第九話
……とりあえず、ランダの作戦に従うことになった。まず、状況がわかっている西をオイラとジーフィさんとトルミロス、東をランダと兄さん、そしてアルマが向かうことになった。
「なんで兄さんと離れるのさ!」
「体格的にバランスとりたいからな。ジーフィがそっちにいないと連絡が取れないし。」
「しかたない、気を付けろよ、ケオ。」
「うん。」
というわけで、オイラたちのチームは今雨の降る中を走っている。
「あとどのくらい?」
「もう少しのようです。師匠が言うには、石碑は南側、つまり私たちの入ってきたのと同じように植物が守っているらしいです。この辺からは慎重に行きましょうか。」
「いいや。」
トルミロスがふいに上を見上げた。
「もう見つかったらしい。」
いつの間にか頭上にのびたつるが狙いを定めていた。声に反応するかのようにつるや枝が襲いかかってくる!
「あぶなっ」
ギリギリでよけたけど息つくひまもなくまた攻撃してくる。とっさに飛刀を投げようとしたら…。
「投げるんじゃない!」
トルミロスのどなり声が飛んできた。
「なんで!?」
「数には限りがあるだろう。投げ尽くしたら拾いには行かせてくれないぞこいつらは!」
「切ったほうがよさそうです。」
「そ、そっか」
とは言っても短い飛刀では切る前に当たってしまう。
「ケオ、とにかく進め!こういううことを考えて、お前に薬を飲ませたんだ!」「えっ!?」
「お前に飲ませたのは、解毒と同時に毒に耐性をつける薬だったんだ!しばらくは大丈夫だから、少しのケガくらい気にせず突破しろ!」
「すごいですね、いったいどこでそんな薬を?」
「おれが作った!」
「えー?信用できない!!」
「心配するな!おれが飲んで確かめたことあるから!」
「行くしかないですよ!」
…まあ、他に方法ないみたいだし、突っ切るしかなさそう。
「分かった。やってみる!」
言うと同時に走った。つるをかいくぐり、つかみかかってくる枝を振り払う。
「ケオくん、後ろにも注意して!」
ジーフィさんの声を聞いてとっさにしゃがむと、鋭い音を立てて頭上を枝がかすめていった。
全方位からの攻撃をよけるのはすごく難しい。でも、なんとなく楽しいんだ。こんなこと兄貴に言ったら怒られるけど。攻撃が激しくなるほど目的に近づいていることが分かる。もう少し、あと少し…。
「あった!」
石碑を早く壊さなきゃ…!
「ケオ!」
「うわあっしまったっ!」
石碑に注意が向いた瞬間、体は木々に絡めとられ、宙に浮いた。
もがくとさらに枝やつるが絡み付き、しめつけてくる。しかも飛刀を奪われてしまった!植物たちはその新しい戦利品で今オイラを狙っている、自分の武器で狙われるなんて笑えるけど、今この身動きできない状況じゃやばい!
飛刀を持った枝が攻撃しようとしなる!
もうだめだ…と思ったその瞬間…空から光が降ってきた。
気がつくとオイラは地面に座り込んでいた。光だと思ったのは何本もの矢で、枝やつるはほとんどがバラバラになって落ちている。…たぶんランダが助けてくれたんだろうけど、あんまり遠いと千里眼はきかないんじゃなかったっけ?
「大丈夫ですか!」
「ケガはないか!」
ジーフィさんとトルミロスも無事みたいでよかった。
「オイラは大丈夫。それより、これを壊さないといけない。」
飛刀を拾い上げ石碑に向き直ると、魔物の気配がそれを通して分かった。どす黒く闇に包まれた力、その中には嘲りが見える。もちろん、オイラたちに対してのだ。
「オイラたちは負けたりしないよ。おまえみたいなムカつくやつにはね。」
石碑にむかってつぶやき、苛立ちをこめて飛刀を突き立てた。
すると突然、割れ目から光がほとばしり、熱風が吹き出してきた!風に体勢を崩され、ひざをつく。目も開けられない。
「危険です!ここを離れますよ!」
その声と同時にえりを引っ張られた。目を開けると、光を放つ石碑がどんどん遠くなって見えなくなり、気がつくとフィト・カストロの入り口近くの草地にオイラたちはいた。
激しく耳鳴りがして、頭が痛む。
「どうなったんだ?」
そばにいるはずのトルミロスの声が遠くに聞こえる。
「まだあまり話さない方がいいです。初めての人にはテレポートは少しきついのですが、説明する暇がなかったもので。」
オイラはテレポート中の空間を見てしまったせいか、意識がもうろうとしている。「ケオくん、もしかして目を開けていたんですか?少し横になったほうが…」
「ううん。だいぶよくなってきたから。」
そのときだった。大きな爆発音とともに、火柱が上がった。
「…おれたちがいたあたりじゃないか?」
「自分の目ともいえるものでしたからね、破壊しにくることくらいわかっていたでしょう。」
「離れて正解だったね…。ランダたちはうまくやってるかな?」
「師匠はなぜ西と東に分かれる作戦をとったと思いますか?」
「ええ?」意味ってあるの?
「効率がいいのはもちろん、味方があまり多いと立ち回りづらいからだろう。さっきの場所は特に狭くて敵も多かったからな。千里眼で見ることができたからこその作戦だが。その程度もわからないのか?」
「なんだと!」
「やめなさい、トルミロス。あなたは一言多いですよ。ここから北側に向かわなければならないのですから、とりあえず西側の石碑の所にテレポートします。」
「ま、またあれで移動するの~?」
「あれはきついな…。」
あ、ジーフィさんの雰囲気が――。
「なら早く立ち上がりなさい!文句ばかり言うなら走ればいいでしょう!」
追い立てられて走りながら、ふとランダの矢が思い浮かんだ。兄さんたちは今どうしているんだろ。心配してもどうしようもないし、知る術もないけど、大丈夫かな?