シルヴィオ兄さんVSルーナさん
「お帰り敗者。一合しかもたなかったね」
「黙れ」
砂まみれで歩いてくるエリックに慰めの言葉をかけると、不機嫌そうにそう言われた。
せっかく俺が忠告をした上で慰めたというのに愛想のないやつだ。
にしてもエリックとエリノラ姉さんの打ち合いは予想通り速攻で終わったな。
開始の声が上がってから五秒ぐらいだろうか。
本当に速いな。エリノラ姉さんが強すぎてエリックの実力がほとんど見られなかったが仕方がない。
次は予定通りルーナさんとシルヴィオ兄さんの打ち合いを見よう。
「なあ、アルフリートよ。確かお前は魔法が得意だったよな?」
そう思って視線を移動させようとすると、不意にエリックが話しかけてきた。
「そうだけど?」
「なるほど。ということは、その姉であるエリノラ嬢もお前と同じように魔力の扱いに長けているという訳か。素晴らしい身体強化の――」
「エリック、エリノラ姉さんは身体強化を使ってないぞ?」
妙な勘違いをして語ろうとするエリックを遮って、俺はきっぱりと告げる。
するとエリックは口をパクパクと魚のように動かし、驚愕の表情を浮かべる。
「……ば、バカな。あれほどの速さを魔力を使わずに出せるはずが……」
「出せるのがエリノラ姉さんなんだよ」
「…………」
俺とシルヴィオ兄さんならば納得できる、この言葉。
しかし、まだ一回しか打ち合っていないエリックからすれば、エリノラ姉さんの非常識さをどうも認識することができないようだ。
まあ、それについては今日嫌というほどわからされるだろう。
何も無理して言葉で説明する必要はないな。それを表現するように俺は考え込むエリックから視線を逸らして、ルーナさんとシルヴィオ兄さんの方を見る。
二人の方は速攻で決着はついたエリックの方とは違い、互いに間合いを測って睨み合っているようだ。
ルーナさんは相変わらず薄い防具に短めの木剣という身軽なもので、シルヴィオ兄さんは分厚めの防具に片手で持てる盾という重装備。
スピード重視と防御重視という正反対の性質を持つ二人が、どのような攻防をするのか。
ワクワクしながら見守っていると、いつも無表情なルーナさんが微かに表情を歪める。
「……隙がない」
どうやらシルヴィオ兄さんの得体の知れない圧迫感に気付いたようだ。
そう、シルヴィオ兄さんは盾を持つと本当に隙がないんだよ。何も考えず攻め込まれれば即座にカウンターをされてしまうような気迫を感じるのだ。
実際はカウンター以外怖くないので、それほどビビらなくてもいいのだが、それを知らないルーナさんからすればシルヴィオ兄さんはかなりの強者に見えるだろう。
「……隙がないなら、こっちから攻めるまで」
お互いに睨み合う時間が続くと、埒が明かないと思ったのかルーナさんが覚悟を決める。
ルーナさんは大きく息を吸い、息を吐くと、盾を構えるシルヴィオ兄さんの下に走り出した。
ルーナさんが正面から斬り込むと、シルヴィオ兄さんは左手に装備した盾でそれを受ける。と同時に右手に持った木剣で薙ぎ払いの鋭いカウンター。
シルヴィオ兄さんの得意な技が繰り出され、早速決まったかと思いきや、突然ルーナさんの姿が消えた。
いや、消えたのではその場で上半身を後ろに極限まで逸らして薙ぎ払いを躱したのだ。
「ええっ?」
身体柔らか! 体操選手やスケート選手のような柔軟性だ。
薙ぎ払いを交わしたルーナさんは、シルヴィオ兄さんの足を蹴って後退させる。
それから元の体勢に戻ると、体勢を崩したシルヴィオ兄さんの側面へと回り込む。
砂を這うように進むルーナさんから繰り出される鋭い突き。
シルヴィオ兄さんはそれでも木剣を合わせるようにして突きを流す。しかし、それは不十分な体勢だったせいか綺麗にはいかない。
それを読んでいていてかルーナさんは、そのまま中途半端に流されるエネルギーを利用してさらに懐へ。
それを嫌ってシルヴィオ兄さんは躱しながら何とか後退しようと図る。
しかし、ルーナさんはそれをさせずに短く、持ち回りのいい木剣と柔らかい身体を利用して怒涛の攻めを繰り出した。
攻めて攻めて躱して攻める。攻撃こそが最大の防御。
ルーナさんの戦闘スタイルは、そんな言葉を彷彿とさせるものだった。
苦しげな表情で応戦するシルヴィオ兄さんの周りをルーナさんは縦横無尽に駆ける。
それはまるで舞いを踊る女神のようで、シルヴィオ兄さんはルーナさんの予測のできない攻めに翻弄される。
シルヴィオ兄さんもそれに必死に食らいついて防御するが、ここは慣れない砂地。深く積もった砂に足を取られたシルヴィオ兄さんは体勢を大きく崩す。
ルーナさんがそれを見逃すことなく斬り込むと、シルヴィオ兄さんは苦し紛れに盾を勢いよく突き出した。
「出た! シルヴィオバッシュ!」
「シルヴィオバッシュ?」
俺が興奮した声を上げると、エリックが不思議そうに首を傾げる。
シルヴィオ兄さんの代名詞とも言える技だ! まあ、今はどうでもいいけど。
繰り出される反撃の盾。ルーナさんはそれを躱すのかと思いきや、自ら突っ込んだ。
柔らかい身体を活かしながら盾を躱し、シルヴィオ兄さんの身体を土台にして転がる。
すると、ルーナさんは瞬く間にシルヴィオ兄さんの背中を取り首に木剣を当てた。
「そこまでだ!」
エーガルさんから終了の声が上がると、ルーナさんはゆっくりと木剣を離す。
うわぁ、ルーナさんめちゃくちゃ強いじゃん。
シルヴィオ兄さんは、慣れない浜辺の砂というのもあったかもしれないが、それがなくてもルーナさんの勝利を予測させる有利さだった。
柔らかい身体を生かした変幻自在の体術と剣術。防御に秀でたシルヴィオ兄さんであっても、ルーナさんに負けるというエリノラ姉さんの判断は正しかったな。
あー、ルーナさんに勝てるイメージがまったくできない。
「思ったよりも時間がかかったわね?」
ルーナさんが身体についた砂を払って戻ってくると、エリノラ姉さんが声をかける。
「……エリノラに聞いているよりもずっと強かった。あの防御力、反則」
「でも、ああいうのを攻め切るのが得意でしょ?」
「……まあね」
ルーナさんの返答は短いものであったが、その声や表情からは確かな自信のようなものが感じられた。
変則的な攻撃が得意とあってか、あらゆる防御を潜り抜ける自信があるのだろうな。
「いやー、負けちゃったよ」
「シルヴィオ兄さん、お疲れ」
「初見で姉上とあそこまで打ち合えるとは大したものです」
戻ってきたシルヴィオ兄さんに俺とエリックは労いの言葉をかける。
「あれは打ち合いになっていたのかな? 最初にカウンターしてから、こっちからは一切攻撃させてもらえなかったよ」
「ルーナさん、すごく身体が柔らかかったよね」
「柔らかい身体を活かし、独特のリズムやフェイントを織り交ぜながら攻撃してくるのが姉上の戦闘スタイルだからな。慣れるのに苦労すると思うぞ」
エリノラ姉さんやシルヴィオ兄さんとはまったく違う戦闘スタイル。これは慣れるのに苦労しそうだな。
「次はエリックとアルフリート君だ!」
俺達が今の戦いについて呑気に話し合っていると、エーガルさんからそのような声が上がる。
すると、エリックは俺に挑発的な視線を寄越してきた。
「ほう、ようやく貴様と再戦することができるな」
「えー? もしかしてトングの斬り合いを根に持っている感じ?」
「当たり前だ! あのような結果は無効だ。今度は純粋な剣術だけで勝負だ!」
無効だというのならば、根に持たなくてもいいだろうに……。
まあ、エリックにそんなことを言っても聞いてくれないだろう。
とにかく、こいつはトング勝負であっても、俺に負けるというのが気に入らないようだ。
こういう稽古での結果は気にしない性分であるが、エリックに負けるのも何か癪だな。
今後こいつにバカにされないように、ここは勝っておこう。
「よし、今回も返り討ちだ」
「今回は魔法は無しだからな! 覚悟しろよアルフリート!」
エリックが立ち上がり、指を突きつけながら言うと遠くからエーガルさんの苛立った声が。
「二人とも早くしろ!」
「「あっ、はい!」」
小説家になろうで地味に連載していた、『邪神の異世界召喚~鬼畜魔王はダンジョンにてわらう』がHJノベルス様から書籍化します。
発売は6月末です。
興味のあるかたはどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n4974dc/




