スケさん、カクさん?
巌のような男性がスケベだとカミングアウトして、しばらく話し合う。
すると、ようやく状況がわかってきた。
「……つまりあなたの名前がスケベだってこと?」
「何だ名前がスケベだったのか?」
「違う! スケベではない! スケベエだ!」
俺とルンバが聞くと、スケベの男性が強く言い直した。
その声量の大きさに俺とルンバは思わず顔をしかめる。
この男性、声が大きいから近くにいるとちょっとうるさいな。
「何だ、どっちにしろ変態じゃねえか」
「失礼な奴め! 違うわ! そういう変態という意味の名ではないのだ。人々を助けるという意味合いなのだ! 下世話な勘違いをするな!」
なるほど、つまりスケベエの名前は助兵衛というところか。
ちょっといきなり言われるとわかりにくいな……。
「まあまあ、スケベ先輩。異国の方達なんですから、そんなに怒らなくても」
「スケベエだ! ちゃんとエをつけんか!」
俺とルンバが複雑な顔つきで助兵衛の言葉を聞いていると、水色のカグラ服を着た男性が口を挟んだ。
そちらに視線をやると、髪を肩口で切りそろえたどこか中性的な感じの若い男性だ。
切れ長の瞳に優しそうな顔つきをしているが、さらりと先輩にあたるらしい助兵衛をからかった事から癖のありそうな人物のようだ。
「こちらの人は?」
俺はどこか期待を乗せた表情で尋ねる。
先程は意味のわからない変態が出てきたが、今回はまともなのではないかと。
格之進でなくとも、せめてそれに近い名前であってほしいものだ。
「申し訳ありませんが、僕はあなたがおっしゃった話の人物とそれほど近しい名前をしていませんよ?」
「いいんだ! カクさんと呼べれば! ほら、お前も名乗れ!」
若い男性が苦笑しながらそう言うと、選別してきた春がムッとした様子で腰を叩く。
すると若い男性はしょうがないといった様子で柔らかい笑みを浮かべながら、
「春様がそうおっしゃるなら。はじめまして兵藤角右衛門です。今はカクさん呼んでもらえると春様が喜び
ます」
「誰だよお前! どこのネコ型ロボットだよ! 格之進を出せ!」
「ネコ型ロボットとやらが何かわかりませんが、生憎僕達の身の回りに格之進なる人物はいないので僕で許してください」
くくく、と笑いながら気にした風もなく答える角右衛門。
水戸黄金によるカクさんは、生真面目な性格であるとされているが、目の前にいるカクさんからそんな様子はちっとも感じられない。
むしろ、助兵衛の方が口調からして生真面目な性格をしていそうだな。
「……ねえ、春。確かにこの二人はスケさんカクさんと呼べるけど、もうちょっとマシな名前をした人はいなかったの?」
「仕方ないだろ。この二人以外にスケさん、カクさんと呼べるような部下はいなかったんだ」
俺がジットリとした視線を向けると、春も自覚はしていたのか不服そうに答える。
まあ、部下の中から都合良くスケさん、カクさんと呼べる人材がいたことが凄いのだ。
完璧に水戸黄金に出てくるキャラと同じ名前の者を探すというのは無理があるよな。
「そっか。本人達の名前はどうあれ、スケさんとカクさんと呼べるならいっか」
「そういうことだ!」
俺が気楽に言うと、春も同じように気楽そうな表情で笑う。
「……さっきから気になっていたのだが、お前は春様になんて口の利き方をするのだ! このお方を一体どなたと心得る!」
「こらスケさん! その台詞は悪党を懲らしめてからだって昨日何度も言っただろ!」
「むむむむむ!」
主である春には逆らえないのか叱られて、悔しそうな表情をするスケさん。
ははは、ちょっと水戸黄金とは違うようだが、自然と重要な台詞を威厳よく言えるのはいいことだな。
◆
俺とルンバがスケさんカクさんに改めて自己紹介をすると、春がクリッとした瞳を輝かせながら言ってき
た。
「アル! 今日は街に行こう! この街で悪事を働いている者を懲らしめて改心させるんだ! できればある程度権力を持った相手だといいな!」
スケさん、カクさんを引き連れている事からそんな事をするのではないかと思っていたよ。
「って、春は言ってるけどいいの?」
「……何かあっても俺達が春様をお守りするから問題ない」
「ええ、一応春様のご両親の了承もとれておりますので大丈夫ですよ」
春の護衛なるスケさんとカクさんに尋ねると、二人はあっさりとそう答えた。
春のご両親に許可も取っていることから、街でもしっかりとした護衛体勢がなされているのだろうな。
それなら俺が心配することは何もないか。
「護衛であるスケさんとカクさんがそう言うならいいか。でも、春。名乗りを上げるのに重要な印籠は持っているの?」
ご老公の重要なシーンと言えば悪の権力者を越える、さらなる権力を示して平伏させることにある。少なくてもある程度の権力者を優に超えられるような威光が必要なのだが……。
「ああ! 印籠の代わりになるものならあるぞ! これだ!」
俺が尋ねると、春は満面の笑みで懐から黒と金色の何かを取り出す。
それは楓さんやスケさんカクさんの背中に入っている和紋と同じであり、ふんわりと広がった金色の花があり、それを囲むように金色の円があった。
水戸黄金の印籠とはデザインが違うが、それに劣らぬような威厳さと上品さが見て取れる。
俺がしげしげとそれを眺めていると、スケさんとカクさんが慌てたような声を出す。
「ちょっ、姫――じゃなくて春様! そちらは違いますぞ!」
「春様、昨日言っていた手頃な印籠の方を出してください」
「ん? ああ、本当だ! 間違えたぞ!」
スケさんとカクさんに指摘されて、俺に見せていた印籠を懐にしまう春。
今、スケさんは春の事を姫様と言いかけたような……。
大名の娘さんの事をこちらでは姫様と呼ぶのだろうか? 王国でいう貴族の娘を令嬢と呼ぶように。
それに手頃な印籠って何だ?
「正しいのはこっちだった!」
俺がそんな事を思っていると、春が改めて印籠を出してくる。
全体的な形は先程の印籠と同じ、手の平に収まる四角いサイズ。黒と金を基調としたもので神社の飾りのような荒々しい水龍が見て取れる。
最初に見せた物とは華やかさはないが、こちらも負けず劣らずの迫力だ。
まじまじとそれを見つめていると、印籠を覗き込んだスケさんが咳き込んだ。
「ブフッ! は、春様! そ、それは龍次郎様の印籠! それをどこで手に入れたので!?」
「昨日は龍次郎おじさんがいたからな! 肩を叩いて印籠があるなら貸してほしいとねだったら、快く貸してくれたんだ!」
「相変わらずあのお方は春様に甘いですね」
春が無邪気にそう言い、カクさんが苦笑しながらそう言う。
龍次郎おじさんが誰かは知らないが、結構な大物の予感。手頃な印籠とは思えないのだが、そんな偉そうな人の印籠を借りてしまってもいいのだろうか? でも、威光を示さないといけないし、大きな権力の後ろ盾があるのはいいことだな。
「印籠もバッチリあるし、街に行くぞアル!」
「ああ、ちょっと待って。修一とルンバは?」
春に手を引かれながら、俺は修一とルンバの方に振り返る。
「俺は水戸黄金が何かよく知らないからな。できれば、今日もルンバと稽古をしていたいものだ」
「おお? 修一が残るなら俺も付き合うぜ。俺も水戸黄金が何か知らねえしな。アル、そっちの用事が済んだ頃に適当に戻ってこいよ」
水戸黄金について良く知らない修一とルンバは、手を振ってあっさりと答えた。どうやら二人は神社に残る模様。
ルンバに俺の護衛はどうしたと言ってやりたいが、スケさんやカクさんがいるようだし問題はないか。元々カグラ自体、治安が悪いような国ではないようだし。
今日が最後だから、修一と思う存分稽古をしたい気持ちもあるのだろう。
俺も今日いっぱい遊んだら、一先ずのお別れを春に告げないとな……。
そんな事を考えていると、右腕が春に強く引っ張られる。
「アル、何ボーっとしてるんだ! 早く階段を降りるぞ!」
「ちょっ、待って! ここの階段は急だから、そんな風に走って降りると怖いんだけど!?」
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