第二話 仲間
はあ、散々な目に遭ったぜ。
トルミロスは医者(自称)らしく、オレが傷を負っているのに気付いて放っておけなかったという。治りかけた背中の傷を見てすぐに「膿を取り除くから切るぞ。」って言われたのはびびったが、とりあえず痛みが引いたから良い。
「どうだ、具合は。」
「凄い良い。ま、その辺のヤブ医者程度なら蹴り飛ばしてたけども。」
ふざけて返しつつトルミロスを見る。処置する時に着ていた白衣を畳み終わって、普通の服装に戻っていて、目につくのと言えば腰のあたりでベルトがわりに結ばれている、色々ぶら下げられてある布位か。
「旅の途中でもすぐ手当て出来るって重要だよな!」
「そうだな。」
こいつの言う通り旅には必要な人材で、確保できたのは幸運だった。結構馬鹿っぽい性格してて、相槌が少し面倒だが。医者の癖にバカっぽいテンションってどうなんだよ。
酒場に戻ってケオが勝手に連れてきたアルマとやらの自己紹介を聞いて、一旦落ち着いた。アルマはオレと同い年の無愛想な奴で年のわりに体格が良いし、話を聞けば家が鍛冶屋で修行中だそうだ。…オレ、こいつ苦手かも、表情がわかんねえのがな。
「人員が揃ったのなら、一度解散して準備を整えましょう。集合は明日の朝九時位で。」
「それが良いな、場所は宿屋の前。」
「では私たちは部屋に戻って休もう、行くよケオ。」
「うん。」
「おれも薬とか確認しないと。」
「よし解散~」
そしてオレはトルミロスに指摘された血の臭いを洗い流すべく風呂場に来ていた、偶然アルマと合流して。
洗って湯に浸かって、ぽつぽつ会話。
「アルマは、何処から来たんだ?」
「ここから随分遠い。田舎の方だ。ランダは?」
「オレは…親がいないから、あちこち行ってここまで来た。」
「そうか。」
腹の探り合いでもないのに、オレは言葉が続かなくなった。相手もこっちを見てくるが何も言わないし。対処がわからねえのは嫌いなんだ。勘弁してくれ。
―――沈黙が、痛い。
「…お前、夢はあるか」
「は?」
「無いなら持った方が良い。それだけで辛いことから立ち直れる、前を向ける。少なくとも俺は夢に命を捧げて生きているからな。誰かに認められなくとも、自分が満足するまで突っ走る気でいる。……きっと楽しい。」
――わかんねえよ。
「ま、まああれだ、とりあえずよろしく。」
「ああ、これから頼む。」
最後まで表情がわからなかった。
無駄に疲れた気が……。
さて、明日の為に、早く寝ることにしよう……。
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ふう、疲れた。荷物確認したし、やっと休める。
「ケオ。」
「は~い。」
呼ばれて、兄さんの前に座る。たぶんいつものことだと思う。
「前教えた、色々な人と旅する時の心得をおさらいしよう。」
必ず寝る前にオイラに確認させるんだ。とっくに暗記してるけど、やる。
「うん。まず観察して理解する、疑ってかかるのもダメ、手放しで信じるのもダメ。出来るだけ仲良くする。助け合おう!」
「よし。良く覚えてたね、流石ケオ。忘れるなよ。」
「うん。」
どんなに旅慣れても基本は忘れないことが、自分の命を守るのに絶対必要なんだって。
「寝る前に、風呂にでも入っておいで。」
「わかった。」
お風呂場に行くと、水の音が聞こえて来た。先客がいるみたいだ。
「あっトルミロス。」
「よう小僧。」
「小僧じゃない、ケオだ!」
なにこいつ、オイラは子ども扱いされるほど子どもじゃないぞ!
「おれは年上だぞ。敬称を付けて呼べよ。」
「何で上から目線なんだよ!!」
「生意気だ!」
言い合いがエスカレート、取っ組み合いになって、お互いに拳を振り上げた瞬間―――!
「お止めなさい!!」
怒号と、風呂桶が飛んできた。
「「いだぁっ!!」」
顔面クリーンヒットでトルミロスと湯船に沈んだ。
「え、なんで!?」
「ジ、ジーフィ、さん!?」
「ここは浴場が一つしかないから時間で男湯女湯が分けられているんですよ!男湯の時間はとっくに終わってます!脱ぐ前に気付いて良かったですよ全く……」
というわけで、ジーフィさんにお風呂を追い出された。
「お前のせいだ!」
「いいやあんたのせいだ!」
「お黙りなさい!!」
怖かった、ジーフィさん。逃げるように戻ったら兄さんに心配されたけど、話す気にはなれなかったなあ、あとが怖いし。
ともかく…明日から兄さんとだけじゃない旅が始まるし、もっと頑張ろう。守られてばっかりのお子様じゃないんだから。おやすみ兄さん。