シーラ懐柔作戦3
「んで、この醤油と味噌を使って何を作るんだ?」
「焼きおにぎりと五平餅っていうのを作ろうと思う。どっちも主な材料はどっちもお米だから簡単だよ」
どちらもお米を使って簡単にできる料理だ。
一度一緒に作ってしまえば即座に覚えることができ、料理のレパートリーとして加えることができる。それに醤油と味噌の美味しさも単純に伝わりやすい。
「そうは言うけど、今うちの家に米はねえぞ?」
「俺の家にもないよ。というか最近は物々交換でも見かけないね」
「だよね~。私、お米も好きだから食べたかったけどほとんど無いんだよ」
それもそうだ。カグラに行く前には空間魔法で備蓄している俺ですらお米の在庫が少なくなっていたほどだ。
あれから一月経っている今ではほとんどの家がお米を持っていないだろう。
お米のほとんどは俺がトリーから買い占めて、いくらかをセリア食堂に下ろしていたり、バルトロが村人と物々交換をして流通しているくらいで、ここで育てているわけでもないからな。
「大丈夫。そう思って今日は炊いたお米を持ってきたから」
「おお! さすがだな!」
余裕の表情を浮かべながら言った俺だが、トールの家にお米がないかもしれないと気付いたのは少し前だ。
だけど、空間魔法で食料を貯蓄している俺なら問題ない。
亜空間に炊いたお米はたくさん貯蓄してあるからな。トール達の目が離れた隙にこっそりと取り出せばいいのだ。
「それとお米ならこの間カグラからたくさん買い付けてきたからね。また当分は出回るようになるよ」
「本当? なら、物々交換できるように準備しておかないと」
「これでお米が食べられるようになるね~」
俺の言葉を聞いたアスモとシーラさんが嬉しそうに言う。
完全に俺の好みで一部出回っているお米であるが、ローガンを始めとして何人かの村人の胃袋を掴んでいるようだ。
皆が欲しがるようになると困るけど、好きな食べ物を共有できるというのは幸せな事だよな。
「それじゃあ、早速準備をしようか」
「おう!」
俺が焼きおにぎりと五平餅を作るのに必要な道具や食材を言っていくと、トールとアスモ、シーラさんが動き出す。
トールは勿論のこと、お隣であるアスモやシーラさんも台所に関してはよく知っているお陰か、とてもテキパキとした動きだ。まるで自分の家の台所にいるように必要な食器を取り出して並べていく。
俺は皆が準備に気を取られている隙に、こっそりと空間魔法を発動して亜空間から弁当をいくつか取り出す。
蓋を開けると、そこにはホカホカの白いご飯が詰められており、まるでつい先程炊き上げたかのようだ。
うん、空間魔法がきちんと仕事をしている。これさえあれば、いつでも温かい料理を食べる事ができるのだから本当に最高だな。
空間魔法の能力に感謝しながら、俺はお弁当箱を台に並べていく。
「準備できたぜ!」
すると、準備が整ったらしくトールの威勢のいい声が響く。
「それじゃ、まずは普通のおにぎりを人数分作ろうか」
「人数分って、どれぐらいだ? 一人三つくらいか?」
「五つくらいじゃない?」
「五つは欲しいね~」
「じゃあ、一人五つだな!」
おお、俺は二つもあれば十分なのだが、まさかそんなに食べるつもりとは……。
というか五平餅でもご飯は使うから、これじゃあ絶対に足りないな。最近めっきりお米を食べていないこともあって飢えていたのかもしれないな。
トール達の様子に苦笑いしながら、俺は端っこで追加のご飯を亜空間から取り出した。
それから水魔法を発動して、台所に水球を浮かべる。
それから台所にあった石鹸で手を洗って、水球に手を突っ込んでジャブジャブと洗う。
夏であるお陰かこうやって冷たい水に腕を突っ込むのが気持ちいいな。
「俺も頼むぜ!」
「わー、何か楽しそうだね!」
水球に手を突っ込んでうっとりとしているとトール、シーラさん、アスモもやってくる。
水壺からわざわざ水を桶に入れて、手を洗うよりもかなり楽だしな。
俺は汚くなった水球を解除して台所に流すと、三人分の水球を新たに浮かべてやる。
すると、三人共すぐに両腕を前に突き出して水球へと腕を差し入れた。
「「「……はぁ」」」
三人の口からため息を漏らすかのような声が漏れる。
「冷たくて気持ちいいな」
「ずっとここに手を突っ込んでいたい」
「……冷たい水に包まれて幸せぇ」
表情を緩ませながら呟く三人。その表情はとても幸せそうだ。
水球に両腕を突き出した状態で人が三人並ぶ姿はどこかシュールだ。
三人が幸せそうにする理由が俺にはよくわかるので、少しの間見守ってから口を開く。
「さあ、そろそろちゃんと手を洗ってね」
「はーい」
俺がそう言うと、三人は名残惜しそうに両腕を引き抜いて石鹸で手を洗っていく。それから同じように水球の中でジャブジャブと洗って石鹸を落とした。
そうやって手を洗い終えると、俺は水球を解除して台所に流す。
手を洗い終わった三人は、それをどこか残念そうに見つめていた。
もうすっかり汚れているし、長い間腕を突っ込んでいたので温くなっていたであろうに。
「また後でしてあげるから、今はおにぎりを作ろうね」
「そうだ! 飯を作るんだったな!」
俺がそう言うと思い出したかのようにトールが叫んで、行動を再開した。
俺が大皿にご飯を出していくと、トールやアスモ、シーラさんが手でそれを掴んで三角形にしていく。
もっと醤油の味を染み込ませる方法として、最初に醤油ダレとご飯を混ぜて焼く方法があるが、失敗して崩れるのが怖いので醤油は塗り重ねていくことにする。
「おい、アスモ。それはでか過ぎるんじゃねえか?」
トールが視線の先であるアスモの手には、大きなおにぎりが形作られていた。
その大きさは普通よりも二回り以上は大きい。ソフトボールを彷彿とさせるようなサイズだ。
「おにぎりと言ったら、これくらいの大きさは必要だよ」
「そうだよ~。トールが小さいだけだよ」
どうやらアスモの家ではこれくらいが平均的なサイズらしい。
「いやいや、そっちが大きいだけだろ? なあ、アル?」
俺に同意を求めるように言ってくるトール。
「まあ、おにぎりは家庭によって様々だからね。大きくするもよし、特別な具を入れるもよし、何かを混ぜるもよしだよ」
炊いたご飯を握るだけの簡単なものだが、それぞれの家庭によって様々な味の違いが出るのが面白いところだ。
家庭によっては予想の斜め上を行くような具材を混ぜ込んだりするので、驚かされることもたくさんある。
驚く食材を入れていても美味しいおにぎりはたくさんあったので、この世界でもおにぎりの個性を俺は尊重したいと思う。
「でも、今回は醤油を塗り重ねて焼いていくから、もうちょっと小さい方が味が染み込みやすいと思うな」
「「…………じゃあ、小さくする」」
俺がやんわりと小さめにするように言うと、アスモとシーラさんはしゅんとしながらおにぎりを小さくし始めた。
もうちょっと早めに言ってあげれば良かったな。
「あと今回は少し硬めに握ってね。醤油を塗っておにぎりを焼いていくから、崩れやすいと困るから。特にトール」
「わーってるよ」
俺が名指しで注意すると、トールがぞんざいに返事をする。
アスモやシーラさんは慣れているのか綺麗に作っていくけど、トールは慣れていないのか少し形が歪だ。
しっかり握れてないところもあるみたいで、このまま醤油を塗って焼けば途中崩壊する事は間違いなしだ。
二つのおにぎりを作った俺は、不慣れなトールを手伝うことにした。
「ああ、久し振りにお米の味だ」
「この甘みがいいよねえ」
一方でアスモとシーラさんは自分の分のおにぎりを作り終えたのか、手に着いたご飯粒を口に運んでいた。
小さなご飯粒を食べると、ご飯の味がよくわかるからいいよね。ほのかな甘みが癖になるよ。
全員分のおにぎりを作り終えたら、次はタレ作りだ。
といってもこれは醤油と砂糖を混ぜるだけで完成という至って簡単なものだ。
本当は出汁なんかがあった方がいいが、あくまで即席料理なのでそこまで拘らなくていいだろう。




