当たってる
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アルフリート達が湯船に浸かっている頃、女風呂ではアリューシャとイリヤが浴場へと入っていた。
アリューシャは紺色の長髪を無造作に後ろで纏め、イリヤは少し癖のあるピンク色の髪をお団子状に纏めていた。
「うわあ、すごく広いわね」
「脱衣所にある床素材といい、王国の浴場とは大分違いますね」
王国とはまったく異なるカグラの浴場に二人は感嘆の声を漏らす。
「……私、王国の浴場よりもこっちの方がいいわ」
「あっちも悪くはないですけど、ちょっと派手というか」
王国の高級宿や貴族の屋敷にある浴場などは、大理石のようなものを使った派手な造りが多いのだ。それに比べてカグラの浴場は、湯船に入る者の目や気持ちを落ち着けるような内装をしているので、二人にはより新鮮に感じられただろう。
「早速入りたいところだけれど、まずは体を洗わなきゃね」
「そうですね!」
さっさと湯船に入ることしか頭になかったアーバイン達と違って、女性陣はしっかりと脱衣所で注意書きを読んでいた。それがなくてもアリューシャとイリヤには体を洗わずに湯船に入ることはないが。
勿論、男風呂の脱衣所でも同じような注意書きが書かれていたのだが、混浴の件で言い合いをしていた男達には気付くはずがなかった。
イリヤは貴族の女性、アリューシャは商家の娘だ。モルトやアーバインとは衛生観念が元から違うのだ。
岩肌のような材質の床に驚きながら、二人はタオルを持って洗い場へと移動する。
二人並んで風呂椅子を置きなおし、浴場にカコンーーという音が二つ響いた。
「なんかいい音ね」
「ですね」
顔を見合わせてクスリと笑う二人。
それから二人は目の前にはある物を観察する。
「あら? これは何かしら?」
アリューシャがホースの魔導具を手に取って不思議そうに眺める。
「何ですかねこれは? 見たことがありませんが、蛇口の魔導具に繋がっていますし、穴もあるのでお湯を出すものではないですかね?」
知らない魔導具への好奇心が強いのは魔法を扱う者の性だと言っていいだろう。アルフリートの場合は、前世でシャワーという物を知っていたのでそこまで驚きはしなかったが。
「なるほど……。こっちの取っ手を捻るのね」
アリューシャが感心しながら取っ手を捻るとホースからお湯が出てきた。
「なるほど、取っ手を回しておけばお湯が流れ続けるのね」
「そうですね。確かに桶にお湯を注ぐよりも楽ですけど、桶に比べれば水量も少ないですね。けれど、これを改良していけばあまり魔法を使えない人でも、簡単にお湯を浴びることくらいはできそうですね」
「……なるほど、案外カグラにはそういう場所がもうあるのかもしれないわね」
二人が考えているのは所謂シャワー室であるが、カグラ内ではまだ普及していない。今は実験的に旅館が取り入れているだけである。
「もう少し見てみたいけれど体が冷えてきたわ。早く体を洗って湯船に浸かりましょう」
「そうですね」
魔導具の観察もほどほどにかけ湯をしていく二人。最初は目新しいホースでしていた二人だが、やはり水量のせいか桶に湯を注いで浴びるようになっていた。
タオルに石鹸で泡立てていたアリューシャにイリヤが声をかける。
「ねえ、アリューシャ。せっかくですから洗いっこしましょう!」
「あら、侍女のように私の体を隅々まで洗ってくれるのかしら?」
「違います! お互いに背中を洗い合うのです! 洗いっこです!」
意地悪な言い方をするアリューシャにイリヤが頬を膨らませて憤慨する。
アーバインやモルトが、楽だからという理由で背中の洗い合ったという話を聞いてイリヤは密かに興味を持っていたのだ。伯爵令嬢にもなると侍女に洗ってもらうことが多かったので、やったことがないという好奇心が強いのだろう。
「冗談よ。じゃあ私の背中お願いね」
「はい! その後は私の背中をお願いしますね!」
アリューシャがクスリと笑って背中を向けると、イリヤが顔を綻ばせて背中につく。
そして丁寧に泡立てたタオルをアリューシャの背中に当てつけるのであったが、その時タオル以外に背に当たる柔らかいものがあった。
「――っ!?」
それはアリューシャにはなくてイリヤにはあるもの。圧倒的な質量と柔らかさがアリューシャの背を通じて、絶望と嫉妬を与えてくる。
「…………」
「……どうしました? アリューシャ?」
途端に背を丸めて顔を覆うアリューシャに、イリヤは疑問の声を投げかける。
「……当たってる」
「何がですか?」
ポツリと呟くアリューシャであったが、イリヤには何のことかわからない。
それがなおのことアリューシャの胸を抉る。いや、実際に胸の大きさは抉れているほどではないが。
「……もう、イリヤと洗いっこなんてしないわ」
「ええっ!? そんな!? どうしてですかアリューシャ! 座り直さないで洗いっこしましょうよ!」
◆ ◆ ◆
「当たった! 当たった!」
「うぐああっ! め、目がああああああああああっ!」
俺が的確にアーバインの眼球にお湯を飛ばしたことにより、アーバインが湯船に倒れ込む。
「アーバイン!」
湯船でゆったりと浸かっていた俺だが、アーバイン達から顔面にお湯をかけられたので成敗しているところだ。
アーバインに気を取られたモルトの眼球に、俺は手でお湯をピュッと飛ばす。
「め、目がああああああああああっ!?」
俺の飛ばしたお湯が見事の眼球へと当たり、逃れるように体をくねらせるモルト。
この程度の技くらい魔法を使うまでもない。己の手による力と感覚だけで十分だ。
「……こいつ、えげつない精度で眼球を狙ってくるぞ」
濡れた目をゴシゴシと腕で払って立ち上がるアーバイン。身長差があるせいかアーバインの股間がちょうど俺の目線の高さになるのが非常に不愉快だ。
「アーバイン組むぞ! アルフリート様には一人では勝てない!」
「おうよ!」
顔を見合わせて頷く二人。大の大人がこんな小さな子供相手に二対一を仕掛けるとはズルい。とはいえ、魔法で弱った魔物に容赦なく攻め立てる二人のことだから気にしないであろう。
二人は大きなモーションでお湯に腕を入れて、俺の顔面にかけようとしてくる。
お湯の掛け合いとは大きな弱点である目にダメージを受けなければよいのだ。それさえ防げば目が痛くなることも、視界が封じられることもない。つまり目だけにくる攻撃を防げばいいのだ。
「溺れろ!」
二人の腕力と大きな手によってすくい上げられたお湯が俺へと襲いかかる。
溺れろって、俺に窒息させる気満々じゃないか。
そんな事を思いながら俺はひっそりと目元と鼻元に無魔法のシールドを張る。
これで弱点の目に水が入らないし、呼吸も満足にできる。
「「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃ!」」
そうとは気付かないアーバインとモルトは、ここぞとばかりに攻め立てて大量のお湯をかけてくる。こいつらに手加減というものはないのだろうか。
こんな量のお湯をかけられたら湯船から出ないと息ができないレベルだ。
しかし、今はシールドのお陰で問題ない。
アーバインとモルトに好き勝手され、顔面にお湯をかけられるのは少し屈辱だが、最後にこちらが仕返しをするので構わないことにする。
さすがに顔全体を覆うとバレるしな。
「うおー! どうだ参ったか!」
「ごめんなさいすれば許してやるぞ!」
そんな上から目線な事を言いながら、お湯をかけ続けるアーバインとモルト。
それに対して俺は何するでもなく、お湯に晒されるのみだ。逃げるために顔を逸らしたり、湯船から出ることもしない。
シールドで弱点が克服されている以上、苦痛は何も感じないのだ。
「お、おい? アルフリート様? 大丈夫なのか?」
「気絶とかしてたり、泣いてたりしないよな? ここまで棒立ちだと怖いんだが……」
俺が咳き込むような量のお湯を真正面から受け続けることに心配になったのか、二人の攻撃の手が止む。
心配するように屈んでいた二人に、俺はニンマリと笑顔を向けた。
「「し、しまっ――」」
俺の策だと気付いた二人だがもう遅い。
俺は屈みこんだ二人の眼球へと強めにお湯をと飛ばしてやる。
「「め、目がああああああああああああああっ!」」
目元を抑えて体を反らせるアーバインとモルト。俺はそこに追い打ちをかけるように耳の穴にお湯を飛ばしていく。
「ひいっ!」
モルトが反射的に耳を押さえたところで、隙が出た右目にすかさずお湯を飛ばす。
「ああっ!? また目に!」
モルトが怯んでいる間に俺は、反撃しようとしているアーバインの鼻の穴にお湯を飛ばす。
「ぶふぉっ! ゲホッ、ゲホッ!」
それによりアーバインが大きく咳き込んだ。鼻にお湯が入ったら辛いよな。
「まだやる?」
「「こ、降参です」」
「よろしい」
◆ ◆ ◆
お湯の戦いを終えた俺達は、大きな湯船に飽きたので奥にある露天風呂へと移動する。
温度差による水滴が張り付いた引き戸をカラカラと開くと、そこには大きな石が点在する露天風呂があった。
周りを見渡すと、旅館の庭を再現したかのような木々と敷き詰められた砂利石が見える。
床の材質は浴場内よりもつるりとしたものではなく、こちらの方がやや石っぽくザラザラとしていた。色合いも落ち着いた石色というより、青緑のような色合いだ。恐らく使用している石の材質が違うのであろう。
明るい色の壁に覆われた露天風呂は、趣ある旅館の庭にいるようであった。
「おっ、ようやく終わったか?」
大きな石の傍でゆったりと寛いでいるルンバとトリー。二人の手にはおちょこと徳利が握られており、ここで優雅に一杯やっていたことは明らかであった。
というか、それってば日本酒の類だよね? ズルい!
道理で途中から二人がそそくさと湯船から退場したわけである。
一方、俺の後ろではモルトが耳からお湯を出そうと跳ねていたり、アーバイン涙目になって咳き込んでいた。
「見たところアルフリート様の勝ちっすね?」
「……魔法を使うなんて卑怯だ」
「二人で襲ってくるからだよ」
後ろでぼそりと呟きアーバインに反論しておく。二人がかりでこなければ俺は魔法なんて使うつもりはなかった。
「まあ、アーバインしょげるな。ここに美味い酒があるから」
「「「酒!」」」
徳利を掲げるルンバの下に、俺達はすぐさま駆け寄る。
「いやいや、アルフリート様は子供っすからダメっすよ?」
そんな! その容器からして絶対日本酒だろ? 純米酒とかだろ? 俺の大好物である日本酒を目の前でお預けだなんて!?
「一口だけでいいから!」
「ダメっすよ。これってば飲みやすいっすけど度数が高いっすから」
「そうだそうだ。子供はお湯でも飲んどけ」
「俺達が飲んでやるから、アルフリート様はあっち行ってろ」
懇願する俺にシッシと手を払うアーバインとモルト。
おのれ、さっき俺にコテンパンにされたのを根に持っているな。
「子供って言うなら、あのまま年齢を偽って女風呂に行かせてくれても良かったのに!」
「アルフリート様。その台詞はアウトっすよ」
悔しさのあまり叫ぶ俺に、トリーが呆れた声音で呟く。
その間にルンバ達は徳利を傾けていた。
「小さいですね?」
「その分、酒が強いからな。チビチビと楽しむもんだ」
おちょこに注がれた透明な酒を眺めて「へー」と呟くアーバイン。
「いい香りですね」
「だろ? さあ、飲んでみろ」
ルンバに促されてアーバインはおちょこを傾ける。
「うおおおおおおっ! 飲みやすい! エールやワインとは全然違う!」
「だろ? カグラの米とかで出来ているらしい」
「もう一杯!」
「すきっ腹にこれ以上飲むと酔うぞ?」
「そうだぞアーバイン! 次は俺だ!」
そう言って楽しそうに日本酒を楽しむ、ルンバ、アーバイン、モルト。
「くっ、風情ある露天風呂で一杯できるなんて羨ましい!」
刺し身と相性がいいのに。
「……何がそこまでアルフリート様をかきたてるんすかね? あと五年も我慢すれば飲ましてもらえるっすよ?」
俺は三人の楽しそうな声を聞きながら、トリーに慰められるのであった。
……五年は遠いな。
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