閑話 第三王女レイラ 空を見上げて
2400万PV突破! ありがとうございます!
そういえばこの間、本作品に初めてレビューがつきました。地味に今までなかったので嬉しかったです。
「また空を見上げているんですか?」
「……はい」
私が寝室にある窓から外を眺めているとサリヤが不思議そうに尋ねてきました。
ここは足の不自由な私でも身近に外の世界を楽しむことができるお気に入りの場所です。
窓を開け放つと涼やかな風と共に人々の生活の音や楽しそうな会話が入り込んできます。
ここからだと人々の様子はよく見えませんが、魔力を瞳に集めて強化すれば大通りを歩く人の顔くらいは見ることができます。
けれども。た、たまに力仕事をしているであろう男性が……その、上半身を露出させて歩いている様子を見ると何だかこちらまで恥ずかしくなってしまうので困ります。
あんなに人がたくさんいる所なのに、あんな恰好をしているなんて……。皆さん恥ずかしくないのでしょうか? 私にはとても直視することができません。
見ているだけで顔が熱くなってしまうのを感じてしまいます。
見えすぎるというのも困るものです。
私は身分的な理由と身体的な理由で自由に歩き回る事ができないので、このようにして外の世界と触れ合っています。
現実では無理だと頭でわかってはいても、王都に住む人々のように自由に街を歩いてみたいと思う気持ちは収まりません。
この広い王城以外の世界はどうなっているのでしょうか?
海水というものが地平線にまで広がっているという海。私が住んでいるミスフィリト城よりも大きい山々。緑のカーペットのように広がる平原。砂漠、村々、魔物や動物などこの世界には私の知らないものがたくさんあります。
私はそれをこの目で見て、肌で感じて、耳で楽しみ、舌で味わいたい。
もっともっと知りたい。
もの心がついてから数年間。そんな想いを必死に閉じ込めて暮らしてきましたが、最近になってそんな想いを強く感じるようになりました。
それは忘れもしない、三週間前の光景。
大空を自由に歩き、はしゃぎまわっていた二人の少年。
あの二人の自由でいて、全力で人生を楽しんでいる様子が瞼から離れないのです。
あの二人に比べて私は今を楽しんでいるか? 納得しているのか?
そんな事を考える日も少なくありません。
「二人の少年の姿は見えますか?」
「……いいえ、見えません」
今日も王都の空は快晴で雲一つなく、二人の少年の姿さえありません。
まるであれは見間違いだと言わんばかりに。
「見間違いじゃないですか?」
「いいえ、見間違いじゃないです。間違いなくこの目で見ました!」
からかうように言ってくるサリヤに私はきっぱりと答える。
見間違いなんかじゃないのに、サリヤはこうして私の見間違いだと言ってくるのです。
あの日から毎日空を見上げていますが未だに二人の少年の姿を見てはいません。
でも、見間違いなんかじゃないんです。それだけはハッキリと言えるんです。
「じゃあ、どんな少年だったのですか?」
「一人の少年はどこか目つきが悪い茶色髪の少年で、もう一人が…………確か眠そうな瞳をした茶髪の少年だったと思います」
「もう一人の方は自信がなさげですね……」
どうしてでしょう?
お互いに瞳を魔力で強化して視線も合いましたし、お互いに手を振り合ったりもしました。
なのに、魔法使いであろう少年の方はあまり印象に残っていないのです。
こう……パッとしない顔つきと言いますか、目立ないと言いますか。他にも多くの人がいれば埋没してしまいそうな平凡な顔つきだったと思います。
「私はてっきり物語に出てくるような金髪碧眼の美少年だと言い張るのだと思いましたが……」
「そんな人ではありません」
どこかいじめっこのように笑うサリヤから私は拗ねるように顔を逸らします。
確かに私は身体が不自由で城にこもりがちな事から、本を読む事が多いですが現実と混濁はしていません。……多分。
「そうですね。レイラはどちらかと言うと茶髪の美少年が好きですものね。『満月の夜に』とある王国の王女様が、ある日平民の男性と出会って恋に落ちて、身分の違いから満月の夜に駆け落ちしてしまう――」
「きゃあああああああああああっ! どうしてサリヤがそれを持っているのですかっ! ミスフィリト王国の歴史のブックカバーをかけて目立たない場所に置いておいたのに!?」
私はサリヤが手に持っている恋愛小説を取り返そうと車椅子を反転。
そしてタイヤを転がしてサリヤに近付き手を伸ばしますが届きません。
「レイラは物語ものが好きなのに歴史書がやけに使い込まれているんですよ? すぐにわかりますよ」
ころころとおかしそうに笑うサリヤ。
くっ! 立つことができれば簡単に取り返せるのに! 動かないこの足が心底憎いです!
「返して下さい! サリヤ!」
「私が読んでからお返ししますね」
柔和な笑みを浮かべるサリヤが今日は悪魔に見えます。
「……しかし、レイラってばこういうのに憧れているのですね。うふふ、その気持ちはわからなくもないですけどねえ……」
パラパラとページを捲りそんな事を言ってくるサリヤ。
恥ずかしいです! 私が城から出られないことからの願望だという事が丸わかりです。
もういっそここから飛び降りたいです!
羞恥により顔を赤くして俯く私に、サリヤは追い討ちをかけるように耳元で囁きます。
「いつかここから連れ出してくれる素敵な男性が現れるといいですねえ」
「もう! サリヤ!」
「赤くなっちゃって可愛いですねー」
「紅茶が飲みたいので準備をしてください! ほら、早く本を仕舞って下さい!」
「はいはい」
もっと落ち着いた雰囲気の予定だったんですがね……。
これからもちょくちょくレイラの短編を挟むかもしれません。