海できゃっきゃうふふ?
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ザザーと穏やかな波の音が響き渡る中、俺達はそれぞれ距離を開けて睨み合う。
俺の正面にはエリノラ姉さん、少し横に離れてルーナさん。そして俺の横にはシルヴィオ兄さん、その奥にはエリック。
この中で生き残れるのは誰か一人だけ。
ふふふ、エリックやルーナさんは海で遊び慣れているから自信があるのだろうけど、俺を舐めてもらっちゃ困るな。こちとらカグラの露天風呂で意地汚い大人の冒険者相手に渡り合ってきたのだ。顔にある急所に的確に水を飛ばすのは得意だ。
さらに今回は海水ということで目や鼻に入った時のダメージはより大きなものになる。この水かけ勝負、負ける気がしないな。
しかし、何事も保険はあった方がいい。
「シルヴィオ兄さん、今回はエリノラ姉さんをやっつけよう」
「そうだね。水のかけ合いなら二人でかかれば姉さんをやっつけられるかもしれないしね」
隣にいるシルヴィオ兄さんにこっそり話しかけると、色よい返事が返ってくる。
日頃、お互いに稽古で酷い目に遭わされているのだ。こういう時ぐらいはやり返してやらないとな。
俺とシルヴィオ兄さんが笑い合っていると、対面にいるエリノラ姉さんが「ふーん」と意味深な声を上げる。
「別に組んでもいいわよ? 纏めて相手してあげるから」
「……エリックも組んでもいい。男と女で別れた方がわかりやすい」
どうして相手陣はこれほどまでに自信満々なのか。
どちらにせよ俺はエリノラ姉さんにロックオンされて狙われることがわかっていたから、男子同士で潰し合うつもりはない。
むしろエリックやシルヴィオ兄さんから茶々がない方が助かるくらいだ。問題はあのルーナさんすらも明確な敵に回してしまうことだが、そこはエリックを盾にすることで何とかなるだろう。
「よし、じゃあ、エリックも組むぞ!」
「ああ、わかった。その方が俺もやりやすい。貴様の卑怯な手を警戒せずに済むからな」
こいつ、最後に残っていたら水の腕で海に引きずり込んでやろう。そう決めた瞬間である。
何はともあれ、これで分かりやすいチーム分けが決まった。
「男チームと女チームで! 参ったと言ったら退場を認めること!」
「文句はないわ」
「……わかった」
俺が簡単なルールを言うと、エリノラ姉さんとルーナさんが頷く。
隣にいるシルヴィオ兄さんやエリックも特に問題がないようだ。
「それじゃあ、始め!」
俺が開戦の合図を上げると、シルヴィオ兄さんとエリックが海を駆け出す。
俺もシルヴィオ兄さんの斜め後ろからこっそり付いていって、時間差で攻撃していくつもりだ。
ふふ、いくらエリノラ姉さんでも二方向からの水を防ぐことはできまい。
「ふん、いきなり間合いを詰めてくるなんてバカね」
俺がほくそ笑みながら距離を詰めていると、エリノラ姉さんが呆れたような声を上げる。
何だその台詞は? それではまるで魔法使い相手に無謀に正面から挑んでいるような……。
妙な引っ掛かりを覚えていると、エリノラ姉さんが二歩三歩と走る。
そう、それはまるでサッカー選手がボールを蹴る時のような助走。
嫌な予感がし、第六感がこのまま進むと死ぬと告げているので、俺は急遽足を止めて、エリノラ姉さんの左側へと回り込む。
助走をつけたエリノラ姉さんは、そのまま勢いをつけて海水を蹴り上げる。
すると、エリノラ姉さんの足下から砲弾のように水の塊が射出された。
「うぶっ!?」
目にも止まらぬ速さと圧倒的な質量を前に、正面にいたシルヴィオ兄さんが呆気なく呑み込まれ、吹き飛んだ。
「し、シルヴィオ兄さーん!」
「アルフリート! 敵から視線を逸らすな!」
俺が後ろに振り返ろうとするとエリックから大声が飛んでくる。
エリノラ姉さんは視界に収めつつ、横目でエリックの方を確認する。
そちらでは海水だというのに、何の抵抗もないような軽やかな足取りで走り回るルーナさんと、それに応戦するエリックがいた。
ルーナさんがエリックの側面から回り込んで海水を蹴り上げる。
すると、エリノラ姉さん程ではないにしろ、海で水のかけ合いというには非常識な量の水が射出される。
それを読んでいたエリックは、素早く範囲外から逃れると同時に下から手をすくい上げるようにして水をルーナさんの目に飛ばす。
しかし、それはルーナさんがストンピングすることによって、海水が防壁のように湧き上がって防いだ。
「……何これ? 俺の知っている海での水のかけ合いと違うんだけど?」
もっとこう俺の知っているのは、ドラマやアニメとかでやっている手で水をかけ合って、「きゃっ!」とか「くそ、やったな!」とかいうものだ。
この状況でそんな甘い状況にならないことはわかっていたが、これは想像と違い過ぎる。
俺とアーバインとモルトが繰り広げた水のかけ合いが、ただのお遊びに思える程だ。
「さあ、アル。覚悟はできたかしら?」
俺が海のレベルの高さに戦慄していると、エリノラ姉さんが不敵な笑みを浮かべながら接近してくる。
そのプレッシャーに思わず後退しながら、後方をチラリと確認。
視界の端では、シルヴィオ兄さんらしい物がプカプカと浮いていた。
ここは浅瀬だし、仰向けになっているので窒息する心配はないだろう。
まさか参ったを言う暇もなく、盾が撃沈されるとは予想外だ。
盾が使えなくなった以上、エリノラ姉さんに真っ向から挑むのは無理がある。
俺にできることと言えば、トールとアスモと培い、カグラで昇華させた目つぶしのみ。
例え相手で強大であっても、目や鼻の中といった部分は弱点のはず!根気よくそこを狙っていけば勝機が見えるはず!
俺は心の中で自分に言い聞かせると、敢えてこちらから突撃する。
すると、エリノラ姉さんが不敵な笑みを浮かべながら水面を蹴り上げる。砲弾のような圧倒的な質量を誇る海水が飛んでくる。
しかし、蹴り上げるというモーションがある以上、それは真っすぐにしか飛ばない。
さらに勢いをつけて蹴り上げるせいかタイミングを計るのは容易だ。
俺はステップでそれを華麗に避ける。それからエリノラ姉さんの側面へと回り込んで、目を狙って海水を飛ばした。
手の中で水を圧縮して勢いよく撃ち出す技術。拡散しないように力を一転込めた一撃は大の大人であるアーバインとモルトも叫ぶほどの威力。しかも、今回は海水だ。
例え、エリノラ姉さんでも当たればただでは済まないはず……っ!
「ふん!」
「何だって!?」
一発撃沈の想いを元に撃ち出した海水であったが、エリノラ姉さんが僅かに顔をそらすだけで回避された。
自信のある一撃だけにそれを回避されると衝撃が大きい。
いや、今のはたまたまだ。水の掛け合いで目を狙うのは定石だ。それくらいアホのエリノラ姉さんだけでもわかる。
ここは鼻や耳、口という箇所を狙って攪乱すれば何とかなるはず。
気を取り直して俺は即座に海水を飛ばす。動き回って時にフェイントを混ぜながら目、耳、鼻、口とランダムに。
しかし、そのどれもがエリノラ姉さんに見極められ、躱され、手で防がれ、そこにたどり着くことがない。
「……そ、そんなバカな」
「昔からあんたは川遊びで執拗に目や鼻、耳を狙ってきたからね。こっちはとっくに慣れてるわよ」
くそ、昔の俺はどうしてそこまで手の内を晒してしまったんだ。
いや、でも昔の思い出の中では、そういうところだけが唯一の反撃の機会だったから仕方がないのかもしれないな。
「それにあんたの攻撃は弱点だけを正確に狙ってくるから対処が楽だわ」
弱点が顔部分だけとはいえ、何か所もあるんですけど……いや、エリノラ姉さんの反射神経と運動能力からすれば訳ないってことか。
相変わらず身体を動かす才能にかけてはハイスペックな姉だ。
「じゃあ、次はこっちから行くわよ?」
うん、まったく勝てる気がしない。
これはもう魔法を使うしかないな。
コミック2巻をゲーマーズ様で買うと、ポストカードがついてくるようです。




