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旅館の庭でコルク球が台をバウンドする音がリズムよく響き渡る。
十分に打ち合った俺とルンバは交代して、今度はアーバインとモルトがラリーをしていた。
「イヒヒ! くたばりやがれモルト!」
「くっ! アーバイン! バックハンドばっかりネチネチと狙ってきやがって汚いぞ!」
初心者同士での卓球は、性格のより汚いアーバインの方が優勢らしく、モルトのバックハンドへと執拗にショットを打っていた。
初心者の癖に時折ドライブのようなショットを打てているのが地味に凄い。
アーバインは、ドライブでモルトのバックハンド側を執拗に攻めて、甘くなった球を悠々と叩いていた。
「へへへ、モルトってばチョロいな」
「この野郎……っ!」
アーバインが渾身のどや顔で笑い、モルトがイラっとしながらコルク球を拾いに行く。
こうして対戦していない俺でもイラっとするような顔だ。
「ほれほれ、さっさと球を拾ってこい。試合が再開できないだろう?」
「うっせえ! 待ってろ!」
アーバインに挑発されながらも、モルトは庭にある茂みを探ってコルク球を発見する。
それからゆっくりと戻ってきたのは、挑発をしていたアーバインへの当てつけだろう。
「よし、次のサーブは俺の番だな」
「おう、そうだ。早くしろ」
卓球のサーブは二回交代。サーブは自分のコートでバウンドさせて相手のコートに入れる、というルールも皆が慣れた段階で教えてある。
先程アーバインが二回サーブしたので、今度はモルトがサーブをする番というわけだ。
モルトがラケットを持ってサーブ位置に着こうとしたところで、コルク球を手から落とした。
「うおっとと、コルク球が落ちた。……あれ? コルク球がねえぞ? アーバイン、そっちにコルク球が転がってねえか?」
「ああん? 何やってんだよ? どこら辺だ?」
と、アーバインが台の下を覗いたところでモルトが素早くサーブをした。
「隙あり! アーバイン!」
「ああっ!? てめえ、汚ねえぞ!? 実は手に球を持ってやがったな!? そこまでして勝ちたいか!?」
「お前の間抜けな面が見られるなら、俺はどんな手段だって問わないね!」
……まったくもって醜い争いだ。アーバインの方が意地汚いプレーをするかと思ったら、モルトも同じレベルだった。
「ほらほら、文句を言わずに球を拾って来い! 球を拾ってくるのは点を取られた敗者の仕事だろ?」
「ぐぬぬ! ちくしょう!」
先程と逆の構図だ。アーバインがモルトに偉そうに言われて、悔しそうにしながらもコルク球を拾いに行った。
「ガハハ! あいつら面白え戦いしてるな!」
俺の横では上機嫌に赤ワインを呑んでいるルンバが。
先程のスマッシュの反射が眉間に直撃したせいか薄っすらと赤くなっているが、特に平気そうだ。
前世のようなピンポン玉ではなく、コルク球なので痛いと思うのだが、ルンバにとってはこれくらい何でもないようだ。
ルンバとゆったりとしながら、アーバインとモルトのラリーを観戦することしばらく。
「ははは! やりー! 俺の勝ちだ!」
「くっそー! アーバインに負けると本当に腹が立つ!」
アーバインが先に十一点をもぎ取ったようだ。
本当にお互いが汚い手を使い合うような、フェアプレー精神のない試合だったな。
「ははは! 次の相手は誰だー!」
「おう? それなら俺が――」
「いや、次はアルフリート様だな! よし、かかってこい!」
ルンバがグラスを置いて立ち上がろうとすると、アーバインが狼狽しながら俺を指名する。先程ルンバが打ったスマッシュを思い出したのだろうな。ルンバがスマッシュを打つとどこに飛んでくるかわからないから怖いし。
まあ、アーバインなら危険もないし、いいだろう。俺も教えるばかりでなく、そろそろ打ちたくなってきた。
「じゃあ、次は俺が行くね」
俺が悔しそうにするモルトからラケットを受け取って、アーバインの前に立つ。
「へへへ、もう卓球にも慣れたぜ。今の俺ならアルフリート様でも勝てるはずだ!」
相変わらずの三下臭が漂う言葉だ。トールの次にチンピラ言葉が似合うと言ってもいいだろう。
「……俺に勝つにはまだ早い――ああっ!? まだ喋ってる途中なのに!?」
「へへへ! 油断している奴が悪いんだよ! 俺に得点一だ!」
俺が呆然としていると、アーバインがへらへらと笑いながら言う。
この野郎。そっちがそう来るならこっちだって容赦しないぞ?
俺はムスッとしながらも、転がっていったコルク球を拾ってアーバインに渡す。
それから俺は油断なくラケットを構えて、アーバインからのサーブを待つ。
俺の警戒心を目にしたアーバインは舌打ちしながらも、サーブ体勢に入る。
どうせアーバインのことだ。バックハンドを攻めるようにサーブをしてくるのだろう。
俺がそう思っていると予想通りアーバインのサーブがバックハンド側にやってきた。それを予想していた俺は早いタッチでストレートにドライブを返球。
「チッ! 張ってやがったか!」
アーバインはそれに驚きながらも器用にそれをクロスに切り替えしてきた。
返球が甘ければ叩いてやろうと思ったが、意外にも返球は深い。
アーバインの言葉の通り、既に球を予想して張ることまで覚えているとは、中々に飲み込みが早いものだ。
アーバインの飲み込みの早さに舌を巻きながらも、俺は返ってきた球の方に移動しながら再びストレートに打つ。
しかし、俺の歩幅では早い返球への身体の入りが甘く、若干返球が甘くなる。
「それを待っていた! モルトへのバック攻めで鍛えた俺のバックドライブを食らえ!」
そこを嬉々としてバックハンドで構えるアーバイン。俺はアーバインがラケットを振るのに合わせて、サイキックでコルク球を微妙に逸らしてやる。
すると、アーバインのラケットはコルク球に当たることなく、見事に空を切った。
「あらっ!?」
「ハハハハ! あれだけ息巻いときながら空振りとかだせぇ!」
空振りをして目を丸くするアーバインを、モルトが指さして嘲笑する。
先程アーバインに負けた腹いせだろうな。
「うるせえ! 外野は黙っとけ! 今のが決まれば確実に俺の得点だったんだぞ!」
「ちゃんとラケットに当たればな!」
モルトに笑われながらも、アーバインは転がっていったコルク球を拾い上げる。
まあ、卓球で初心者が空振りをするなんてよくあることだしな。
アーバインはまだ気付いていないようなので、もう少しやらせてもらおう。
アーバインからコルク球を受け取った俺はニヤリと笑い、
「あはは。次は空振りしないようにね?」
「早くサーブしろよ!」
俺があくまで空振りをからかうかのように言うと、アーバインはムキになったかのような表情で叫んだ。
言われなくてもすぐにサーブをしてあげようじゃないか。
俺は即座にサーブをしてやる、微妙に回転をかけながら外側に逃げていくようにだ。
俺のコートを跳ねて、アーバインのコートに入ったところで再びサイキック。
今度は回転に偽装できるように、コルクを動かすのではなく、コルクの回転を速める。
すると、アーバインの陣地でバウンドしたコルク球は急激にコートの外側に曲がりだした。
アーバインのラケットから逃げるかのようにコルク球が通り過ぎていく。
「な、なんだと!?」
これにはアーバインもビックリで、空振った体勢のまま固まっていた。
「すっげえ、魔球か!? カクンって曲がったぞ!」
「球が曲がるのか!?」
これには外野であるモルトとルンバもビックリで、驚いたような声を上げていた。
「ふふふ、俺の曲がるショットに対処できるかな? アーバイン?」
「ちくしょう! もう一回来い!」
コルク球が無機物である限り、サイキックを無詠唱で使える俺は卓球では最強なのだよ。
◆
「……酷い。そこまで全力でやらなくても……」
俺がアーバインに魔法を使ったり、実力のみでコテンパンに倒すとアーバインは見事に凹んでしまった。
「ちょっとルンバさん! スマッシュするならちゃんとコートに入れてくださいよ!」
「悪い悪い! つい力が入ってな!」
俺達の前では、交代したルンバとモルトが楽しそうに卓球をしている。
「まあまあ、それくらいアーバインが手強かったってことだよ」
「あんな風に角を狙える奴が、俺を手強いと思えるはずがない……」
俺が慰めてやるも、アーバインはどんよりとした表情のままだ。
さすがにサイキックで緻密にコントロールにして、エッジを攻めるのはやりすぎだったかもしれない。角に当たってコースが変われば、さすがにアーバインというか、卓球のプロでも返球は怪しいよな。
「まあ、エッジを狙うのは魔法併用じゃないと無理だから」
「汚ねえ! こいつ卓球で魔法を使ってやがったのか!」
俺が種明かしをすると、アーバインが胸倉を掴んできた。
「最初だけね。途中からは実力だよ!」
「いやいや、それでも魔法なんて無しだろ!?」
「俺は無しといった覚えはないよ。アーバインも使えばいいさ。まあ、無詠唱でラリーしながら無属性のサイキックを使えたらの話だけど」
「ぐぬぬ! そんな風に魔法を一瞬で使える奴なんて滅多にいねえよ!」
俺が不敵な笑みを浮かべながら言うと、アーバインが悔しそうな表情で叫んだ。
「ふいー、いいお湯だったっすねー。お? アルフリート様、そこで何やってるっすか?」
そんなアーバインの叫び声を聞きつけたのか、風呂を上がったらしいトリーがロビーからやってくる。
「ん? 卓球だよ」
「なんすかこれ!? また新しい遊びっすか!? 商品になるなら俺にも噛まして下さいっすよ!」
俺が簡単に答えると、トリーが卓球に目をつけたのか興奮した様子でやってきた。
卓球も面白いとは思うけど流行るのだろうか?
でも、カグラ服を着たカグラ人が旅館で卓球をするようになったら面白いよね。
俺はそう思いながら、トリーに卓球のことを説明した。
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