卓球をしよう
遅れまして申し訳ございません。
「おーい! アル! とびっきり高い酒じゃなかった……とびっきりコルクが大きいやつを持ってきたぜ!」
土魔法でラケットを四人分作り終えると、抱えるほど大きなワイン瓶を嬉々として手に持ったアーバインとモルトが戻って来た。
それからアーバインが大きなワイン瓶を見せびらかすようにテーブルの上に置く。
「おー! オリガの赤ワイン! 王国でも中々手には入らねえやつじゃねえか!」
「今回は貴族であるアルフリート様の命令という大義名分がありますからね。遠慮なくかっぱらってきてや
りましたよ! ねえ、アルフリート様?」
アーバインがニヤニヤと笑いながら、確認するようにこちらに視線を向けてくる。
いや、いくら貴族であっても何でも許されるわけではないんだが。王国でも滅多に手に入らないってどれくらいの価値があるものなのだろう?
お酒って価値の高い物は凄く高いって聞くけど……。
まあ、いざとなったら意地でも卓球を完成させて、商品としてトリーに売り込むことで許してもらおう。
「わかったから開けてよアーバイン」
「へーい!」
俺が許可を出すとアーバインが嬉々としてワインのコルクを抜く。ワイン瓶が普通よりも大きいからかキュポンッという音が大きく響き渡った。
アーバインが大きなコルクを俺に手渡してくる。
「んで、このコルクをどうするんだ?」
「丸く削ってボール状にするんだよ」
「それなら俺がやってやろう!」
俺がそう言うと、ルンバがカグラ服にある懐からナイフを取り出してコルクを削り始めた。
大剣を持ち歩いてはいないけど、一応は身を守るような物を持っていたらしい。
正直言って、コルクを綺麗な球体にする自信はあまりなかったので、嬉しい申し出だ。
単に俺がやると危なっかしいと思われたのかもしれないけど。
外見に似合わずにルンバは手の中にある、コルクを器用にもナイフで削っていく。
冒険者として生活をしているお陰か、こうやってナイフで削ったりするのは得意なのだろう。
ルンバがリズムよくコルクを削っているのをしり目に、アーバインとモルトはいつの間に用意したのかグラスになみなみと赤ワインを注いでいた。
それから乾杯するようにチーンとグラスをぶつけると、それをゆっくりと煽った。
「くー! 高いだけあって飲みやすいな!」
「ああ、これだけ美味いワインは久し振りだな!」
「おい、お前達。俺にも残しておけよ?」
幸せそうに呑んでいる二人がいるからか、ルンバが念を押すように言った。
いいなあ。俺も身体が大人ならば酒杯に混ざれたというのに。
そんな風にルンバがコルクを削り、アーバインとモルトが赤ワインを呑んでいると、二階からロビーへと降りてくる大勢の足音が聞こえた。
「マズい! ワインを隠せ!」
冒険者としての危機察知能力が働いたのかアーバインが即座に立ち上がって、ワイングラスをソファーの裏に隠す。
すると、モルトが無言でワイン瓶を持って庭にある石の裏に隠した。
そしてワインを隠し終えたモルトがロビーに戻った瞬間、絶望の声を上げる。
「おい、ワインの匂いがするぞ!」
「何ぃ!? そればっかりはどうしようもねえぞ! 換気しろ! 扇げ扇げ!」
扇げといっても団扇もないのにどうするのか。
「俺は呑んでねえし、関係ねえからな?」
コルクを削るルンバも今回ばかりはさすがにバレると思ったのか、そんな事を言う始末。
「あー! ルンバさん、酷いですよ!」
「アルフリート様! 魔法で何とかできないか?」
慌てる二人が見ていられなくなったので、俺は風魔法を発動してロビーにある空気を喚起してやる。
「さすがはアルフリートの親分!」
親分と言うな。商人からワインをかっぱらっているし、本当に山賊になったような気がするだろ。
俺が心の中でそのように突っ込んでいると、二階から降りてきた男性達がゾロゾロとロビーに入って来る。
タオルや着替えを持っている様子から、皆でお風呂に入るのだろう。
先頭にいるトリーは俺達に気付いたのか、手を振りながら声を上げる。
「アルフリート様! 皆でお風呂に入らないっすか?」
「いんや、俺達はもう入ったし、ここでゆっくりしてるよー」
俺達は帰って来てすぐに入らせてもらったしな。
それに二十人、三十人の男に囲まれながら入ってもゆっくりとできる気がしない。昨日の枕投げのポロリが比じゃないほどに絵面が酷くなりそうだ。
「そうっすか? それじゃあ俺達は入るっすねー」
俺が断ると、トリーはあっさりと商会の男を引き連れてお風呂の方へと消えていった。
トリー達が何も反応しなかったからか、アーバインとモルトが安心したように息を吐いた。
それからまたいそいそとワインの用意をしだす。相変わらず懲りない奴等だ。
「よし、できたぞ! アル、こんなものでいいか?」
ルンバが削り終わったのか、すっかりと丸くなったコルクを渡してくる。
おー、コルクが丸いと不思議な感じだな。
「うん! こんな感じでいいよ! 後は試しながら微調整をすればいいから」
「わかった」
コルクの削りカスをゴミ箱に捨てた俺は、早速コルク球を持って庭にある卓球台の下へ移動する。ルンバも同じく付いてき、アーバインとモルトもグラスを持ちながらやってきた。俺達を監視している三之助も同じくだ。
「で、これはどうやって遊ぶんだ?」
気になって仕方がないのかルンバがどこかソワソワしながら聞いてくる。
「ここにあるラケットっていう物でコルク球を打って相手のコートに入れるんだ」
「おおっ!?」
俺がそう言いながら試しにラケットでコルクを打つと、コルクがルンバのコートに入ってバウンドした。
ルンバは突然バウンドしてきたコルクに驚いて、思わずキャッチしてしまう。
「ダメだよキャッチしたら。ちゃんとラケットで打ち返さないと」
「お、おう! そういうことか!」
俺がそう言うと、ルンバは巨体に見合わない丁寧な振りでコルク球を俺のコートへと飛ばしてくる。
コンッと跳ねてくるコルク球を俺も同じように打ち返した。
同じようにルンバが打ち返してくるも、今度は俺のコートに入らずに外に逸れてしまった。
「ああっ……」
「はい、ルンバ失点。俺に一点が入りましたー」
「なるほど! こうやって多く点数を取った方が勝ちか!」
俺の言葉で大体わかったのか、ルンバが納得したように言う。
俺とよく遊んでいるだけあってか勘がいいな。
「そうそう。こうやって打ち合って十一点を先に取った方が勝ちだよ」
外野であるアーバインやモルト、監視している三之助が感心するように頷いた。
「へー、何か面白そうだな」
「まあ、派手さはないけど軽い運動にいいかもな。あんまり激しく動くと三之助とか女将が怒りそうだし」
「……あなた達が特別騒がしいだけです。貸し切りですし、節度さえ守ってもらえれば私達もうるさくは言い
ませんよ」
まったくもって三之助の言う通りだ。
だが、この卓球ならば、激しく騒ぐこともないと思う。……多分。
コートを隔てて打ち合うだけだから節度を守りながら楽しめだろう。少なくても昨日のような騒がしさにはならないはずだ。
「それじゃあ、ルンバ。今からやってみるよ?」
「おう! いつでも来い!」
俺は地面に落ちたコルク球を拾い上げてルンバへと打つ。
ルンバは先程アウトしたせいか、丁寧な動作でゆっくりとラケットを当てて俺のコートに入れてくる。
ルンバ程大柄な男性がラケットをコンパクトに振ると可愛らしいな。
さすがに初心者相手にコースを狙ったりするのは可哀想なので、俺もラリーを続けるように優しく打ち返
す。
ふむ、コルク球は今のところ問題なく機能しているな。
多少バウンドする音がうるさくもあるが、これくらいなら目くじらを立てるほどでもないだろう。三之助も今のところ何も言ってこないし。
そんな事を思いながらラリーをしていると、ルンバがコルク球をネット代わりの壁に引っ掛けた。
「おおっ!? なんか壁に阻まれたぞ!? これ邪魔じゃねえか!?」
「あはは、それがあるから面白いんだよ。壁をきちんと越えるように打ってきてね」
壁を取っ払おうとするルンバを宥めながらラリーを再開。
コルク球が土魔法で作った台の上をバウンドしてコンコンと音を立てる。
こうやってラリーをしているとルンバも徐々に慣れてきたのか、勢いのある球を打ってくるようになってきた。心なしか正面ばかりではなく、徐々にコースを狙うように打ってきている気がする。
野性的勘が優れているせいか、段々とコツを掴んできやがったな。
俺ばかり振られて打ち返すのも癪なので、俺もルンバの打ち返しにくい場所を狙ってやる。具体的にはバッ
クハンドじゃないと打てないコースだ。
早めに打ったバックハンドコースにルンバは案の定付いていけず、どう振るか迷ったあげくに空振ってしまう。
典型的な卓球初心者のやられ方だ。
「あははは! ルンバ空振り!」
「左手の方にきた球を打ち返すのが難しいぞ?」
空振ったことで頭が一杯なのか俺の挑発に乗ることもなく、ルンバは首を傾げる。
それからルンバは思いついたような顔をし、俺のバックハウンド側に球を打ってきやがった。咄嗟のショットに、俺はバックハンドで球を打ち返す。
「……ほう」
それを見たルンバがニヤリと笑みを浮かべながら呟いた。
この野郎、俺を利用してバックハンドの打ち方を学びやがったな。
さすがは冒険者、勝つためには手段を選ばないな。
そっちがその気にならこっちだって容赦はしない。
俺はルンバが返球してきた甘い球を、思いっきりスマッシュ。
俺の身長が低いせいかドライブ気味になってしまったが、コルク球は十分な加速を得てルンバのコートを抜けていった。
「どわあっ!? 急に早くなったぞ!」
スマッシュにまったく反応できなかったルンバが驚きの声を上げる。恐らく、コンコンと緩やかに打ち合うだけの遊びだと思っていたのだろう。
いやいや、それは甘い。卓球はかなりハイスピードなスポーツだからね。
「おい、今の俺も打ってみたいぞ!」
「いいよ」
俺が返事をするとルンバは遠くに転がったコルク球を拾ってくる。
「さっきのが打てそうな高い球を打ってくれ」
「……わかった」
なんて風に殊勝に返事をしているが、ルンバを信用なぞはしていない。
卓球において、初心者が打つスマッシュほど怖いものはない。なまじ簡単に力を込めて打てるせいか危なっかしくて敵わない。
だから、俺はルンバに球を打つと同時に、目の前にシールドを張った。
「おらぁ!」
するとルンバが放ったスマッシュは見事に俺の頭部部分に当たり、シールドがそれを反射してルンバの顔面にコルク球が当たった。
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