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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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ぎりぎりのジェンガ

 

「それじゃあ、ジェンガをやろうか」


「ええ!」


 タワーを完成させて言うと、エリノラ姉さんも気持ちを切り替えたのかいつものように元気な声で返事をする。


「じゃあ、最初は僕からいくね」


「いいわよ」


 ルールはすごく単純であるが、経験者が見本を見せるのがいい。順番は自然とシルヴィオ兄さん、俺、エリノラ姉さんという風に決まった。


 一番目であるシルヴィオ兄さんが、一番下にある真ん中のブロックを抜く。そして危なげなく一番上へと重ねた。


「次は俺だね」


 二番目である俺は、ちょうど真ん中くらいにある右端のブロックをターゲットに決めた。そーっと指を突き出して押すと、ツーッとブロックが抜けていく。


 俺はそれを丁寧に引っこ抜いて、シルヴィオ兄さんが重ねたブロックの隣にゆっくり置いた。


「こういう感じに繰り返していくんだよ」


「わかったわ!」


 エリノラ姉さんは、返事をするなり早速と右手を伸ばす。


 エリノラ姉さんはどこのブロックを抜くか迷うこともなく、スッと細い指を押し込んだ。


 真ん中にあるブロックが勢いよく押し出される。


 それによりブロックがすっぽ抜けるように飛び出し、床に落ちてカランカランと音を立てる。


 最初の方とはいえ、思い切った抜き方をするものだ。場所が悪ければ一発で崩れたのではないだろうか。


 何故だか見ているこちらがヒヤヒヤしてしまった。


 そんな俺達をよそにエリノラ姉さんは、嬉しそうに押し出したブロックを一番上へと積み上げた。


「これなら簡単そうね!」


 最初はそう思うが、バランスが傾き始めると途端に難しくなるのがこの遊びだ。


 俺とシルヴィオ兄さんは、それを注意せずに敢えて無言を貫いた。


 それからシルヴィオ兄さんがジェンガを引っこ抜き一番上へと積み上げる。俺も危なげなく無難なブロックを抜いては積み上げる。


 エリノラ姉さんは、少々豪快ながらも得意の直感を頼りに崩す事もない。


 そんな風に黙々と三人でジェンガを積み上げていくと、次第に下の方のバランスが悪くなってきた。


「何だか随分と不安定になってきたわね」


 あちこちにぽっかりと隙間のできたジェンガを見て、エリノラ姉さんが呟く。


 予定よりも随分と早くにバランスが崩れてきた。


 その原因は呑気にタワーを眺めているエリノラ姉さんが考えなしに引っこ抜いたからだ。


 俺とシルヴィオ兄さんからすれば、どうして今も立っているのか不思議なくらい。


 上へ積み上がっていく見た目とは裏腹に、既にジェンガは崩壊の危機へと迫っていた。


 だが、ジェンガとしての醍醐味はここからといっていいだろう。


 この崩壊間際のタワーをどこまで積み上げられるか。それが各々の腕の見せ所なのだから。


「……次は僕だね」


 崩壊しそうなタワーを目の前に、シルヴィオ兄さんが少し緊張した面持ちを浮かべる。


 シルヴィオ兄さんはタワーから抜けるべきブロックを探すべく、あらゆる角度からタワーを眺める。


 シルヴィオ兄さんの真剣な雰囲気を察して、近くで座っていた俺やエリノラ姉さんも遠慮して一歩下がる。


 俺とエリノラ姉さんが見守る中、シルヴィオ兄さんは慎重にタワーを観察。


 時折迷うように指が動いているのは、悩んでいる証拠だろう。


 狙いを定めている場所は、俺達が一番最初にブロックを積み上げた場所だ。それくらい今のタワーは大きく積み上がっている。


 下の方を手をつけることは不可能だからな。上の方を狙っていくのが定石だろう。


 シルヴィオ兄さんの指がゆっくり真ん中のブロックへと迫る。


 シルヴィオ兄さんは、右手の指でゆっくりと真ん中のブロックを押し出しながら、押し出された部分を左手の指でゆっくりと引っ張っている。


「……何か見ているこっちまで緊張してきたわね」


「それもジェンガの醍醐味だよ」


 俺達が緊張感を抱く中、シルヴィオ兄さんがゆっくりとブロックを押し出した。


 その瞬間、バランスの悪いタワーが微かに震える。


「あっ!」


 エリノラ姉さんの口から微かに漏れ出る声。


 全員が固唾を飲んで見守る中、揺れていたタワーは崩壊することなく、その場で静止した。


「ふぅー、何とか倒れなかったわね」


「まだ積み上げる作業が残っているよ」


「そうだったわ」


 ホッとするのはまだ早い。そう、ジェンガはきちんと積み上げてこそジェンガなのだ。抜いて喜んでいるようではいけない。


 弛緩した空気が張り詰めた空気へと戻る。


 そんな中、シルヴィオ兄さんはブロックをゆっくりと上へと持ち上げる。その動きたるや、まるで神に供物でも捧げるかのような丁寧な動きだ。


 ジーっと俺とエリノラ姉さんが見守る中、シルヴィオ兄さんがカチャリとブロックを積み上げる。


 そして、物音や空気の衝撃を与えないようにゆっくりと離れた。


 タワーは崩れることなく、見事に立っていた。


「ふー、次はアルだよ」


 緊張感から解放されたシルヴィオ兄さんが、爽やかな笑顔を浮かべて促してくる。


 くそ、さっきまで死にそうな顔を浮かべながらやっていた癖に、自分の番が終わった途端に涼しげな顔をしちゃって。


 シルヴィオ兄さんは涼しげな表情を憎らしく思いながら、俺はジェンガへと近付く。


 さて、どこを抜くべきだろうか。


 下部分はエリノラ姉さんに食い散らかされて、もはやもぬけの殻。そこを弄ることは自殺行為だろう。


 中段は、バランスの悪い下部分を支える大事な柱だ。そこも抜けるとは到底思えない。


 となると、やはり狙うべきは俺達が過去に積み上げてきた上部分となる。


 俺はタワーをそれぞれの面から観察していく。


 そして上部分にある右端のブロックに狙いをつける。


 まずは小手調べとばかりに指でコンコン。


 ……あかん、ビクともせえへん。これ絶対に抜いたらアカンやつや! めっちゃ重心がかかってる!


 震える指を何とか留めながら、俺は隣のブロックへと指をスライド。


 そこを軽く突いてみると、今度はタワーが大きくグラついた。


「ひっ!」


 悲鳴のような声を漏らしそうになったので、俺は急いで口を閉じる。


 このような崩壊間際の場面で叫び声などあげればどうなるか。崩れるに決まっている。


 俺は己の呼吸すら浅くして、倒れないでくれと心の中で祈りまくった。


 すると、俺の祈りは通じたのかタワーは見事に静止してくれた。


 安心のため息を吐きそうになるが、それすらもタワーが倒れる材料となりかねない。


 俺はグッとそれを堪えて、安全そうなブロックを探す。


「もう、無理なんじゃない?」


「かもね」


 後方から聞こえるエリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんの声。


 そう言われると何が何でも次に回したくなる。とはいえ、もはや引っこ抜けそうなブロックなどないのだが。


 もはや、どこを触ったとしても崩れる未来しか見えない。


 そもそもさっきのシルヴィオ兄さんの時点で崩れなかったのが奇跡なのだ。


 どうするアルフリート。何かここを切り抜ける状況はないのか。


 観察すればきっと穴があるはず……穴?


 そういえば、ジェンガというのは全てが同じサイズで作られているわけではない。ほんの数グラム、数ミリの差ではあるがブロックにも違いというものがある。


 三本並んだ状態で真ん中のブロックだけ数ミリ低かった場合、ほんの少しの隙間ができる。


 もし、そんな状態の部分があれば、重心が両側にかかっているのであっさりと抜けるはずだ。


 そんな知識を思い出した俺は、必死になってその隙間を探し出す。


 あった! 真ん中だけちょうど低くなっている場所が!


 しかし、そこはデッドゾーンである中段だ。


 ただでさえ不安定だというのに、そんなところに手をつけて良いものなのだろうか? しかし、他に抜けそうな場所などない。


 だとしたら、ここにある隙間に賭けるしかないだろう。


 そう思った俺はゆっくりと隙間のある真ん中を指で押しだす。


 すると、真ん中のブロックが三分の一程度押し出された。俺はそれを反対側から反対の指で引っ張ってやる。


 すると、意外にもすんなりと抜き取ることができた。


 その事に喜びの声を上げそうになるが、ジェンガは積み上げてこそジェンガだ。積み上げるそのときまで油断はできまい。


 俺は抜き取ったブロックをそっと最上段へと持っていく。


 しかし、このまま終えてしまっては面白くないな。


 次はエリノラ姉さんの番だ。このまま次にバトンを渡せば、自然と自滅してくれるかもしれない。その確率を上げるためにちょっと悪戯をしておこう。


 俺はタワーのバランスを計算しながら、わざとブロックを乱して積み上げる。


 ただでさえ、バランスが悪くて傾いていたタワーがさらに不安定になった気がした。


「ちょっと、あんた何してくれてんのよ!? 普通に乗せなさいよ!」


 これには次の番であるエリノラ姉さんもお怒りの様子。


 俺は憤怒するエリノラ姉さんを見て、ほくそ笑みながら、


「さあ、次はエリノラ姉さんだよ」


 次へと促した。




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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

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