春とジェンガ
神社の玄関で土魔法で作ったジェンガが崩れ落ちる。
「あああああー! また崩れた!?」
「はい、また春の負けー。春が崩したんだから春がブロックを拾い集めて、タワーを作ってよね」
「ぐぬぬぬぬ、もう一回だ!」
俺が挑発するように言うと、春が歯を悔しそうにしながらブロックをかき集めて、タワーを作りだした。
「おお、さすがにタワーを作るのが随分と上手くなったね」
「ぐぐぐ、アルは性格が悪いな」
「何で? 俺はただ春の手際の良さを褒めているだけなのに?」
「そう言う所がだ!」
俺がすっとぼけながら言うと、春が勢いよく指をこちらに向けてきた。
しかし、腕を上げる時にジェンガが当たってしまったらしく、積み上げたタワーはまたもやガシャンと倒れてしまった。
「あああああああーっ!」
「あーあ、また倒れちゃったよ。もう一回作り直しだね」
嘆きの声を上げる春に、俺も思わず苦笑いだ。何というかお約束と言うかコントのような事をやってくれる子だな。
「それにしても何であたしばかりが負けるのだ? ただブロックを抜いて上に積み上げるだけなのに……」
「春は強引にブロックを抜くからね。もっと慎重に抜いて、相手の嫌がるところを残さないと」
「ほら、やっぱりアルは性格が悪い!」
再び指を上げようとした春だが、ジェンガを作っている途中だと思い直して止めた。
惜しい、もうちょっとでジェンガが倒れたのにな。
「遊びや勝負事というのは極論を言えば、相手の嫌がることをすればいいからね」
「ふーん、なら今から魔法を撃ち合うか?」
確かにそれは俺の嫌がることだけどジェンガではない。
「確かに嫌だけど、ジェンガの遊びの範囲内でやってよね」
「チッ……わかった」
今舌打ちしたよね? 女の子がやると見た目とのギャップがあって怖いから止めてほしいな。
「よし、できたぞ! もう一回勝負だ!」
タワーを積み上げた春がそう言うので、俺は再びジェンガをやり出す。
序盤の方は、大体どこを抜いても崩れることはないのでスイスイとお互いに抜いては積み上げていく。
そして徐々にジェンガのバランスが悪くなった頃が勝負だ。
俺はジェンガの真ん中にあるブロックを人差し指でゆっくりと押していく。
すると俺の指に押されたジェンガがぬるりと押し出されるように出てくる。
無事に抜けたので俺はそれを上に積み上げた。
ふふふ、今のブロックを抜けばかなりバランスが悪くなる奴を抜いたからな。次の番である春が迂闊に抜こうとすれば、一気に崩壊するだろうな。
「はい、次は春」
俺が促すと春は真剣な表情でジェンガを観察する。どこを抜いてはいけないのか、どこが抜けやすいのか探しているのだろう。
軽く指で小突いたりしてみてはブロックの様子を見ている。
「……なんかアルが抜いてから凄くバランスが悪くなったぞ」
「気のせいだよ」
あんまりそうやって突くとジェンガのバランスがさらに崩れるんだけどなぁ。
「むっ、ここならいけそうだ!」
俺がそんな事を思っていると、春がブロックを見定めたのか両手を使いながら慎重に端っこのブロックを抜いていくのだが……。
「……春」
「……今いいところなんだ。話しかけないで」
「いや、だって春ってば手でジェンガを押さえてるよね?」
「……押さえてない」
「じゃあ、一旦左手を外してみなよ」
「…………」
俺が左手を外せと言うと春の動きが固まった。
恐らくさっき散々指で突いていたからジェンガのバランスが悪くなり、抜いている途中にバランスを崩したのだろう。
「ほら、左手を外してみて」
俺がそう言いながら春の左手をゆっくりと押しのけると、途端にジェンガが崩れ落ちた。
◆
「アルが相手だとあたしばかりが負けて面白くないぞ!」
崩れ落ちたジェンガを前にしながら頬を膨らませた春が言う。
まあ、これだけ負けが続いているのだ。文句を垂れてしまうのも無理はないだろう。
「じゃあ、他の人を誰か入れる?」
「でも、修一とルンバは稽古をしているからダメだぞ?」
神社から離れた場所を見ると、木刀を持った修一とルンバが打ち合いの稽古をしていた。
そこではルンバが豪快に木刀を振り回し、修一が流れるような動きでそれ避けている。
「修一は年齢の割に避けるのが上手いな!」
「刀を使う刀士の戦闘は相手の攻撃を避けるのが基本だからな!」
刀というのは剣のように乱暴に打ち合うとすぐに曲がったり、折れてしまったりと使い物にならなくなってしまう。それを避けるためにも、相手の攻撃を避けて鎧のない急所を的確に突く必要があるのだろう。
「にしてもこれが異国の冒険者とやらの戦いか? 荒々しく刀士とはまったく違った剣だな」
「お? こんなのまだまだ序の口だぞ? 普通の冒険者はもっと汚いぞ?」
確かにルンバの振るう剣はいつもに比べて大人しい。
恐らく修一の力量がよくわからないために迂闊に力を出せないのだろう。力を出したら出したで、修一をぶっ飛ばしてしまいそうで怖いけどね。
「例えばこんな風に土を蹴り上げて目つぶしをしたりな!」
「うわっ!? 土を蹴り上げるなど卑怯な!」
「ガハハ! そういう綺麗ごとを言っていたら生き残れないからな!」
目元を拭う修一を見て高笑いするルンバ。
「おのれ、俺だってやってやる!」
「おう! そうだもっとこい!」
……春の言う通り、あっちは稽古に夢中のようだな。あれだけやる気に燃えている二人をジェンガしないか? とか誘っても断られるに決まっている。
「じゃあ、神社の後ろにいる人を呼ぶ?」
「ん? あたし達以外にも誰かいるのか?」
「ずっと俺達を見ている人がいるけど、春と修一の知り合いとかじゃないの?」
「んー、多分護衛の楓だと思う! 楓なら一緒に遊んでくれるから連れてきてくれ!」
さらりと自分が護衛されるほどの身分であることを明かす春。
まあ、二人共そこらの市民とはどこか風格も違うからな。予想はしていたことだ。
俺だって一応はルンバに護衛されている貴族だから気にしないでおこう。
「わかった。じゃあ、連れてくるね」
俺は春にそう言うと、気配を消しながら神社の裏手に回る。
空間魔法で転移を繰り返していると辺りの空気に敏感になるんだよな。それに家では日常的にエリノラ姉さんから隠れたり、逃げたりしているので気配察知には自信がある。
俺はエリノラ姉さんから逃げる時のように、相手に気付かれないようにゆっくりと足を進める。
そうやって茂みの方へと回っていくと、赤いカグラ服を着ている女性らしき姿が見えた。
背中にある模様は小次郎と同じ気がするのだが気のせいだろうか?
まあ、腰に刀を下げているので間違いなく刀士か、護衛にあたる人物であろう。
ずっと俺と春が見える位置に陣取っているあたり、この人が先程から視線を向けていた人だな。
女性は後ろにいる俺に気付いていないのか、ジェンガを積み上げる春をじーっと眺めている。
「はー、ジェンガを積み上げる春様可愛い……」
どことなく頬を上気させながら呟く女性。
この人は本当に護衛の楓さんなのだろうか。
少女を眺めるただの変質者にしか思えないのだが……。
「……あのー、楓さんですか?」
「ぬわああっ!?」
俺が恐る恐る声をかけると、女性が素っ頓狂な声を上げて立ち上がる。そして俺から距離を取ろうと後退るが、そこには茂みがあり足を取られて派手にすっ転んでしまった。
驚かせてしまったのだろうか。なんか悪い事をしてしまった気分だ。
女性の叫び声と茂みの音が聞こえたのか、神社の前にいた春がこちらにやってくる。
「おー! 楓はそんな所にいたのか! 楓もジェンガをやるぞ!」
「は、はい?」




