先人の偉大さ
あけましておめでとうございます!
今年もスローライフをよろしくお願いします!
「よし、俺達も大物を釣るぞ! お客であるお貴族様に負けてられるか!」
「「おおっ!」」
ダグラスが発破をかけると船員達が威勢よく返事して、それぞれの釣り場へと戻っていく。
俺のような子供がドスマグロを釣り上げたせいか、大人達も負けるわけにはいかないのだろう。皆、海面を睨みつけるようにしながら釣り竿を手に持っている。
そんな風に睨んだら魚達もビビッて寄ってこないのではないだろうか。
俺はといえばドスマグロとの格闘をしたせいか腕が疲れて、釣り竿を持つこともできなくなったので休憩だ。さすがは七歳児の体力、貧弱だな。
そんなわけで現在は俺の代わりにルンバが釣りをしているのだ。
ルンバならきっと魚がヒットさえすれば、あの剛腕で見事な一本釣りをしてくれるだろう。
ちなみに俺の釣り上げたドスマグロは船員と料理人によって即座に厨房に運び込まれた。
今では料理人の手によって即座に締められ、血抜きなどの処理や解体が行われている最中であろう。
後で刺し身で食べたいのでできたら持ってきてと料理人に頼んである。
幸い手元にはトリーのお陰で醤油があるのだ。念願の刺身を食べる絶好の機会である。
この世界にも一応刺身の文化はあるが、海に面している地域に少し浸透しているくらいらしい。
王都でもお刺身を見なかった通り、海から遠いミスフィリト王国は刺身を食べる文化が余りないようだ。
逆に海に囲まれているカグラでは刺し身文化が浸透しており、港町エスポートではごく一部の人達が食べるとのことだ。
うん、さすがは醤油の原産国なだけはある。さすがはカグラだ。
ますますカグラに到着するのが待ち遠しくなってきたなあ。
そんな事を考えながら船の甲板を歩いていると、船の後方部から悲鳴が聞こえてきた。
「ああああああああっ!」
「ちょっとアリューシャ! 水魔法の練習をするならあっちでやってください! 服が濡れます!」
「あっちは皆が釣りをしていたり、走り回っているから気が散るのよ!」
何事かと思って様子を見ると、ただ二人が後方で魔法の練習をしているだけであった。
どうやら俺の言ったとおりに魔力制御の練習をしているらしい。
アリューシャの水魔法の制御に失敗したせいか全身がずぶ濡れになっており、テーブルに座っていたイリヤは巻き込まれて足元がびしょびしょになっていた。
イリヤはアリューシャの魔法に巻き込まれまいと、テーブルと椅子を移動させて端っこに陣取る。
そして、イリヤは土魔法でジェンガのピースを再現しようとしていた。
俺の作った文字入りかつ、角を丸めたピースと睨めっこしながら自分の作り出した土魔法に魔力を通して形を調整していく。
さすがにいきなり文字は無理だと判断したのか、まずは同じサイズにすることから始めたようだ。綺麗な長方形とはいえない歪なものだが、何ヵ月もやっていれば綺麗な形になっていくだろうな。
一方アリューシャは、再び呪文を唱えて水球を空中に作り出していた。
……一、二、三、四……四つ。安定して出せるのはそれくらいらしい。
まあ、たくさん出すよりも、少な目にして精密な動きを練習する方が効果的だからね。
アリューシャが水球を拙い動きでほわほわと動かしているのを見ると、何だかむず痒くなる。
魔物に水球をぶつけるのとは訳が違うという事を実感しているのだろう。
アリューシャも同じようなことを思ったのか、表情を険しいものにしていた。
水を被って紺色の前髪が垂れているせいか、幽霊のような顔つきになっていて怖いな。
目の前で水球を操作して、茶化してやろうかと考えていたのだが怒らせると何をされるかわからないので、俺はそっとその場を離れた。
甲板に戻って釣りをしているアーバイン達の様子を見に戻る。
すると、アーバインの後ろには流木や革靴、壺、布にロープといったものが積み上げられていた。
「何これ? ゴミ?」
俺がそんな一言を漏らすと、モルトが堪え切れないとばかりに笑い出した。
「ぷははは! ほら見ろよ! アルフリート様もゴミだって言ってるぜ!」
「うっせえっ!」
既に何度もいじられたのか、アーバインは笑うモルトを視界に収めることなく言葉を返した。
アーバインは相変わらず生き物を釣ることはできていないようだ。逆にここまで生き物以外を釣る方が難しいと思うんだが。
「壺を釣る時のアーバインの興奮具合と言ったら……ククク」
「壺なんてどこに針を引っ掛けたの?」
笑いを押し殺しながら言うモルトに俺は尋ねた。
壺なんて硬い物に針が引っ掛かるのか? 口部分に引っ掛ければ何とかなるか? いや、それだけだと釣り上げる前に外されるだろう。
「引っ掛けたというより壺にある小さな穴とヒビに挟めたという方が正しいな。さすがアーバインだぜ」
逆に凄いな。
アーバインの無駄な才能と呼ぶべきか、運というべきものに感心しながら俺はその壺を観察する。
丸みを帯びた茶色い壺の表面には小さな穴が空いており、そこを中心に蜘蛛の巣状のヒビが入っていた。よくこんなところに針を挟めたものだ。
俺が壺や流木を眺めていると、背後からゾリゾリと引きずられるような音を聞こえた。
船員が通ったか、アーバイン達が歩いたような音とは少し違う。
その音に違和感を覚えた俺は、ゆっくりと振り返る。
そこにはさっきの壺があるだけであり、アーバイン達は変わらずに縁側に座っている。
……おかしいな?
そう思った瞬間、目の前にある壺が動き出した。
ゾリゾリと甲板と壺を摩擦させながら移動する壺。壺は十センチほど移動すると止まった。
信じられない光景を目にして唖然としていたが、俺はすぐに我に返る。
いくらファンタジーな世界であろうと壺が勝手に動くはずがない。きっと中にヤドカリ的な生き物か魔物でも入っているだろう。
そうは思いつつも壺が勝手に動くというのは気味が悪い光景なので、そっと距離を取る。
それから足を屈めて凝視すると壺がゾリッという短い音をたてて揺れる。
……何だろう。家でゴキブリを発見してしまって、タンスの裏にいるのを確信しているかのような気分だ。
何かが壺の中にいる。
確かめるにも怖くて覗けないので、アーバインに声をかけようとすると壺の穴から妙な触手が飛び出した。
「うわあっ!」
「何だ?」
俺が驚きの声を漏らすとアーバインやモルト、ルンバといったメンバーが振り返った。
「うおおおおっ!? 壺から足が生えてやがる! ツボガニーか!?」
「違うだろうが。それは足じゃなくて触手。正確にはタコの足だ」
驚きの声を上げて大剣を手にしようとするルンバを、ダグラスが諫める。
どうやら海の魔物には、人間ほどの大きさをしたヤドカリのような魔物がいるらしい。
岩といったもの硬い物質の物を背負って、急所や死角を補っているそうだ。
「本当だな。中にいるのはタコだ」
壺の中身を覗き込んだアーバインが冷静に判断する。
なーんだ、タコか。驚いて損をしたじゃないか。
ほっと胸を撫で下ろす俺を見て、ルンバ達がしょうがない奴だとばかりに苦笑する。
いやいや、壺から急に触手が出て来たら驚くでしょうに。
「やったね、アーバイン。これで一匹獲物を釣り上げる事ができたじゃん」
「嫌味か! タコは食べられねえから獲物のうちに入らねえよ!」
「え? タコって毒があるの?」
タコ美味しいじゃん。処理して茹でて刺し身にするもよし、塩焼きにしてゲソを食べるもよし。
酒にもあうじゃないか?食べられない理由としたら毒か?
「いや、毒はねえけど、食えないだろこんなの?」
壺から姿を現したタコを指さしながら、嫌悪感たっぷりに言うアーバイン。
「そうなの?」
「いや、まあキモいし食いたいとは思えないな」
「俺は食べたことがないぞ」
「毒はないのは知っているが、俺も食べたいとは思わねえし、食ってるやつも見たことがないな」
俺が視線を送ると、モルト、ルンバ、ダグラスがそのように返事をする。
海で長い間生活しているダグラスがそう言うのだ、恐らくここら辺ではタコを食べる文化がないらしい。
確かにこのようにヌメヌメとして足が一杯生えた生物を食べようとは普通は思わないだろうな。前世でタコを食べなれている俺でさえもそう思う。
タコやナマコ、ウニといったものを最初に食べた人は天才なんじゃないのかと。
どのような視点から見ればタコが美味しそうに見えるのか、俺には想像がつかないな。
だが、タコの美味しさを知っている俺からすれば恐れるに足らず。
「よし、ちょっとタコを料理してみよう」
「「「ええええええええーっ!?」」」
俺がそのように呟くとルンバを除く三人がドン引きしたような声を上げた。
失礼な。人を化け物みたいに見やがって、ちゃんと料理すれば美味しくなるって。
皆様のお陰でスローライフ二巻が発売します。
ありがとうございます!
発売日は近いうちに発表できるかと思います。




