アルフリートの天空要塞
『俺、動物や魔物と話せるんです』の一巻が明後日に発売です。今日から店頭に並んでいるお店もあるので、ぜひお手にとってみてくださいね。
今回は後半部分、書き方が変わっております。ご注意を。
「今日も空は青いな……」
視界いっぱいに広がる空を、物見台で寝転びながら俺は見上げる。
メインマストの頂上にある物見台は、大人二人が余裕で立っていられるほどのスペースがある。ギュウギュウに詰めれば四人くらいは入るな。
それくらいのスペースがあれば、七歳児の俺なんかは余裕で寝転がることができるのだ。
この限られた小さなスペースが俺にとっての秘密基地みたいで楽しい。
本来であればこの狭いスペースは窮屈だというのに、壁に囲われていると思うと逆にそれがいいと思える。不思議だ。
この小さなスペースだけが誰にも侵されることのない自分だけの基地。
それ故に、こんな狭い場所でワクワクしてしまうのだろう。
さらに付け加えれば、ここは海上三十メートルほどの高さにある基地だ。
俺と同じ高さにいる奴等は他にはいない。
ここにやって来るにはシュラウドを駆け登ってこなければ侵入できないのだ。
もちろん、俺がここにいる限りそんな無粋な事はさせない。
シュラウドは体重をかけるだけでギシギシと鳴るので、やってくればすぐに気付くのだ。
アーバインやモルト達が登ってきたらすぐに熱湯をかけてやれる。
ふふふ、完璧な要塞じゃないか! まさにここは俺だけの天空要塞! 誰であろうと俺の聖域を犯すことはできないのだ!
この要塞ならエリノラ姉さんが侵入してくる前に迎撃できる自信があるな。
まあ、今はあんな姉など放っていてお昼寝でもするとしよう。
船は風に煽られ、波に揺られながら進んでいく。
波の揺れが船全体に伝わり、物見台までもが微かに揺れる。
しかし、それは物見台で寝転んでいる俺からすれば赤ん坊をあやす揺り籠のようでいて心地よい。押し寄せる波と引いていく波による一定の揺れが俺を夢へと誘うようだ。
俺の真上では海鳥がくぅ、くぅと鳴きながら飛び回っている。
これを聞いていると、海にいるんだなーと俺を感慨深くさせる。
コリアット村にいる鳥の鳴き声もいいが、海鳥の鳴き声もいいな……。
うるさくもなく程よく響き渡る声は、俺をのんびりとした気持ちにさせる。
小さな体も悪いことばかりではないな。
これは今だからこそ楽しめる方法なのだ。十分に満喫しよう。
だが、ここに不満があるとすれば少し日差しがキツイというくらいだろうか。
春を過ぎてちょうど良い季節だが、如何せん屋根がないためにもろに太陽の光が当たってしまうのだ。
いくら夏ではないと言っても、海上三十メートルで浴びる日差しはキツイものがある。
これは少し布を被せてカバーでもするとしよう。
俺は空間魔法を使い、黒い布をイメージしながら亜空間へと手を突っ込む。
すると俺の手に黒い布が手繰り寄せられたので、それを引っ張り出す。
やっぱり紫外線を吸収させるには黒だな。紫外線を反射する白でもいいのだけれど、黒の方がカットする量が多いし、見ていて眩しくないからな。
さて、これを被せたいのだがここには全く布を被せられそうな突起がない。
少し悪いが土魔法で作った小さな画鋲を撃ち込ませて頂くとしよう。
大丈夫。かなり小さな画鋲だから。これくらいの小さな穴くらい問題あるまい。
画鋲を新たに取り出したハンマーで打ち込む、布を被せた俺は改めて寝転がる。
「おお、さっきよりも眩しくないし涼しいな」
空がほとんど見られなくなってしまったが、これでいいだろう。
また日光に当たりたくなったら、布を捲ればいいだけさ。
俺はゆっくりと瞼を閉じる。
ああ、少し床が固いな。
どうせなら、もう毛布も敷いてしまうか。
人間というのは欲深くて本当にいけない。一つの事に満足しても、次はあれ、その次はこれとキリがないな。
だが、怠惰に忠実な俺は自重する気はない。
即座に亜空間から毛布を取り出してその上に寝転ぶ。
そして、新たにタオルケットを引っ張り出してお腹の上にきちんと乗せるのだ。
さらに、氷魔法で冷気を辺りに噴射して周りの気温を下げる。
ああ、ひんやりとしていて気持ちがいい。
このひんやり感を継続させるために、土魔法でバケツを作って氷を放り込んでおくか……。
これで、快適な睡眠は得られたも当然だ……。
◆ ◆ ◆
アルフリートがいないことに気付いたアーバインは、甲板にてだらしなく寝転がるモルトに尋ねた。
「おい、モルト。アルフリート様はどこだ?」
「あん? そういえばさっきから見てねえな。どこに行ったんだ?」
モルトがむくりと身を起こして、周りを見渡す。
鬼ごっこをして、ターザンロープに飽きてからはアルフリートの姿を見ていない。さきほど暇つぶしに船室の方も覗いてみたがアルフリートの姿はどこにもなかった。
この船上のどこにもアルフリートがいないことに気付き、アーバインは恐る恐る最悪のパターンを口に出す。
「おいおい、いつの間にか海に落ちているとかねえだろうな?」
「子供だからな。海を覗き込んでいてドボンとかあり得るぞ……」
アーバインの言葉にモルトがサッと顔を青くして呟く。
何しろアルフリートは七歳児の小さな子供だ。
船から海を眺めようとして乗りかかり、転落という事は十分にあり得る。
「やべえぞ! 護衛対象がいつの間にかドボンさせていたとか一大事だ!」
「待て、待て! その前にもう一度船内を確かめて周りの奴に聞こう」
モルトの言葉にアーバインは落ち着きを取り戻す。
確かにそうだ。アルフリートは小さい子供なのだし、俺が見逃していただけかもしれない。
じゃあ、早速他の奴に聞いてみようと考えていた時に、ちょうどアリューシャが声をかけてきた。
「今度は何を騒いでいるのよ?」
毎度毎度アーバインとモルトがバカ騒ぎするせいか、その視線はまたロクでもない事を考えているとでも言いたげな様だ。
「おお、アリューシャか! アルフリート様を見なかったか!? あいつどこにもいねえんだよ!」
「海に落ちたかもしんねえぞ!」
アーバインとモルトがまくし立てると、アリューシャは呆れたように腰に手を当てる。
「そんな訳ないでしょ。あの子ならメインマストの物見台にいるわよ」
「メインマストの物見台? 何であんな狭い所にいるんだよ?」
「というかいつの間にそんな所に登っていたんだ……」
思わず顔を見合わせるアーバインとモルト。
「……はあ、私達の護衛対象で子供なんだからしっかり見ときなさいよ」
そんな二人の様子を見てアリューシャは一層呆れの色を濃くした。
自由時間とはいえ、冒険者にとっては護衛対象がいる限りひと時も休む事はできないのだ。
いくら他にも仲間がいて見張っていたにしろ、護衛対象の位置を把握していないのは褒められたことではない。数多の護衛クエストをこなしている二人は、それをわかっているために言い返せなかった。
「……とにかく物見台の確認でもするか」
「そうだな」
◆ ◆ ◆
アーバインとモルトがメインマストの物見台にまで登ると、そこには黒い布が被せられていた。
「あん? 物見台に黒い布が被さってんぞ?」
「日除けか?」
アーバインとモルトは首を傾げながらも布に手をかける――が、黒い布は茶色い釘のようなもので固定されており捲ることができなかった。
「……何か釘みたいなやつで固定されてんぞ」
鉄のようにも見えるが鉄ではない。これは土魔法で作ったものだ。
アルフリートが作ったジェンガもこのような色であった。
とにかく、ここに奴がいるのは間違いないであろうとアーバインは思った。
「お、こっちは固定されていない。捲れるぞ」
モルトに手招きされて、アーバインは反対側へと移動する。
そして、黒い布をまくり上げると、そこにはスヤスヤと寝息をたてるアルフリートがいた。
物見台という狭いスペースに小さな体を納めてである。
しかも、ご丁寧に毛布を敷いてタオルまで腹に掛けてあるのだ。
彼が如何に本気で昼寝をしようとしていたかがわかる。
「こいつ、こんな所で寝やがって」
「というか、アルフリート様は一人で毛布とタオルを担いで登ったのか?」
「そこまでしてここで寝たかったのか……」
思わず呆れかえる二人だったが、ふと周囲の空気が涼しいことに気付く。
「……何かここの空気だけ涼しくないか?」
「だよな。妙にここだけ空気が冷たいんだが……」
ヒンヤリとした心地よい冷気がどこから漂っているのか。
アーバインとモルトはそれを確かめるべく視線を巡らせる。
「おい、あのバケツの中に何か入っているぞ」
「本当だな。土魔法で作ったやつだな。凄えな。歪みが全くないぞ。イリヤよりも上手いんじゃねえか?」
土魔法さえあれば何でも作れる。とは言われているが、それは途轍もない技量を持って初めて成し遂げることができる事である。
普通の土魔法使いでも精々簡単な壁や物が作れるくらいであり、道具を作るというのは難しいのである。魔法使いは鍛冶師でも設計士でもない。
並外れた観察力と造形力がなければ、バケツですら満足に作ることができないであろう。
並みの者が作れば歪な形をしたり、穴が空いたりすることがあるのだ。
それなのに、アルフリートはマイホームだとかほざいてほいほい家を作っているのである。
王国の宮廷魔法使いもビックリ仰天である。
「ああ、ジェンガを見てイリヤがへこんでいたよな」
アルフリートのジェンガのあまりの精巧さに驚いたイリヤは、アルフリートからジェンガのパーツ一つ貰い、必死に再現しようと練習に励んでいたのであった。
魔法話をそこそこにして、モルトがアルフリートを起こさないように身を乗り出してバケツに手を触れる。
「冷たっ!」
「はあっ? 何でバケツが冷てぇんだよ。氷でも入っているのかよ」
冗談で言ったアーバインの言葉だが、その通りであった。
モルトがバケツを掴み、中を覗き込む。
「……氷だ」
「はっ?」
真面目な表情と声音で呟くモルトを見て、アーバインも慌てて中身を確認する。
そこにはぎっしりと氷が詰められており、絶えずして冷気を吐き出していた。
二人は思わず氷を手にする。
「おいおい、何でこんな所に氷なんてあるんだよ!? 今、春を過ぎたばっかりだよな? 船室に氷なんて積んでいたか?」
「船旅に氷を積む奴なんていないだろ。……というか本物だな。マジで冷てえ」
そうなると、後は魔法でこれを作ったことになるのだろう。
それ以外考えられなかった。この世界の誰が氷を船に積み込むであろうか。
運ぶにしろ溶けて使い物にならないに決まっている。
だとしたら、アルフリート様は氷をいくらでも生み出せることになる。
「……ちょっとこれ拝借して食うか?」
「……いいな、それ」
その思考にいきつくと、躊躇する必要はなかった。二人は顔を見合わせて笑い合う。
『俺、動物や魔物と話せるんです』
よければどうぞ!
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