出発、その前に驚愕の宣言
私の菫色がかった瞳と白肌によく映えるラベンダーピンクのドレス、シンプルな分贅沢にシルクタフタをたっぷりと使い、内側にはラベンダーピンクからラベンダーへのグラデーションのシフォンの重なりがあり、袖口や裾から優美にのぞく。
もちろん踊るたびに身体の動きに合わせ見えるのを計算してだ。
そして、肩から胸元にかけて、フレッシュな薔薇が咲いているように飾り付けられ、ドレスのボリュームにあわせて、ゆるく結い上げられた銀髪にも薔薇の蕾がちりばめられている。
本来、ドリーは優秀なレディーメイドで、
ドレスのコーディネートや、ヘアースタイリングその他一流の腕を持っているが、いかんせん私の前世の発達した知識が邪魔をして、一番腕をふるってもらっているのは髪を結い上げることだ。
今夜もどうやってそんな風にまとめられるのか、器用に結い上げてくれた。
鏡で一通りチェックしたところで、
お母様が部屋に入ってきた。
「さすが、私の娘、美しいわ。なんて驚きと品のあるコーディネートかしら、今夜もあなたが話題の中心ね」
「お母様、それは身内の贔屓目というものですわ、お母様が私くらいのころはそれはそれは華やかでしょうけど、私はお母様ほどの輝きは持ち合わせておりませんわ」
「それについて一言忠告よ、どうもあなたは美しい上に賢くて、家柄も恥じることがないのに、前にでたがらないのはなぜかしら?あなたの隅でやり過ごしてやれという気持ちが見てとれるのは、私にとっても、この家にとっても残念だし不可解だわ。
もうあなたも18歳よ、今夜の会は事実上よき伴侶のめぼしをつける会よ。あなたも真剣にお相手を決める時よ。そのためにはやはり輝かなくては殿方に気がついてもらえないわ」
間違ってる!普通の良き母は娘の虚栄心その他
牽制するのがふつーじゃね?
「お母様、私は身の程を知り静かに生きて参りたいのです。今のままでリアは十分幸せでございます。」
お母様は盛大にため息をつくと、ぐっと低い声で言った。
「リア、もっとはっきり言うわ、あのね、あなたに人生のほほんとやり過ごすような役回りは与えられてないのよ。家以下に嫁がせるわけにはいかないのよ?ということは家より栄えている公爵家か、王族しかあなたは嫁げないの」
なっなに?どういうこと?お母様、急にこわいっ
「そうすると必然的に数人に絞られるの、一番いいのはファビアン王子ね」
お母様は当たり前のように平然と宣言する。
「っ?!むっ無理ですっ!なんですか!お母様突然に!将来、一国の王となる方へ嫁ぎたいと考えるなんて畏れ多いことですわっ」
「今まで、他の殿方とろくに話もさせず、カイルに守らせてたのは、あなたをファビアン王子に嫁がせるためよ。今夜、留学から戻られたファビアン王子が久々に夜会にでられるの、正式すぎる場だと後々面倒だから、わざわざ今夜の会を選ばれてるのよ」
「そんなこと急に言われてもっ?!」
「内々では決まってるも同然なの、あなたも、うすうす感じてるとばかり思ってたわ、鈍感ね?家より栄えている公爵家といったらガストン公爵家かエヴルー公爵家しかないわ、ガストン公爵家の長男は結婚してる上に年が離れすぎよ。次男のニコラは軽薄すぎるし、次男だからダメ、エヴルー公爵家のアルノーはおつむが弱いし、あのひきがえるみたいな男にあなたはやれないわ」
うっそーなにこの展開!
本格的に目眩を感じつつ、必死で訴える。
「ほ、他の王にならない適当な王族の方など?」
お母様の目が見開かれて一層声色が低くなり、
もはや命令口調で言葉が発せられる。
「リアっ!あなたはファビアン王子に気に入られて王妃となるのですっ!!」
いやぁーっ最高にいやっ!!
そしてお母様怖いっ!メデューサみたいぃ~!
お母様は普段の優雅さはどこへやら、一気に恐れおののいた私をずんずんと階下まで連れて行き、
待っていたカイルお兄様に言った。
「カイル!くれぐれも粗相のないようにね?」
「はい、お母様お任せください」
余裕の表情でお兄様が請け合う。
「あなたも王子には久々にお目にかかるのでしょ?よろしく申し上げてね」
「承知しました、母上。王子とはよい学友でしたが、久しぶりで楽しみですよ。リアも紹介申し上げましょう」
な、なにこの気持ち悪いできレース的な感じ?!
頭が整理できないまま、馬車に乗せられてしまった。