護衛も混ざって
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「わっ、わわあっ!?」
「はーい、楓の負けー! 楓が崩したんだからちゃんとタワーを作り直すんだぞ!」
「は、はい」
無邪気に笑う春にそう言われて、ジェンガを崩してしまった楓がブロックをかき集める。
完璧に俺にやられた事を楓にやっているような感じだな。
俺に勝てないからといって初心者で自分よりも弱い楓をいたぶるスタンスは嫌いではないが、それでいいのだろうか?
「むふふん、ほら楓早く積み上げて! 次の勝負ができないぞ!」
「は、はい! ……はぁぁ、無邪気な笑みを浮かべながら命令してくる春様も素敵だ……」
春に命令されてだらしなく表情を緩ませる楓さん。
まあ、いいか。何よりも本人達が楽しそうなのだし。
「まあ、このままタワーができるのを待つのも暇なんで、軽く自己紹介をしませんか?」
「それもそうですね。私、春様の護衛をやらせて頂いております楓と申します」
俺と春と同じく神社の玄関に座っている楓さんは、軽く頭を下げて気をとり直すようにそう言った。
長い黒髪を後頭部で結っており、切れ長の黒い瞳をしている。春のように整った顔立ちをしているが、こちらは可愛いというよりも綺麗という表現が適切な女性だ。
凛とした表情と楚々とした仕草が特徴的で、まさに女性の刀士といったところだろうか。
こうして見てみると、先程まで茂みから春を見つめて上気していた人物とは到底思えないな。
「これはどうも丁寧に。どうもミスフィリト王国から観光にやって参りましたアルフリートと申します」
「ミスフィリト王国と言いますと、最近我が国に出入りしているトリエラ商会と同じ国ですよね?」
「そうです」
「ああ、私は大して偉い者ではないので、敬語を使わなくて結構ですよ」
そうかい? じゃあ、遠慮なくいつも通りの言葉遣いでいさせてもらおう。
にしてもトリーの商会も何度か入国しているお陰か、王国の事を知っている人は知っているんだな。
などと感心していると、楓は切れ長の瞳をルンバと修一の方へと向ける。
「……あちらにいるのは?」
「俺の護衛役で冒険者のルンバだよ」
「なるほど、となるとアルフリート殿は貴族もしくは商人の跡取りで?」
おお、生でアルフリート殿とか初めて言われちゃったよ。何か様とは違って不思議な感じがする呼び方だな。
「一応、貴族の次男だよ」
「ん? アルは王国とやらで偉い人なのか?」
俺がそう答えると、話を黙って聞いていた春が尋ねてくる。
「んー、ぼちぼちかな? 当主ってわけでも跡取りってわけでもないしね」
当主にはノルド父さんがいるし、跡継ぎは長男であるシルヴィオ兄さんだ。
次男である俺はシルヴィオ兄さんの代わりであるだけで、これといった役割もない。
ノルド父さん達が偉いだけであって、その子供である俺も偉いかと言われるとそうじゃないしな。でも、一応は貴族の子供ということである程度は敬意を払われているし、ボチボチだな。
「……ふーん、そうか。まあ、あたしと修一も似たような身分だな」
「……春様は、大名様の娘様なので。大名というのはアルフリート殿の国の貴族と同じようなものだと捉えて頂いて構いません。そしてこの国の将軍が、そちらで言う王族になります」
春の言葉をさらに細かく補足するように楓さんが説明してくれる。
「ほうほう、つまり春と修一は俺と同じような身分なわけだな」
「ええ、そうです」
「……う、うん。まあ、そうだな」
ちょっと待て。どうして本人である春がそんなに歯切れが悪そうなんだ?
なんかちょっと嫌な予感がするけど、突っ込むと面倒くさいことになるので放置しておこう。
面倒事には近寄らない。これが社会を安全に生き抜くための処世術だ。
俺は何も気にしてない風を装って話題を変える。
「ところで楓さんは、どうしてあんな所に隠れていたんですか?」
「春様と修一様は、護衛を連れて歩くことをあまり好まないので、いつもこうして誰かがこっそりと見守っているのです」
なるほど、自由に外を出歩く護衛対象を影ながら守っているという訳か。
「なのにアルはあっさりと楓を見つけるなんて凄いな。あたしと修一も楓を見つけてやろうとしたことが何度もあるが一度も見つけられなかったぞ」
「本当に驚きました。まさか私がこのような子供に背後を取られるとは……」
「かくれんぼは得意だからね」
言えない。姉からひたすらに逃げるために鍛えられたとか言えない。
そんな事を思いながら苦笑いしていると、楓さんがタワーを積み終えた。
「よし、タワーができたな。もう一回だ!」
◆
そうやって三人でジェンガをやり続け、楓さんや春が何度も負けてを繰り返す。時折、俺もコントロールを間違えてか何度か崩す事があったが、基本的に負けていたのは楓さんと春の二人だった。
「ぐぬぬ、もう一回だ!」
そう言いながら春が崩してしまったジェンガをかき集める。
春はジェンガを気に入った上に負けず嫌いなせいか、俺が何度も負けない限り勝負を挑んでくる。ちょっとこういう所はエリノラ姉さんに似ている気がするな。
まあ、のんびりと話しながらブロックを抜くだけなので、それほど面倒に思わないからいいけどね。
俺が息を吐きながら、空を仰いでいると再び茂みの方に違和感を覚えた。
楓のように護衛の誰かがやってきたのだろうか?
ふと、楓を横目で確認するとちょっと視線をソワソワとさせている様子。
この場を少し離れたいけど、離れていいのか判断がつかない様子だ。
「あー、気になるんだったら行ってくれば?」
「えっ?」
俺が小さな声で言うと、楓さんが驚いたような顔を向けてくる。
「いや、茂みの方から誰かが窺っているようだけど楓の知り合いだよね?」
「……え、ええ。やっぱりわかりますか?」
「まあね。春がタワーを作るまで時間あるし行ってこれば?」
「すみません、それでは少しだけ離れます。それまで春様の相手を頼みますね」
俺がそう言うと楓さんは軽く頭を下げて、茂みの方へと歩いていった。
すると、今度はカグラ服を着た男性だろうか。楓さんと合流するように茂みから出てきた。
まあ、影から見守る役である楓さんが春の前にいるのだ。今更少し出てきても問題ないというのもあるのだろう。
後は完璧に目を離せるほど俺やルンバを信用してないから。これは護衛として正しい判断だし、別に不快感を抱いたりしないな。
「楓様、ご相談したいことが……」
「何だ?」
楓さんと男性との距離がそれほど離れていないせいか、微かに二人の会話が聞こえてくる。
「実は楓様の兄上が、仕事を辞めると申されておりまして」
「はあ? 兄上が仕事を辞めるなどといつも言っているような事じゃないか。そんな事で私と春様の時間を邪魔したのか?」
楓さんの圧力に思わずたじろぐ男性。
怖い、楓さん。さっきまで凛とした優しい表情の刀士だったのに。
というか自分は偉くないとか言いながら、思いっきり様付けされている気がするんだけど。
「しかし、今日はいつになく真剣なご様子でして」
「そう見えるのはお前達だけだ。兄上というのは、凛とした表情をしながら心の中ではバカな事ばかりを考えている奴だぞ?」
「は、はぁ……」
楓さんの言葉を聞いて、男性がジットリとした視線を楓さんに向ける。
楓さん、ブーメランという言葉をご存知だろうか? 楓さんも凛とした表情をしながら心の中ではバカな事ばっかり考えてるよね。
「……何だその目は?」
「いえ、何でも!」
「お前達が立場上、兄上に言い難いのもわかるが、そういう時は私の母上を呼べ。そうすればいつものように丸く収めてくれる」
「はっ! わかりました」
楓さんがそう言うと、男性は深く頭を下げて駆け出していく。
それを見送った楓さんは、楚々とした仕草でこちらに戻ってきた。
「お兄さんが仕事を辞めるとか言い出したの?」
「聞こえてしまいましたか。身内の恥を晒してしまったようで恥ずかしいですね。まあ、兄上がそう言うのはいつもの事だから問題ないですよ」
これ以上は言いたくないのか、それで終わりとばかりに春の方を向く楓さん。
ふーん、仕事を辞めたいという悩みはどこにでもあるようなものなんだな。
楓さんには悪いけど、俺はその仕事を辞めたいって言っている兄上とやらを応援するよ。
仕事を辞めると言えば、同じ刀士である小次郎はどうなっているのだろうか。
彼も無事に仕事を辞めて、ウナギ屋への道を歩めているといいな。
「よし、楓も戻ったしジェンガ再開だ!」
その日、俺は春と楓だけでなく、ルンバや修一を混ぜながらたくさんジェンガをし、夕方まで遊んだ。
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