豪快な双子漁師
『このマンガがすごい!』Webでコミカライズ13話が更新されました! 原作にない成分も含まれております! ちょっとカッコいいルンバです。よろしければチェックをどうぞ!
シルヴィオ兄さんとミーナの体調を心配して、陸に引き返そうとしたのだが二人が大丈夫と言い張るので、俺達はその場で小休止をすることになった。
せっかく海に出たので、もう少し堪能したい気持ちはわかるが、二人ともリバースするというのは勘弁してほしいな。せっかくの海の気分が台無しになるし。
まだまだ時間はあるので、今日は出直して明日とか明後日でもいいんだけどな。まあ、ここは二人の好きにさせるか。
「お二人とも、耳たぶの裏と骨の出っ張ったところにあるくぼみを押してくだせえ。少しは楽になるかもしれねえです」
「ここですか?」
「へい、そこを押せば船酔いは和らげることができるって、昔から言われているんで。全員が効くわけでもないですが、それで楽になるやつもいます」
翳風という場所だったかな? 内耳や自律神経に関連するツボだったと思う。
前世で船酔いした時の対処法としていくつか調べていたので知識だけはある。もっとも、前世でも酔わない体質だったので使ったことはないけど。
それにしても、昔からの知恵というのも侮れないものだ。こういうのは大体が間違っていたり、一部歪んでいたりするものが多いのだが、今回の場合はしっかりと知識として受け継がれているようだな。
「……あ、なんかマシになってきたような気がします」
「うーん、多分?」
「程よく刺激したら、しっかりと空気を吸って楽な姿勢でいてくだせえ」
ミーナはいくらなんでも効きが早すぎる。気のせいだと思うが、本人的に気持ちが楽になったと思えばそれでいいだろう。
タイタスもそこがわかっているのか、突っ込むことなく優しい言葉をかけていた。
「苦しい時は、すぐに言ってくだせえ。その時はすぐに陸に引き返しやすから」
「「はい」」
「後、もうダメだと思ったら遠慮なく海に吐いてくだせえ。我慢しない方が楽になりやすから」
「そ、それだけは乙女の意地で堪えます」
弱々しい表情だが、そこだけは譲れないのかミーナが力強く言う。
「……そう言う人ほど、船の上とか人にぶちまけたりする」
まったくもってそうだな。船に乗っている間は、ミーナにできるだけ近づかないようにしよう。
ミーナやシルヴィオ兄さんが座っている場所から離れた俺は、しゃがみ込んで水面を覗き込む。
カグラに向かう時の船とは違って、すぐ目の前に海がある。
足元に伝わってくる波の揺れ、耳に伝わってくる波の音や風の音、鼻孔をくすぐる潮の香り。それらを身体で感じながら、じーっと海の中を覗き込む。
すると、海中で黄色い斑点が見えた。そこを凝視すると、黒い色に黄色い斑点模様をした魚が二匹、三匹と現れて、気が付けば魚の群れとなっていた。
ベースの色自体は黒色と地味だが、蛍光色のような黄色い斑点が輝いているために、船の上からでも十分に見えた。
「おお、クロワナの群れだな」
俺が眺めていると、エリックが後ろでそんな言葉を呟いた。
アロワナみたいな顔をしているが、こいつは全く別物で海でも生息できるようだな。
この世界独自の魚だろう。
皆もクロワナの群れに気付いたのか、興味深そうに水面を覗き込む。
「ねえ、これって食べられるの?」
「……食べられる。黒い鱗とは裏腹に、中には白くて脂の乗った身がたくさん入っている」
「へー、そうなの」
エリノラ姉さんの興味は、この魚が食べられるか否か。それだけらしい。
もうちょっと物事に興味を持って欲しいな。そうすれば、剣の稽古をやる時間が減って、俺は万々歳なのに。
そんなことを思いながらクロワナの群れを眺めていると、前方から同じような漁船が近づいてくる。
そして、その漁船はうちの船の近くにくるとゆっくりと停止した。
「あの船は?」
「多分、クロワナを獲ろうとしているのだろう」
エリックがそう言葉を返すと、船の中央から男性二人が現れた。
茶色い髪の毛を角刈りにした大男。肌は小麦色で日に焼けており、半袖シャツは筋肉でパンパンに膨れ上がっている。
そんな大男の顔立ちを簡単に説明すると、見事なゴリラ顔だ。それが二人もいる。
「なに、あのゴリラは? 海に住む魔物? 雪山に生息するイエティとかいうやつに似ているわ」
「……残念ながらギリギリ人間。あれはこの村にいる双子の漁師」
腰にある剣の柄に手をかけながら言うエリノラ姉さんと、残念そうに首を横に振るルーナさん。
二人とも、中々に酷いことを言うな。
俺が思わず苦笑いをしていると、双子のゴリラが女性の太ももほどの大きさの腕こちらに振ってきた。
「エリックの坊ちゃん! 寛いでるところ悪いですけど、ちょっと漁をさせてもらいますね!」
「クロワナの群れを見つけたんで!」
同じような顔立ちから似たような声が出てくると、少し不思議な気分だ。どっちがどっちだが、まるでわからない。
「ほら、ゴリラの親分。返事しないと」
俺がからかうように言うと、エリックは「誰がゴリラの親分だ」と突っ込み「ああ、こっちに気にせずに漁をやるといい!」と声を張り上げた。
「「ありがとうございまっす!」」
二人のゴリラは元気よく声を上げると、早速動き回って準備を始めた。
「一体どうやってクロワナを獲るんだろう」
「それは見ていればわかる。奴等の漁は豪快で面白いぞ」
俺が尋ねると、エリックが得意げな笑みを浮かべた。
漁で面白いとは何なのか。見応えがある一本釣りや、特殊なやり方なのか。どちらにせよ楽しみなので、俺はエリックの言う通りに二人のゴリラを見守ることにした。
二人のゴリラのうち、一人は帆の方へ。もう一人はクロワナの群れがよく見える端に陣取る。
端に位置するゴリラは、クロワナの動きを探るように注意深く観察。
その表情は本人からすれば真剣なのであろうが、俺達からすればおちょくられているようにしか見えないな。ゴリラ度が五割り増しになっている。
「……ぷっ」
「おい、貴様。笑ってやるなよ」
「とか言いながら、エリックも笑ってるよね?」
思わず噴いた俺に、エリックが突っ込んでくるがエリック自身も半笑いだった。
「もしかして面白い漁って、彼の顔芸のこと?」
「違う。もうすぐだから大人しく見ていろ」
エリックに顎で促されて、俺は再び視線を戻す。
すると、海面を覗き込んでいたゴリラが大きく目を見開き、立ち上がった。
それから身体にある魔力を練り始めた。
「『我は求める 流るる水を 意のままに』ッ! おらぁ!」 」
ゴリラが詠唱を唱えると、クロワナの群れが泳いでいた海面が一気に打ち上げられる。
海中を泳いでいたクロワナ達は、その場から離れようとするが既に水全体はゴリラの支配下だ。逃げることはできない。
打ち上げられた水流は、ゴリラにコントロールされ漁船の方へ。
海水に囚われたクロワナ達は、なすすべも無く漁船の中心にある網に入れられた。
「入ったか!」
「入ったぞ! 今日も大漁だい!」
網に入ったらしきクロワナを見て、大喜びをするゴリラ達。
「おい、弟よ! 群れがあっちに行ったぞ!」
「任せろ兄貴! 追っかける!」
帆にいる弟らしきゴリラが頷くと、閉じていた帆がばさりと広がる。
「『我は求める 大気による風の息吹を』っ!」
弟ゴリラが呪文を唱えると、ヒュウと風が吹いて、漁船は器用にクロワナの群れを追いかけ始めた。器用に旋回したり、直進する様はまるで海を泳ぐ魚のようだ。
「おう! もうちょい右だ!」
「わかった!」
「おっしゃ! もういっちょ行くぞ!」
漁船はクロワナに追いついたのか、再び遠くで上がる水柱。そして、それが吸い込まれるようにして漁船の網へと落ちていく。
なるほど。水魔法と風魔法を駆使して漁をするのか。魔法があるこの世界ならではの漁法だな。
「兄であるガリバスが水魔法で魚を獲り、弟であるウルバスが風魔法で船を自由に動かす。あの双子は村でも貴重な実力派の魔法使いだ」
俺が感心していると、エリックが自慢げに言った。
兄の水魔法は単純な魔法操作であるが、あれほどの量の海水をコントロールしようと思えば結構な魔力を食う。見た目とは反して、中々の魔力量を保有している模様だ。
弟の使った風魔法も繊細な魔法制御ができており、船を機敏に動かしている。二人とも粗削りな技術ではあるが中々の力量だ。
「まさか、あのなりで魔法を使うとは思わなかったよ」
「だろうな」
観念するように俺が言うと、エリックがくっくと笑う。その笑みはとても無邪気で悪戯が成功した子供のようだった。
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