家族が増えました
ファビアン王子による公開処……いや勇気ある公開プロポーズによりイエスと言った私は茫然としたまま次のドレスに着替えさせられていた。
「ドリー私ファビアンのプロポーズを受けたの……ファビアンってここぞって時には絶対に決めうちしてくるのよね。
私この数日で見事に落ちてしまったみたいよ……」
ドリーは驚きもせず
「まぁ時間稼ぎにしてました私の邪魔もたいして役立たずでしたね。
ですがリアお嬢様をおまかせできるのはファビアン王子以外思いあたりませんので、お嬢様が納得されたのでしたらこんなよいことはないと存じます」
あら、ドリーは単に私の気持ちが追いつかないのを心配してくれていたのね。
「ただこれからはいっそうの注意をお願いいたします。ファビアン様は本来とてもできるお方です。
慎重ではございますが物事を成されるのに無駄に時間をかけません。
リアお嬢様とのご関係が解禁となった今リアお嬢様は常にファビアン王子から狙われております!
私はさらにリアお嬢様をお守りいたします」
あぁドリーさんやっぱりベクトルずれてるっていうかむしろブレないねぇ
はぁっと思わずため息を一つつくと
「陛下に妃殿下そしてファビアン様の姉上であらせられるオディール様にもお気をつけくださいませ。皆様リアお嬢様が嫁がれるのを楽しみに待ちすぎて本日をさかいに猫可愛がりしてくる可能性がございます。
特に王妃様は娘ができるとことの他お喜びでございます。私はさらに-以下略」
ありがとうドリー。
それから王家の皆様に歓迎されてるみたいで少し気持ちが軽くなるわ。
「ん?オディール様は他国へ嫁がれたのでしょう?」
「はい、ただオディール様はその、普通の王妃の枠には収まらない方で……供などつけなくともお一人で動ける方なのです。
お嬢様のお顔見たさに気ままな里帰りをされる可能性が十分でございます。」
「えぇっと武術のたしなみが在られるってことかしら?」
「はい、たしなみの域をはるかに越えてらっしゃいます。ついでに申し上げますと大変お美しい方ではございますが……普段はとても……美男子でらっしゃいます」
「美男子ってどういうこと?
え、男装の麗人ってことかしらぁ?!
陛下主宰の夜間では間違いなくドレスをお召しのお姫様だったわよ。
病弱でおこもりのことも多かったと記憶してるけど」
「はい、左様でございます。
病弱ではなく普段は男装されて動きまわってらしたので。
もちろん近しい者しか知りえない極秘事項でございます。
ですのでやたらと美しい男が突如現れてお嬢様に迫りましても決して気を許さないようお願い申し上げます。もちろん私はさらに-以下略」
ドリーさん、ありがとう。
とにかく気をつけます。
「さぁリアお嬢様できました」
ドレスばかりか髪もまた違う形に結い上げられて、靴も先ほどよりずっとヒールの高い華奢なものを履かされた。
部屋をでてまた長い廊下と階段を曲がったり登ったり降りたりして一段と大きな扉の前に着いた。
騎士の他にも上品な身なりの高官らしき男性がいて
「お待ち申しあげておりました。どうぞお進みくださいませ」
言われるまま中へ入れば広いホールの中央が数段高くなっており玉座が据えられプラチナブロンドの髪を撫で付け深いサファイアブルーの瞳で柔和に微笑む国王陛下、その隣には金髪に近い栗色の豊かな髪を優美に結い上げグリーンがかったブルーの大きな瞳を楽しげに踊らせている妃殿下が座り、もう一方の隣には父である国王と同じ瞳と短く切った黒髪でこちらを熱く見つめるファビアン王子が座っている。
陛下の前にはもうお父様達が揃っていた。
国王陛下がおもむろに口を開く
「リア嬢、先ずは国の為に敵将の船に乗り込んでの活躍に礼を述べる。
そしてなによりこの愚息の求婚の了承に感謝する」
「陛下もったいないお言葉にございます。私はただ殿下に守っていただいてばかりでございました」
本当に何もしてませんから私。
「ふふ守る存在が殿方を強くさせるもの。
あなたはファビアンの力をより引き出してくれるのですよ。
私も娘が増えて嬉しい限りです。
私は娘が欲しかった……」
何か答えなくちゃと思っているとお父様が
「陛下、このたびは……」
「もういいではないか、これからは家族だからな。さあ堅苦しいのはごめんだ。
部屋をかえてくつろごう」
国王陛下はお父様の言葉を笑顔で遮り挨拶らしい挨拶もないまま隣の部屋でお茶会となった。
大きなソファーセットのすぐ横に丸テーブルのセットがある床から天井近くまでの大きな窓のゆったりしたお部屋だ。
妃殿下はご自身の隣に私をさらに私の隣にお母様を座らせファビアン王子は仕方なく私の前に座る。
カイルお兄様はファビアン王子の横に座り、丸テーブルには国王陛下とお父様が二人でかけさっそくお仕事の話が始まっていた。
妃殿下が
「私はね、とても凛々しい娘と女々しいわけじゃないんだけどレースも似合ってケーキを焼ける息子を持ってしまったのよ。
やっと可愛い娘を迎えられるのね」
あ、いや妃殿下いわゆる女の子っぽい感じからは私もほど遠いと思われますが。
「おそれながら私、一般的な女性の趣味からはかなり離れた部分がございまして妃殿下の思われるような……」
「まぁふふふ 何も心配しなくって大丈夫よ。
ドレス着てくれるだけで十分だわ。
それに私はあなたのもう一人の母だわ。
お義母様って呼んでくれないかしら?
このタルトはファビアンに焼かせたの。
残念ながら料理長よりよっぽど上手く作っちゃうのよ」
テーブルにはところせましとマカロンやスコーンにクッキー、マドレーヌにケーキが並んでいる。
その中から真っ赤なチェリーのタルトが切り分けられサーヴされる。
「まぁ殿下のお手製をいただけるなんて光栄だわ」
お母様が目を輝かせる。
「お義母様、私のことはファビアンとお呼びください。お義母様がチェリーのタルトがお好みだと義兄上から教えてもらったので」
爽やかに微笑えむファビアン王子に
カイルお兄様はうんざりした声音で
「ファビアン、僕だけは学友時代のままでお願いしたい。その、お義兄は勘弁してくれないか」
「私はお義母様でお願いねカイル。
マノン、私達それぞれ娘と息子が増えたわね。
私達はカイル達と一緒で娘時代のままで呼びあいましょ」
妃殿下が茶目っ気たっぷりに笑った。
「承知いたしましたわルイーズ。
ファビアンありがとう、チェリーのタルトは大好きなのよ」
なんだかあっけなくお目通りは済み、妃殿下にまたすぐにお母様と三人でお茶することを約束させられて終わった。
さて本日三度目の着替えにぐったりする私にドリーがこれが終われば明日はゆっくり寝ててもいいからとまたまた髪を結い直す。
ネイビーのリボンのドレスに合わせて髪にもネイビーのリボンを結ぶ。
「リアお嬢様、お支度整いましたよ」
「失礼、可愛いい妹のドレスアップは済んだかな?晩餐へエスコートさせてもらえないかな?」
聞き慣れない声にドアの外から呼びかけられる。
ドリーがため息をついた。
「リアお嬢様、オディール様です。
貞操の危険はございませんが、女性の夢を具現化したような殿方を演じられますので間違ってもお心を奪われませぬよう」
そう噛んで含めるように私に言うとドアを開けた。
そこには艶やかな栗色に近い金髪の豪奢な巻き毛をなびかせブルーグリーンの瞳で微笑む白い騎士服を着こなした麗しい青年が立っていた。
「きちんと話すのは初めてだね、リア嬢。私はオディール、ファビアンがこんな美しい姫をつかまえたなんて驚いたよ。君と近づきになりたくて馬を跳ばしてきたよ」
美麗な顔でキスされそうな距離で覗きこまれ思わず後ずさる。
コノヒト本当に女性?!
ちょっとぉ、リアルなオス○ル様なんですけどっ




