得意だし、大きな動作も交えた方がよりやりやすくなるのではないかと思う。大体、エリノラ姉さんが魔法使いみたいに飛ばしても似合わないから。
「『我は求める 燃えさかる炎よ 集いて球となれ』」
エリノラ姉さんが詠唱をすると右手に炎が収束して球形となる。
綺麗な火球を作り上げるとエリノラ姉さんは、的へと鋭い視線を送る。
そしてピッチャーのような大きなフォームで身体全体を動かし、腰を捻じって、右手にあった火球を投げつけた。
エリノラ姉さんの手から離れた剛速球は真っ直ぐに突き進み、十メートル先にある的のド真ん中に当たった。
「あっ! 真ん中に当たったわ!」
「ほら、今の感じを忘れずに続けて!」
エリノラ姉さんが嬉しそうに振り返るが、課題は連続で五回当てること。感覚を掴んだ瞬間こそ、魔法は反復練習をするべきだ。
「わかってる!」
俺がそう言うと、エリノラ姉さんは再び火球を作り出し、次々と的の真ん中へと当てていく。
そして最後の五回目も、エリノラ姉さんは外すことなく的の真ん中に当てることができた。
「やったー! これで終わりだわ!」
課題をクリアできたことが嬉しかったのかエリノラ姉さんはそのまま砂地に後ろから倒れ込んだ。
「あらあら、服や髪が汚れるのに倒れ込んじゃって」
俺の心を代弁するような台詞を言ったのはエルナ母さん。どうやら俺達の様子を途中から見ていたらしい。
言葉だけ聞けばそれは怒っているようなものであるが、エルナ母さんの声音はそんなものを微塵と感じさせない優しいもの。
穏やかな笑みを称えながら倒れ込んだエリノラ姉さんの下へ向かう。
「よくできたわねエリノラ」
愛しむようにエリノラ姉さんを撫でるエルナ母さん。
エリノラ姉さんは少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにはにかみ、
「……ありがとう」
「ふふ、その台詞を言うべきは私じゃないと思うけど?」
エルナ母さんの言葉で気付いたのか、エリノラ姉さんはゆっくりと起き上がって振り向く。
それから少し恥ずかしそうにして視線を逸らしながら、
「……アルもありがとね」
「どういたしまして」
少し素直ではなかったが礼を言われるのは嬉しいことだ。
これで次の剣の稽古では優しくしてくれるといいなぁと俺は願う。
「さあ、エリノラ! 魔法の稽古よ!」
「うえっ? 何で? あたしちゃんと課題をこなしたわよ!?」
「せっかく感覚を掴んだのだから続けないとダメよ。魔法はコツを掴んだら反復あるのみよ!」
「そ、そんなぁ!」
とはいえ、エリノラ姉さんの魔法稽古はまだ続くようだった。




