お兄様からの濃い補足
なんとか座席に腰をおろし、くらくらしながらお兄様を見る。
「驚いた?普段は頭が回るのに気がつかなかったのか?なんとなく顔はみてるだろう?お互いに…」
いや、顔は知ってますとも、王子ですからっ!
そういうことじゃなく、全然っわからんっ一体いつからこうなった?
私の願いはひっそり暮らしていくこと、結婚すら考えてないのに、王子に嫁がせたいとはぁっ!!
カイルお兄様が言う
「二年前、僕が貴族の学校を終える夏休みに学友を何人か連れてきたろ?あの時、ファビアン王子もいたんだよ」
前世の記憶はあるがそんなの記憶にございません。
今はパニックでそれどころじゃなーいっと睨む私に
お兄様はさらに続ける
「リアが中庭で草花の手入れをしているのを僕と一緒に隠れて、そばでご覧になっていたんだ」
っ!それって一歩間違えば軽い変態、犯罪!
「もちろん、それでお気に召さなければそれまでなんだけど、ファビアン王子はおまえのこといたくお気に召されたから、その時にほぼ決まっていたんだよ」
な、なんじゃそりゃ、私の気持ちは関係ないのぉ??
「だから僕は王子の留学にお供するのを辞めて、表向きは早く王政に参加すべく出仕したんだよ。リア、おまえに変な虫がつかないようにお目付け役が本当の仕事だったけど」
そういって肩をすくめ、ため息をつく。
お兄様、知らないところで巻き込まれていたのね?
それはお気の毒。
そう言われると、色々つじつまが合うかも…
お兄様はお家を発展させる新たな産業のヒントが見つかるかもって、王子と行く留学にとっても乗り気だったものね。
それが突然取り止めになってお勤めが始まったし、
その直後の社交シーズンから私がデビューしたけど、
お兄様のエスコートっぷりというかベタ付き具合が今思えば尋常じゃなかったかも…
私がダンスもそこそこに令嬢のおしゃべりに興じたり、軽食コーナーでご婦人の
昔話にどっぷり付き合ったりばかりしていたし、殿方とどうかなりたいという思いが一ミリもなかったからまったく気がつかなかったぁ…!
「リア、もう少しで僕がお役御免となるかと思うと感慨深いよ」
お兄様が目を細めながら言う。
「っ、お、お兄様が巻き込まれていたのは申し訳ないと思うわ、ただ今初めて聞かされたばかりでっっ、その色々と気持ちが追い付きませんし、私が目立ちたくないのはお兄様もよくご存知でしょう?できれば結婚もしたくないのよ?」
お兄様に訴えてもどうにもならないことはパニック状態の私にもわかるが、ほぼ懇願するように私が言うと
「リア、おまえが一般的な令嬢が喜ぶくだらない事に見向きもしないことは僕もよくわかっている。ただ僕達の家は残念ながら、男子なら王政に関わり、女子なら王族かそれに匹敵する有力な貴族と政略結婚するしかないくらいの立ち位置なんだよ」
普段の華やかオーラを消して真顔で続ける
「はっきりいっておまえは女性にしておくのはもったいない能力が沢山ある。お父様もお母様も僕もおまえが男なら喜んで公爵家の経営を任せたいところだ。今も家の様々な合理化や、さりげない領地の運営のアドバイスはかなり役立っている。だから、このまま適当な相手がいなければ表向きは僕が家督を継ぐが、隣国の第三王子にでも来てもらって、実際はおまえに取り仕切ってもらおうとまで父上と話したこともあるくらいだ。はっきりいって国内には適当な相手がいないから留学で新しい産業のヒントの他、おまえの尻に敷かれてくれるちょうど良い毛並みの男でも身繕ってこようと思っていたんだよ」
そっそこまでぇ?!
っていうか以外と私理解されちゃってたのね…
「恥ずかしいが、おまえの経営手腕がなければここまで家の財政は回復しなかった。今では一応昔の序列を守っているものの、実力ではわが家が王家の次だ。そこで、わが家の動向には回りも必然的に注目することになる。学院でファビアン王子の近くに僕が置かれたのも、ギーズ家を無視できないからだ。ファビアンは馬鹿じゃない、没落する家ではないが、なぜさらに磐石になったのか興味を示してきた。それでおまえが12、3歳から頭角を表し様々な改革があったことを話さざるを得なくなったんだよ。国の為に善きパートナーをさがしている王子はおまえに白羽の矢を立てたと言うわけだ。」
えっとぉ、ちょっと待って、ってことは、なんと、
お父様、お母様、お兄様、
私の特性も願いもよく理解してあきらめていたところに、抗えない圧力がかかったとな!
しかーもそれは私の前世の姿とあまりかわらない経営手腕をいつのまにか勝手に買われちゃったとゆーこと!!
まとめると自分で自分の首を絞めたってこと?!
わぁーんどぉうするの?
いきなり泣きたくなってきたよ。
「リア、さっきも言ったがファビアンは馬鹿じゃない。王子に望まれたからだけじゃなく、彼は一人の男として魅力があるよ」
はぁなんだか魂抜けた感いっぱいですが、結局自分のせいってところが一番痛い。お兄様の真剣な話も最後の言葉はよく聞こえず、
あっという間にガストン公爵家の車寄せに馬車はついた。