第七話 フィト・カストロ1
紅い空。漆黒の木々から覗くその紅さに、オレは照らされている。足元はまっさらな雪が積もっている。足跡はない。何処から来たのか、何処に向かっているのか、何も分からない。
やがて吹雪が起こり、闇を薄め、オレは走り出す。吹雪から、よくわからない何かから逃れるために。だが、雪が体にまとわりつき、足をとられ倒れ込んだ。目を閉じたその時…突然、光が舞い降りてきた。それから、誰かの手が、オレに伸びてきて…。
そこで目が覚めた。
「オレは、どうしたんだ?ここはどこだ?」
狭い部屋、床以外は植物で形成されているようだ。恐らく、オレが気を失っているうちにフィト・カストロに着いたんだろう。
しかし妙な夢を見たもんだなあ。
「起きたか。」
「アルマ。オレは…」
「何も言わなくて良い。体を休めろ。 」
口を閉じ、ふとケオを見やると、兄のフォティアに凭れて眠りこけていた。
「ケオは、お前を心配していたぞ。怪我をさせたと気にしていた。何か声をかけてやれ。」
「そうか…足手まといになっちまったな。」
「そんなことはない。お前のお陰で嵐からも逃れることができた。あえて言うことがあるとすれば、怪我が悪化するような無茶を反省することか。」
「トルミロス…起きてたのか。」
結構色んな奴と旅をして来たが、こいつらは特にお人好しだな。足を引っ張ればすぐ怒りだす奴も多いのに。
声につられてか、残りの三人も起きたようだ。
「嵐はまだ収まりそうにありませんね。」
耳を澄ますと風や雨の荒れ狂う音が聞こえる。
「でもちょっと外に用事があるんだよな。」
「何しに行くの?」
「昨日の矢は、魔物の気配が濃い部分に撃ち込んだんだ。案の定力を受け渡す媒体になってたみたいだったからな。それを調べれば敵の情報も掴めるかもしれない。」
「まあ先に傷の様子を見てからだな。座れ、ほら。」
昨日の傷はなんとか塞がっていた。
「深く裂けていたからな、とりあえず縫っておいたぞ。」
消毒液が染みる痛みに耐えながら、トルミロスの説教をおとなしく聞いていた。
「糸はまだ抜けないな、ちゃんと傷が塞がらなければ。しばらく左腕は使うなよ。傷が開いたらもっとひどく出血するから危険だ。」
「分かったよ。」
包帯を替え終わって外に行こうとすると、ジーフィもついてきた。
「私も行きます。何時魔物が襲ってくるか分かりませんから。」
「それが良い。気を付けていってくれよ、三人とも。テントの布を使えば濡れずに行けるよ。」
「了解。そうする。」
テントの布を被りながら進む。布越しにも雨の勢いが痛い。
「ケオ。」
「何…」
こっちを見ず、うつむいているケオ。
その足を思いっきり蹴り飛ばした。
「いってっ!何すんだよ!」
「お前こそ何気にしてんだ?」
「…」
「怪我はオレの責任だ。お前は怪我せずにすんで儲け物だったって思っときゃ良いんだよ。分かったな。」
「うん……」
(それが師匠なりの慰めかたですか?)
(お前、聞いてたのかよ…)
(フォローとしてはまあまあですね)
(そうかよ。)
そうしてるうちに目的の場所についた。