海で砂を落とす
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「あなた~、そろそろ昼食にしませんか?」
エーガルさんのアドバイスが終わり、砂地で歩き方や盾の使い方などを学んだりしていると、後方からナターシャさんの声が響き渡った。
思わず振り返ると、ナターシャさんとエルナ母さんがワンピース姿で麦わら帽子を被っていた。品のあるエルナ母さんも似合っているし、褐色の肌を持つナターシャさんも淡い色合いをした白のワンピースが対比になってとても綺麗だ。
この世界の結婚年齢が早いから若いということを考慮しても、似合いすぎとしかいいようがないな。
二人の傍にはミーナやラルゴを初めとするメイド達がバスケットやらシートなどの小道具を持って付いてきている。ラルゴが指示を出すとそれぞれが動き出し、日陰のある木々に屋根を作ってシートを敷いていく。
うおおお、あそこで寝転がりたい!
「そうだな。朝も早かったし、そろそろ昼食にするか」
「そうですね」
「よし、昼食にしようか」
エーガルさんがそう言い放った瞬間、俺は全力ダッシュでミーナ達が敷いているシートへ向かう。
「貴様! 普段の集合は一番鈍い癖に、こういう時だけ早いのはどういうことだ!? それに一度砂を落とさねば――」
エリックが後ろからごちゃごちゃと声をかけてくるが無視する。
まったくいちいち細かいことを言う奴だ。
そんなことを思いながらシートに向かった俺は、早速その上で転がろうと靴を脱ぐ。
「アル、早く休みたい気持ちもわかるけど、砂を落としてからやってきなさいよ。全身が砂まみれよ?」
しかし、シートに乗り込む前に、エルナ母さんに止められてしまった。
ぐっ、それもそうだ。砂だらけの俺がこのまま入ると、シートの上が砂だらけになってしまう。ここでは昼食を食べたり、寝転がったりするのだ。砂まみれにしたくはない。
「エリノラとシルヴィオもよ。海もあるのだし、砂をしっかり落としてからこっちにいらっしゃい」
「「はーい」」
エリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんもすっかりそのことを忘れていたのか、エルナ母さんに言われて海へと回れ右。
視線の先にある海では、こういうことに慣れているエリックとルーナさんが海水で砂を落としていた。
くっ、気付いていたのならば言ってくれれば良かったと言うのに……。
「ははは、砂を落としておいで」
俺が苦渋の表情を浮かべながらトボトボと歩いていると、あまり砂にかかっていないノルド父さんとエーガルさんが入れ替わりでやってきた。
くっ、二人は口を出すだけだから楽でいいよ。
「ねえ、あなた。いつもの場所に行ったら、大きな城があって驚きましたよ。いつの間にあんなものを作らせたんです?」
ナターシャさんがエーガルさんにそのような質問をすると、エーガルさんやノルド父さんから視線が向かってくる。
嫌な気配を感じた俺は、そそくさと逃げるように海へと走った。
◆
「俺の話を聞かずに走り出すからだ。バカめ」
「バカとはなんだ。この野郎」
「うおおおっ! 貴様! 足に砂をかけるな! くそっ、せっかく洗い終わったというのに!」
いきなりバカ呼ばわりしてきたエリックがムカついたので足で砂をかけてやった。
ははは、これでエリックも洗い直しだと思うと胸がスッとする思いだ。
心が晴れやかになったところで、俺は革鎧やグローブを外し、靴と靴下を脱いでいく。
靴からはサーッと砂が落ち、白い靴下は砂で見事に茶色へと変わっていた。
「うわあ、凄い砂……」
「母さんに言われて靴を余分に持ってきておいて良かったわ」
隣では同じようにシルヴィオ兄さんとエリノラ姉さんが靴を脱いでいた。
二人共大量の砂が靴に入り込んでいたようで、入念に砂を落としている。
うわあ、この変色した靴下を洗濯するのが大変そうだな。後で水魔法で軽く洗っておかないと。
砂まみれになった靴下を脱ぐと、俺は裸足となって海へと歩いていく。
気温が上がっているせいか浜辺の砂の温度は高い。
「これ夏とか大変そうだね」
「まあ、夏になると砂が熱くなることはあるな。俺も姉上も何度も歩いているせいか、今ではとっくに慣れたが」
きっと二人は何度も砂地裸足で歩くことで、足の裏の表皮が分厚くなっているのだろうな。
夏になると俺は裸足で砂地を歩くことは厳しそうだな。
なんてことを思いながら温かい砂を踏みしめて海へ。
すると次第に乾燥した砂地から、湿り気を帯びた砂地へと変わる。目の前には押し寄せてくる海水。ザザーンと音を立てながら何度も引いては押して。
こうやって海を見ているだけで十分時間を潰せるな。
とはいえ、今はお腹が空いており全身が砂まみれだ。波打ち際を眺めるのもほどほどに俺は海水へと足を入れていく。
すると冷たい海の水が柔らかく足を包んでくる。
火照った足の熱が一瞬にして奪い去られる。それと同時に足についていた砂もあっという間に流れていった。
「あっ、気持ちいいわね!」
「コリアット村の川の方が水は冷たいかな? どうしてだろう? 位置の違いかな?」
同じく海水に足を入れたエリノラ姉さんとシルヴィオ兄さん。
純粋に水の気持ち良さを味わっているエリノラ姉さんとは違い、シルヴィオ兄さんは温度の違いが気になるようだ。
まあ、水は冷えにくいし温まりにくしな。水の量が圧倒的に多い海では水が冷えにくいのだろうか。
「アル、エスポートやカグラの海の温度はどうだった?」
俺が軽くそのようなことを思っていると、シルヴィオ兄さんが尋ねてくる。
「うーん、エスポートやカグラの方が水温も低かった気がするよ。まあ、ここは二つの土地に比べて南だからじゃないかな?」
「……それもあるし、南から温かい海水がやってくるから、ここの海水は一般的な海よりも少し温かい」
俺とシルヴィオ兄さんがそのようなことを言っていると、ルーナさんが補足するように教えてくれた。
「そうなんですね」
それに納得が言ったのか、シルヴィオ兄さんが感心するように頷く。
なるほど、南から流れてくる海水の影響もあるのか。さすがは海に面している領主の家系とあってか、それなりに海についての知識はあるようだ。
温度の疑問についてある程度晴れると、スッキリしたのかシルヴィオ兄さんは手足についた砂を落としていく。
俺もそれにならって砂を落とす。指の間や爪の間まで。
「どうせ午後もここで稽古なのだ。そこまで神経質に砂を落とす必要もないだろ?」
「わかってるけど、快適に休憩時間を過ごすためにそこは譲れない」
どうせ午後も砂地で稽古をするので汚れるとはわかっているが、そこを面倒くさがって快適な休憩時間を不快なままでいたくないのだ。
「はぁー、海の水が冷たくて気持ちいいわねー」
「うわっ! ちょっと、エリノラ姉さん服が濡れるから!」
「何よ? ちょっと濡れたくらいでうるさいわね。別にこの暑さだし、少しくらい濡れたっていいじゃない――わぷっ!? うえええ、しょっぱ!」
エリノラ姉さんがボーっとしながら口を開いていたので、俺はそこを狙って海水を入れてやった。
すると、エリノラ姉さんが女性らしからぬ声を上げて海水を吐き出す。
「ちょっと何すんのよ!」
「別に少しくらい濡れたっていいんでしょ? だったら、これくらいかけても問題ないよね?」
「覚悟はできてんの?」
俺がエリノラ姉さんの言葉を借りて挑発的に言い放つと、エリノラ姉さんが剣呑な雰囲気を放って何故かにじり寄ってくる。
待って? 海でこうなったら定番は水をかけ合う勝負になるよね? だというのにどうしてエリノラ姉さんは近付いてくるんだ? 意味が分からない。
も、もしかしてこの姉は海で水のかけ合いなんてものではなく、海に引き倒して沈めることを考えているのではないだろう。
それはヤバい!
視界一杯にエリノラ姉さんが映る中、俺は恥も外聞もなく大声を上げる。
「ストップ! ルールを定めよう! 水のかけ合いだから接近戦は無し!」
俺がそういうとエリノラ姉さんから伸びてきた腕がピタリと止まる。
「…………接近戦なし? そんなんでどうやって決着をつけるのよ?」
「それはアレだよ。目とか鼻とか狙って相手が参ったって言うまでだよ」
「えー? 拘束して水中に沈めた方が早いじゃない」
「エリノラ姉さん、それは落とすっていうんだよ。相手を気絶に追い込むようなものは遊びに相応しくないよ」
この姉、なんて物騒なことを考えるのであろうか。
エマお姉様やシーラさんもエリノラ姉さんと川で遊んだことは何度もあるが、まさか毎回このような危険な遊びはしていないよね?
「……なんかちょっと楽しそう。私とエリックもやる」
「俺も参加するのか!? まあ、いい。こういう海での遊びは得意だ。アルフリート、貴様に目にものを見せてやろう!」
遊びというキーワードを聞いてうずうずしたのか、それとも水のかけ合いと聞いて本場の民は黙っていられなくなったのかルーナさんとエリックが参戦してくる。
というかエリック、ボッチの癖に得意なのか? どうせルーナさんや兄貴とやっただけだろうな。
「シルヴィオ兄さんもやる?」
「じゃあ、僕もやろうかな。何だか楽しそうだし」
よし、これで盾はゲットした。いざという時はシルヴィオ兄さんを生贄にすれば何とかなる気がする。
「それじゃあ、始めようか」
楽しい楽しい水のかけ合いをね。
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邪神に召喚されて、悪辣な罠や嫌がらせをしまくるダンジョン経営物語!
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