唐揚げ雲
このマンガがすごい! Webで漫画最新話が公開されました。ルンバが屋敷にやってくるシーンです。よろしければ、チェックしてください。
ガタゴトと馬車に揺られて、スロウレット家の家族はシルフォード領へと向かう。
とはいっても今はコリアット村から離れたばかりだ。 到着するのは今から四日後。まだまだシルフォード領に着くのは時間がかかる。
まだまだ先は長いから、今はのんびり過ごしておこう。
俺は席に座りながら、ぼんやりと流れゆく景色を眺める。
今日の天気は晴れ。青い空がどこまでも広がり真っ白な雲が悠々と漂っている絶好の旅日和だ。
辺りには広大な草原が広がっており、それを囲むように山々が連なっている。
人の姿はまったく見えず、遠くの方で鳥の群れが見えるくらい。見事なまでの大自然だ。
「あの草原の上で寝転がったら気持ちいいんだろうなぁ」
「フカフカの草の上で思いっきり日光を浴びてみたいです」
俺がぼんやりと呟くと、同じく窓から景色を眺めているミーナが和やかな声で呟く。
具体的な言葉で言われると、実にそれをやりたくなる。
「じゃあ、今から皆で馬車を降りて草原で昼寝をしよう」
「いいですね!」
「何を言ってるのよ。最初からそんな事していたらちっとも進まないじゃない。馬の休憩時間か、昼食の時間まで我慢しなさい」
俺とミーナが意気投合して話していると、エルナ母さんに注意されてしまった。
チッ……機嫌が良くなっている今ならいけるのではないかと思ったが無理だったか。
まあ、これはわかっていたことだ。
俺とミーナは「「はーい」」と生返事をして再び視線を外へ。
「あっ、アルフリート様! あの雲、どことなく唐揚げっぽくないですか!?」
俺の肩をペシペシと叩きながら、興奮した声を上げるミーナ。
ハートとかソフトクリームとか動物っぽい形ならわかるけど、唐揚げって何だ。
「そんなのどこにあるの?」
「あれです! あれ!」
あれって言われてもわからない。
ミーナに細かく質問しながら視線を巡らせていくと、それらしい雲を見つけた。
「……なるほど、言われてみれば唐揚げっぽい」
「ですよね!」
唐揚げの形をした曇って何だよ。そう思っていた俺だが、本当にそんな形をした雲を見つけた。
形そのものは何てことのない不規則な形をしたもの。だけど、凹凸感が非常に出ているのだ。
雲の陰影や光の加減かはわからないが面白いものだ。前世のようにカメラやスマホがあったのならば間違いなく写真を撮っていただろう。
「どうしたの? 面白い雲でもあるの?」
俺の隣で本を読んでいるシルヴィオ兄さんも気になったのか、本をパタリと閉じて窓へと身を寄せてきた。
俺とミーナはそれとなく身体をずらしてシルヴィオ兄さんも外の景色を覗き込めるようにしてあげる。
「あそこに唐揚げの形をした雲があるんだ」
「唐揚げ? どれどれ?」
俺と同じように言葉を重ねると、程なくしてシルヴィオ兄さんが唐揚げ雲を見つける。
「ああ! 本当だ! 言われてみれば唐揚げだね! というかもう唐揚げにしか見えないね」
これにはシルヴィオ兄さんも驚いたのか、目を丸くしていた。そしていつもよりもテンション高めに笑う。
「ああ、唐揚げが食べたくなってきました。アルフリート様、旅先でも作れませんかね?」
「できないことはないけど、さすがに屋敷みたいに美味しくはできないよ? 魔導コンロもないし、パリッとした食感にはならないと思う」
「あの食感がない唐揚げなんて唐揚げじゃありません!」
俺の言葉にミーナが毅然とした表情で叫ぶ。
そうそう。あれは大量の油を使って、高温で一気に揚げるからいいんだよね。
ここで無理に作っても、歯応えのないベシャッとした唐揚げができるだけだと思う。ミーナもそれをわかっているのだろう。
「でも、それを捻じ曲げたくなるくらい唐揚げが猛烈に食べたいです……っ!」
「……昨日もたくさん食べたじゃないか」
「それでもです!」
シルフォード領には新鮮な海鮮料理がある。当然向こうに着けば、名物であるそれらを出してくるわけで、肉料理は後回しになる。
旅をしている四日間は保存食や、出来合いの物でいつも食べるような凝った料理は食べることができない。
それを考慮してか、一昨日くらいから盛大に料理を食べていたのである。
「僕はもう十分食べたし大丈夫かな」
「俺も」
串揚げ、唐揚げ、天ぷら、ハンバーグと様々な物を連日で食べた。
確かに美味しかったのだが、俺とシルヴィオ兄さんからすれば連続で食べればもう十分だ。
むしろ、今すぐにシルフォード領で海鮮料理を食べたいくらいだ。
「そんなっ……! 二人共つれないです! エリノラ様はどうですか!?」
同じ濃い味派閥による賛同が欲しかったのか、ミーナが対面にいるエリノラ姉さんへと問いかける。
そういえば、エリノラ姉さんがやけに静かだな? 何をやっているのだろう。
そう思って視線をやると、エリノラ姉さんは剣の手入れをしていた。それも木剣ではなく真剣。銀色に光る刃を丁寧に磨いていた。
エリノラ姉さんは手の動きを止めるとミーナへと視線を移す。
それから考え込むように唸り声を上げて。
「んー、さすがにあたしもさっぱりした物が食べたいわね。塩魚とか味噌汁とか」
「ええええっ!? 私と同じ濃い味の料理を好むエリノラ様がそんな事を言うなんて!?」
エリノラ姉さんの言葉に驚くミーナ。
「あたしは確かに濃い味のものが好きだけど、毎日食べたいと思うほどじゃないからね?」
エリノラ姉さんは濃い味のものを好むし、魚よりも肉派だ。
しかし、ミーナのように偏食的なまでに同じものを食べはしない。
「というか、さっきから気になっているんだけど、どうして剣なんて磨いてるの?」
「何言ってるのよ。ここはもうコリアット村じゃないのよ? 魔物が出てきてもすぐに対処できるようにしてるのよ」
俺が尋ねると、エリノラ姉さんが呆れの声を上げる。
なるほど、確かに今は平和なコリアット村ではない。魔物の生息圏内だ。備えておくことは決して悪いことではないな。
さすがは騎士を目指しているだけあって、危機感をきちんと持っているのだな。
などと納得していると、エリノラ姉さんがこちらに刃先を向けて刃の確認をしだす。
ちょっと、それ凄く怖いのでやめてもらえる?
俺は尖った刃の先端を気にしながらエリノラ姉さんに言う。
「ノルド父さんやエルナ母さんがいるから、そこまで気を張らなくていいんじゃない?」
「いいのよ。魔物が出てきたら出てきたでいい運動になるから」
まるでジョギングやスポーツをやるような感覚で言うエリノラ姉さん。
魔物の襲来というのはもっと危険なものだと思うのだが……。
「むしろ、あたしからすれば出てきて欲しいくらいね。ずっと馬車で座っているのも退屈だし」
そんな暇つぶし感覚で魔物に襲ってこられては困る。だが、このような護衛がいると思うと頼もしいことこの上ないな。
「……今回の旅の安全は確約されたようなものだね」
「ノルド様やエルナ様、エリノラ様がいれば例えドラゴンが相手でも余裕かもしれないですね!」
達観したような俺の呟きに、ミーナが無邪気に笑いながら答える。
だけど、それは冗談や誇張なんかではなく事実かもしれないというのが恐ろしいところだな。




