頬を染めるファビエンヌ
キプロス王国へ向かう馬車の中、作戦会議がてらカイルお兄様達と一緒の馬車に乗るのかと思いきや未だファビエンヌのままのファビアン王子が目の前に座って頬を桜色に染めている。
横にはなんとなく面白くなさそうなドリー。
ファビエンヌと目が合うとさっと目をそらしうつむいてしまう。
なんなんだこの純情乙女っぷりは…
もうファビエンヌのふりいらなくない?
二人共口を開かないので次々と疑問に思ったことを質問してみる。
「ねぇ聞いてもいいかしら?あの笛を吹いたら鳥がやってくるのではなかった?気が動転してたからわからなかったのかもしれないけど、それらしい鳥なんて来たかしら?」
タイミングよくボートがきてくれたけど鳥は見なかったもの。
「うん、鳥があの笛を聞いて飛ぼうとして暴れるからいい合図になるんだよ。ボートがタイミング計れるように吹いてもらったんだ」
うつむきがちなファビエンヌが、ファビアン王子の口調で答えてくれる。
さっきから何を照れているのかわかんないわー。
「じゃあ、見張りはどうやって突破したの?」
「ファビエンヌがにっこり微笑んだあとに薬を嗅がせたんだ。ただの女性だと油断してるから簡単だったよ。彼等ちょっと居眠りしちゃっただけだと思ってるはずだよ。軽い偵察のつもりだったけどアレグラから二三日中に出港予定だと聞いてとりあえずアレグラを逃がしたんだ。そのあとすぐにリアと脱出もありだったけど、奴らが気がついた時点でまた面倒な追ってがくるだろうし、わが主とやらがどんな奴なのか見て、できれば時間稼ぎになるようなダメージを与えて強行突破するしかないなと思ったんだ」
いや、あなたはただの女性じゃなくて超絶可憐美少女ですけどね!!
「じ、時間稼ぎになるダメージってあの時ナイフを投げて深手を負わせたのも計算?!」
あれはかなりびっくりしたわよ
「うーん、船壊すと奴ら帰らないしそのまま派手に開戦しちゃうだろうから、トップに怪我でもさせて一度お帰りいただくのが一番都合がよかったからね。あの場で倒してしまうとこんどは背景がわからないままとんでもない後処理になったちゃうしさ。悪いのは奴らでも俺がいきなりよく知らない国の王を倒したとなったら大問題でしょ?」
な、なるほど。
流れでやっちゃったワケではなく的確な状況判断のもとなのね。
そうだとは思ったけど、なんていうかこのヒトものすっごく出来すぎよねぇ。
弱点なんてあるのかしら?
思わずじーっと見つめてしまうとまた顔を赤らめながらうつむいてしまう。
いや、可愛いけどさ、なんで?!
「リアお嬢様、王子がポンコツになるような事件が何かございましたか?」
ドリーが厳しい目でファビエンヌを見ながら聞いてくる。
事件?え、実は一晩抱きしめられて一緒に眠ってたこと?あれは不可抗力よね!
ってあらためて思い出すとちょっとなんていうか破壊力あるわぁ…
「リアお嬢様っっ!やはり何か間違いがあったのですか?!そんなにお顔を薔薇色にされるなんて!やはり私がおともすべきでした!」
ドリーは握りこぶしをふるわせながらファビアンに詰め寄る
「ファビアン王子!リアお嬢様に不埒なまねをされたのですか?!」
ファビエンヌはいっそう顔を赤くしながら頭をふるふるとふりながらきれぎれに答える
「つ、ついにこの想いが通じて…そ、それでリアから告白されたんだ」
は?告白?そんなことしてませんけど!ってどこでそんな勘違いをする?
まさかあの時私寝言か何か言っちゃったの?!
ファビアンあなたが勝手に添い寝してきたのよ!
私は朝まで知らなかったわ!
「わ、私告白なんてしてないわ。したとしても不可抗力よ」
「リア!なんてこと言うんだ!あんな場面でも俺はすごく嬉しかったよ!こんなに早く 両思いになれるなんて」
ファビエンヌがこんどは真っ直ぐこちらを真剣に見つめてくる。
「だって私は眠ってるんだから意識が無いもの!寝言を勘違いされても困るわ!」
「敵将の前で堂々とお慕いしてるっていってくれたじゃないか!」
二人同時に叫んでしまいお互いに驚いて二の句がつげないでいる。
えーあーあれのこと!
たしかにお慕いしてるって言ったけどね。
そこまで重いニュアンスじゃないというか…
思わず言っちゃったのよね。ま、たしかにお慕いするようにはなってきた…と思うんだけど…ってあれ?
「ファビアン王子!リアお嬢様がお休みになっているすぐそばにいらしたのでしょうか?まさか同じお部屋にいたのですか?」
「それはそれこそ不可抗力だよドリー。別の部屋に居ちゃ何かあっても出遅れるじゃないか !」
「だからといってお部屋の中にいなくとも扉の前に控えるとかできますでしょうに。ファビアン王子、しばらくリアお嬢様には近づけないと思ってくださいませ」
ドリーさんホントに目がコワイ。
一緒のベッドにいたなんて知ったら……うん、このままそっとしておこう。
「うん、いいよ俺はリアと気持ちが通じてるから。そんなの少しくらい耐えるよ。」
そう言ってこちらを潤んだ瞳で見ては頬を染めないでほしいなファビエンヌ。
「あ、あのたしかにお慕いしてるって言ったけどあれはあの時の流れっていうか勢いっていうか……ね?」
「いいんだリア。今は俺が思うレベルじゃなくてもさ。少しでも傾いてくれただけでものすごく嬉しいんだ!それだって通じあっていることにはかわりないからね」
ね?っていい笑顔で見た後またすぐ照れられてもな。
なんかさっき一瞬こっちもドキドキしちゃったけど。
とりあえずファビエンヌもファビアン王子も心臓には悪い、何か別のこと考えなくちゃ。そうそう大事なお願いがあったんだわ。
「ね、私考えたんだけど。この旅で私みんなの足手まといになるばかりで心苦しいなんて生ぬるい気持ちじゃなく、命の危険が迫った時にはせめて自分の身を守れるようにならなくちゃダメだと痛感したわ。ドリー帰ったらナイフ投げを私に教えて頂戴」




