見栄っ張り
このマンガがスゴい! Webにてコミカライズ二話が公開されています!
よろしければチエックしてください!
男性用の奥のスペースでひとしきり言い合っていた俺達は、アリューシャとイリヤの着替えが終わったとの報告を店員から聞いて入口へと戻る。
俺を先頭に、ルンバ、アーバイン、モルトというチンピラが続いていく。
前を歩きながら振り返ると、それはもう質の悪いグループが歩いている姿にしか見えなかった。
この三人が通りを歩けば人垣が勝手に割れていくんじゃないだろうか。
そんな事を思いながら服屋の入口へと戻ると、そこにはカグラ服を着た二人の女性がいた。
紺色の髪を結い上げた女性と、ピンク色の髪を横で纏めた女性だ。
髪の色からして間違いなくアリューシャとイリヤだろう。
俺達の足音に気付いたのか、アリューシャとイリヤが振り返る。
そこには見事にカグラ服を着こなした二人の美女がいた。
落ち着いた青を基調とし、淡い水色や藍色が花のように咲き乱れたカグラ服を纏っているアリューシャ。紺色の長い長髪は、カグラの髪飾りによって後頭部で結われてポニーテールとなっている。
長い髪が持ち上げられることによって、アリューシャのほっそりとした白い首筋が露わになり、女性らしい色気と落ち着いた涼やかな雰囲気が醸し出されていた。
そしてイリヤの方は、淡い色合いをした薄ピンク色のカグラ服を纏っていた。
袖や襟、足下には目立たないように花弁が散りばめられており、徐々に色がピンク色に近付くグラデーションとなっていた。
カグラ服の色合いが白色に近いお陰か、イリヤの鮮やかなピンク色の髪がよく映える。
可愛らしくて清楚感ある彼女にピッタリのカグラ服だと思った。
二人共綺麗な女性だとわかってはいたが、服装で印象がここまで変わるのか。
俺達は二人の美しさに呆然としながら「おー」と声を漏らす。
「ぷはは、あんた達チンピラにしか見えないわね!」
涼やかな雰囲気を醸し出していたアリューシャがお腹を抱えて笑い出す。こうなってしまえば、美人も台無しだな。
「何だと!? 粋があると言え!」
腹を抱えて大笑いするアリューシャに、アーバインが食ってかかる。
「なあ、イリヤ。俺達はチンピラなんかじゃないよな?」
「えっ? ……あー、えっとですね……」
モルトがイリヤへと尋ねるが、イリヤも多分チンピラみたいだと思っていたのだろう。凄く言葉の歯切れが悪い。視線を彷徨わせて言葉を探している感じがする。
「凄くお似合いだと思いますよ?」
「チンピラって事を否定しないって事は、アーバインとモルトはチンピラっぽい姿が凄く似合っていることだよね?」
「はい!」
俺が横から挟んだ言葉に、イリヤが笑顔で頷く。
その瞬間、モルトとアリューシャに詰め寄っていたアーバインがガックリと崩れ落ちた。
「……いやいや、違いますよアルフリート様!? モルトさんもアーバインさんも違いますからね!?」
二人の落ち込む姿と今の会話の内容を思い出したイリヤが、必死に弁解しようとするが遅すぎた。もはや弁解の余地はない。
「ほーらね。受け入れなさい」
崩れ落ちたアーバインをアリューシャがペチペチと叩いて笑う。
「カグラ服で胸が誤魔化せるからって調子に乗りやがって……」
アーバインが悔しそうにそんな言葉を吐いた瞬間、周囲の気温が下がった気がした。
「言葉には気を付けなさい。ここには私の仲間がたくさんいるのよ?」
アリューシャのビックリするくらい抑揚のない冷たい声に思わず辺りを見回すと、服屋の店員である女性達が冷たい微笑を浮かべていた。
さっきまで穏やかな笑みを浮かべていた案内の女性や、着替えを手伝ってくれた女性まで。
多分ここにいる女性は、あまり胸が豊かな方ではないの……これ以上は止めておこう。妙に鋭い視線が飛んでくるのを感じた。
やはりカグラ人は、普段の物腰が柔らかくて優しい分、怒らせると怖いのだろうな。
「……調子に乗っていたのは俺でした。もう二度と言いません」
「わかればよろしい」
アーバインの心の込もった謝罪の言葉によって、店内の雰囲気が穏やかなものへと戻る。
店員である女性達の笑顔も、いつもの穏やかなものに戻っていた。
「それにしても二人共カグラ服が似合うな」
「そうだね。凄く印象が変わって見違えたよ」
空気を読んだのか天然なのかは知らないが、雰囲気を明るくする言葉に俺も便乗しておく。
「ありがとうございます。ルンバさん、アルフリート様」
ルンバと俺の言葉に、アリューシャは少しまんざらでもなさそうに、イリヤは照れくさそうに笑う。
たったこれだけの仕草でも、二人の性格の違いがよくわかるな。
「いつもとはまったく違う格好なので、少しドキドキしますね」
「そうよねー。綺麗に見えるのはいいんだけれど、少し歩きにくい感じするわ」
アリューシャが足元の裾を確かめるように引っ張る。
さすがに着物姿では大股で歩いたり、走ったりはできないだろうな。
「それに比べて、ルンバさんとアルフリート様のカグラ服は随分と動きやすそうですね」
「おう、甚平っていう日常服らしいぞ。肌触りもよくて涼しいし、動きやすい。オススメだぞ?」
「そうなんですか? お父様のお土産に買ってあげたいですね」
イリヤがルンバの着ている甚平の材質を確かめるように触る。
ノルド父さんやシルヴィオ兄さんも甚平を買ってあげれば喜ぶかな?
脳裏で二人が着る姿を想像してみたが、余り似合うとは思えなかった。すらっとした線の細い体格に、絹のようにサラサラとした金髪……。着物ならともかく、甚平は似合わないな。バルトロやローガン辺りが喜んで着そうだ。案外、エリノラ姉さんも気に入りそうで怖いな。
「…………」
バルトロ達にはどんな甚平が似合うだろうと考えていると、俺の目の前にアリューシャがやってきた。
神妙な顔つきで屈みこんで、こちらに視線を合わせてくる。
それから俺の全身をじーっと眺めては首を捻り、横や後ろ側に回って観察し、甚平を触ったりする。
何なのだろう。
「……どうしたの?」
アリューシャの奇怪な行動に思わず口を開く。
「外にいる子供達と同じはずなのに全く違うのよね。どうしてかしら?」
「知らないよ」
別に甚平姿が様になっている子供がいてもいいじゃないか。
◆
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
カグラでの標準装備を身に纏った俺達は、服屋の店員に見送られて店を出る。
全員がカグラ服を買ったことにより、俺達も少しはカグラの風景に溶け込めたのではないだろうか。
アリューシャやイリヤ、モルトは髪色で目立つかもしれないが、俺とアーバインとルンバは髪色も一般的だし、そこまで目立つことはないだろうな。
ミスフィリト王国とはまったく違う異国感溢れる和の国に、溶け込めたようで嬉しい。
異なる文化に触れることで観光をしている気分が大きく味わえる。
「おお、いつもより少し視線が高いな。風情もあって面白い」
「アーバインの下駄は少し底が高いんじゃねえか? 余計に歩きづらいだろ?」
「これがいいんだって」
そう、俺達は服屋で下駄や草履を購入したのだ。さすがにカグラ服を買ったのに、下は普通の靴やブーツというわけにもいかないだろう。
服屋さんは下駄屋と草履屋と協力して商売をしているらしく、カグラ服を買った俺達に格安で売ってくれたのである。
それ以外にも、アリューシャとイリヤに簪のような髪留めやらを売っていたりと結構な商売上手であった。
元の服や靴は旅館に届けてもらえるので俺達も安心だ。
「そんなので大丈夫なわけ? 疲れたとか言わないでよ?」
「わかってるって」
下駄を買ったのはアーバインとモルトで、俺とルンバや女性陣は草履だ。
下駄もいいけど、アリューシャの言う通り一日中歩き回るには疲れるかもしれないからね。
「アリューシャこそ、ウエストがキツイとかごねるなよ? 見栄張ってねえだろうな?」
「失礼ね! きつくなんかないから! み、見栄なんて張ってないし! これでちょうどいいし!」
アーバインの言葉にアリューシャが少し動揺しながらも憤慨する。
服屋さんで着付けをしてもらったのなら大丈夫だろう。何かの拍子に緩んでしまったとしても、カグラ人の女性に頼めば締めてくれるだろうし。
「どうしましょう。私、少し見栄を張ってきつめにしてもらったので、一日持つか不安です……」
アーバインとアリューシャが言い争いをする中、隣にいるイリヤがポツリと呟く。
女性であれば「これくらいでキツいですか?」とか店員に言われたら大丈夫ですって答えてしまいそうな気がするな。
「これからカグラ料理を満喫するためにご飯を食べるのだから、少し緩めの方がちょうどいいのかもしれないね」
俺がそのような事を呟くと、アリューシャとイリヤの肩がビクリと震える。
もしかして今でも帯がきつかったりするのだろうか?
「き、今日はご飯も食べるし、もう少し緩めにしておこうかしら!」
「そ、そうですね! カグラを満喫するために少し緩めにしておきましょう。今日はご飯をたくさん食べて歩き回ることですし!」
「そうね。いつもならこれくらいにきつさでも問題ないけど、ご飯をいっぱい食べて、歩き回るとなると心配だからね! そんなわけでちょっと着付けをし直してくるから!」
俺の残した退路に、ここぞとばかりに乗っかり服屋へと戻っていく女性陣を男性陣は無言で見送った。
更新が遅れて申し訳ありません。先月は胃腸炎や風邪、用事などがあり、何かと忙しかったのです。
あと、『Aランク冒険者のスローライフ』が書籍化します。
ノクターンノベルズでの連載ですが、エロは少なくのんびりまったりした王道スローライフ作品です。




