第五話 道中
ケオたちの視線から自分の番なのを悟ったオレは、素直にこう言った。
「目的なんか無え。」
「ランダもなのか?じゃあ何で仲間集めて旅しようとしたんだ?」
「…何となく。帰るとこの無え家無し子なもんでな。」
「そう、なんだ。あ、分かれ道が見えたよ。右が別の町で、左はフィトカストロに繋がってるって書いてる。」
「左だな」
会話を切り上げ前を向いた。整備された様子の無い雑草だらけの道に踏み込む。話の間ケオが気まずそうな顔してたがどうしたんだろうな。
バシッ、ザクッ!
道を塞ぐ蔦を切る音が続く。交代しながら道を切り開いてしばらく。日が暮れそうになってきた。
「ところでランダ。」
「なんだよ、お喋りする余裕あんのかよ。」
息切れしながら言い返したとき、フォティアが近くにテントを張って今日は休もうと声をかけてきた。
「あー、やっと休める。しっかし、フォティアは手際がいいな。頼もしいぜ」
「それは良かった。」
「誰かマッチ持ってないですか。」
火をうまく起こせなかったらしいジーフィがそんなことを言いながらやって来た。が、アルマがそれを制したと思ったら、ナイフを取り出して。
「見ていろ」
目に見えないほどの早さで擦られたそれは火花を飛ばし、薪に着火した。
アルマの意外な特技で盛り上がりつつ食事が始まった。とはいえ、味気ねえ携帯食料しかないがな。
「アルマ、さっきなんか言いかけたよな」
「ああ、いや、それぞれの武器を把握したいなと思ったんだ。自分は拳銃とナイフと長剣は常に所持している。」
「…なんだそれ、軽く武器庫だな。オレは弓矢だが、命中率は自信あるぜ。トルミロスお前は?」
「武器か、おれはこれだ。」
腰のベルトから引き抜いたその手に、とにかく細く長い針。
「とがっていない方にこれを取り付けるのさ。」
もう片手にサイコロ程度のガラスの容器、一ヶ所だけ薄い皮らしきもので塞がれているのを見て、ピンときた。
「毒針か。」
「その通りだ。おれは医者だからな、急所も知っている。」
「うわあ、急所を毒針で突かれたりしたら死ぬだろ。」
「入れても麻痺毒くらいだ。医者は人を救うものだからな。」
「何の話?」
…………………………………………………
アルマが武器を確認したいって。作る側も気になるんだね 。
「武器?オイラのは飛刀だよ。壁で跳ね返る特殊な短剣なのさ!この辺じゃ珍しいんだよ!」
話を聞いて、つい得意になって自慢すると兄さんにひっぱたかれた。
「自慢するものじゃないだろう。」
「はーい」
「ちなみに私は長剣一本だけだよ。長く使っているんだ。」
「成る程。ジーフィは?」
「基本素手ですが。お飾りの銃はあるけれど弾がもうないので。」
何て話してたら夜遅くなって、トルミロスがランダとアルマをテントに押し込んだ。まあ二人は道を開くのに頑張ってくれたからね。オイラたちで見張りをしよう。
……ぐう。
「…やばっ、寝ちゃった!」
叫んで飛び起きたら、もう空は明るくなっていた。
「兄さんごめん。途中で寝ちゃった。」
「仕方ないさ、お前は一番小さいから。」
「おはようごさいます。フォティアさん、ケオくん。」
「みんな健康的な早起きだな。」
トルミロスがあくびしたとき、起きてきたランダが眉をよせて言った。
「やな感じのする風だな。急いで出発するぞ。」
流されてくる雲は、沈んだ色をしていた。
嵐が近いみたいだ。
足早に切り開かれた道を進み続けると突然きれいな広い道に変わって、嫌ーな感じが強くなった。
風がどんどん強くなる。道のあちこちに垂れ下がる蔦がオイラたちを狙っているような気がして手を繋いでいる兄さんを見上げると、やっぱり警戒してるみたい。
「走り抜けよう。このままだとまずそうだ。」
「それがいいだろうな。すぐそばに、嵐なんかよりたちの悪いやつらがいるからな。」
「何?何のこと?」
そう問い掛けたとき、耳元を何かが掠めていった。
触れたら血が流れていて、めまいがして。バッと振り返ってもいない。何も…。
「…!?」
「大丈夫かケオ!!」
「薄皮一枚切れただけだぞ、落ち着け。」
ジーフィさんが後退る。
「ちょっと師匠…、まさか敵とは…!?」
「そうさ」
植物が動いてる?そんな、あり得ないよ。そんな……!
「敵は、
この周りの植物全てだ!!」