踊るリアル薔薇の精
着いてしまった。
呆然とする私はお兄様に手をとられ、見た目淡く微笑みながらガストン公爵邸に入る。
この屋敷はとにかく広い。
舞踏会、晩餐会なんでもござれだ。
今夜のドレスコードがピンクなだけあり、入り口のお迎え花は、どピンクで纏められている。
ガストン公爵婦人ご自慢の中庭に抜ける前の舞踏会場になっているホールでは、すでにピンクの若者のかたまりがあちこちにできていた。
「はぁぁ…」
盛大にため息をつく私の横でお兄様が、天を仰ぐ。
そういえばお兄様は何を着ても似合う。コーディネーターは私。
さすがに夜会服をどピンクにする気はなかったので、
品の良い白の装い、中のベストのみ薄いベビーピンクにして、胸元に私の作ったフレッシュな薔薇のコサージュ。嫌味なくらい華やかでこんなに薔薇の似合う男子もなかなかいないやね。
私達がホールの入り口に立つと、さっそくガストン公爵婦人が満面の笑みを張り付けて迎えてくれる。
「ごきげんよう、お二人はまるで薔薇の精のようね、いらしてくださって嬉しいわ。私は今夜集まったお若い方達全体のお目付け役よ。一人おばさんがまざるのを許してね?さあ、いつまでもお二人でいらしてはそれぞれの崇拝者から文句がでますわ。リアさん?ニコラをここに呼びますわ、一曲くらいあの子と踊ってやってくださいな」
ひょえぇあの、軽薄女たらし!一曲だって無理です。
口を開こうとしたとき、
カイルお兄様がいつもより
華やかさを盛りつつ、
にっこり笑いながら言う
「ご心配にはおよびませんよ。ニコラ君の手を煩せずとも僕の学友に適当に相手させますよ。彼のような美男子と踊ったら会場中のレディから不況を買いますから」
なんかさむーい。
仕方がないので私も薄く笑いながら
「乙女の憧れのニコラ様は隅から眺めているだけで十分ですわ。私のようなダンスの腕ではニコラ様のおみ足を踏んでしまうやもしれませんもの」
会釈をするかしないかで
では、とお兄様がさっと私を引き寄せ、挨拶待ちの招待客をガストン公爵婦人の前へ促した。
一瞬眉がつり上がったガストン婦人だが、次のお客の挨拶を無視するわけにもいかず、しきりに扇子を自身の手に打ち付けるばかりだ。
「とりあえず時間稼ぎだ、踊るぞリア」
「お兄様、着いたばかりじゃない、何か飲んでからでも?」
「まだわからないのか?今夜はうっかり話しかけられて捕まったり、踊ったりするのは命取りだ。そのまま婚約に持ち込まれかねないからな」
な、なるほど…。
それくらい選りすぐりのお坊ちゃんお嬢さんばかりで、皆様本気度MAXなのね。
「だからといって踊り続けるの?」
「いや、大体の待ち合わせ時間は決めてある」
「だったらそれまでお庭で歓談するとか?」
「リア、おまえだけじゃない、僕も以外と狙われてる。おまえは確かな相手がいるが、僕はこれからさがすんだ、王政に関わる以上、へんに上昇志向の強い令嬢に捕まるわけにもいかないし、知らずに敵対勢力の令嬢を捕まえてしまうわけにもいかないからね」
へぇ、貴族って大変ねぇといつもの傍観モードに入りたくなったが、
聞き逃せんっ
「お兄様、確かな相手って!まだわからないじゃないの」
お兄様は聞こえないふりを決め込み、強引にステップを踏み出す。
私はあぁせめて何か飲みたいぃとうらめしく思いながらお兄様について行く。
2曲目にはなんだかギャラリーができているのがわかる。あちこちから羨望の眼差しが感じられ、感嘆のため息が聞こえる。
「ほら見て、いつ見ても美しいわ。ギーズ公爵家のカイル様にリア様よ」
「どちらもまだ決まったお相手がいらっしゃらないのよ」
「おまえ、あのカイル様より自分のできがいいと思うか?」
「まさに高嶺の花だよな」
「一曲踊るのさえ許されない感じだもんな」
「いつもお二人でいるか、それぞれ目上の方とお話されているから隙がないわ」
これ目立ってますよね?
目立っちゃってますけど?
もう休みたいと言おうとした時、
「そろそろ、端に寄るよリア、あのガーデンにでる出口付近だ」
お兄様が耳打ちしてくる
「出口にずいぶん人がいるけど?」
「全部、学友と側近のペアだよ、そこに紛れる。ガーデンのガゼボにファビアンはいるよ」
な、なんですと?!
本当に嫌なんですけどぉ~!