死亡そして……
本作品の漫画が8月26日に発売いたします。
日本では様々な場所や物に神様がいると言われている。
山、海、土地、水、火、様々な物など。
最近ではトイレにすらいるらしい。
そんな日常的な物にまで神様が存在する。
もういない所は無いのじゃないだろうか?
地球の勢力図は人間より神様の方がもしかしたら多いのかもしれない。
それだけ皆が神様という存在を知っているのだが誰も見たこと出会ったことはない。
俺だってそう。もちろん見たことがない。
ただただ崇拝されるだけの誰も見たことのない、存在するであろうもの。
だから神様なのだろうか?
しかし、俺は二十七歳にして出会うことになった。
何もない真っ白な空間で。
神様とやらに。
ーーーーー
俺の名前は伊中 雄二。二十七歳独身、食品業界で働くサラリーマンだ。
結婚してない。彼女すらいない。マンションで一人暮らしをしている。
悔しくなんか無いぞ? 街中で高校生のカップルを見て悔しがってなんかないからな? 本当だぞ?
俺だってその気になれば……
俺は特に上を目指すこともなく、そこそこ優秀な高校に入り、そこそこ優秀な大学に進学した。
たいして苦もなく、楽しく学生生活を過ごすことができた。
それ自体に悔いはない。
そして、そこそこの規模の食品会社に就職することができた。
昔から料理も好きだったし、一人暮らしのせいか凝った料理もつくる。
食品に対してある程度の興味はあり、続けて働くことができた。
そして就職して五年。
今思えば急に頑張りすぎたのでは無いだろうか?
俺は基本怠けることが好きなのだが、この時期はたまたま会社が忙しかった。
朝から夜まで大忙しに俺は各地へと飛び回った。
食事や睡眠すら惜しんで。
そして最後にはくたくたになりながら、何とか地獄の一週間を乗り越えた。
どうやら会社は今が成長時で大きくなるようだ。
この忙しさは当分は続きそうだ。
今がチャンスなのはわかるが、それにしても忙し過ぎる。
同僚で体調を崩した奴もいるし、俺だってスケジュール調整を間違えてたら確実に体調を崩していたに違いない。
幸いうちの会社はブラックではなく、同僚はちゃんと休むことができたらしい。
「……もうこんなに働きたくない。いっそのこと田舎に帰ってやろうか」
なんてあまりの多忙さに心を黒くしながら帰り道の街道を歩いていた時だった。
ブオオオオオオオ!
大きなエンジン音が聞こえる。
「……何だトラックか」
と興味を無くして歩き出す。
「おい!危ないぞ!」
誰か何か叫んでいる。
煩いなぁ。こっちは疲れてて早く帰って寝たいのに。
「危ないって!気付ーー」
まだ何か叫んでいる。一体どうしたんだ?
とゆっくり振り返ると、視界一杯に大型トラックが入った。
「えっ?」
世界が止まったように、ゆっくりトラックが近付いてくる。
よくTVで人が車にひかれてしまうシーンを見て、それくらい避けれるだろう。とか思って舐めていた。しかし、このサイズと距離では無理だ。それに今の体調ではとても。
運転席には居眠りをした中年の男性がいる。
そっちも働き過ぎか?
そう思いたい。飲酒運転とか自業自得な都合なら嫌だな。
そう思っているうちに目の前にまで圧倒的な力をもったトラックがやってきた。
ガードレールがあったはずだけど……全然役にたってないじゃないか!
ああ、働き過ぎなんだよ。体調が万全なら最初の警告に気付いて避けれたかもしれない。
働き過ぎなければ、こんな遅い時間に帰ることもなかった。
はあ、疲れた。
生まれ変わったら、楽しくのんびりと田舎で暮らしてやるからな。
そして俺は大きな衝撃を受けて……死んだ。
ーーーーー
あ、暖かい。
目が覚めると。そこは真っ白な空間だった。広く広く無限に広がるような白。壁なんて見当たらない。あっても白一色過ぎてわからないだろうが。
確かに伊中雄二の意識がある。
天国? 地獄? それとも、もう次の人生なのか?
「おー? 珍しいの」
沢山の疑問が湧き上がる中。何処からともなく間延びした老人の声が聞こえてくる。
「……誰だ? 何処にいる?」
「そー、警戒するでない」
後ろから声が聞こえて振り向くと、そこには白い髭を生やした老人がいた。
茶色のローブのような物を着ており、手には杖を持っている。
……ただの老人?
「お主どこから来た?」
「……どこからって地球の日本ですけど?」
「地球か!……ちょっと待つのじゃ」
怪しみながらも俺がそう答えると、老人は額に手をあてはじめた。
やっぱ歳かなんかかな? 大丈夫かこのじいさん。
「失礼じゃのうピンピンしとるわ!……ふむ。伊中雄二か」
え? 心の声読んだの? 神かなんかかよ。何で俺の名前知ってんの?
「うむ、その通り。地球の日本で言うワシは神様じゃ!じゃからお主の名前くらい知ってて当然!」
「……」
ほんまかいな。
「むぅ? 信じてないの?」
「いやいや、信じます信じます!」
「さっき心の中でほんまかいなって言ったじゃろ」
「この空間と読心術が証拠ですって」
「むう、まあ信じておろうが信じてなかろうが構わんが、これからのことを話すぞ?」
「はい」
俺が返事をすると神様? は咳払いをする。
「まあ、まずお主は地球で死んだ。これは間違いない。お主も覚えておるな?」
「はい、確かに俺は死にました」
うん、間違いなく死んだよ。大型トラックのせいで。
「本来ならば地球のルールに則って、色々あるんじゃが、何故かお主は偶然地球とは違う世界に魂がきてしまったのじゃ。お主の世界で言う異世界と言うヤツじゃよ」
「……異世界?」
「そうじゃ。こんなことは初めてじゃ。一度来てしまった以上戻すことも出来ない。こちらの世界で転生することになるのじゃ」
……マジか。モンスターがひしめく超過酷な世界とかじゃ生きていける自信がない。
そもそも人間が生きれる環境なのか。
「ああ、大丈夫じゃ。ちゃんと地球と同じように人間がおるよ。少し魔物というのもいるが大丈夫じゃよ」
「いやいや、ヤバイでしょ」
「科学はあまり発展しておらんが変わりに魔法と言うのがある世界じゃ」
あっ、スルーしたな。
「……魔法か」
次こそのんびりと人生を送りたかったのに。またそんな。
そんな環境に放り出されて生きていけるのか……
「大丈夫じゃよ。貴重なサンプ……実験……初めての異世界人なのじゃ少しくらい過ごしやすくしてやるのじゃ」
「今サンプルとか、実験台とか言おうしましたよね?」
この人笑顔で何てこと言うんだ!
「気のせいじゃ。とにかくお主はこれから転生するんじゃよ。これは避けられん」
そっか……なら仕方ない。そっちはそっちで楽しく過ごすか。過ごしやすくしてくれるって言うし。
「その、過ごしやすくとはどんな?」
「結構切り替えが早いのぅ」
「まあ、そんな性分なので」
決まったものは仕方ない。それならそれでのんびり過ごす。夢なら夢で次の人生でこそのんびりと過ごす。
「ふーむ、身分で言うなら、今なら第三皇子とか、公爵の長男とか」
何かまた忙しいそうだな。おい。王族とか貴族とかあるのかよ。
「能力はまあ、せっかくじゃし魔法適性くらいはつけてやるとして、古代魔法の1つくらいなら付けてやるのじゃ」
おー、神様太っ腹。しかし俺の目標はただ一つ。
「自然豊かな田舎で楽しくのんびりと過ごしたいんですけど……そういう所はありますか?」
「む? そんな所でいいのか?」
「はい、そこがいいんです」
「それなら、自然豊かなコリアットという村の領主の次男が空いておる」
「そこでお願いします」
「なら、能力の方を優遇してやるかのぅ?どんな能力がいい?」
「ちょっと考えていいですか?」
「構わんよ」
どんな能力か。魔法……ゲームみたいな大魔法?回復?防壁?魔力とか?
いやいや、そんなの絶対ヤバイ。俺はのんびりと暮らすんだ。
暮らす場所は田舎。そして領主の次男。
想像してみよう。
必要最低限の防衛力。これは魔法の適性をくれるお陰で努力すればなんとかなる。
田舎だし、一応領主だから時間はあるはず。
となると、贅沢かもしれないが田舎で暮らしていて短所になるものを防ぐもの。
田舎……田舎。
まずは思い付く長所を挙げよう。
まずは、土地が広い。自然が豊かで緑が綺麗。アウトドア活動にもってこい!
他には他には食べ物が新鮮、空気が美味しい。夏の夜は涼しいし、星ご綺麗によく見える。人との助け合い、交流。
んー、どれも都会には無いものばかりだねぇ。憧れるよ。
後は日本とかでのことだし、大体こんなもんか?
そして短所。
賃金が安い。老人が多いかもしれない。医師不足。猿や猪などによる動物による被害。怖いのは自然災害とか。後は……移動手段か。
まあどれも日本でのことだし異世界には全く当てはまらないかもしれないけど。
大まかにはこんなところかな?
うん、やっぱり一番の問題は移動手段かな? 多分バイクとか車とかないと思うし。
魔法で移動? 移動……移動……ワープ?
そういう魔法とかあるのかな?
「すいません神様」
神様を呼ぼうと見渡すと普通に畳敷いて、卓袱台に肘をついて煎餅をかじっていた。
「ん? 決まったかの?」
お茶をズルズルとすすって立ち上がる。
あっ、卓袱台とか消えた。
「長距離を一瞬で移動するような魔法ってありますか?」
「ん? 空間魔法かの? それなら一瞬で大体の場所に転移できるしのう。古代魔法の一つとしてあるのぅ」
「それなら空間魔法で転移できるようにお願いできますか?」
「ふむ、変わった奴じゃのお。てっきり大魔法とかにするかと思ったのじゃが」
「空間魔法の転移なら、もしもの時は逃げることもできますし、遠い所もすぐに行けますから、買い物とかお金稼ぎとか。都市にしか医者がいなかったり塩や砂糖が無かったら困りますから」
「なるほどのお。田舎で楽に暮らすにはもってこいかもしれぬな。じゃあそろそろ送るとするかの」
「はい、ではお願いします」
「ちょっと努力すれば転移を使えるようにしといたからのう」
神様の笑顔を最後に視界が真っ白に包まれて、やがてまた暗くなる。
……今度は田舎でゆっくりと過ごすんだ。
新作はじめました!
『スキルツリーの解錠者~A級パーティーを追放されたので【解錠&施錠】を活かして、S級冒険者を目指す~』
https://ncode.syosetu.com/n2693io/
自信のスキルツリーを解錠してスキルを獲得したり、相手のスキルを施錠して無効化できたりしちゃう異世界冒険譚です。