アルとエリックの再戦
コミック二巻が25日の金曜に発売!
今日から発売日まで毎日更新しようと思います。……多分。
青い海が広がる浜辺の真ん中。そこで俺は木剣を構えてエリックと対峙する。
前方にいるエリックの装備は俺と同じような革鎧に木剣だ。
ルーナさんのような速度重視の鎧や、小回りが利きやすい木剣とも違う標準的なもの。
以前トングで打ち合った際も、これといって妙なことはしてこなかったし、ルーナさんのような変則的なタイプではないだろう。
だが、標準的であるが決して弱くない。
浜辺で鍛えられた足腰と体幹から繰り出される剣技は鋭く、ぶれない。
トングでの攻防で見せた突き技はかなりの鋭さであった。
たまたま普段目にする突き技が、エリノラ姉さんの突きというものでなかったら俺はあそこで敗れていただろう。
剣の得意でない俺からすれば油断のできない相手だな。
「遠慮はしないぞアルフリート。以前の雪辱をここで果たしてやる!」
こいつ悪い顔してやがるな。
機会があれば海にでも突き飛ばすなり、転がして砂まみれにしてやったり。そんなみみっちいことを考えている気配がする。
そっちがその気なら、こっちだって考えがある。
「悪だくみをしてそうな気配がプンプンとするが、二人共準備はいいか?」
「「はい!」」
「武器はトングじゃなくていいか?」
「「いりません!」」
「では、始め!」
何だこの始まり方は。
そんなことを心の中で強く思いながら、俺とエリックは同時に地面を蹴る。
いつもよりも柔らかく不安定な足場を走り出す。
「うおおおおおお!」
エリックがそのような叫び声を上げて迫ってくる中、俺は足下にある砂を注視。
そして一番砂が盛り上がった場所までダッシュし、急ブレーキをかけた。
「くたばれアルフ――ぶわぁっ!?」
すると、エリックの顔まで砂が勢いよく飛んでいく。
反射的に腕で顔を覆うエリックの胴体に、俺は即座に突きを放つ。
「そっちがね!」
エリックは顔を覆うために腕を上げている。それに身体の中心点であり、点の攻撃である突きは捌きづらいだろう。
勝利を予感していた俺だが、予想は裏切られ木剣は空を切る。
まさかルーナさんのように身体が柔らかく、後ろに逸らしているのでは!?
「むおおおおお! またもや、卑怯な手でやられてたまるか!」
まさかの想像をしていたが違った。エリックは視界が遮られたとわかると、真っ先に身体を転がしたのだ。
よく即座にその行動をとれたものだ。人は視界が遮られるとパニックになるというのに。
エリックにとどめを刺しに行こうと思ったが、さすがに相手も素人ではない。
エリックは顔についた砂を払う暇も惜しいとばかりに、即座に立ち上がった。
ちっ、やり損ねた。
「卑怯とは心外だな。俺はただエリックに突きを放とうとしただけなのに」
「んなわけあるか! あそこで突きを放つのに足を止める訳ないだろう!」
確かにエリックの言う通りである。
あのタイミングで突きを放つならば足を止める必要はない。仮にエリックの動きを見て切り替えたといっても、エリックの攻撃の方が早いのは明白。
しかし、人というのは常に最適な答えを出せるわけもない。判断を間違えてしまうこともたまにはある。
「アル、絶対わざとね」
「あはは、わざとだね」
「……エリックと違い、賢い」
「まったく……」
外野からそのような言葉が聞こえてくるが気にしない。ノルド父さんが頭を抱えているけど気にしない。勝負は勝てばすべてだ。
さて、次はどのような一手で崩そうか。ノルド父さんがいなければ、常人には感知されない程度の力で魔法を使えるのに。
こっそりと砂を巻き上げたり、足に絡ませたり。サイキックで剣の軌道を変えたり。服を引っ張って体勢を崩したり。
ああ、魔法ならば戦術がいくらでも湧いてくるな。
「ええい、貴様に動かれると何をされるかわかったものではない!」
俺が次なる一手を思案していると、エリックが何か勘付いたのか距離を詰めてくる。
ええい、俺の一番嫌うことをやりおって。
思案することを中止手して、俺はひとまず振り下ろされる剣を迎撃。
木剣と木剣がぶつかり合う音で、乾いた音が――。
「って、ぶえっ! 木剣についた砂が……っ!」
「ハハハッ、かかったなアルフリート!」
この野郎、さっき転がった際に木剣に砂をつけてやがったな。
しかも、エリックのいる位置は風上。木剣がぶつかり、付着した砂が飛んでくるのは俺だけということだ。
「汚い奴め!」
「これは偶然だ! 日頃の行いの差というやつだな!」
「偶然だと言い張る奴が、かかったなとか言う訳ないだろ!」
「ええい! うるさい! ここでくたばれ!」
俺に図星を突かれたエリックが、顔を赤くして斬りかかってくる。
俺は目に付着した砂を取り払いながら、感覚を頼りに木剣を避けていく。
砂で視界が見えない以上、今は躱して時間を稼いで砂を取るしかない。
「このっ! このっ! くそっ! なぜ当たらない!?」
俺がエリックから間合いを取り、木剣を避けているとそのような声が聞こえる。
日頃から早いスピードで繰り出されるエリノラ姉さんの攻撃を避けているので、回避するのは得意だ。それに視界が悪かろうと、空間魔法で培われた空間把握能力があるからな。
間合いの感覚には自信がある。
「……驚いた。アルフリート君は間合いを取るのが凄く上手い」
「そうなのよね。剣の方は微妙だけど、何故か間合いを取って避けるのだけは上手いのよ」
「……それは普段からエリノラと打ち合っているせい。エリノラとまともに打ち合うよりも、避けた方がいいと思う」
まさにルーナさんの言う通り。エリノラ姉さんと打ち合うだなんて俺からすれば愚行だからな。いつも勝つことを考えるのではなく、どれだけ怪我を負わずに長く戦い続けられるかを念頭に戦っているから。
「おっと危ない」
そんなことを呑気に考えていたら、顔の目の前を木剣が通過した。危ないな。
「くっ! もう少しだったのに!」
俺が体勢を崩す勢いを利用して後退すると、エリックが悔しそうにしていた。
とはいっても、五センチくらい距離があったけどね。
俺は目元にある砂を軽く拭う。
派手に動いたお陰か、目元についた砂はほとんど取れていた。
これで視界の方も問題ない。
今度はこっちから攻めてやる。
視界が良好なのを確認すると、俺はエリックへと駆け出す。
すると、エリックは俺が先程の砂飛ばしをすると思っているのか露骨に顔を警戒する。
エリックが迷い、警戒すればこちらの剣も通りやすくなる。相手の反撃を気にせずに剣を振れるというもの。
俺は特に小手先の技をすることなく純粋な剣技を繰り出す。
エリックはそのことに戸惑った様子だったが、俺の木剣を冷静に対処。ぶれることなく木剣を合わせて、弾いて、逸らしてくる。
やはり慣れない砂地のせいか剣技のキレが悪い気がする。
長く打ち合っていると足元を気にする余裕もなくなり、普段よりも足に疲労を感じてしまう。息も少し上がってきた。
一方、砂地に慣れているエリックは涼しい顔つきだ。砂に足を取られることもなく、疲労を感じさせない表情。
ぶれない体幹はその攻撃を重くし、的確にする。
エリックと俺が長い間打ち合う度に、体力の差、剣の速さや正確さが浮き彫りになる。
俺が披露してきたと感じたのだろう。エリックが猛烈に木剣を振るって攻めてくる。
そしてエリックの木剣を持つ右手が、大きく後ろに引かれた。
これはパーティーの時に見た突き技だ。
そう確信した俺はなけなしの体力を絞って身体を逸らす。そこから一気に間合いを詰めて反撃――。
そう思ったのだがエリックの木剣は途中で軌道を変えて、右斜めからによる振り下ろしに変わっていた。
マジか。急いで身体を動かそうにも言う事は聞いてくれない。ルーナさんのように身体が極端に柔らかいわけでもないので、ここで身体を逸らすことも不可能。
――あ、これは俺の負けだ。
「そこまで!」
そう確信しながら振り下ろされる木剣を見つめていると、エーガルさんの声が響いた。
俺の頭上五センチほどで止まる木剣。
ちゃんと止めてくれたことにホッとしていると、木剣が動いてコツリと頭を叩いた。
「痛い」
「俺の勝ちだな! アルフリート! 最後は突き技だと思ったか? ハハハ、貴様ならそれを覚えていて警戒すると思ったぞ! フハハハハッ!」
俺の背中をバンバンと叩きながらドヤ顔で言うエリック。
……やっぱりこいつに負けるのは、ちょっと癪だった。
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