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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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小次郎、刀士辞めたってよ

 

「おう、久し振りだな!」


「あっ、ダグラス久し振りー」


 南の港に着いて馬車から降りるなり、ダグラスが大きな声をかけてきた。


 裾の長い緑色のコートにベルトに挟まったナイフ。


 ルンバ並みのガタイと強面さが相まって相変わらず海賊的な見た目をしている。


 ただ歩いているだけなのに何故か後退りしたくなるほどの迫力だな。


 そんなダグラスは俺の方へとやってくると、徐々に表情を怪訝なものへと変えた。


「ん? アルフリート様ってば太ったんじゃねえか? なんか最初に会った頃よりもふっくらとしてる

ぞ?」


「成長期だから身体が大きくなったのか?」


「いや、身長はそう変わってねえぞ?」


 俺の頭に手を乗せて、身長を確かめるようにポンポンと叩くダグラス。


 少し懸念していなかったでもないが、まさか挨拶の次に言われるほどとは……。


 それほど俺はわかりやすく太ったのだろうか?


 俺が自分の姿を確かめるように頬や体を触っていると、ダグラスはアーバインやモルトの下へと向かう。


「おーおー、アーバインとモルトも肉を蓄えたな!」


「仕方ねえだろ! 飯と酒が美味いんだから! ここでしか、食えないものを腹いっぱい食べて何が悪い!俺は後悔はしてねえぞ!」


「そうだそうだ!」


 ダグラスにお腹の肉をつままれながら堂々とそう告げるアーバインとモルト。


 あそこまで言えるといっそ清々しいな。


 しかし、それは共感できる考えである。それにこれからの旅路、どうしても食事は質素になりがちだ。


 だとすると滞在中にとったカロリーは決して無駄ではない。


 うむ、そう考えておこう。


 俺が自分にそう言い聞かせていると、ダグラスは次なるターゲットであるアリューシャとイリヤに向かう。


「おお、お前達もカグラは楽しんだようだ――」


「いやああああああっ! 何も言わないで!」


「私、荷物の確認を手伝ってきます!」


 アリューシャとイリヤは俺達の会話が聞こえていたのか、ダグラスが近寄るなり悲鳴を上げて逃げていった。


 あの二人は現実を逃避するタイプか。


 俺がそんな事を思っていると、ダグラスが「ははははは、俺は何も言ってないんだけどな!」と言いながら戻ってきた。


「そういえばダグラスは俺達が滞在している間どこにいたの?」


「ん? 俺達は商人だからな。アルフリート様達を降ろした後は、他の島々へと移動して本業である交易をしていたぜ?」


「あっ、そっか。ここだけじゃなく他にも国や島があるもんね」


 海賊的な見た目とあって、ダグラスの本業が商人だということをすっかりと忘れていた。


「ここらには島がたくさんあって海も広いからな。色々な調度品が買えるってわけだ。ほら、この首飾りとか綺麗だろ?」


 そう言ってダグラスは、首にかけている首飾りを見せてくる。


 そこには白く輝く牙が紐で括られてあった。


 勾玉のように流麗に湾曲した線はとても綺麗で、色は真っ白。


 しかし、角度によっては薄っすらと虹色のような色が見える。


 それはまるで貝殻の裏側を覗いた時に反射して見える色のようで、とても上品だ。


「すごく綺麗だね! 魔物か何かの牙?」


「海の深くに生息している魔物の牙らしい。ほとんど浅瀬に出てこねえから、討伐して牙を手に入れるのは難しんだとよ。貴重だし住民の偉いやつしか首にかけられねえとかで、随分と値段を吹っかけてきやがったぜ」


 なるほどー、やはり魔物も浅いところを好んだり、深いところを好んだりするんだな。


 そうなると前世のように深海になると、また異なった姿をする魔物がいるのかもしれないな。


 おっかないから絶対に行かないけど。


「良かったら、これいるか?」


「ええ? 貴重で高かったんじゃないの?」


「別にいいぜ、これくらい。でも、また今度海に出る時は俺の船に乗れよ? アルフリート様は他の貴族と違って面白いし、美味い料理を作ったりするしな! また一緒に旅をしてえからよ!」


 呆然としながら尋ねると、ダグラスはそう豪快に笑って俺に首飾りをつけてくれる。


 とても嬉しい事を言ってくれるじゃないか。


 俺は性格的にあまり外出しない性分だが、まだまだ観光してみたい国々はたくさんある。


 カグラにだってまた皆で行きたい。


「うん、わかった。またどこか海を渡る時は必ずダグラスの船に乗るよ」


「おう!」


 俺がそう告げると、ダグラスは軽く手を上げて船の方へと向かった。


 俺はダグラスから貰った首飾りを見つめて……、


「……うん? 俺だけこんな綺麗な首飾りを貰っていたらエルナ母さんに怒られそうだな」


 ダグラスが交易で手に入れた商品で他にいいアクセサリーがあったら、買い取らせてもらおう。


 そう心に刻むのであった。




 ◆




 俺達が南の港にたどり着いて小一時間。


 ダグラスの船員達は俺達の持ってきた荷物を船へと積み込んでいる。


 帰りの食料やら、俺が買い込んだ大量のお米やら醤油やらと重量級なものが勢揃いしているが、屈強な船員は慣れているようでスムーズに運んでいく。


 それでも量は多く、最後の確認作業もあるので時間はかかる。


 今回は俺が魔法で手伝うまでもなさそうなので、やることがない俺は港に座って海を眺めていた。


 街にいるよりも強い風が吹きつける。そこには濃厚な潮の香りが漂い、どこまでも広がる青い海では波の音が絶え間なく響いていた。


 波がぶつかる音に耳を澄ませながら俺は目を瞑る。


 静かな川の音もいいが、連鎖するように音を立てる豪快な海の音もたまにはいいな。


 そうやってしばらく波の音を聞いていると、後ろから足音が聞こえてきた。


 足の歩幅からルンバであろう。


「そういや、春と修一はいつ来るんだ?」


「絶対に見送りに来るって言っていたけど、まだ来ていないね」


 俺とルンバは改めて周りを見渡すが、周囲に春と修一の姿が見えない。


「今、思えば春と修一はこの国で偉い将軍家の子供だよな? さすがに多くの護衛を伴ってはこねえよな?」


「多くのお供も連れずに神社で遊んでいたし、そういう事はしないと思うよ」


 きっと、いつものようにこっそりと来る。俺はそう信じたい。


「おーい! アル!」


「ほら、早速話をしていれば春と修一が来た――あれ? 春と修一にしては声が大人っぽいね?」


「でも、聞いたことのある声だぞ?」


 俺とルンバは不思議に思いながら、声がする方向へと振り向く。


 そこには手を大きく振って、こちらへと走ってくる髪の長い美男子。


「小次郎だ!」


「本当だ!」


 俺は立ち上がって駆け寄って来る小次郎の元へと向かう。


「ふう、間に合ったか!」


「小次郎、もしかして見送りにきてくれたの?」


「ああ、勿論だ友よ。うな丼のタレづくりの研究をしようと大通りを歩いていたら、異国の商会が馬車で港に向かうのが見えてな! もしやと思って追いかけてきたのだ!」


 おお、運のいいところに旅館から出たすぐの時に俺達を見つけたんだろうな。


 あの大通りから港まで結構な距離があるのだが、さすがは元刀士。足には自信があったのだろうな。


 俺とルンバが感心していると、息を整えた小次郎が憮然とした表情をする。


「にしても水臭いぞアル、ルンバ。帰るのならば声をかけてくれればよいものの!」


「「いやだって、俺達小次郎がどこにいるか知らないし」」


「……ん? お、おお?」


 俺とルンバがすかさず突っ込むと、小次郎は数秒置いてから勢いをしぼませるように呟いた。


「そうだったな、すまん。あの時はうな丼を作る事と仕事を辞めることしか頭になかったのだ」


「うな丼と言えば、結局小次郎は仕事を辞めることができたの?」


「そうだな。俺もそこが気になるぞ。小次郎は刀士を辞めることができたのか?」


「…………」


 俺とルンバが揃って尋ねると、小次郎は神妙な顔つきをしだす。


 それから五秒ほど間を空けてからふっと笑った。


 その心底嬉しそうな笑みを見た瞬間、俺達には結果がわかった。


「刀士なら辞めたぞ! 見ろ! 昼前の時間であるにも関わらず平服だ! 後ろには家紋もないし、強制される仕事もない! 俺は自由を手に入れたんだ!」


「おお、おめでとう小次郎!」


「やったな!」


 小次郎が仕事を辞められたことが自分のことのように嬉しくて、俺は思わず小次郎に抱き着いてしまう。


 俺が抱き着くとルンバも乗ってきて、勢いよく抱き着いてきた。


 野郎に抱き着くことなんて俺の趣味ではないが、今は友が仕事を辞めるという誠にめでたい日なのだ。


 この喜びは分かち合うべきだ。


「やったぞ! アル! ルンバ! これで俺はうな丼屋になれるぞ!」


「やったね! 後は美味しいうな丼を作るだけだよ!」


「完成したら絶対に食いに行くからな!」


「ああ、二人共必ず来てくれ!」


 潮風が吹き付ける港で、俺達は喜び合った。


 仕事を辞めた小次郎の笑みは、それはもう清々しくて晴れやかだった。




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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

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