酔う者、酔わない者
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「ふあああ! 海風が気持ちいいですね!」
「それに景色も綺麗だね! どこまで青色が広がっていて空と海が混じり合っているようだよ!」
海風に煽られ、なびく髪を押さえながら嬉しそうに叫ぶミーナとシルヴィオ兄さん。
港から離れて海に出て数十分が経っているが、二人はずっと興奮しっぱなしだ。
船の上から見る初めての海がよっぽど楽しいのだろう。
他のメンバーは何事にも反応して楽しそうにする二人を微笑ましそうに見ている。
船を操縦しているタイタスも、強面な顔を崩して優しげな表情になっていた。
「あっ! あっちの方に人がいますよ!?」
「本当だ! 何をしてるんだろ?」
ミーナが指さす方を見れば、岩場の方で子供達が何か作業をしているようだ。
俺達三人が首を傾げていると、気付いたエリックが説明をしにやってくる。
「あれは村の子供達が漁をしているのだ。と言っても、魚ではなく岩場に張り付いている貝や、底に生えている海藻を獲っているのだ。ああいった浅瀬ならば、小さな子供でも十分に働けるからな」
エリックの言う通り、よく見れば子供達の手には緑色や赤色といったぬめぬめとした海藻が手にある。一部の男の子などは、嫌がる女の子に海藻をけしかけたりとわんぱくぶりを発揮しているようだ。
「あのぬめぬめとしたやつが海藻ですか?」
「そうだな。乾燥する前は大体あんな感じだ」
山に囲まれているコリアット村でも海藻の類は流れてくる。もっとも、すべて乾燥した状態なので元の状態を見るのは初めてだろう。
ミーナとシルヴィオ兄さんは興味深そうに眺めている。
「にしても、岩場で走り回ってよくこけないね。危ないと思うんだけど……」
「ですよね」
岩場で走り回るなど子供、大人に限らず危ない行為でしかないのだが、意外にも子供達は慣れた様子だ。
「……ここの村で暮らす人は、海に支えられて育っている。あれくらいの岩場だったら子供でも安全な道を瞬時に判断して、走り回ることができる」
「それでも推奨はされない行為だがな」
ルーナさんの言葉に付け加えるように言うエリック。
そりゃ、そうだ。岩場でこけたらかすり傷で済むとは思えないからな。
「こら、危ないから走っちゃダメでしょ!」
「「えー」」
「次ふざけたら、もう海に連れてきてあげないからね」
「……わかった」
「へーい」
俺達がハラハラしながら見守っていると、年長者である少女がそれを止めてくれた。
あのような不安定な場所で小さな子供が走り回るなんて心臓に悪すぎるからな。お陰で俺の心臓もホッとした。
「ルーナ、あっちでは何をやってるの?」
そんなことを思いながらボーっと子供達を眺めていると、今度はエリノラ姉さんがさらに奥を指さす。
そちらの方に目を向けると、先ほどの場所とは打って変わり、海が深く、大きな岩場が点在している場所が見えた。
そこには、ほぼ全裸の男性がおり、長い銛を手に持っていた。
「きゃあっ!? ちょっとエリノラ様! なんてものを見せるんですか!」
全裸に近い男性を見て、ミーナが顔を赤くし、両手で覆いながら叫ぶ。
しかし、興味はあるのか指の間からばっちりと見ているように思える。
「腰に布を巻いているんだし、その反応は大袈裟じゃない?」
どこか呆れたような声を出すエリノラ姉さん。
初心な反応をするミーナとは正反対に、エリノラ姉さんは至って落ち着いた様子だ。あんなものなど見慣れていると言わんばかり。
「そういう問題じゃないですよ! というかエリノラ様、よく平気ですね?」
「男に混じって稽古をしていれば、あんな光景にも慣れるわよ」
「……男は汗をかくと、すぐに服を脱ぐ」
暑さからの手っ取り早く逃れる術は、服を脱ぐことだからな。この世界では肉体労働者はすぐに服を脱いでしまう。
日常的に男性に混じって稽古に参加している二人からすれば、男の裸などで悲鳴を上げることなどないのだろう。
「え、えー、そういうものなんですか? ……なんか一番年上である私だけが狼狽えるのが癪です」
この二人が特殊なだけで、普通の貴族令嬢は狼狽えると思うけどね。
「で、結局あれは何なの? 海中で戦う戦士の稽古とか?」
「……あれは銛突き。海に潜って、あの細長い銛というもので魚を突いて獲る。海には魔物もいるから一流の戦士じゃないとなれない職業」
そうか。この世界では海にも人を襲う魔物がいる。海中という不利な地形でも、十分に魔物を仕留められる技量となると中々の実力が必要になるな。一流の戦士じゃないとなれないというのも納得だ。
「へー、面白そうね」
エリノラ姉さんが、どこか不敵な笑みを浮かべて笑う。
どうしてそんな危ないものに興味を示すのか……。俺としては不思議でならないな。
「……エリノラなら、海の潜り方と銛の扱いに慣れればいけると思う。今度やってみる?」
「そうね。今度見学させてもらうわ」
「わかった」
それから船は、人々の生活が見える湾岸部を通り過ぎると、沖の方へと進んでいく。
沖の方に出ると少し海風も強まり、流れる波も少し強くなった様子。
波が強くなると、当然船の揺れも強くなるわけで……。
「……何か、もの凄くお腹が気持ち悪いです。何ですかこれは?」
「……多分、船酔いってやつかな? うう、僕も気持ち悪い」
ミーナとシルヴィオ兄さんが見事に酔ってしまった。
さっきまではしゃいでいた姿から一転して、グロッキー状態。顔を真っ青にして、もはや立っているのもしんどそうな様子だ。
「ああ、やっぱりなっちまいやしたね。お二人は平気なんです?」
「俺は平気。酔わないタイプだから」
「平気ってどういうこと?」
俺は乗り物酔いなどに強いタイプだ。それはカグラでの長期の船旅でも証明されている事実。エリノラ姉さんに至っては聞くまでもないだろう。
俺とエリノラ姉さんが船酔いしていないことにタイタスはホッとすると、二人が座れるように場所を空ける。
「狭いですが、ここに座って休んでくだせえ」
ミーナとシルヴィオ兄さんは無言で頷くと、幽鬼のような足取りで、足を進めて座り込んだ。
まるで一気に老けこんで、老人にでもなってしまったかのようだ。
「ねえ、アル。どういうことなのよ?」
俺がグロッキーな二人を見ていると、エリノラ姉さんが肩を突いて尋ねてくる。
「船に乗っていると、波の揺れによって身体が気持ち悪くなったりするんだよ。馬車で慣れていない人が酔って気持ち悪くなるのと同じだよ」
「あ、そうなのね。あたしはまったく酔わないから気持ちはわからないけど」
本当は耳と目のそれぞれから脳に送られる情報のズレにより、混乱が生じて、自律神経に乱れが発生した時の症状だったはず。
適当に噛み砕いた説明であるが、エリノラ姉さんは満足したようだ。
好奇心はあるけど、それ以上は興味を示さないんだよな。
結果さえわかれば、それがどういった理由であるのかはどうでもいいって感じ。しかし、シルヴィオ兄さんは理由を気にして貪欲に調べたり、考えたりする。
それがシルヴィオ兄さんとエリノラ姉さんの大きな違いだろうな。
漫画の更新はあくまで予定ですので、少し前後することも……。ごめんなさい。




